31、幕間 玲美と言う女−2
相変わらずの借金苦だった。
都会の病院に移ったことで、便利にもなったが物価が高くて家賃を払う余裕はなかった。
どうせ玲美が家に帰ることはない、だから事故物件の単身者用に入った。寝に帰るだけの生活。最近は社食を1日1食食べるだけ、会社に寄れなければ何も食べない日もあった。
病院に行くと玲美が綺麗に化粧をしていた。その化粧品代はどこから出ているんだろうか? 誰かに貢がせたのだろうか? すると馬鹿高いスマホ料金の請求が来て、スマホで購入したことを知った。
名義は玲美だから見ないふりをした。
こっちは食うものも食わずに働いてるって言うのに、玲美は隼と自分自身に湯水のように金を使う。
望愛も寝る間を削って勉強とアルバイトだと義兄から聞いた。
『私は返さなくて良いと言っているのに、学費や生活費を返そうと無理ばかりしている』
それを聞いてやはり玲美と離して良かったと思う。
2000万を越す借金をあの子に背負わせない為には、連絡を取らないほうがいいと言う結論は間違っていなかった。
息子の調子が悪いと言って会社を休み日雇いの仕事に出た。短期集中で金を稼いだ。
久しぶりに電源を入れると公衆電話からだった。
玲美のスマホが使えないと鬼電が入っていた。気持ちが冷めていく。
隼の為に入院費を何とかしなければと思うが、玲美の為には今は1円だって使う気分になれない。そっと電源を切った。
玲美は私自身に興味がない、だから会社もアパートも知らない。教えていたら危うく会社に乗り込んできていたかもしれない。そう思ったのは隼のところに行った時だった。
病院内でヒステリーを起こし大騒ぎしていたらしい。大きくなった隼が勉強している間は談話室でスマホをいじるのが日課となり中毒になっていた玲美はスマホが使えないことに苛立ち、当たり散らしていたのだ。その結果、隼の体調が悪くなっていた。
「何してたのよ!! この役立たず!! あんたの価値なんて金を持ってくることだけなのに、それすら出来ないなら望愛みたいに捨ててやるからね! サッサとお金を払ってスマホ使えるようにしなさいよ!!」
言い終わると散々暴れていたようで、酸欠で立ちくらみを起こし倒れた拍子に頭を打って気を失った。私は周囲の方たちに謝罪し、玲美は別室で休ませて貰って、病室に戻ると隼が泣きじゃくっていた。
「おとうざん、おどうざっあっあっあ゛―――!! おどうざん、望愛を捨てたってどう言う意味? ねえ、お父さん はーはーはー、ちゃんと教えて!!」
興奮した玲美が誤魔化せないほど話してしまっていたので、観念して隼に話すことに決めた。流石に本当のことを全ては話せないので、転院する時に望愛は玲美のお兄さんに預けた話だけしたのだった。
「お父さん、お父さんごめんね、ごめんね! 僕 本当は知ってるんだ、昔おばあちゃんとお母さんが話しているの聞いた事があるの。僕はお父さんの本当の子じゃないって。お父さんに本当の子を捨てさせて…ごめんなさい、ごめんなさい!! それにお母さんのせいでここ数日お父さんは来れなかったんでしょう? 会うたびお父さんは痩せてる、やつれてる、お仕事大変なんだよね? 僕のせいでごめんなさい!
おばあちゃんがね、お母さんがいない時に言ったの、お母さんはもう妹の母親にはなれないけど、お父さんならまだ間に合うから会ってやって欲しいって。だから僕…妹に会いたいって言ったの、そうすればここでお父さんも妹に会えると思って…。
お母さん僕には優しいけど、お父さんや望愛ちゃんに冷たくてごめんなさい。全部僕が、僕が病気だから悪いんだ!! ごめんなさい!!」
「隼、謝らなくていい、病気は隼のせいじゃない。
全部父さんのせいなんだ、お母さんに惚れてしまって何でもお母さんの言いなりになってしまった父さんの…せいなんだ。父さんは隼がいてくれて良かったと思っているよ、仕事は大変だけど、今もこうして隼は生きていてくれる、それが凄く嬉しい。
望愛はね、勿論ずっと家族でいることも出来た。でもお母さんは病院から家に帰ってくることはない、期待すら出来ずに諦めていく望愛が可哀想で、望愛を大切に愛してくれる伯父さんに託したんだ、一緒に家族でいるより幸せになれると思ったからね。そしてそれを望んだのは望愛自身なんだ。
隼の名前はね、お母さんが愛している人から貰ってつけたんだ。凄く凄く愛されている隼が羨ましくて、望愛には父さんが愛を望むってつけたんだ。愛されることなんてないって分かっていたのに…父さんが馬鹿だったんだ…ううぅぅぅ、ごめんな隼。
愛しているよ隼、早く元気になって望愛に2人で会いに行こう? 父さんはまだ会う勇気が持てないから隼が父さんの手を引っ張って連れて行ってくれると嬉しい、くぅぅぅ」
「うん、うんお父さん一緒に行こう? 会いに行こうね!」
2人で抱き合って泣いた。
興奮して体調が悪くなった隼を寝かしつけると、玲美には会わずに帰った。
隼に『スマホ代は払っておく、家に帰っていなかったから気が付かなかった。もう暴れるな』って言っておいてと伝言を頼んでおいた。今、玲美と共にいるのはひとえに隼のためだった。
だが、数日後 また隼は体調を崩し意識が戻らなくなった。
慌てて病院に行くとまたヒステリーを起こしている玲美の姿。
看護師の話では、意識を取り戻した玲美に隼が、もう家に帰ってくれと言ったらしい。
『お母さんは お父さんが最近具合悪そうなの気づいてる? 連絡が取れないお父さんに役立たずって言ってたけど入院費だけだって大変なのに、お母さんがスマホでする不要な買い物のお金を作るのに必死なんだよ、お父さんに悪いと思わないの? 本当に役立たずなのは、病弱な僕と、自分の子供を捨てて、夫を役立たずのお金を貢ぐ人扱いして買い物ばかりして生産性のないお母さんだよ!
僕に良くなって欲しいと思うなら、病院で暴れたりしないで恥ずかしい! もう帰ってよ! どうせここにいたって何も出来ないし迷惑かけるだけなんだから! 出掛けなければ洋服を買う必要もないね」
バチーン! 玲美が隼の頬を引っ叩いた。
「なんであなたまでそんなこと言うのよ! こんなに愛してあげているのに!!」
「お母さんが愛しているのは僕!? 隼って名前を貰った人じゃないの!?」
バチーン! 隼は叩かれても怯まなかった。
「そんな訳ない、ある訳ない!!」
「お母さんって寄生虫みたいだね、お父さんに働かせてそのお金にたかっている。妻の仕事をしないんだから貢がせているだけの悪女だ」
バチーン! バチーン! 隼はわざと憎まれ口をたたく。
「ずっと側にいて愛してあげたのに! その為に娘だって捨てたのよ!!」
「僕のせいにしないでよ、自分が母の仕事をするのが面倒だっただけでしょう? 妻の仕事はお父さんが我慢してくれるから何とかなったけど、母の仕事はそう言うわけにいかないもんね。僕より3つ下の妹は今までどうしてたの?お父さんは仕事、お母さんは何もせずにここにいたけど妹の世話は誰がしてたの? ほら、母の仕事をしたことなんてないでしょう? 僕のために娘を捨てたんじゃなくて面倒だから捨てたんだよ、邪魔だったから捨てたんでしょ!」
「なんであなたまであの娘と同じ事言うのよ! こんな憎らしいこと言うなんてあの娘に会ったのね? だからそんなこと言うんだわ! 捨てて尚腹立たしい娘!」
「お母さんて自分のことしか考えてないんだね。今お父さんに捨てられたら生きていけるの? 自分は特別な存在と思っているみたいだけど、いつか娘を捨てたみたいにお母さんも捨てられるんじゃない? 例えば今の僕みたいに」
バチーン! 隼の口の端から血が流れた。
「なんて生意気な! 何故私が捨てられると言うのよ! ふん、別に影山と別れたって私ほどの美女ならばすぐ次が見つかるのよ、本当ならあんな影山程度の男と結婚するはずじゃなかったのに、仕方なかったのよ、あなたがお腹にいたからあの時は他に選択肢がなかったのよ!!」
「えっ? 待って? お父さんは僕の本当のお父さんの身代わりで結婚させられたの? 望愛ちゃんは? 望愛ちゃんもお父さんの子じゃないの?」
「望愛? あの娘は影山の子よ、影山に似て陰気で生意気な娘? まあ出産の時と捨てる時くらいしか会っていないから知らないけど」
「お父さんは実の子でもない僕のためにあんなに身を粉にして働いてくれていたの? 妹はせっかく生まれたのに2回しかお母さんに会った事がないの?」
「それが何よ?」
「それでも人なの? 出て行ってよ、もうお母さんと話をしたくない」
「なによ、今頃反抗期なの? はー、折角育ててやったのに、可愛くない。私がいなくなったらあなたは何も出来ないじゃない! 謝っても許してやらないからね」
母親が出て行った病室で隼はベッドの上で倒れた。
ここ最近調子が悪かった、そこへきて衝撃の事実を知らされ何度も頬を打たれていた。
玲美は談話室でいつも通りスマホに夢中になっていた。
隼は苦しくて息ができない、だけどナースコールは押さなかった。苦しかったけど、紙に
『お父さんごめんなさい、ノアちゃん ごめんなさい』
乱れた字で書き殴った。そして意識を手放した。
異変に気づいた看護師が慌てて処置に入った。
だがその後も意識は戻らず、影山の元にも連絡が入った。談話室にいる玲美にも連絡したが、いつもの発作だと思い生返事をしていた。
『ほらみなさい、私に逆らうからこんな目に遭うのよ』
悪態をつきながらスマホをいじっていた。
影山が着くと医者は今夜が山場だと言った。
玲美はどこだと聞くと談話室にいると言う。
「お知らせしたのですが、直前までお2人で喧嘩をなさっていて…」
と赤くなった頬を見せた。
「この子を殴ったのか? 信じられない!」
「それからこれが…」
そこには私と望愛に対し謝罪の言葉が書かれていた。
「何でこんな事? 何故ナースコールもせずにこんなもん書いてたんだ! 隼!!」
「隼君はお父さんを役立たずと言ったことを物凄く怒っていて、お父さんが一生懸命働いたお金を無駄遣いするなって、役立たずは自分とお母さんだって…。それでもう病院から帰って欲しいと頼み、家に帰って妻や母親の仕事をして欲しいと訴えていました。でも生意気だって何度も叩かれて…それでも諦めなかったのは、お父さんの負担を減らしてあげたかったんだと思います」
「ああああ! 可哀想に、痛かっただろう隼」
頬に保冷剤をあて手を握る。
「隼、隼 頑張ってくれ。隼、このまま逝かないで? 隼!」
隼の頬に涙が伝った。うっすら目を開けてじっと父を見る、声にならない声で
「もう…捨てていいよ? 僕ね…僕 お父さんが…お父さんで良かっ……た。これか…らは、じぶ…ん…のために…生きて……いいから………ね。だいす…きお…とぉぉ…さん」
「駄目だ、駄目、喋らなくていい! 隼! 大丈夫、大丈夫だいつもみたいに戻ってこれる!隼、お前がいなきゃ頑張れない、父さんは! 隼がいたから頑張れたんだ! 頼む、頼むから頑張って? お前を苦しめると分かってるけど、私のための頑張って! 隼、隼、ああ、逝かないで隼! 隼―!!」
「あり……が……と……………」
目が白目を剥いて
ピーーーーーーーーーーーーーーー
「ああああああああ! 隼! 隼! 隼! ああああああぁぁぁぁ!!」
隼は24年間病院で過ごし死んだ。
24年間隼に寄り添った玲美はその死に立ち会うことは出来なかった。
誰もが優しい隼との別れが辛くて玲美の事を忘れていた。玲美はスマホの充電が切れるので病室に戻ろうとして異変に気づいた。隼に泣き縋っている夫の姿を見て、事態をようやく理解した。そして開口一番言ったのは、
「何で知らせなかったのよ! この役立たず!!」
「お伝えしました。でもあなたはスマホから視線も外さずに あーそうって言ったんです!」
「でも危篤なら引っ張ってでも連れてくるべきでしょう! 一日中側にいて何でこんな時に呼ばないのよ!!」
「黙れ! 私は連絡を頂いてこうして来て隼の最期の言葉を聞いた。黙らないならお前を隼に対する暴行の罪で訴える!」
そう言うと隼の頬の写真を撮り始めた。
「何してんのよ! か、軽く叩いただけで大袈裟よ! 私は母親なのよ? これくらいで」
「虐待だな、それが嫌なら黙れ! 私は隼との別れを惜しんでいるんだ!」
「はっ! 本当の父親でもないのに厚かましい」
周りの目がギョッとしている。こんなに献身的に尽くし隼と深く結びついている2人が、血の繋がりがない!?最期の言葉も付き添っていた母ではなく父にだった。
医者たちは処理を終えると病室から出て行った。影山はベッドに上がり、隼の体を抱きしめて静かに泣いた。今は隼の事だけを考えていたい。25歳の男にしては細い体、骨張った体、青白い顔色、死ぬ最期まで私を気遣ってくれる優しい子。『捨てていいよ』あんな言葉を言わせるなんて申し訳なくて切なくて、髪を撫で、頬を撫で 抱きしめた。
珍しく玲美が煩く言わないので見るとベッドに突っ伏して寝ていた。
だがよく見れば、スマホにコードがついていて充電中だった。
『玲美も泣き疲れたか…』
つけっぱなしのスマホを消そうとして愕然とした。
玲美はスマホに『愛する息子がとうとう天国へ旅立ちました』と息子の顔だけモザイクかけ投稿していた。スライドさせると毎日毎日 日記のように自分がいかに甲斐甲斐しく世話をしているかを載せ、隼の痩せ細った腕や足を投稿していた。
腑が煮え繰り返るようだった。そっと全てを削除してスマホを叩き割ってからベッドから落ちて割れた風を装った。玲美が寝ている間に病院の手続きを進めた。
一応義兄に連絡を取ったが、望愛は漁船に乗っていて連絡が取れないと言う。
玲美の事を考えると望愛が傷つけられる事が予想できたので、そのまま葬儀を行い荼毘に付した。
私は病院の支払いを義兄に金を借りて支払った。
長い間世話になって、支払いも出来ないとはあまりに申し訳なかったから。それに借金が多すぎてもう借りるところがなかった。
「お義兄さんには望愛を頼んでいるのに、その上 入院費まで…申し訳ありません」
「こちらこそ、長い間 血の繋がらない甥の為に有難うございました」
「お義兄さん、申し訳ありませんが私はこれで玲美と離婚し縁を切ります。隼は治してやりたかった、でもこういう形になってもう限界なんです」
と病室での一件も含めて、これまでの経緯を話した。
流石に絶句した、自分の妹でありながら言葉が出なかった。
「それからこれ、新しい連絡先です。玲美は私に興味がなかったので、今の職場もアパートも知りません。隼にかかった費用はお義兄さんに借りて精算しましたが、玲美がスマホで買い物したものや課金したものは玲美名義の為、その内 スマホが使えないとここへ来るかもしれません。ですが、私の連絡先は教えないでください、もう私は玲美とは縁を切ります…関わりたくない。
まだ借金が2600万くらいあるのですぐにはお返しできませんが、少しずつでも返して参りますので、何卒 宜しくお願いします」
「前にも言ったけど、入院費は立て替えじゃなくて私が払います。玲美が随分…迷惑をかけましたし」
「いえ、望愛に愛情も金もかけて頂いているのに、これ以上はバチが当たります。それに私は望愛の父親は出来なかったけど、せめて隼の父親ではありたいのです」
「そうですか。 影山さん 以前より随分お痩せになりましたね。私の事はいいのであなたまで体を壊さないようにしっかり休養もとってくださいね」
「はい、有難うございます」
「ああ、そうだ。実は私も玲美にはここを教えていないのですよ」
「ふふふ、そうですか。 それでは失礼します」
本当に影山さんはその日を境に玲美の前から姿を消した。
スマホは使えないし、公衆電話からかけても繋がらない。ここへ来て影山の事を何も知らないと思い知らされた。スマホもないしお金も一円もない。
病院へ行き連絡先を聞いた、不審に思いながらも教えてくれた。
「違うわよ、それが繋がらないから今の連絡先を教えて欲しいの!」
「こちらが把握しているのはこれしかありません」
「そんな訳ない! だって入院費の支払いだってあるでしょう!」
「いいえ、一括でお支払いになっていますよ。ですからもう病院側からご連絡する事はありません」
「嘘…よ。あっ!」
お金を誰かから借りたのね? お金がないないなんて言いながら、まったく。
病院を出てタクシーで実家の場所向かった。タクシーに支払う段になってお金がないと言う。
「ここ辰巳物産が実家なの! ちょっと待っててよ!」
だが、ここに兄はいなかった。
「何でよ! うちの会社なのに何で他人のものになってるのよ!!」
そこで兄が会社を継がずに外部の者に任せた事を知った。
「兄はどこにいるの?」
「さあ、存じません」
来たタクシーで実家に行くと実家の表札には辰巳ではなく葉山に変わっていた。
えっ? みんなどこに行ったの?
タクシー代は18万にもなっていた。だけど払えないと言うのでそのまま警察に連れて行かれた。警察で、夫を探していると訴えた。その過程で実家もなくなり会社も他人のものになっていた話をすると、警察が少し調べてくれた。
「あんたに夫はいないよ、誰にたかるつもりだったの?」
「はっ! 何言ってるの? 私はさっきから言っているように影山玲美、夫の影山尚人を探しているの! 影山はお金を兄に借りたと思ったから辰巳悠馬を探しにこの町まで来たの!でも誰もいないんだもの、どうなっているのかこっちが知りたいわ!!」
「影山玲美ねー、あんた離婚しているからもう影山玲美じゃないよ。今は辰巳玲美いや辰巳の家からも籍が抜かれているから影山玲美か。それからあの家はあんたのお父さん?が亡くなった時に売りに出されてそれ以来、葉山さんって人が住んでるね。あんたの兄さん? 元旦那? 誰もあんたに連絡先教えないって事はあんた…捨てられたんじゃないの? タクシー代 払えないなら無賃乗車で送検ね」
「うそよ、嫌よ、何でそんな事になるのよ!」
「あんた金もないのにタクシー乗ったんでしょう? 金もないのに都内からタクシーで来たんでしょう?」
そんな問答があって留置所に入れられた。
考えても考えても何で自分がこんな目に遭っているか分からなかった。
隼の言った言葉が引っかかった。
役立たずは病弱な僕と浪費家な私…。
翌日いきなり釈放された。誰かが示談金を支払ったからだ。その際に警官は言った。
「あんたの旦那、あんたを捨てたんじゃないかもなー。あー、あんたのために離婚したんじゃねーの? 入院費だの何だので借金が2600万もあったよ。あんたに背負わせないようにしてくれたんじゃねーかなー」
実際のところ示談金は兄の辰巳が払った。会社から連絡が入ったからだ。しかし誰が払ったかは知らせないで欲しいと、軽く経緯を話した。だから警官たちは借金のために距離をとっていると勘違いしてくれた。
玲美は影山が2600万の借金を背負っている事より、これから自分がどうやって生きて行っていいか分からず途方に暮れた。今はオニギリ1個買うお金も持っていなかった。




