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26、サンフォニウム宮殿−2

学園では学年30位以内の者たちが殺気立って勉強をしている。

授業もいつもと真剣みが違う、教師陣にもバンバン質問をしている。食堂もいつもなら優雅に食事を楽しみ、会話を楽しむのだが、上位者は食事が済むとそそくさと戻っていく。


「こちら良いかしら?」

「エレン様! 勿論でございます、お掛けくださいませ」

「エレン様、この時間にお珍しいですね」

「ええ、皆 食事を後回しにして学習室に行ってしまったの」

「ああ、なるほど」


「エレン様、お兄様 わたくし初めてでよく分からないのですけれど、エレン様やお兄様は毎年どうなされているのですか? 毎年別荘に行かれているのですか?」

「わたくしは毎年伺っているわ。あちらでは各分野でご活躍の方たちのお話も伺えるし最終日の前日に全学年共通のテストがあるの。そのトップ5に入るとメダルが貰えるのよ、刻印付きでそれを見せると王立図書館など王立の施設の割引や特別待遇が得られたり、王宮に就職する際も有利になると聞くわ。だから向こうに行っても皆遊んでいるだけではないのよ」

「まあ、そうなのですね」


「因みに私は毎年辞退しているよ。私は魔獣討伐とか訓練とかに行っていたかな」

「まあ、お忙しいのですね…」

「あちらでは湖にボートがあって漕いで競ったり、狩りをしたり、乗馬をしたり、剣術大会をしたり…内輪では自由にやっているらしいわ。それにゲームをしたり、みんなで外で食事を作ったりと上位を狙わない人たちは友人との休暇を楽しむって言っていたわ。わたくしは去年まではルシアン様やお姉様がいたので身内でいることが多くて参加しなかったけど」


「まあ、とても楽しそうですね。エレン様やお兄様とただの子供に戻ってたくさん遊びたいですわ!」

「あら、セシリアが参加するなら今回は面白そうね!」

「セシが何か仕出かさないか、リアンだけに任せるのでは申し訳ないな、なら今年は一緒に休暇を楽しもうか?」

「有難うお兄様、エレン様…でも、そんなにわたくしおかしな事してまして? 恥ずかしいわ」


「おかしな事ではないわ、ただ想像も出来ない事よ ふふ。そうだ、この間の『セシ的貴族名鑑』とても楽しませて貰ったわ。特にあのー(かなり小声で)本人そっくりの絵! 素晴らしかったわ」

「ああ、アレね…アレは確かに画期的だった」

最早この2人に自重もなくこの世界の非常識を見せまくるセシリア、セシリアの非常識に耐性もあり面白がるエレンとブルーム。


「セシがあのそっくりな絵で暴いちゃったね」

「そっくりな絵だと長いので『写真』と命名します!」

「OK、個人の絵を写真付きで載せたことにより、成りすましが分かるようになっちゃったね」

「そうそう、それに勝手に家を再興したところも丸わかり。うふふ お陰でお近づきにならないで済むわ、それに内容も素晴らしかったわ、貴女の調査能力には舌を巻くほどね。どうやって調べたのかは聞かないでおくわ。有難うセシリア」

「お役に立てて何よりです。アレはただの興味で作ったので興味次第で中身の濃さに差が出てますが、なかなか面白い仕上がりですよね、うふふ お兄様のお役に立ちたくて」

「セシ…私こそお前の役に立ちたいのに…自分の凡人さが憎らしいよ」

「お兄様、世の方がその発言を聞いたら恨まれて刺されますわよ? ふふ でも、お兄様は役に立たないどころかわたくしの生きる力ですわ、存在自体がわたくしの癒しで喜びです。大好きです、お兄様」

「本当に仲良しね、わたくしも2人を愛しているわ」

「わたくしもです」

「ええ、私もです」


ここだけが和かに食事を摂っていた。それも話題の人が。

世の(校内)女性は、そこに将来を嘱望されたブルームとのひと時を求め欲望をギラつかせて、ジトりと見ている。セシリアが側にいると普段は見ることが出来ない屈託ない笑顔で笑ってくれる、まさにご褒美!! 別荘はそのご褒美の近くに行けるチャンス! テストで頑張れば同じテーブルで食事ができ、同じ建物で眠ることができ、うっかりちゃっかりアクシデントという名のラッキースケベならぬ下心ムンムン作戦を決行出来るかもしれない!! いや、してみせる、意識させてみせるなんだったら既成事実もOK! その為には今は目の前のテストに全力投球!!


「そうだ、ルシアン様も遊びに来てって言ってたわよ?」

「まあ、嬉しい! 是非お邪魔させて頂きますね」



後日 運命のテストは行われ、歓喜に震える者、悲しみに沈む者、そこには様々なドラマがあった。

このテストは夏季休暇の前の行われて、休暇中に別荘地へ行く。別荘地に行けない者はそのまま夏季休暇となる。基本実家に帰ったり領地に帰ったりするのだが、金銭的に余裕がない者や、領地を持たない家の者たちはそのまま寮に残る者もいる。友人の家を泊まり歩く者など、様々な夏季休暇を迎える。


トップ10に入った者たちは現地集合、現地解散の為、乗合馬車で来る者もいる。

今回の別荘地に侍女や侍従の帯同を許されていない。と言うのも基本王家の使用人がおり事足りるからでもあるが、侍女や侍従を使ってアリバイを作って深夜抜け出したりなどして怪我したり、迷子になった事があった為、一時はこの別荘地へのアピール合宿のようなご褒美は中止しようかとの話も出たのだが、その結果 成績が著しく下がった、モチベーションが上がらないなどの理由で、別荘地へは行くが侍女や侍従の帯同をなしとした。


因みに別荘地にある『サンフォニウム宮殿』は王都から馬車で5時間くらいの場所にある。夏以外も温暖な気候で、元は体調が優れない王妃陛下のために建てられたと言う。当時の王陛下が王妃陛下の為に作った庭園や王妃陛下がお好きだったロロペラルムの生垣で造られた迷路のような小径も、白亜の宮殿も、湖もボートも、カラフルな教会のような建物も、あちこちにあるガゼボは天使が描かれて可愛らしいものも、美しいものも、何もかもロマンチックに愛する王妃陛下の為に造られたと言われている。そう聞くと全てが王陛下が王妃陛下に愛の囁き、日頃の喧騒を忘れるためのラブアイテム見えるから不思議。そして学園生も閉鎖的な空間で非日常を体験する。絶好のシチュエーション、一夏のラブが始まる予感。

まあ、実際は高位貴族は婚約者がいるので一夏の恋などない。あるのは秘められた禁断の恋だけだ。だから各ポイントには衛兵が立ち、雰囲気に飲まれないように目を光らせている。



今回は5階の最上階が男子生徒、4階が教師など、3階が女子生徒となっている。2階は娯楽室や図書室などがある。元々、男子生徒は5階 女子生徒は3階と決まっている訳ではない、男子と女子の割合はテストをしてみないと分からないし、今回は王子殿下がいるので忖度があった結果だ。勿論 全員が個室だ。そして王家の使用人が1人につき1人ついている。各フロアにも談話室みたいな物も用意されているし、1階や2階にはサロンや食堂、音楽室に図書室に娯楽室もある。アルコールが飲めるカウンターもあるが、今は学園生が利用するので閉鎖されている。宮殿のあるエリアの外壁の外に出る事は許されていない、門限(各フロアに階段の所に衛兵がいる)も特にない各階に警備の者がいるので一晩中図書室にいようとサロンで話ししていようと問題はない。基本は慰労のための旅行だからだ。


1日目は完全自由行動、食事も全員で食べるのではなく決められた時間に各自で摂る。外で食べるのも自由、例えば湖の近くで食べたければ、侍女に頼めば用意してくれる。至れり尽くせりだが、ここにいる者は殆どが高位貴族、その対応が特別だとは思っていない。

2日目は午前9時〜3時位まで、騎士や文官など王宮から派遣された者が仕事内容などの説明の後、具体的な仕事を実際に見せてくれたり過去の事例を教えてくれたり、剣術などの相手をしてくれたりする。夜はダンスパーティーがある。

3日目は午前中に一斉テストがあり、夜は晩餐会に全員で参加する。

4日目の昼食前に昨日のテストの結果発表があり、表彰式を行う。昼食の後解散になり、各自帰宅の途に着く。

これが大体のスケジュールだ。


到着し各自部屋に着くと荷物を整理する。時間の指定はない、ただ夕食の時間が終わった時点でまだ来ていない者はチェックされ、確認の早馬が出される。今年は午前中までに全員が到着したと連絡があった。


セシリアはブルームとリアンと共に来た(因みに馬車は帰り、最終日にまた迎えに来る)ので、荷物の整理(侍女が片づけるので着替える程度)の後、サロンで待ち合わせをしている。

因みに何故リアンが一緒に来ているかと言えば、トップ10に入っているからだ。では何故ドラゴンであるリアンが人間の勉強ができるかと言えば…セシリアと繋がっているから。セシリアが心の中で問題を読み上げ答えを思い浮かべるとそれがリアンに伝わる。離れていても繋がっている2人は素知らぬ顔をして心話でいつも話をしている。



男女ともにアシュレイ王子殿下にお近づきになるためサロンには階段から降りてくる人間を目の端で捉えながら会話をしている。1階から2階へ続く大階段を見つめる。目的の人物はアシュレイ王子殿下だが、簡素なドレスに身を包んだエレンとセシリアに目を奪われる。大して着飾ってもいないのに佇まいの美しさと存在に囚われるのだ。

親しげに柔らかな笑顔で談笑しながら降りてくる。階段の下には2人の騎士 ブルームとリアンが待っている。少し登りブルームはエレンの手を取り、リアンはセシリアの手を取る。4人は姿形が美しいだけではなく所作も美しい、一枚の絵画のようで見た者は無意識にため息が漏れてしまう。


身の内の品位が醸し出されているようで、簡素な服でも輝いて見えた。

そこにいる全員の視線を他所に4人はそのまま建物を出て行ってしまった。視線は4人が出て行った方向を見つめ余韻に浸っていた、いつの間にか降りてきていたアシュレイ王子殿下にも気づかぬまま。アシュレイ王子殿下に気づくと思い出したかのように近づいて行った。

因みにディアナはトップ10には入っていないので今回は来ていない恐らくあまり賢すぎるのも鼻につくとセーブした結果なのだろう。そしてプリメラはこのビッグイベントとも言う今回の別荘地の事は知らずにいた。それはゲーム上でもプリメラは50位付近だったのでサラッと夏季休暇に入ってからアシュレイ王子殿下と街で偶然の出会いを果たし、思いがけぬ街ブラデートを楽しむ、と言うイベントになっていたからだ。あっ、ゲーム上ではその前にディアナとこの別荘地に来てたな。まあ、プリメラは念願のフェリスと親密になりつつあるので、勉強の事はすっぽ抜けていたのだった。お陰で皆が幸せだった。



ある者は文官になる為、部屋で勉学に勤しみ、またある者は剣術の稽古をする、自分の価値を最大限高める努力をしていた。



セシリア、エレン、ブルーム、リアンの4人は湖の畔に来ていた。リアンはバスケットを持っている。勿論 セシリアのバスケットだが、従者としてリアンが持ち片手はセシリアをエスコートする。


「ふふ、リュックが今日はバスケットなのね」

「ええ、流石に使い込んであるので場にそぐわないと思いまして、本日はこの形を取っております」

「こうして歩くと広大な敷地面積ね」

「ええ本当に。まるで一つの領のようです」

「何かあっても、屋敷までとても届かないわね。今までに行方不明になった子がいるとか…」

「まあ、七不思議みたいなものですか?」

「さあ? 子供たちにあまり危険なことをするなと言う警告じゃないかしら?」


「こんなに死角があって年頃の子供たちに大人しくしていろと言うのも些か無理がありますね」

「あっ!でも 昔 王子殿下の部屋に夜這いをかけたと言うのは本当らしいわ」

「まあ、エレン様がそんなにはしゃがれるのを初めて見ました」

「ふふ このメンバーになると仮面が外れてしまうのよ、目を瞑って頂戴」

「畏まりました」

「「「「ふふふふふ」」」」


「ねえ、折角だから湖のボートに乗りましょう!」

「ええ、いいですよ!」


ボートに乗り岸から離れると、こっそり漕ぎ手交代。エレンとセシリアはオールを握りしめボートを漕ぎ始めた。

「セシリア! 負けないんだから!」

「何を仰います! 勝つのは私です!!」

「ムキになって漕ぐと後で筋肉痛で動けなくなるよ?」

「2人とも頑張って!」


エレンがリアンと最初にあった時今、今のリアンの姿と殆ど変わらなかった。リアンは人外のモノかもしれないとは考えた事がある、だけどセシリアが大切にしている存在なので何も言わずに受け入れている。


湖の真ん中くらいに来ると停まった。

「あー、疲れたわね。暑くてセシリアの作ったキンキンに冷えたエナジードリンクが飲みたいわ!」

「あー、いいですね!」

「なら飲みに行きますか!」

「えー! 折角ここまで漕いできたのにすぐ戻るの!?」

「いえいえ、そう言うとボートを湖の上で固定させた。そしてその周りを透明なスクリーンで覆われたボートは円柱の中に浮いている。次の扉が現れた、セシリアはボートから立ち上がると5段の階段を登り扉を開けた。

「さあ、皆さまをご招待申し上げます」


誰も疑問に思わず言われた通り立ち上がりその扉を潜った。

そこにあるのは先ほどから見ている風景、つまり湖だ。階段を降りるとセシリアは湖の水の上に足を踏み出した。

「あっ」

止める間もなくセシリアは湖の上を歩いている。えっ!?歩いている!?

「ジャーーーン! 湖の表面を固定して固めたの! だから水の上を歩けまーす!」

そう言うとセシリアは水の上でクルクル回ってみせる。

3人も少しおっかなびっくり1歩を踏み出した。

人つまり4人乗ってもビクともしない水の床。よく見ればその下では魚が優雅に泳いでいる姿が見えている。


「どうして扉を潜ったの?」

「今 私たちの姿は私たちにしか見えていないんです。さっきの円柱に私たちの姿を映し出してあるので他の人から見ると4人でボートに乗っているように見えています。あの幕に写真を貼り付けているようなモノです。そして私たちの姿は隠匿魔法で他からは見えない。となれば……。

さて! いっちょやっちゃいますか!」

湖のど真ん中、水の床の上にテーブルとソファーが出現した。

誰も突っ込まずソファーに腰を下ろす。バスケット中からキンキンに冷えたグラスとエナジードリンクが出てきた。そして、次に出てきたのはトマトの冷製パスタ。


「あーん! セシリアの冷製パスタ大好き!!」

「んーーーー! 冷えてて美味い!!」

皆でモリモリ食べた。

「デザートは桃のコンポートとシャーベットです!」

「ブラーヴォー! 完璧よセシリア!」


エレンも調子良く合いの手を入れる。湖上のランチを楽しむ4人は話も弾む。

皆で湖の上でのひと時を楽しんで次の場所へ移動した。

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― 新着の感想 ―
[一言] セリアの合いの手が絶妙で彼女の賑やかしの可能性の高さに感激しています…!ブルーベル家の子どもたちは思考が柔軟ですね。
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