30、幕間 玲美と言う女−1
私が望愛と一緒に住む事になったのはある意味償いだった。
家族に見切りをつけて自分だけ逃げ出した事への償い。
私の妹 辰巳玲美は近所でも評判の美少女だった、確かに顔は整っているように思うが、性格には難があった。と言うのも父が玲美を溺愛し、何でも買い与え望むものは何であっても与えるようなところがあった。小さい頃同じ両親に生まれたにも拘らず、父の関心が妹に集中していた事に面白く思わないこともあった。私には辰巳家を継ぐ為と家庭教師がつけられ自由がないのに対し、蝶よ花よと育てられる玲美に不満があった。玲美は父の溺愛を受け順調に『自分は特別な人間だ』そう勘違いして行った。
母は父には逆らえない人だった。独善的な父に振り回され洗脳されていたようにも思う、父のように偏った考え方は持っていないものの行動を起こす勇気は持っていない、そんな人だった。
私は早い段階で、父の会社である辰巳物産はいずれ私が後を継ぐと言いつつも、玲美が強請れば私ではなく玲美のものになる予感があった。そこで会社経営に必要な事だけではなく自分の将来に、一人で生きていくのに必要な勉強もし始めた。
ある時、小学校の帰り道 玲美が変質者に遭った。所謂コートを開くと全裸のおじさんと言うやつだ。だが、父は重く受け止めた。使用人の息子を転入させて常に側に置くようにした。
それが影山尚人、勿論 同じ年で何が出来るわけではないが、玲美が逃げる為の時間稼ぎくらいは出来ると思ったようだ。
影山尚人は小学生でありながら下僕人生が始まった。ただ、両親にも言いくるめられていたし、町内でも有名な美少女の側に常に一緒にいることが出来る特権に喜んで従った。
玲美の我儘は更に悪化していった。
その頃の自分の存在は完全に異物だ、家は父を中心としつつも玲美を中心に回っていた。
5歳離れていた私は高校も進学校を選び地元を離れた。その間にせっせと金を貯めた、仕送りにバイトに精を出した。幸運にも父は私に対し監視するような事はなく金にゆとりがあった為、仕送りも相場など調べないので他人よりは多く貰っていた。成績さえ落とさなければ文句は言われなかった。そして大学も更に遠くに入った。勉強が忙しい、と家に帰ることもなくなった。そんな時、問題が起きていた。
中学生の玲美が初恋をした。
相手は自分が通う中学の音楽教師だった。
13歳の玲美は24歳の音楽教師 風間隼人に夢中になって、あの手この手で風間を自分のモノにしようと画策した。風間も有名な美少女に言い寄られるのは悪気はしていなかった。身近な大人に対する憧れ、誰もがそう思っていた。
だが、玲美は違っていた。今まで望んで手に入らなかったことがなかったのだ。癇癪を起こし毎日毎日 父親に風間が欲しいとせがんだ。仮病を使ったり、騒ぎを起こしたり手に負えない玲美に、音楽教師を転勤させた。これに怒った玲美は父親に食ってかかった。
だがそこには、いつだって激甘な父親はいなかった。影山の他に警備の者を2人雇い常に監視させた。それでも玲美は人目を盗んで転勤した風間の学校へと向かった。
校門に玲美の姿を見た風間は化け物でも見たように怯えた。
「何でいるんだ! お前と俺は何の関係もないのに何で俺がこんな目に遭うんだ!! 帰れ! 帰れよ! お前が勝手に来ただけなのにまた俺が淫交教師とか呼ばれて、飛ばされるだろう!! 大体 俺には彼女がいたのにお前のせいで喧嘩ばかりになって最悪だよ!! もう二度と近くを彷徨くなよ!!」
「う、嘘よ! 先生も私のこと好きでしょう? 彼女なんて嘘だよね?」
「はぁー? 嘘のわけねーだろ、例えそれで別れてもお前みたいなガキ相手にするかよ!!いい加減 俺を巻き込むのヤメロよ! 気持ちわりーんだよ!!色気づいたガキが、同世代と恋愛してろっての!!」
「お父様にそう言えって言われただけで本当は私のこと好きだよね?」
「お前さー、俺24歳だよ? 何で13歳のガキに恋愛感情持てるって言うんだよ! 俺お前のこと好きって言ったことあったか? 手を繋いだことあるか? キスしたか? セックスしたか? 何もしてないよな! お前のお姫様ごっこの付き合わされて迷惑なんだよ!! お前はただの生徒! その他大勢と同じ! 今は生徒でもないただのストーカー、迷惑だ!! これ以上彷徨いたら警察に訴えるぞ!」
「ヒックヒック、酷い、酷いよぉ〜」
風間も余裕がなかった、兎に角もう付き纏われたくない、その一心で玲美が傷つくだろう言葉を浴びせ続け追い払った。
だが、この事は別の変化を生んでいた。
激甘の父親が、監視をつけていたにも拘らず、抜け出した玲美を見限ったのだ。
学校以外は軟禁する様になった、今までは何でも望むものを与えていたのに、勉強道具以外は渡さなくなった。共に食事を摂ることもなくなり、部屋からも出さなくなった。
失恋で傷ついた玲美に自由も安住もなくなった。
学校に登校する時、父は既に家にはいない、いない父に向かって叫んで訴えていたが父に届くことはなかった。玲美は反発から勉強も放棄しテストも白紙で出す問題児となっていった。
元々 利害だけで繋がっていたような家族だったが、唯一の繋がりである玲美がいなくなった事で、家は冷え切り常に緊張を強いられるようになったと言う。まあ、母にしてみれば何も変わりがなかったのだろうが、父と玲美の亀裂は修復不可能になっていた。
そして玲美は影山を使って学校をサボり遊び歩くようになっていた。それがバレれば影山だって折檻され酷い目に遭う、だけど玲美に頼られれば嬉しくて従ってしまっていた。
私は大学を卒業すると隣町の役場に勤めた。父には『会社に入れ』と言われたが、社会勉強がしたいと強行した。そして密かに中古の広い家を購入した。だが、知られないように実家が用意したアパートから通った。アパートの費用は実家から支払われていたので問題がなかった。
着々と独立の準備を重ねた。いずれ会社に入れと父が強硬手段を取るかもしれない、その為の準備だ。
玲美が何とか入った短期大学(短期大学を落ちたら家に監禁すると言われていた)を卒業すると、父は見合いを用意した。猛反発する玲美に父は『お前にはその位しか役に立たない』と言い放った。そしてまたも事件が起きた。見合い相手と粛々と結婚の準備が進んでいた最中、玲美の妊娠が発覚したのだ。
玲美は堕胎させられることを恐れてずっと黙っていた。もう6〜7ヶ月と言うところで堕ろすことも出来ないと父は激怒し相手が誰か問い詰めたが、玲美は頑として言わなかった。当然、見合いは流れた。玲美が言わないので影山を問い詰めた、流石に妊娠は知らず相手も複数いて分からないと言った。慌てふためく家族を見て満足そうに自分の腹を撫でる玲美。
父に第六感が働いた。
密かに調べさせると、玲美の初恋相手の風間隼人に薬を盛って一夜を共にしていたようだった。風間は既に結婚して子供もいたが悪夢再びと言ったところで、朝 目覚めると隣に裸の玲美が寝ていたと言うのだ。では何故玲美は風間の子供と確信していたかと言えば、普段はピルなどでコントロールしていたからだった。つまり玲美は好きでもない男と結婚したくない、でもこの結婚を阻止するのは難しい、そこで計画的に子供を作って破談にするつもりだった。そして子供を産むならやはり好きな男の子供がいい、と計画的に風間を嵌めて妊娠したのだった。
またも父の意思に反いた玲美が憎らしく、妊娠した玲美を大雨の中、外に放置したこともあったが、結局泣き縋る母と影山の取りなしでその場は何とか収まったが、父は身重の玲美を追い出した。行き場のない玲美は影山の家に身を寄せることになった。
父は勘当したまま玲美と連絡を取らなかったが、母は外聞が悪いので影山に玲美と結婚してくれないかと泣いて頼んだ。玲美は『この子の父親は風間だ』と言い張ったが、風間は既に結婚しており玲美を怖がり結婚する事はない、何なら訴えるとまで言っていた。これで計画的に子供を作ったと知られたら揉み消すことは不可能。
愛する男との子供は護りたい、勘当されている身で子供を一人で育てていくのは難しいと、影山と結婚する事を承諾した。
実際、父の援助なしの親子2人で生きていく事は狭い街では不可能だった。そして影山も条件をつけた。
『自分の子として慈しむが、夫婦となるのであれば玲美に対し妻としての役割を担って貰う』つまりは、夫婦生活はするよ?と言う事だった。玲美は渋々承諾した。
玲美の子は隼と名付けられ玲美は隼を溺愛した。風間から一字貰ったが、隼を得てから玲美の執着は隼に移り風間の事を思い出すこともなかった。満たされた玲美は他の男を求めることなく、影山と夫婦生活をしていた。だが検診の時 隼は先天性心疾患であると分かった。愛する隼に先天性の病気があると分かり玲美は憔悴した。
自分の命とも呼べる隼を失うことが何よりも怖かった。全ての生活は病院で過ごすようになった、そして影山はまたも下僕のような生活が始まった。仕事と病院を往復するだけの生活。そして金の殆どは病院代へと消えた。
玲美は夫の影山に偶に甘えた。
それは決まって隼が発作を起こした後だ、容態が落ち着くと無性に不安に駆られ影山の温もりを求めた。そのひと時のために側にいると言っても過言ではない。
だが、玲美が隼の為に湯水のように金を使うのは流石に我慢の限界だった。
薬ではないのだ、同じ年頃の子供が体験する事を出来ない隼が可哀想だと言っては病室にカルテットを呼んだり、著名人の朗読家を呼んだりと、しがないサラリーマンの給料では限界があった。だからなるべく機嫌の良さそうな日を選んで話をした。
「玲美、俺の給料では病院代を払うのもやっとだ、頼むから治療に関係ない出費は抑えて欲しい。この生活がどの位続くかも分からないのだから、理解してくれるね?」
笑顔だった玲美から表情が抜け落ちた。
そして翌日サインの入った離婚届を突きつけられた。
「あなたは不満なのでしょう? なら離婚してください」
病院に子持ちとは言え美しい玲美に気がある医者は多かった。
結局折れたのは影山の方だった。
サインの入った離婚届を自宅で見つめる。
隼は実の子として影山の戸籍に入っている。もう、父親のない子にならない。自分と別れて金持ちを捕まえれば何も支障がない。自分にはATMとしての価値しかないのだ。
そう理解した。そんな酷い事を言っても、隼が発作を起こせばいつも通り甘えるのだ。
虚しい生活の中、影山は機会を狙った。
そしてそれは案外早く来た。
玲美が妊娠したのだ。影山はコンドームの先を開けてことに及んだ。そして目でたく玲美は影山の子を妊娠した、だが彼女はそれを喜ばなかった。隼の看病出来ない時に何かあったら不安だと。だがそれも宥めすかせ何とか出産に漕ぎ着けた。薄々気づいていたことだが、出産しても玲美は娘の望愛の面倒を見る事はなかった。影山自身も働かなくては金がない、玲美に捨てられる未来しかない。ベビシッターを雇い面倒を見て貰っていたが、やはり金に余裕がなかった。そこで辰巳の義理の母を頼った、と言うのも実の母は玲美との結婚は反対だった。素行に問題はあるわ、自分の息子を下僕のように扱うわ、他の男の子供を面倒見なければならないわ、隼が入院した時も離婚しろと詰め寄られていた。
この結婚は義母の願いであったから遠慮なく頼った。望愛を預けるようになってすぐに辰巳の義父が死んだ。心臓発作だった。これで遺産が少しは入るかと期待したが、玲美とは縁を切り戸籍を抜き遺産が渡らないように手を回していた。当然のように義父の葬儀に玲美は来なかった。
玲美の兄は辰巳物産に入らなかった、隣町で暮らしていると言うし、公認会計士だか、司法書士だかの資格を持って身を立てていると言う。辰巳物産に興味がないなら自分を社長にしてくれないかと願ったが、サッサと外部の人間に会社の管理を任せてしまった。
会社の人間の義父のワンマンなやり方に不満を持っていたので、同族経営ではなく外部の専門家を入れた事を歓迎した。つまり期待したおこぼれは何もなかった。
影山は玲美と夫婦であることに執着した。
丁度その頃、隼の余命宣告がされた。移植しなければ長くは保たないかもしれないと。
影山はふと、『隼が死んだら私たちだけの生活が出来るようになるのではないか』
そんな感情が膨れ上がって次第に囚われていった。
入院費を支払い家に帰ると玲美宛の請求書、隼に相変わらず無駄とも思えることに金をかけていた、その桁に乾いた笑いしか出てこない。
学校に行けない隼に家庭教師を色々雇っていた。前回揉めたせいか、請求先が影山ではなく玲美になっていた。それを私は素知らぬ顔で病室に置いておいた。
結局は私に泣きつくしかないと思っていたが、玲美は私に金を払って欲しいとは言わなかった。何をどうしたか詮索する気は起きなかった。
隼は余命宣告を遥かに超えて生き続けていた。玲美の願いが届いたのかもしれない。そしてそれと共に借金は莫大な額になっていった。
偶に義母から電話が入る。
『望愛が一人ぼっちで可哀想だから顔を見てやって欲しい』
考えてみれば望愛を抱いた記憶もない、ある意味玲美の気を引きたくて子供を作ったようなものだ、望愛を見たら惨めな自分を見る気がして目を背け続けていた。触れてほしくないところ。
『私が働かなければ入院費はどうやって支払えばいいんですか? 私は何の為に玲美と結婚したんですか? 玲美は風間の子にしか興味がない! 私たちは捨てられた、いや元から金以外 私に価値はない! 結婚したって言うのに毎日コンビニで飯を食って会社の近くの銭湯に入ってコインランドリーで服を洗って、玲美と隼の服を洗って畳んで請求書の金を払って!! それなのに遺産も1円だって入らない、もう限界なんだよ!!
これ以上俺に何も求めないでくれ!!』
義母に言っても仕方ない事なのに、誰かに当たらなければやりきれなかった。
望愛に会ったのはいつだったか。
同じ家に住んでいるはずなのに、寝ているあの子を見に行くこともなかった。今は義母の家で暮らし任せっぱなし。
自分は夫しても父親として中途半端で、未熟さを指摘されるようで耳を塞ぎたかった。
唯一 胸の内を晒すことができた、いや 当たり散らすことができた義母が死んだ。
ここに来て自分と望愛の関係を改善させようとしていた真意が分かった。義母は余命短く望愛を託す為に電話してきたのだ。義母のいない生活は思った以上に負担だった。
自分一人であれば適当にコンビニで済ませられる食事も小学1年生には金を渡して『食べといて』で済ますことも出来なかった。取り敢えず米を炊いて、冷蔵庫に買った惣菜を入れる。これで食べられるだろう、と思っていた。
望愛が電子レンジを使えない事すら知らなかった。だから冷たい食事をしている事を知らなかった、知ろうとしなかった。
義母は義父が死んで豪邸を売り払って使用人を解雇し、小さなアパートに住むようになった。義母はお手伝いさんがいたので同じように電子レンジを使ったことがなかった、だから必要性があるか分からなかった。老婆一人ではそんなに多くのものを必要とはしなかったし、食事の量も少くて良かった。
義兄の奥さんと子供が飛行機事故で亡くなった事もあって、望愛と義兄の近くに越してきて様子を見ていた。金持ちのご婦人とは思えないほど質素な暮らしをしていた。
それでも 人に聞きながら漬物を漬けたりしながら保存食を作っては我が家と義兄に持たせた。それだけでも凄く助かっていたと今になって分かった。ある時、日々げっそりしていく望愛の寝顔が少しずつ戻っていった。そしてそれは義兄が望愛の面倒を見ているからだと後から知った。義兄が毎日食事を摂らせ、風呂に入れ、宿題を見て、寝る前に送ってきていたのだ。
余裕がない私にはそれが有難かった。
そんな時、玲美が転院したいと言い始めた。
『こんな田舎では隼の治療が上手くいかない。心臓病の権威がいる所へ引っ越すわ』
玲美の中には私の仕事も望愛の学校のことも関係なく決定事項だった。
ただ隼を助けたい、それだけ。
そして玲美と望愛の衝突。
『ねえ、ママは私のママじゃないの? お兄ちゃんだけのママなの? お兄ちゃんは可哀想だけど、私は可哀想じゃないの!! ママの作った温かいご飯も食べたことない、掃除、洗濯? いつママがしてるの? 運動会、遠足、社会科見学 ママの作ったお弁当じゃないのは私だけなんだよ!私のママはどこにいるの!!』
この言葉はそのまんまパパに置き換えることができた。
忙しくて義母の助けが必要だったのは確かだ、だけどそれを言い訳にし、いつも義母や義兄任せで、何もして来なかった。玲美は当然のように望愛を捨て隼と別の土地で生きていく事を選んだ。
私は玲美を選んだのではなく、望愛が幸せになる為には不良品である親を変えなければまともに育つ事はないだろう、だから望愛に義兄を選ばせ、両親を捨てさせた。
望愛にとって玲美は決して自分を顧みない名前だけの母親、生きる希望を打ち砕く害悪、いずれ望愛の良心を蝕む害になる。そして借金を私だけではなく望愛にまで被せて苦しめるかもしれない、望愛まで下僕人生を味わせることになるかもしれない、そう思って望愛を義兄に託した。
思った通り望愛は義兄の愛を受けてスクスクと育った。
私たちの子には思えぬほど優秀にもなった。私たちの娘ではなくなるキッカケの獣医にもちゃんとなった。陰ながら応援していた、でも今更会うことは憚られた。
玲美がいない時、隼が口にしたことがあった。
「お父さん、僕が体が弱かったばかりに迷惑をかけてごめんね。早く良くなれば良いんだけど、きっとそれはないだろうから…あまり迷惑をかけないようにするからね。お母さん一人占めしてごめんね」
隼は本当に良い子だった、血の繋がりはない、疎ましく思った時もあったが今では隼の事も愛していた。いや望愛よりやはり接している時間が長い分、情が芽生えていた。
「馬鹿、気にしなくて良い! 隼は元気になることだけ考えていればいいんだ。今までいっぱい我慢してきたもんな、病院から一時外出が出来たらソフトクリームを食べさせてやりたいな、それに公園で駆け回ったり、ハンバーガーなんて食べた事がないだろう? それも食べような、それから日焼け止めを塗ってプールにも連れて行ってやりたいな。あっ、電車って知ってるか? あー、車も乗った事がないか…やる事が多すぎるな…」
隼にはこんな些細な日常も得られなかった、家族の未来を思い描きながら涙が溢れた。
「お父さんとそれらをいつかしてみたいな。 ねえ、お父さん…ふー、お父さん、僕には妹がいたんでしょう? 今はどうしているの? 1人で寂しくないかな? 会ってみたいな…。でもいつも僕がお父さんとお母さんを独占しているから僕のこと嫌いかな? 今度お母さんがいない時にこっそり連れてきてよ欲しいな、ねぇ、お父さん!」
望愛はね、お前を転院させる時に捨ててきたんだよ、だからもうお前に妹はいないんだ。
言葉を飲み込んだ。
「ああ、そうだな 学校が忙しいらしい、ズズズ 今度連れてくるからな」
隼に罪はない。実際余命1年だった寿命を、ここへ転院して10年以上頑張っている。移植待ちだが、小児の心臓移植は難しかったが、やっと希望が見えてきたのだ。隼が元気になったら、隼を連れて望愛に会いにいってみよう、そう思った。




