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3、お勉強

馬の出産のお手伝いのお礼をしたいとブルーベル侯爵に言われた。

いや、別に欲しいものなんてないし…まだ子供だから、相場がわからないし、別にいらないけど。


という事で、ブルーベル侯爵家でマナーや勉強などを見てもらえることになった。

でも、こう言うお礼は有難かった。だってうちの両親は私の好きにやらせてくれる良い人だけど、正直言って貴族の常識が身に付かない。うちに出入りしている商売人曰く

『お嬢様は普通の貴族と違って気さくでお優しくてお可愛らしい』と褒めてくれるが、これって、普通の貴族の常識がないって事じゃないかい?

元が日本人だし、大人の常識で対応していただけなんだけど、平民には挨拶しないの!?動物に直接触れちゃいけないの? 歩いて山や川に行っちゃいけないの?とか、案外知らないことが多い。うちの両親は無頓着で学校に行くようになれば自然と身につくって言うけど、絶対違う気がする。だって、この間呼ばれたお茶会でこっぴどく恥をかかされたし…。



ブルーベル侯爵領の隣にあるハドソン伯爵領、そこには私と同じ歳のプリメラ・ハドソンがいる。遅くに出来た子供らしくかなり甘やかし放題。そのプリメラ嬢が『プリメラ姫様のお茶会をしたい!』と言ったらしい。だから早速家族でお茶会を催した。だけどお姫様にはお気に召さなかった。『これじゃあ、普段のお茶会やお食事と変わらないわ! お友達を集めて贈り物をたくさん貰って、素敵な男の子たちに囲まれるの! こんなんじゃないー!!うわーん』と泣かれ、早速ハドソン伯爵は呼べそうな子供たちを集めた。自分の領の商人や下級貴族、つまり子爵や男爵の娘や息子を集めてお茶会をやった。

すると今度は『贈り物がダサい! 男の子の顔が悪い、王子様じゃない! 不細工!』と始まり流石にいくら娘にゲロ甘でも王子を呼ぶことなんて出来るわけもなく困ったプリメラパパは、

『我が家は伯爵家だから王子殿下をお呼びすることなど叶わない、それは諦めなさい』と珍しくまともなことを言ったらしい。すると泣いて泣いての3日間(食事とおやつはちゃっかり食べていたらしい)、こんだけ泣いてもパパンが折れる風がない、そこでプリメラは妥協した。『本物の王子様が駄目なら、本物の王子様と同じくらいカッコいい男の子ならいい』

ふっ、どこまでも上から目線のお嬢さんだ。



そこでプリメラパパは隣の領に住む我が家に目をつけた。

知らない仲でもないし、家格が上の家に無理難題は言えないけど、同じ田舎の伯爵家、自分は領地持ち対するブライト伯爵家は領地なし、よし いける。お兄様に『プリメラの王子様に今回だけなって欲しい』作法もわからないし難しいと言って断ったが、『一度エスコートするだけでいい!』と食い下がり諦めたのは我が家のパパンの方。


兄妹で招待された。衣装も全て向こうで用意するとの事だった。一度の我慢と歯を食いしばって向かった。

「ふーーーん、あなたが王子様? イマイチだけど今までの子よりはマシだから我慢したげる。それからあなたが王子様の妹? あり得ないでしょう!」

「ではブライト伯爵家の皆さまはこちらへおいでくださいませ、お着替えをご用意しております」

「はっ!? 服も持ってないの? あり得ない!」

「いえ、旦那さまがセシリアお嬢様にお似合いになるご衣装をこちらで用意するとお約束なされていたのです」

そちらへ向かおうとすると、

「ちょっと待って! 王子様の方は着替えに行っていいわ、でも妹は駄目。その格好で参加なさいよ! そっちの方が面白いわ!」

「それはちょっと、お嬢様…」

「口答えをするの? クビにするようお父様に言い付けるわよ!」

ほほうぅ、これがザ令嬢っていう態度なのか? 感じ悪いけど? これが普通の貴族令嬢?

んーー、違うよね…、なんかザ悪役令嬢って感じなんですけど。


まだ貴族とは何たるやが分からないまま出席したお茶会は散々だった。


ブルームお兄様は王子様役とは言え下僕扱い。あれをしてこれをしてと言いたい放題。みんなゲンナリしている。私に至っては自分を引き立てるための道具、虫扱い。

「お前、私が太陽ならお前は地を這う蟻だ! 人間と同じテーブルにつくなど図々しい! 鞭を持て! わたくしが踏み潰してくれるー!!」

あの時はマジで身の危険を感じた。

誰も鞭を持ってこないと怒り狂ってカップとか皿とかを投げつけ始めた。

因みにケーキが乗っている皿は食べてから投げつける。避けると更に怒り狂う。

顔は不味いから、面倒だが肩辺りに来たのは避けきれない風を装って当たってやった。

プリメラは鼻をフンフン鳴らしながら超満足そうに手を腰に当て勝ち誇る。

ねえ、もう帰ってもいいかな?

いや、こっちだって中身36歳のおばちゃんとは言え、付き合いきれんって。

3歳の娘がこれほどタチ悪いとは…この先が不安しかないね。


侍女の1人がお屋敷のご主人様 つまりハドソン伯爵に報告に行って、慌てて走ってきた。

「すまない事をしたね、こんなに濡れていたら着替えないとだね。あれ? 用意しておいたドレスはどうしたのだ?」

「あの、お嬢様が…」

「この子には下僕じゃなくて蟻の役をやってもらったの! だから綺麗なドレスは必要ないわ!」

うわぁー、会場がドン引いてる。波が引くように感情の波がザザザザって引いてる、ウケる。

またやれとか言われたら面倒だから(私も兄も)ここはいっちょかましますか!


「ヒック、ヒック…どうしてこんな酷いことが出来るの? お兄様、お兄様 うわぁーん!」

「ああ、セシリア 可哀想に! 止めてあげられなくてごめんね。もう二度と付き合わせたりしないから許して、あー、よしよし。

ハドソン伯爵 これはあんまりです。お断りしたのに、どうしてもと仰るから来たのに、この様な扱いをされるなど到底許せません! もう二度とこの様なくだらない事に私たちを巻き込まないでください! 失礼致します」

「待ちなさい、そのままではセシリア嬢が風邪を引いてしまう、せめて着替えてから」

「いえ、必要ありません。この服も後日お返しします。妹には私の服を着せて帰りますから。さあ、セシリアもう帰ろう」

ヒューーーお兄様カッコいい!! 兄ブルーム5歳、おじさん相手に負けてないとかって、最高かよ!


馬車に乗って帰る時、兄はそっと、

「大丈夫? セシリアさっきのアレ 嘘泣きでしょう?」

「えへへ、バレた? だってアレにずっと付き合うなんて ごめんなんですもの」

「助かったよ、本当に性格悪いなープリメラって。でも早いうちに性格が知れて良かった。下手すると僕のお嫁さんになるかも知れないからね」

「ええー!! 絶対断ってくださいねお兄様! あんなのをお義姉様とか呼ぶのは悍まし過ぎる!」

「僕もごめんだよ、キョーレツだったな」

「私…アレが普通の令嬢なのかと思って…あれが普通なら普通じゃなくてもいいやって思ってたけど違うなら良かったです」

「僕も詳しくは知らないけど、アレはないでしょう…、ねぇ?」

なんてことがあった。


その後もお詫びを兼ねたお茶会に招待されたが丁重にお断りした。


まあ、一般貴族がプリメラとプリメラパパが基準だったので、初めてブルーベル侯爵にお会いした時はハドソン伯爵と全然違う気品に驚いたものだった。


だが、兄も私も教育らしい教育を受けていなかった為、何が正解かイマイチ分かっていなかった。両親は常識的な人間だったからこれまで恥ずかしいと思ったことはなかったが、お茶会に着ていくようなドレスなどは持てなかった。プリメラは非常識だったが、普段着で行った私たちも非常識だったのだ。私たちは常識を身につけるためにブルーベル侯爵家にお世話になる事にした。



それからブルーベル侯爵家でエレン様にお会いした時に本物の『お嬢様』を知った。


ブルーベル侯爵家には奥様の他に4人のお子様がいた。

ご嫡男 ヨハン様  15歳

ご次男 ローハン様 13歳

ご長女 アリエル様  8歳

ご次女 エレン様   5歳

ご嫡男のヨハン様は15歳で社交界デビューを済まされ、現在は王立学園に通っている為、王都のタウンハウスにいらっしゃる。

だから領地にいらっしゃるのはローハン様、アリエル様、エレン様。


エレン様はプリメラとは全然違った。

物腰も美しく、言葉遣いも丁寧。使用人に対する言葉遣いも扱いもプリメラとは全然違う、お嬢様具合が雲泥の差! アレが正解と思わなくて良かったよ。危ない、危ない。


最初は私だけが行儀見習いでお邪魔する事になっていたのだが、どこからかハドソン伯爵家でのお茶会の話を聞いたらしく、兄ブルームも一緒に勉強やマナーや剣術を見てもらえる様になった。


エレン様は5歳だと言うのに、完璧な所作だった。

私はそれを羨望の眼差しで見る。

私はと言えば教育係のイザベラ・コードリー夫人に厳しく叱責される。へこたれそうだった、だってやったことないんだもん!足も腕もプルプルしてお辞儀が保てないよー。


「セシリア、コードリー夫人が厳しくて悲しい?」

「はい、言葉の一つ一つが突き刺さって痛いです」

シュンとする。

「そうね、わたくしもずっと指導頂いているからその厳しさをよく知っているわ。

わたくしはね、美しい所作は自分の身を守る武器だと思っているの。

んー、そうね、プリメラ・ハドソン様とわたくし、比べるとどの様に感じるかしら?」

「私は貴族の令嬢らしくないと言われていて、何が貴族の令嬢らしいのかが分からなかったのです。だからプリメラ様にお会いした時、人に対し何でも命令口調で話して、他人を見下して、自分至上主義、人を人とも思わない傍若無人な振る舞いをする、それが貴族の令嬢なら貴族っぽくなくてもいいかなと、思っていました。でも初めてエレン様にお会いした時、あまりの美しさに手を合わせて拝みたくなりました! 本物と偽物って見てすぐにわかるものなんだなって。所作の美しさは言うまでもありませんが、視線一つ気遣い一つ、どれをとっても完璧でこれぞお姫様って言う気品を感じました! 他人を貶めることでしかプリメラ様は自分を最上に保てなかったのか、と本物を見て理解しました!

エレン様が歩くとバックに薔薇が咲くんです!それに眩い光もピカピカ光ってる、薔薇も光も綺麗なのにそれらはエレン様を引き立てる小道具でしかないんです! イヤー、格の違いを感じました!」


「……セシリアは3歳よね? コホン 独特の見解は置いておいて、所作の美しさ言葉遣い一つでその様に他人からは判断される、と言うことが言いたかったの。初めてお会いする方たちは中身など分からないでしょう? だからそう言ったもので判断するの。

所作や言葉遣いで、人となりが見えてくるわ。そしてその人を取り巻く環境も人間関係もね。そう考えると、馬鹿に出来ないでしょう? 大半の人は挨拶程度しか交わさないただの他人ですもの。

わたくしはね、物事にはブレない指針が必要だと思っているの。

例えば、挨拶はこの角度でお辞儀はこの角度などの決まり事があるわ。でもそれが身につく迄はとても大変、小さい子供だからと間違っている事を正さず良しとしてしまうと、この間はOKだったものが今日は駄目だなんて、子供は混乱するでしょう? だから例え厳しくとも正しいか正しくないかについては妥協は良くないと思うのよ」


ハドソン伯爵とプリメラの関係に思い至った。

プリメラは完全に泣けばどうにかなると思って動いていた節があった。

なるほど5歳の子供におばちゃん感銘を受けたよ。


「はい、私もその通りだと思います」

「そう? セシリアはやはり賢い子なのね ふふ。マナーのお勉強は終わりも見えず大変だと思うけど、頑張りましょうね。 そうだ、話の中にプリメラ様を出した事は内緒にしておいて頂戴ね」

ウインクをして微笑むエレン様はお茶目な方だった。


こっちとら中身はアラフォーじゃい! やってやるわさ!!

まさか令嬢に筋力が必要とは思いもしなかったが、気合を入れて頑張った。

密かにマラソンをしたり腹筋、背筋、腕立て伏せをスポ根バリに小さな体でレッツトライ!

だってさ、淑女の礼って知ってる?笑顔って自然に醸し出すものじゃないの? まるで淑女教育って武術 格闘技だよ! 無の格闘技っていうか、自分との果てなき戦い!背中もお尻も肩も腕も! ああ、やっぱり全身運動! かなりしんどい!!


マラソンも普通の道路だけじゃなく山の中も出来る、ブルーベル侯爵領は領地を覆う様に結界が張られているから、結構自由に動ける。治安も良いし、領兵や憲兵もいるので安全。と言っても、小さい子が1人で走るのなんて以ての外!なのだが、セシリアは動物関連でよく呼び出されているので最近は「どこ行くんだ〜?」「◯◯よ!」「気をつけるんだぞ〜」位で見送ってくれる。


いつもの様に山の中を走っていると白っぽい物体があった。

何だこれ? 見た事ないなぁ〜。

卵っぽいけどこんな巨大なの見た事ないし。

石にしては表面がツルッとしてる。

ふむ、君は何だろうねぇ〜。このままにしておくべきか? 

「おい、君は生きてんのかー?」


ガタガタ

若干動いた!

じゃあやっぱり卵だ! 何の卵か分かんないけど生きてるなら孵してあげたいなぁ〜。


セシリア3歳 身長約90cm この卵はおよそ80cm抱っこで連れて帰るのは無理、きっと帰るまでに落として割る。家に連れて帰るために一度帰って毛布をリュックの様に背負える様に作って戻った。使用人に言えば手を貸してくれただろうが、万が一凶悪な生き物だった場合迷惑をかける事になる。だから一人で何とかするしかなかった。


山の中の卵を毛布のリュックに入れて家に帰る。

ああ、筋力つけてきて良かった、思わぬところで役に立つものだな。


自分のベッドに乗せて中の音が聞きたい。

ああ、聴診器があればなぁ〜。

おいおい、温めた方がいい? それともこのままの温度でいい?

「卵さん改めましてセシリアよ。ねえ、ちょっと聞きたいんだけどあなたを温めた方がいい?それともこのままでいい?どうしたらいいかしら?」

『温めなくてもいい』

「えっ? そうなの。良かったー、あっちこっち移動してもいい?」

『寝てる時は激しく動かさないで欲しいけど、起きてる時は大丈夫』

「ふむふむ、じゃあ、これから孵化するまで宜しくね!」

『セシリア、拾ってくれて有難う』

「まあ、案外礼儀正しいのね。こちらこそ分からない事ばかりだけど宜しくお願いします!」


セシリアは卵との共同生活を始めた。

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