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34、夏季休暇

サンフォニウム宮殿から戻り本格的な夏季休暇に入った。

ブルームは相変わらず王宮と自宅との往復で忙しい。

財務部は予想外の天災やいつ起きるかわからない魔獣の出現で予算を組み立てるのも一苦労だ。どこの部も予算増額を馬鹿の一つ覚えのように申請・要求してくるので、都度 申請内容の精査で忙しい。

魔法騎士は毎日弛まぬ訓練、それが実戦で役立つ。

魔法はやはり経験によって扱いも上手くもなるし、魔導書を見ながら新しい術式を試したり、自分でレベル上げするしかないのだ。そして、魔力を枯渇しない程度に使わないと補充もしない。つまり魔力を10持っていたとして使わないと10のまま、それを1まで使って減らしてから回復させて10にしようとする。毎回 魔法を使用して1にすると、次第に容量を増やしてくれるのだ、補充の時に13とか溜まるようになり、それを繰り返しながら自分の魔力量の底上げをするのだ。

だから魔法を扱う者は毎日のように魔法のスキルアップと魔力量アップの為に鍛錬をする。


ブルームは正直言えば、同僚たちと比べると桁外れな魔力と魔法レベルがあり必要ないのだが、優等生の仮面をつけているので熱心の練習をする。


それにしてもにこやかに笑い人懐っこい先輩同僚のバリー・ロージャーがねぇ…。

バリー・ロージャー 21歳 ロージャー伯爵家の次男、となっているがセシリアの調べでは出鱈目だ。

ロージャー伯爵家は流行り病で一族は死に、家門は閉じていた。

それが次男だけは病気が伝染らないように遠縁に預けられていて助かった、と再興された。

幼いバリーの後ろ盾になったのはノーマン子爵、近々バリーがロージャー伯爵を襲名する。


セシリアの調べではロージャー伯爵家は確かに全員が病気で亡くなったと言うのだ。大体 消息が分かっていたなら何故今頃って話しだ。

ではバリーは何者か?

答えはシルヴェスタ公爵家の密偵だった。

後ろ盾となったノーマン子爵もシルヴェスタ公爵家の傍系だ。恐らく子飼いの者をあちこちに忍ばせているのだろう。ディアナ嬢が正式に王家に嫁いだ時動きやすいように着実な地固めと言ったところか。


そしてこのバリー・ロージャーは これっぽっちの悪意も見せずに私に近づいてくる。目的は私を探り、味方に引き入れられるかどうかの品定めと言ったところか。


「ブルーム君って凄いよね! どうやって練習したらそんなに強くなれるの?」

知らなければいい先輩だが、知ってしまうと優秀な密偵にしか見えない。

「ロージャーさん、凄い方は沢山いらっしゃるので、私はそれほどでもありません。ですがそう言っていただけるのは有難いです。練習については…んー? 家が田舎だったので走り回っている内に自然と?です。3歳の頃から毎日8km位は往復していましたからね、はは」

「へぇー、凄いね3歳で? でも体力はつくけど魔法とか剣術はそれだけじゃ難しいでしょう?」

「家はどちらかと言うと貧乏だったので、ブルーベル侯爵家でご子息たちに剣術を教えている方に一緒に教えて頂けたんです。タダで教えて貰えるんだからと必死で練習して、特訓しましたよ」

「えー、貧乏? いつも流行りの服とか着ているから貧乏なんて想像つかないな」

「ああ、あれは妹のお陰なんです。私は着る物がダサいらしくて妹が嫌だって泣くんです。だから妹が選んだ物を着ているだけです」


「へーー、もしかして妹さんは『トレヴィ』と関係があるの?」

「『トレヴィ』ですか? トレヴィって何ですか?」

「えっ? だって君の服はいつも高級ドレス店トレヴィで作られているじゃない?」

「あー、そうなんだ」

「知らなかったの? 妹さんは何て言っていたの?」


「んー、知り合いの洋品店のおばさんがいるらしいです。そこにこんな風な服を作って欲しいと持ち込んだら、デザインを描き直したモノを買い取る代わりに試作品を安く譲ってもらっているって言ってたかな?」

「君の妹はデザイナーなの?」

「違いますよ、んー私限定です、妹は優しい子で私に関する事だけ妙な能力を発揮するんです。ふふふ、だから私に似合うと思う物しか描きません。普段は家畜の世話をしています」


「随分仲がいい兄妹なんだね」

「ええ、可愛くて仕方ありません」

「じゃあ、恋人が出来たらどうするのか? 婚約者だってそのうち出来るんじゃない?」

急に周囲の温度が下がり始めた。

「そうですね、でも妹は結婚する意思はないと言っています。ずっと私の傍にいると。婚約者は…、私に勝つ事が出来ような強い者にしか許したくありませんね」


「分かったよ、分かった!例えばの話だからそんなに怒らないでよ!」

ブルームの目が据わってバリーを射抜くように鋭い、それは緩む事がない。

「うん、きっと妹ちゃんは結婚せずにブルーム君の傍にいるんじゃないかな? 私もそんな気がする」

「ええ、そうですね」

そのまま心臓まで凍らされるんじゃないかと言うほど冷えて行く。心臓が何だか苦しい。

「そうだ! 妹ちゃんに近づこうとする輩がいたら私も精一杯邪魔してあげるから! ね! ブルーム君より弱い奴は近づくなって皆に言っておく!」

ふっと冷気が止んだ。爽やかな笑顔と共に

「そうですか? お願いしますね! 最近お茶会、夜会と誘いが多くて困っていたんです」


「ごほっげほっ。ブルーム君って妹ちゃんを溺愛しているんだね」

「はい」

「うわー、言い切るんだ、凄いね」

「隠す必要もないので」

「へー、まあ うん よく分かった、じゃ、じゃーねー」


心話でセシリアに話すといつの間にかバリーを追って白いカラスがついていった。

白いカラスはセシリアの式神なので一般的に認識されることはない。

『さて、何て報告がくるか楽しみだな』




アシュレイ王子はずっとリアンの事を考えている。

先日帰ってきたサンフォニウム宮殿での事を繰り返し考えていた。


『私は確かにリアンと言う者を知っている』


それは晩餐会の時に指摘されて確信に変わった。

「あれ? あのリアンと言う者…従者という割にマナーが美しいな」

何の気なしに見たリアンのマナーは私と瓜二つだった。

隣のセシリアやブルームやエレンとも少し違う、王家のマナーそのものだった。

『何故 彼があのマナーを!?』


それから解散するまでずっとリアンを注視していた。

「リアンー! 待ってー!」

モヤがかかって思い出せないがあの名前も知っている気がする、この声を記憶の中では知っている、そう感じるのだ。


私は自分の頭を整理する意味で書き出してみた。


私を助けたのは子供で、2人いた

明るい部屋で清潔な環境にツリーハウスがあった

ノア

腹立たしい女

温かい食事

手加減しない女

メモ


ハドソン嬢が知っている事

肩の獅子の痣

外套の留め具 ウサギ

それ以外は全て嘘だ


それと『リアンー!』と呼ぶ少女の声


リアンと言う者のロイヤルマナー、あれは小さい頃私が注意された一部間違っているテーブルマナーだった。普通の者は気づかない、だが私は幾度となく注意されていたからよく分かる。


繋がりそうで繋がらない。何かがまだ欠けていて分からない。



ディアナと王宮でお茶会をしていた。

「アシュレイ様、何かお悩みがございますの?」

「…………。」

「アシュレイ様?  あのー、アシュレイ様?」

「…………。ふぅ〜」

「殿下? 殿下、ディアナ様が…」

シリルが殿下の肩を揺すってこちらの世界に呼び戻す。


「ん? あー、ごめんねディアナ ちょっと考え事してた」

「アシュレイ様、お仕事が大変ですの? それとも何か悩みがお有りですの? もし、わたくしが伺っても良い事であればお話になってくださいまし」

「いや、違うのだ。最近10年前の行方不明になっていた時の事が不意に過り、気になってしまって」

「まあ、何かございましたの?」

「うーん、ほら、プリメラ・ハドソン嬢が私を助けたって言い出しただろう? 

彼女の話は私のことではないと結論づけられた」

「まあ、彼女は嘘をついてらしたのですか?」

「それがね、そうとも言い切れない。いや、私を救助をしたのは彼女ではない、それは確かなんだ。彼女は私の状態や治療に関して合致していない、だからハドソン嬢ではないと結論づけられたのだ」

「では 何が気になっていらっしゃるのですか?」

「うん、彼女の話はどこか曖昧なのだが、詳細に語る話は魔術師たちも嘘をついているとは断定できなかった。それに私が否定してもそれを嘘だと断ずるのだ」

「まあ、不敬では?」

流石に王家のみの肩の痣の秘密はディアナにも明かせない。


「そうだね。それで結局は私の記憶さえ戻ったらハッキリするのではないかと思ってね。気づくと考えてしまうのだ」

「ご無理をなさっているのでは?」

「ふふ …ただね、全く覚えていないわけではないのだ。それに最近 ちょっとした時に引っかかる事があるのだ、それをキッカケに少し思い出したり…。今回も引っかかった事があってそれが何なのか気になってしまうだけなのだ」

「ハドソン嬢にも困ったものですね」


「そうだ、ディアナ、相談なんだけど…セシリア・ブライト嬢をお茶会に呼んでくれないかな?」

「えっ!? セシリア・ブライト様ですか? 彼女と何か関係があるのですか?」

「いや、直接ではない。気になっているのは彼女の従者の方なのだ。彼女を呼べば彼もついてくるだろう?」


「はぁ〜、その彼が何に関係あるのですか?」

「分からない。彼…リアンのテーブルマナーがもう一度見たいのだ」

「テーブルマナーですか? …それですと、お茶会ではテーブルマナーは見られないのではないでしょうか?」

「ああ、そうだよね。じゃあ、やっぱり無理か」


「アシュレイ様、何故従者のテーブルマナーが見たいとおっしゃったか伺っても宜しいでしょうか?」

「先日のサンフォニウム宮殿に行った時、彼のテーブルマナーを見て何かが引っかかった気がしたんだ。もう一度見たらその正体が分かるかな、と思っただけなんだ。別に彼がどうこうではないよ」

危ない、ディアナが彼に手を回したり危害を加えるような事があったら困る。無関係を装わなければ。


「なるほど、やはりそれでは個人的にお誘いするのは難しそうです。セシリア様は滅多のお茶会などには参加なさらないらしいのです」

やましくないとディアナに声をかけたがセシリア嬢という事で警戒されてしまったか。


「そうなの?」

「ええ、兄君のブルーム様もセシリア様もお茶会や夜会には滅多にお出になられないとか…、何か家にご事情があるのかも知れませんね」

暗に貧乏でどこにも行けないと言っている。

「そう、残念だな」

セシリア嬢ではなくリアンだって言ってもこれか、かなり嫉妬深いな。

まあ いい、一応筋は通した。

「そうだ、夏季休暇の予定は?」

「はい、王宮でレッスンがございますわ。ですから偶にこうしてまたお茶に誘ってくださいましね」

「ああ、勿論 楽しみだね」




ディアナと別れてシリルと自室へ戻った。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「どうなさったのです?」

「ん? ディアナが嫉妬深くて疲れる。腹の探り合いとか勘弁して欲しい」

「先程の件ですか? まあ、仕方ないかもしれませんね、お相手がセシリア嬢となると誰でも警戒なさるのでは? 寧ろリアンをダシにセシリア嬢と接点を持ちたいように見えます」

「お前はサンフォニウムに行っていないからそう言うが、向こうはこれっぽっちもこちらなど気にしていなかったぞ! 終始兄ブルームにべったりだ。グラシオスは声をかけたくてうずうずしているのに隙がなくてガッカリしてた!」

「グラシオス様の意中の方なのですか?」

「ああ、すっかり夢中みたいだった。話が合うらしい…あー、嫌なこと思い出した。サンフォニウムでグラシオスがそのセシリア嬢にテストで負けた、そして必然的に私も負けた」

「ええ!! グラシオス様にセシリア嬢は勝ったのですか!? とんでもない才女ですね!」

「因みに1位にセシリア、ブルーム兄妹にリアン、4位にエレン・ブルーベル嬢、5位にグラシオスだ。そしてその彼女は剣術で私を僅か20秒位で打ち負かした。年下の彼女に勝てるものが何も無かったよ」

「なんと!? 恐ろしい方ですね」

「ああ、綺麗な顔して恐ろしい女性だ。その上 サンフォニウムにいる間一度も挨拶にも来ない! ダンスパーティーでも一度も来ない! 可愛げはないようだ」

「そんな事を仰って…、 いつもは煩わしいと機嫌が悪くなりますのに、チヤホヤされないとご不満なのですか?」

「……いいえ、何でもありません! ふん あー、気分転換に街の視察に行こうかな?」

「左様でございますね、気分転換にはいいかもしれませんね。夏季休暇にも入られましたし、こちらが最近王都で流行っている店をピックアップしたものです」

「結局仕事じゃないか」

「まあ、そう仰らず、その流行りの店でディアナ様に贈り物の1つでも見繕ってはいかがですか?」

「あーはいはい。シリルも一緒に行こう! そうだ、セシリア嬢の周りを少し探ってくれる?」

ジト目で見ている。

「それくらいいいだろう? 気になって仕方ないんだ!」

「はいはい、承知致しましたよ」


アシュレイ王子殿下は身軽な格好に着替えて街に出掛けていった。

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