29、サンフォニウム宮殿−5
この時間も最初は模擬戦だ。
エレンは別の受講に行った。ここにセシリアがいる事に驚きを隠せない新たなメンバー。
そして残念なことにセシリアに良いところを見せようと妄想を膨らませ、その後撃沈する事をまだ知らない。
今回はアシュレイ王子殿下を含め4人の新たなメンバー、皆1時間目でセシリアが受講したことを既に聞いていた為、ここにセシリアたちがいるとは夢にも思わなかった。そして同時にセシリアの横には剣の天才と誉れ高いブルームがいて、ギリギリと歯を鳴らす。
アイツさえいなければ俺にもチャンスがあったのに!!
いや、ない。なんだったらセシリアにボコられるから。
1時間目に出た人間は皆こう言った。
『セシリア嬢が可愛くて油断した』
万全の大勢であれば負ける事はなかった。つい見惚れて隙ができた。次の相手ブルームの事を考えていて油断した。
あれ、君はエレンに最初で負けていたよね?の人まで尤もらしく語っていた。
私は油断などしない! 非情にも勝って
『君も思っていたよりは強かったよ、頑張ったね、つい本気になっちゃったよ』
と手を差し伸べる、妄想の段取りは準備OK!
そして笑顔でセシリアに自分を印象付けるのだ!! 必ずや手を握る、この野望にかける!!
だが世の中とはそう甘くはない、世知辛いものだ。
セシリアと当たる前にリアンやブルームと当たってしまう。とほほな人生、残念!
セシリアの初戦の相手はアシュレイだった。
アシュレイは『これがグラシオスが夢中な令嬢か』と剣を構えた。
これでセシリア嬢に怪我でもさせたらグラシオスに何を言われるか…。ついていない相手だな。そう思って剣を構えた。セシリア嬢は視線が下にある。
緊張しているのだな、まあ悪く思わないでくれ。踏み込んだ!
だが、30秒後地に伏していたのはアシュレイ王子殿下の方だった。一切の忖度なし!
アシュレイ王子殿下は何が起きたか理解できずに自分の剣とセシリアを交互に何度も見ていた。
その様子を見ていた騎士たちもアシュレイ王子殿下が負けたことに驚きはなく、すぐにアシュレイ王子殿下の元へ行き回収し下がらせた。そして次の試合へと移っていった。
『セシリア嬢に見惚れていて油断した? 考え事に気を取られた? 違う!! 彼女は間違いなく強い! 実力で負けたのだ!!』
そして今回も最後はブルームとセシリアが打ち合いをしている。
楽しそうに「えい!」とか「やー!」とか胡散臭い声を上げる。それにブルームも「おお!」とか「ふふーん」とか戯れあっているようにしか見えないが、凄い技能の高さだ。戯れあっているとしてもあそこまでブルームについて行く事はここにいるメンバーでは出来ないだろう…。一体 何者なのだ!?
今回も「止め!」の合図で終了した。それを騎士たちも巫山戯ているとは取らずに、『まあ、決着がつかないのも仕方ないだろう』と捉えている。何なんだ!?
そして模擬戦が終わると3人はサッサと別の場所に行ってしまった。
聞かずにはいられなかった。
「彼らはどこへ行くのですか?」
「…彼らの選択は魔獣管理局ですので、魔獣がいる地区に移動しています」
「魔獣!? 女性がいるのに?」
「殿下、本来は個人の選択をお教えする事は出来ません。ですから、ここまでです」
「あ? ああ、そうだな、すまない、いや すみませんでした」
動揺が隠しきれない。
何もかもが予想外で心の整理がつかなかった。
この感覚を私は知っている…? やはり知っているのだ!
それに、私はあのリアンと言う者が妙に引っかかるのだ。
どこかで、どこかで会った、会っている気がするのだ! それはどこだ!?
セシリアたち3人は2時間目、本来はあり得ないが檻の中に入って魔獣のすぐ側にいた。
中に入って1個体ずつ診察、健康チェックをしていた。
「横になってくれる?」
セシリアにそう言われると皆 警戒する様子もなく横になって腹を見せる始末。
撫でながら和やかに話をしている。
リアンは元から出来ていたが、ブルームにも会話を共有させた。ブルームが心配するからだ。
「へぇー、ここに傷を負った時、死を覚悟したの? あなたにそんな怪我を負わせるなんて相手は誰?」
『青いドラゴンだ、まともにやれば分が悪い、生き残れたのはアイツがまだ若いドラゴンだったからだ』
「そう、青いドラゴンってそんなに強いの?」
『魔獣の強さは種族によるものが大半を占める、だがその中でやはり経験値は大きく左右する。実戦は経験だけではなく実際にスキルアップさせる事も出来る、相手のスキルを奪うことも出来る。魔力量が足りなければ使いこなす事は出来ないが、種族だけで判断も出来ないものだ』
「まあ、貴重なお話を有難う。 そう、実戦って大切なのね…、でも怪我をしたら…怖いわ」
『なあに、それも経験で学ぶ、出会った瞬間にコイツはヤバいと感じれば逃げもする。相手の力量を見極められなければ淘汰されるのは自然な事だ。それに我々は逃げられない状況であれば、やるしかないんだから』
セシリアはグリフォンの古傷の跡を優しく撫でる。
「誇り高い魔獣様、我が国の為に御身をお削り頂き感謝申し上げます」
魔獣たちは柔らかな雰囲気から一瞬緊張し、遠吠えを始めた。
「グルルルルルルルルルルルルル!」
「アオーーーーーーーーーーーン!」
「キュィィィィィィィィィィィィ!」
前足を踏み鳴らし、遠吠えをする。
それが彼らのプライドの表し方なのだろう。
ランクル局長はその様子に緊張していたが、グリフォンの横に腰を下ろしているセシリアは聖母ような柔らかい笑顔を見せていた。
リアンもブルームもここにいる魔獣たち皆に受け入れられて、楽しい時間を過ごしていた。
3人は心話で会話を重ねた。
アシュレイ王子殿下はリアンが気になって仕方なかった。
それに剣を振るっているリアンの姿がどうにも気にかかる。
『リアンが何でも出来ると思わないで』
何だ!? この言葉は???
3コマ目 3時間目にはセシリア、ブルーム、リアンは魔獣を乗りこなしていた。
ガリミムスに乗るドラゴンて考えるとシュールね。クスクス
ランクル局長は止めるのも馬鹿らしいとしたいようにさせていた。
何故なら見張っていなくとも魔獣たちがセシリアたちを害する事はないと確信しているから。何ならもう8年一緒にいる自分より信頼されているとヒシヒシと感じる。魔獣たちの雰囲気も良いのが分かる。
グレるぞ。
放置していたら アイツら魔獣と魔法を使いながら闘いごっこ?しながら遊んでいる。
魔獣があんなにイキイキしているのを未だかつて見たことがあっただろうか?いやない!
へーんだ、もう好きにしてても良いもんねー。
「ランクル局長も一緒に如何ですか?」
「えっ!? 本当? やるやる!」
ランクル局長も走って加わった。一人ぼっちで仲間に入れず寂しかったんだね。
セシリアたちは風のバズーカを放ったり、ファイヤボール放ったりしながら攻撃しつつも逃げ回わり、攻撃を相殺して遊んでいる。すんごく楽しそうに見えたのに中に入ると、思っていたより死にそうだった。だって攻撃してくんだもん!
「ヒィィィィィィィ!」
「ウギャーーーーーーー!!」
「イデデデデデデ!」
全然『楽しい』じゃない、これは『助けてー!!』案件だった。
でも3人とも「キャーーーーーーーー! あははははは!! 楽しい!!」と最高の笑顔を見せて遊んでいる。
子供らしい笑顔で貴族である事を忘れそうだ。
いよいよ授業が終わりという段になり真面目な顔で
「ここで魔獣と魔法で遊んだ事は内密に願います」
だと…。言えるかーーーー! こんな事!!
呆れた目で見ている。
はぁぁぁぁ、まあ、彼らは子供だ、紳士淑女の仮面を外せる場所も必要だったのだろう。
「ええ、勿論分かっておりますとも。私自身上手く説明出来る自信もなければ、正直に話して信じて貰えるとも思えませんし…、授業中に何しているんだって話ですし、私も一緒になって…はっ!? ま、まさかそのつもりで私を誘ったのですか!?」
「うふふ ランクル局長どうなさったのですか?」
「いいえ…何でもございません。 ふー、まあ、今後とも宜しくお願いしますね」
「あー、はい こちらこそ」
はー、相手は子供だっていうのに完全に掌の上か…。まあ、いいだろう、私はこの出会いを不快に思っていない、寧ろ心の底から喜んでいる。
魔獣管理局とは変人扱いで、軍人としては底辺に見られている場所だ。
魔法騎士や獣魔騎士みたいな派手な部署を目指す。でも私は魔獣そのものに魅せられてしまった。侯爵家の三男として生まれ恵まれた人生だった。それがあの時、魔獣討伐後の隊列に見た魔獣たちの傷つきながらも人間の味方となり共に戦い、同胞である魔獣を殲滅する事に力を貸してくれた彼らの気高い姿に感動した。
そこから外交部にいたレンブラント・ランクルは外交部を辞め、勉強をし直し魔獣管理局に入り直した。家族にも勿論反対され勘当された。14歳からいた婚約者は魔獣管理局に入った途端婚約破棄された。実家からの援助も打ち切られた、両親や兄は金がなくなれば頭を下げて戻ってくると思っていた。だがレンブラントは諦めなかった。帰るべき家がなくなったので、王宮の魔獣管理局の宿直室で寝泊まりした。給料も貰えたし食うだけなら何も困らなかった。夜会にも行かなければ服代もかからない、婚約者もいなくなれば金が掛からなくなった。周りにいた友人たちは離れていき、気づけば魔獣と同僚としか会話もしなくなっていた。周りからは『魔獣の世話は馬番と同じ下男の仕事だ』と見下されたが気にならなかった。
だけど無性に孤独に苛まれたこともある。同僚だって仕事と割り切っている者が殆どだ。それでも魔獣の元気な姿を見ればやる気も出た。誰に非難されてもプライドを持って臨んでいた。
今日、セシリアたちが魔獣に寄り添い信頼し、身を預け楽しそうにしている姿を目の当たりにして、心が満たされた。国のために共に戦ってくれる魔獣に敬意を持って接してきた。彼らが正統に評価…いや、一部の人間にだけでも彼らが受け入れられて、評価されて嬉しかった。
忌み嫌いながら困った時だけ頼る者たちが腹立たしかった。
だけど今はもうそんな事どうでも良かった。
魔法を使いながら走り回る彼らがとても楽しそうだったから。
今後 セシリアたちとも交流を重ねていきたい、魔獣の本当の気持ちを理解し教えてくれる存在だから。
受講が終了すると皆必死で勉強し始めた。
皆切り替えて殆どの者はテストの事でいっぱい、互いに情報交換し予想を立てている。
パーティーの余韻に浸る間もなく、サッサと着替えて勉強に入る。
テスト範囲は学生の範囲にとどまらない。よってこの宮殿にある図書館に篭って資料を読み漁る。建国史などは重点的に読み込まれ奪い合いが起きる。また複数回このサンフォニウムに来ている者たちを捕まえ、傾向と対策を伝授して貰う。万年学年上位に来る者たちは気軽に以前の内容について教えてくれる。
グラシオスなどによれば、同じ問題が出た事はないらしい。だから潔くその問題を捨てて他のものを勉強する者、念の為同じ問題も勉強しておく者、事前に情報を得て予想問題を作ってきている者、様々だ。
そしてテストは行われた。
皆が全力投球! これで未来が拓けるかもしれないのだ、気合を入れて臨んだ。
やれる事は全部やった! やりきった!! そんな気持ちだった。
テストが終わってやっと夏季休暇の様相となった。晩餐会まで自由に宮殿内を散策し遊びサンフォニウムを満喫した。アシュレイ王子殿下の周りは人で溢れている。当の本人は喉に引っかかった小骨が気にかかって仕方なかった。昨日のダンスでもセシリア以外の他の女性とは1度は踊った、何なら本来ではあり得ないがここでは特別に同じ女性と踊ることもあった。だけどセシリアはずっとブルームとリアンとだけ踊っていた。エレンですら1度は踊ったというのに、2人と交互に踊って隙がない。リアンと言う者は従者だと言うのにセシリア嬢と踊っていた、リアンがステップを間違えても笑って楽しそうにしている…それがチクリと引っかかる。
グラシオスはそれを忌々しそうに見ていた。だが、誘う隙が一切ないのだ。他の者も誘いたいが、ブルームの後では誘う気が起きないようだった。
ただその数日間を共に過ごした者の中には連帯感も生まれている。
そうして迎えた翌日の結果発表、トップ5に愕然、騒然。
1位 ブルーム・ブライト
セシリア・ブライト
リアン・ドラゴニア
4位 エレン・ブルーベル
5位 グラシオス・バーナー
驚愕の結果だったが、当の本人たちはケロリとした顔だった。
5人はメダルを持って帰っていった。




