24、魔獣管理局
「いえ、大丈夫です。みんないい子たちですよ。カッコいい姿を見せて貰っていたのです」
「ええ!? ご令嬢が魔獣をいい子!? カッコいい姿!? 珍しい方だ…。
ご迷惑をお掛けしていたのではないならいいのです。 ほら、お前たち戻ろう」
ところがピクリとも動かない。視線は令嬢に釘付け。
「おい、行くぞ! こら、お前たちなんで動かない!! くー! ぐぐぐー!!」
男はガリミムスを動かそうとするもビクともしない。
『待ってよ、もう少し話がしたんだ!』
『そーだよ! こんな風に話せるのは初めてなんだ!』
『オイラの主人は綱がいつもキツくて屁がクセー!』
他の者たちには聞こえてないが、ずっと話しかけてくる。
「お待ち下さい。この子たちを撫でたいとお願いしたのです。叱らないであげてください」
「はぁー、信じられないな。本当に恐ろしくないのですか? 女性は悲鳴をあげて逃げていく人が殆どだと言うのに…」
『馬鹿言ってんじゃない! ドラゴン様が横にいてオイラたちを怖がるかってんだ!』
「ふふふ。 そうだ、あの子の綱がいつもキツくて苦しいのですって。少し緩めて差し上げて欲しいのですが」
「へっ!? 魔獣の言葉が分かるのですか? はぁー。 あのー、名前を伺ってもいいでしょうか」
「失礼致しました。いえ、そう言っているように感じただけです。 セシリア・ブライトと申します」
「私は魔獣管理局のレンブラント・ランクルです。あなたのような方に初めてお会いしました。機会があればゆっくり魔獣についてお話しできればと思います」
「ランクル局長! ご令嬢に『今度魔獣の話をしましょう!』ですか! だからご令嬢に逃げられるのですよ! もっと気の利いた事をお話しください!」
「お、そうか。だがジャンは煩い。 ブライト嬢 それでは失礼します。 ほら、行くぞ!」
ガリミムスたちを連れて戻っていった。
「変人ポイね、あのランクルって人」
「そうね、気が合いそうだわ、ふふ」
「そうだ! リーアーンー! ねえねえリアンー! 久しぶりにリアンに乗せてぇ〜!」
「勿論いいよ。どこへでもお供しますとも」
「ふふ、やったー!! いこいこ!」
学園を後にし、自宅に帰ると隠匿魔法でリアンと2人で姿を消して大空を飛んだ。
昔は山の中を小さくなって飛んでいたが今は使える魔法が増えたので、それらを駆使して今は姿を消してあちこちに行けるようになった。見えない人からするとリアンと乗っていると、突風ににあったように感じる。
『ねえ、リアン…ごめんね』
『何が?』
『だって、リアンはドラゴンだもん、本当ならこうして自由に空を飛んでいた筈なのにちっぽけの人間のルールに囚われて自由に飛ばせてあげられなくて、ごめんね』
『ううん、自由に飛べなくてもセシリアがいるからいい。もっとワクワクする事を共有してるから、気にしないで』
『ほんと? リアンが嫌だなって思ったらいつでも言ってね、リアンが嫌じゃない方法を一緒に考えようね!』
『うん、有難う』
後日、アシュレイ王子殿下たちは王都に戻りいつも通りの平穏な生活に戻る筈だった。
度々プリメラが第4学年校舎にやって来てはアシュレイ王子殿下に会わせろと言うのだ。その際に『私は殿下の命の恩人よ!』とのたまう。
その取り扱いに困惑した。
「ハドソン嬢、あなたは正式に殿下の命の恩人ではないと確定された。それを自分こそが命の恩人だなどと言えば、虚偽の証言にとして王家を謀った罪で処罰されますよ?」
「どうして? 何故嘘だと決めつけるの!? 事実を歪めているのはそちらだわ!!」
毎回、毎回こんなやり取りにみんな辟易としている。
「ふぅー、ハドソン嬢 私は少しずつ記憶を取り戻しているのだ。私を救ってくれた恩人は君ではない。君は1人で私を看病したんだろう?」
「ええ、そうです! 私が洞窟の中で殿下の看病をしてあげたのに、恩を仇で返して酷いわ!! それなら恩人探しなんてしなければいいのに! 私だって殿下はディアナ様と仲が良いと聞いていたので遠慮してたんです! でも時間がないから10年前のことお話ししたんです! あんなに世話になっておいてあんまりです!」
「だから! 君じゃない!! 顔が違う! その時 君は私に名乗ったか?」
「ええ、勿論! 私はプリメラよ、心配しないでもう大丈夫よって話したわ!」
「その名前が違うと言っているのだ。それに私を看病してくれた場所だ、君は洞窟と言っていたが、洞窟ではない! ちゃんとベッドの上で寝ていた!あの洞窟行ってみて分かっただろう? 暗くて何も見えなかったじゃないか。君は私ではない者を看病したのだろう。
ここまで言って理解しないなら次からは処罰する、いいね!」
「そんなーーーー! 私の恋愛はどうするのよー!!」
その発言の皆呆気に取られた。
そう、言葉にするうちに自然と出て来たが、『2人』『部屋』『ノア』これらも思い出して来た。
「それから、例え君が私の恩人だとしても私の婚約者にはなり得ない。私にはディアナがいるからね。君はグラシオスやローレンにも声をかけているのだろう? 私でなくとも構わないのだから視野を広げれば、君なら恋愛を楽しむことが出来るよ。さあ、出ていってくれ」
「何よそれー! ドケチ! 冷血漢! 悪魔!」
「ハドソン嬢、不敬です。通報させて頂きます! 兵を呼べ!」
「いいわよ! 帰ればいいんでしょう!! いーーーだ!」
呆気に取られてプリメラを見ていた。
「アレは何なのだ? 『いーだ』とはなんだ?」
「恐ろしい! 殿下に対し呪いの言葉を吐くなどあってはならない事です!」
「左様です! あ、悪魔など! 恐ろしい」
キョロキョロと周りを見回す。
「あんな女性は初めて見たな…」
「殿下、今後は近づかないように警戒を強めます!」
「ああ、頼む」
「あのー、少しお話ししたいのですが」
声をかけたのはプリメラ、相手はと言うとディアナ・シルヴェスタ公爵令嬢。
ディアナはチラリと声の主を見た。護衛が間に入ったがそれを止めた。
「ご用件は何でしょうか?」
「ディアナ様と2人で話がしたいんです!」
「……ごめんあそばせ、時間がないの。参りましょう」
「えーーー! 普通は話くらい聞くでしょう? やだやだ悪役令嬢って!!」
ピクリと反応したディアナ。
「ご用件は何かしら?」
「だから! …いえ、ですから2人でお話ししたいんです!」
「立場上出来ません。わたくしには常に護衛や侍女が付きますから。殿下の婚約者として決まり事が多いのです、貴女にはご理解いただけないかも知れませんけど…」
美しい笑顔でいなしているが目は笑っていない。
「じゃあ…仕方ないですね。本当は静かに話したかったんですけど、実は私アシュレイ王子殿下を10年前助けた命の恩人なんです!」
「はっ?」
真顔で聞き返しちゃった。
「それで、それをアシュレイ王子殿下に明かしたから、恐らく私と殿下は恋愛関係になると思うんです。でも安心してください! 私、恋愛はしたいけどアシュレイ王子殿下を貴女から取るつもりは無いんです! だから少しの間貸して欲しいなって思ってて…でも! アシュレイ王子殿下が私に夢中になって婚約破棄したいって言ったらごめんなさい。でもそれは私のせいではないっていうか…、当然の流れっていうか。
私、人のもの取るとか本来は絶対しないタイプなんだけど、私の結婚前に恋愛でラブラブになるって言う夢が叶わないから少し協力して欲しいの!!」
「貴様! シルヴェスタ公爵令嬢に不敬だぞ!!」
「貴女の言っている意味が分からないわ。結婚前に恋愛をしたい…? ラブラブ? 殿下と婚約破棄? しかも殿下を貸す?
貴女の言っていることがまったく理解できないわ」
フラフラとよろめくディアナ、それを支える護衛。
「ディアナ様、これ以上は…戻りましょう」
「ええ、ヨルお願い」
「はい、お嬢様」
ディアナは支えられながら行ってしまった。
「もーーー! 折角教えてあげたのにー! でも仕方ないっか。あっ!? 私に嫌がらせすると断罪で国外追放とか家の取り潰しとかあるからやめてって伝えるの忘れたー!! はー、公爵令嬢とかって本当に自己中なんだなー、それに軟弱。
そうだ! お父様にデート用のドレスを作って貰おうっと!」
ディアナは情報収集をさせているダンを呼ぶと
「ダン、プリメラ・ハドソンの周囲、それからプリメラの実家の調査、あと適当な見目の良い男を見繕って頂戴、プリメラは恋愛を楽しみたい…その相手に殿下をと思っているようだから」
「…まともな女性には見えませんね。承知しました」
プリメラ・ハドソン…一体何者なの?
わたくしを悪役令嬢と表したあの女…、何故分かったのかしら?
当然でしょう…未来の王妃とは何も知らない無垢な少女ではいられないの。その為に血の滲む努力をし水面下で人脈・力・派閥を作りを行ってここまで来たのよ、簡単に潰されたりしない。
幼少期から王妃になるべく育てられたわたくしを差し置いてアシュレイ王子殿下と恋愛関係になるだと!? 馬鹿も休み休み言え。
わたくしを敵に回した事を後悔させてやろう。今更奪われてなるものですか! 黙ってやられはしない。お手並み拝見といきましょうか、プリメラ・ハドソン!
セシリアとリアンは王立学園に入学した。
「セシリア・ブライト様!」
「はい」
「初めまして、私はケイティア・ハービルです。先生からあなた達の案内を頼まれたの、宜しくね!」
「左様でございましたか、ご挨拶申し上げます。セシリア・ブライトでございます。宜しくお願い申し上げます」
「リアン・ドラゴニアと申します。お嬢様共ども宜しくお願い申し上げます」
「ふふふ 凄いですね! 先生にちょこっと聞きました。特待生のブライト様だけではなく、従者の方も凄く優秀で特待生として迎えるって、それで戸籍などもお作りになったって。ああ、馬鹿にしているのではないのですよ! 本当にただただ凄いなって、この学園に入学させる為に色々裏技使ったって聞きました。だからお会いするのが楽しみだったのです」
「まあ、そこまでではないのですが…。ところで裏技ですか? ハービル様は学園の裏情報にお詳しいのですか?」
「そうではないのですが、実は兄がここで教師をしているのですわ、だから今回の事…つまり案内役をする代わりにちょこっと教えて貰ったんです。他は流石に教えてくれませんけど」
「まあ、そうだったのですね。では学園側には随分お骨折りいただいたのですね、有難いことです」
「いいんですよ! 学園だって優秀な人材が欲しいのですから! あっ、いけない言葉遣いがなってないっていつも叱られるんです。人目がないところは許してくださると助かります」
「まあ、わたくしもです。ついポロッと出てしまいます、田舎者ですのでお許しくださいましね」
「ふぁー、本物のお姫様みたいだぁ〜。うふふ、じゃあ、早速簡単に校内を説明しますね!」
基本的に学年ごとで行動し、校舎は分かれており多学年との交流はイベントごと(ダンスパーティーやお茶会や模擬戦など)しかなく、会うのは食堂や図書館、通学の際しかない。しかもタウンハウスに帰る人たちは馬車で送り迎えだから、約束でもしていないと会うのは難しいとのこと。
それも広大な敷地がなせること。何故ここまで交流がないのかと言えば、王族の警護と言う観点もあるが、過去に1人の男性を巡って女性たちが押し寄せ争い合い大変だったらしい。まあ、本当かどうか真偽の程は分からないがそう言われているらしい。
第1学年の校舎を見て回った。
お兄様の校舎はあちら、それと私が1室頂いた部屋は…、どの校舎からも離れていて理想的ね。それからあちこちにガゼボがあったりお茶が出来るようになっていた。まあ、優雅なこと。
まあ、先日のガリミムスをたくさん呼べる事を見ても分かるわね、確かに国内最高峰の教育を施すところらしい。
「リアン! 離れのお部屋は居心地良くしなくちゃね!」
「ふふ、お好きなように」
さて、攻略者の今も調査しておかなくちゃね!
白いカラスや動物たちを使って集めた情報の整理。
ん? あれれ? ヒロイン プリメラ・ハドソンは嫌われている!?
どうなってるんだ!?
1人困惑するセシリアだった。




