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27、サンフォニウム宮殿−3

帰りのボートはブルームとリアンが漕いで帰ってきた。

それを見た数人はボートに乗る者も出てきた。上位5人に入るのは共通テストだと難しいと思う者もいる、純粋にこの休暇を楽しむことに決めた者もいる。


高位貴族の令息令嬢は何処かしらで顔を合わせる機会も多いので、派閥の蟠りがある者もいるが、顔を見ればいつもの顔ぶれ、お互いに探りを入れながら共に宮殿内を散策して気分転換をしたりしていた。


「グラシオス、随分浮かれているではないか?」

「ああ、そうですね ふふ」

「お前がそんなに浮かれるのは…テストで私を負かした時以来か? 今回も勝つ気満々と言ったところか?」

「違いますよ。理想の女性がここに来ているのです。ですから、楽しいひと時を一緒に過ごせればと思っています」

「はっ!? グ、グラシオスの口から女性の話が出るなど考えられない!! 聞いたかローレン!!」

「聞きました! グラシオスのお眼鏡にかなったのは一体何処のどなたなのですか?」

「セシリア・ブライト嬢だ!」

ローレンは顔を引き攣らせる。何を隠そう、前回のテストではローレンが1位だったのに、セシリアとリアンが来たことにより3位に下がってしまったからだ。ローレンにとっては屈辱でしかない。


「グラシオスは彼女をご存知なのですか?」

「ああ、彼女が特待生として入学する前に王立図書館で出逢ったのだ」

「策略ではないのですか? 貴方は有名人なのですよ? いずれ宰相になるだろうと目され貴方を射止めようと手ぐすねを引いている」

「彼女が私を望んでくれる!? 光栄です、何だったら今すぐに婚約しても構わない!」


「これは 相当重症だな…。本当に大丈夫か?」

「ふふ 冗談です、残念ながら彼女には私から声を掛けたのです。私が好きな著者の本を熱心に読んでいたので思わず声をかけてしまった」

「やっぱり出来すぎでは? 事前に調べていたのでは?」

「ははは 私もそれを真っ先に疑ったよ、だけど話す内容は付け焼き刃でどうにかなるものではない、彼女の持つ豊富な知識に引き込まれ興味を持ったのだからね。当然この王立学園に入学すると思っていたのにいないと知った時は物凄くショックだった。だけど彼女の周りは彼女を放っては置かなかった。実力でこの学園まで来たのだからね」

得意げにセシリアを語るグラシオスに若干ひいている。


「ふーん、才女だって事は分かったけど、家柄は?」

「彼女は伯爵令嬢、家はブルーベル侯爵領にある、領地は持っていない。実家は商売をしているが善良な者たちだ。教育は小さい頃からブルーベル侯爵家で共に受けていたらしく、とても優秀だとの事だ」


「おいおい、かなり本気だな そこまで調べてあるなんて」

「まあね、因みに彼女の兄はブルーム 品行方正、眉目秀麗、完全無欠と名高い人物だ。どれをとっても問題がないどころか、優れている。派閥的にも偏った人物たちとの付き合いもない。ブルーベル侯爵領の領民とも良好な関係で動物の世話をしていたと聞く」

「ブルーベル侯爵家か…、確かに王家の血を汲む高潔な血筋、だがブライト伯爵家とは何の関係もないだろう?何故ブルーベル侯爵家はブライト伯爵家の子供たちに目をかけた? ブルーベル侯爵家に取り入ったのではないのか?」


「まあ、それもあるだろうが、報告書ではかなり興味深かったよ。元々ブルーベル侯爵領に屋敷があるブライト伯爵家は付き合いがあった…だが今にように懇意になったのはセシリア嬢の影響のようなのだ。聞き出すのに苦労したとあったが…、全領民がブルームとセシリアの事を大切に思っているらしくようやく聞き出せたんだ」

「勿体ぶらずにさっさと言えよ」


「教えてもセシリア嬢に興味を持たないでくれよ。

はー、かなり小さい頃に周辺では馬の調子が悪くなる事態に陥ったらしいのだ。馬は荒ぶり次第に衰弱し死んでいく奇病が流行った」

「そんな事聞いたこともないな…」

「ああ、実際病気ではなかった。餌が粗悪品だったらしい。バンドーフ商会が残飯やゴミを細かくしたものを混ぜて格安の飼料として売っていたんだ」

「酷い話だな! ゴミだなんて…」

「そうだ、そしてそれにいち早く気付いたのがセシリア嬢だったらしい。ブライト伯爵家はすぐに飼料の取引先を変更し事なきを得た。そしてブルーベル侯爵家もその被害に遭っていた、ブルーベル侯爵家は屈強な馬を王家に献上したりもしていたので、困り果てていたところにブライト伯爵は飼料の話をして調べたら確かにゴミなどが含まれていて、取引先を変更したことによりこちらも事なきを得た。その礼にと、礼儀作法や勉学を自身の子供たちと共に学ばせたらしい」


「セシリア嬢は当時何歳だ? 偶然ではなかったのか?」

「んー、詳しくは分からないが、毎日馬のところへ行っていて、馬の餌を食べる量がおかしいと気づいたのが最初らしい。ブルーベル侯爵領の領民はブライト伯爵は貴族を鼻にかけたりしないので困った事があるとまずブライト伯爵に相談をするらしい。そして用件によってブルーベル侯爵に伝えるべき事、自分でも何とか出来る事と選別して領民の力になっていたらしい。商売をやっている割に、領民との関係は損得勘定がない。それを子供たちも引き継いでいるらしい」


「へぇ〜、確かに興味深いね。そんな環境で各々が実力を発揮している訳だ」

「そう、ブルーベル侯爵も子供たち2人には特別に目をかけているし、ブルーベル侯爵家の子供たちもとても2人を可愛がっていて、結婚した後も未だに付き合いがあるらしい」

「なるほど、グラシオス話を聞けば聞くほど興味をそそられるな」

「ええ、私はプライドが邪魔して、面白く思っていなかったのですが、見方が変わりました。直接 話をしてみたいな」

「ああ、今回はいい機会だ。どんな人物か知りたいな」

「殿下、姉ディアナを裏切るような事はしないでくださいね」

「馬鹿言うな! 私が興味を持っていると言うのに何故殿下に釘を刺す!? 

いや、殿下、ローレン、恋愛感情を決して持つなよ!!」

「分かった、分かった」

男たちは、密談を終了させた。



セシリアたちはサンフォニウム宮殿を囲む木々が茂っている高い木々のところへ来ていた。日差しが眩しく木陰に入ると幾分過ごしやすい。


「随分宮殿から離れたわね。木々ばかりであとは壁で何もないわね」

「そうですね…。この敷地の外周を回るのは日が暮れてしまうわ」

「なら戻る?」

「んー! ひと遊びしてからにしましょう!」


セシリアはまたも隠匿魔法で木々を繋ぐアスレティックを作った。中身アラフォーなのに、残念な中身であった。望愛自身も子供らしい子供時代はなかったので、友人と遊ぶことにはしゃいでいた。自分たちも姿を消して木々の間をブランコで疾走したり巨大な滑り台で滑り降りたり平均台みたいな細い板の上を地上10m位のところで歩いたり、悪ふざけ全開で楽しんだ。基本はエレン様はそこまで筋力がないと思い、楽しく遊べるレベルで作った。しっかりしているブルームとて17歳の男子! 案外見たことない遊具?に夢中になって遊んでいた。

そして悪ふざけの最たるものはリアンがドラゴンの姿になって3人を背に乗せて周辺を飛んだ事だ。最高のスリル!! どうせ誰からも見られない、と上空からサンフォニウム宮殿の敷地を飛んで見て回った。

リアンは以前『背中に乗せるのはセシリアだけ!』と言っていたが、セシリアが信頼する2人をリアンも受け入れた。エレンは最初呆気に取られていたが、『流石セシリア、凡人には及びもしない事をやって退ける』と反発はなく、寧ろ滅多にない経験を楽しんだ。


「あっ 見て! アレが、夕日が差し込むと池に反射して茜色に染まる『茜の涙』ね!」

「夕日かー、まだありますね」

「残念 あそこは立ち入り禁止なんですって。以前ルシアンと行こうとしたら王族以外立ち入り禁止って言ってたわ」

「まあ、なら行くならこっそり行くしかありませんね」

みんな悪い顔をしている。自重する気がないらしい。


「あら、あそこは鍛錬場みたい。王妃陛下のロマンティック宮殿なのに…そぐわないものですね」

「うーん、警護の者たち用の訓練場かもな」

「その割にこじんまりとしているわね」

「あっ、今度は迷路になっているわ!」

「本当だ、真ん中がガゼボになってる。死角が多くて危なくないのかな?」

「確かに…もしかしたら魔法で仕掛けがしてあるのかも…、王妃陛下と王陛下以外には発動する、そんな感じのもの!」

「あー、あるかもね。でも四方から刺客に襲われたら生垣が高いから気づかれないよね?」

「確かに…転移装置でもないと袋のネズミね」


それからも上空からの探索を楽しんだ。



グラシオスはセシリアと偶然の出逢いを期待したが全く会う事は出来なかった。

因みにベルナルド・キャスターはトップ10に入れなかったので今回は来ていない、残念!


アシュレイもローレンもグラシオスのプレゼンでセシリアに興味を抱いていた。グラシオスのついでに挨拶がしたいと思っているが未だにアシュレイに挨拶にも来ない。いや、これは公式な場と言うより休暇の一環なので王子殿下だからと挨拶に来る必要はないのだが、皆高位貴族の令息令嬢、故にコネクションを作りたいと、何処に行っても話しかけられる。それなのに目的の人物は一向に来ないので少し拗ねていた。

『私に興味がないと言うことか!?例えばブルームにしても王子である私の覚え目出たければ私の側近に入ることも望めるかもしれない、こんな近くに寄れるチャンスなど滅多にないというのに何故挨拶に来ないのだ!?』


うん、全く興味なかった。ハッキリ言ってわ眼中になかった。

結局その日、グラシオスたちはセシリアたちに会う事は出来なかった。


2日目の朝食の時、食堂で食事をしていると、向こうからやって来る者たちがいた。その中にブルームの姿があった、恐らく彼らの中にグラシオスが会いたがっていた人物がいるのだろう。女性は2人、1人はエレン嬢…つまりもう1人の方が『セシリア』嬢だろう。

思った通りグラシオスが激しく興奮し始めた、だが彼らがこちらに気づく事はなかった。

とても楽しそうで、セシリアはブルームの腕に自身の腕を絡ませ甘えているようだった。ブルームも普段は綺麗な笑顔を浮かべ隙がない受け答えしかしないが、妹と話す彼は蕩けるような視線で甘やかしているのがありありだった。頬を膨らませたセシリアに周りにいる者たちも微笑ましそうに見ている。

こちらには興味なし! と言うか世界に自分たちしかいないのだろう。周りを気にする素振りがない。



本日は職業訓練という名の自己アピールタイム。

内容は王宮女官、国務部、外交部、総務部、国防部、財務部から人を呼んで話を聞き、実践を指導してくれる。ただ、どの話を聞くかなどは本人の自由だ。

因みに女性も若干だが文官として働いている者がいる、特別に優秀か、特別なコネクションがあるかだ。ただ女性は結婚して家を守るものという風潮が強いので、王宮で女官ではなく文官で働くと言うのは風当たりが強い、強力な後ろ盾がなければ猛烈な嫉妬と嫌がらせで続ける者は少ないと言う。ただ、このサンフォニウム宮殿に来た者たちであれば、多少融通もしてくれるとかないとか…。


午前9時から午後3時まで休憩を挟みながら各講義が3回ほど行われる。つまり各人 3種類の講義は受けられる逆に言えば3種類しか受けられない為自分が何を目指しているか示さなければならない。入ってみたらイメージと違ったなどと言うこともあるので、午前8時から9時までで、各部署のオリエンテーションが行われる、それを踏まえて3つの講義を決めるのだ。これに関しては男女に縛りはない。更に講義を受けなくてもいい。

例えば、高位貴族の令嬢で卒業後結婚が決まっているなどの場合、社交の一環として王宮女官からホスト側の仕事について説明を念の為聞いたりもするが、元から王族と親しい間柄の場合、聞くまでもない、故に2日目の職業訓練?斡旋?顔繋ぎ?自己アピールの場には参加せず、フリータイムを楽しむか勉強に打ち込む。それと、平民の場合も…勿論貪欲に受ける者もいるが、トップ5に入れない程度の優秀さではいずれ潰される、飼い殺しのままと分かっているので参加しない選択をする者もいる。



グラシオスはセシリアに近づきたいがいつもセシリアは兄たちと一緒にいる為、近づくことができない。せめてこの講義で一緒になれればもっと踏み込んだ関係になれるのではと、セシリアの受講する講義を知りたい!だがやはり近づけない。

グラシオスはそこで予想を立てることにした。

セシリアは才女だ、ただ爵位は伯爵…となると『王宮女官』、それから好きな本から推察するに『外交部』、家の商売の事を考えての『財務部』と予想した。

後は時間帯だ、どの順番かが問題だ…。そっと近づき話を聞きたいが側にブルームがいてガードされている気がする!あと一歩なのに!!


そして様々な思惑が渦巻く中、講義は始まった。


1番人気はアシュレイ王子殿下が選択した『国務部』『国防部』『外交部』、女性は流石に国防部にはついていけず、その枠で自分の興味のある事を選択した。


『王宮女官』と『国防部』は内容が細分化されている。

『王宮女官』は女官としての役割の他に、王宮マナー、お茶会などの手筈、王族や諸外国との付き合い方、各国のマナーなど、王族付きの女官の仕事などがある。

女性はこの別荘地に来る者が少ないものの、今年はオリエンテーションの後、アシュレイ王子殿下と一緒の講義を『国務部』のみとし、『王宮女官』を2コマ取る者が増えた。

まあ、言ってもワンチャン狙いでアシュレイ王子殿下に侍っても、ディアナ・シルヴェスタから奪い取る事はできないと分かっているからだ。

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