17、ヒロイン入学 まじキュン始動
ヒロイン プリメラ・ハドソンはこの日の為にずっと努力し続けてきた。
私の人生は波瀾万丈だった。
小さい頃から可愛い可愛いと育てられ何不自由なく成長していた、10年前のあの日まで。
あまりよく覚えてないけど、アシュレイ(未来の旦那様)第1王子が行方不明になった。うちの領のすぐ隣だったから当時は大騒ぎだったらしい。お父様曰く『王子が見つからないから幾日も捜索隊を出したり、兵の食事や寝るところを作るのが大変で、家畜もだいぶ潰して献身的にお支えした』んだって。それが原因で一時は領経営のピンチになった時もあったけど、王子が無事に見つかって、当時かかった費用+報奨金が貰えて持ち堪える事ができたって言ってた。
で! 私は!!
その時に領民の暴動に巻き込まれて怪我をして、うぅぅぅ思い出しても私可哀想!!って当時のこと全然覚えてないから聞いた話だけど。
お父様の話では食べ物を王子捜索の兵に差し出した為、領民たちのご飯がなくなっちゃったらしいの。お父様も奔走していたらしいのだけれど、お腹をすかせた領民たちは領主であるお父様に訴えに来たらしいの、でもお父様はお仕事に行ってていなくて、パーティーしていた私を誘拐したの。身代金目的誘拐?んー、状況改善の為の人質?みたいな。狭くて汚い所に押し込められててすごく怖くてお腹が空いたのだけは覚えてる。『ご飯が駄目ならクッキーかケーキを頂戴』って言ったら殴るの、本当に嫌なやつだった、多分あの人もお腹が空いてて気が立っていたのね…あまり覚えてないけど。と言うのもその後寒いし熱出しちゃって、気づいたら自分のお部屋で寝てた。それでその時に前世ってヤツを思い出したの。だから混乱したし昔のこともあまり覚えてないから曖昧なところはゲームの記憶とお父様のお話で補っている感じ。
私の前世は城山花音 16歳 高校1年生、歩きスマホでジ・エンドしちゃったみたい。
気づいたら自分の部屋とも違う場所でビックリしたけど、ガラスに映る自分の顔がまじキュンのヒロインで腰抜けた。だって超可愛いんだもん! 花音なんて可愛い名前なのに地味系の顔でいつも『花音って名前じゃなくて花子だよな』ってあだ名は『花子』で定着しちゃう。それが「プリメラ様」とかって呼ばれんの! この顔にプリメラ! 違和感なし!!
それにしても転生先まじキュンのヒロインってホントまじ感謝!
私の人生 愛されヒロイン、お姫様コース! 最高かよ!!
日々小さい頃のプリメラの記憶は失われていったけど、まじキュンの主要ストーリーはインプットされてるから問題ないでしょう!!
ああーーー、そう言えば6歳の時プリメラは幼馴染のブルームと婚約する。
だけどそのブルームが王子といい感じの時ストーカーと化してうざかったから、今のうちに婚約阻止が出来てると知ってハッピーモード。
それとなくお父様に聞いたらやっぱり昔に一度打診した(発狂しそうだったけど)けど、断られたと聞いてすごくホッとした。まー、断った、じゃなくて断られたってのは癪に触るけど、のちの障害が今のうちに排除できたことに感謝!
プリメラの人生は王立学園でアシュレイ王子と出逢ってぇ、恋をしてぇ(ちょっと愛の障害濃いめのスパイス 略奪愛になっちゃうけど)王子の婚約者になってぇ、王妃になってぇ超ラブラブ幸せハッピーライフな訳で、その為の準備が必要。それを自覚してから真面目に勉強もしてきた。ちょっと本気出したらみんなマジびびってた、私も心機一転が自分の幸せのために頑張るんだから!
この10年間の努力が今報われるのだわ。
さー! いよいよゲームスタートよ!!
入学して裏庭に迷い込んでしまう、そこへアシュレイ王子登場。
「こんな所でどうしたの? 入学式が始まるよ?」
出会いのイベントだ。
反ベソをかいたヒロインにハンカチを差し出す、勿論イニシャルは『A』
「泣かないで、会場まで連れて行ってあげるから」
優しく微笑んでくれる。
「ご親切に有難うございます」
「楽しい学園生活を送れるといいね! じゃあ」
と軽くジャブ。1ヶ月後に行われる社交界デビューの舞踏会で再会を果たす。
この為に、アシュレイ王子とのお茶会もバッタリ出会わないように、すれ違わないように気を付けて〜、運命的な再会を演出。
うふふふ〜ん!
裏庭の場所は脳内デジタルマップで完璧。
あっちにふらふら こっちにふらふら 全然誰も来ない!
何でよ! どうなってるのよ!!
あー! 式が始まってるー!!
もーーー、しっかりしてよ!! 何やってんのよー!!
学園長が壇上で話をしているところの講堂の扉が開いた。一斉に扉に注目した。
ひょっこり顔を出すプリメラ。怪訝な顔で見られているが、
『あっ、これってありだな。より私の存在をアピールできたかも』
きゅるるん うるうるしながら…
「すみません、迷ってしまって…」
「早く座りなさい」
その後は恙無く式は進行し無事終わった。
ん? あれ?あれれ? アシュレイ王子と出逢えてない!
なんで来なかったんだろう? 場所 間違ってないよねー!!
私は出逢いイベント準備よーし!だったのに、なんで誰も来なかったわけ!?
正解はアシュレイ王子は生徒会の人たちと一緒に入学式の為に忙しく準備に走り回っていたから。
プリメラは15歳の第1学年に入学した。王立学園は第1〜第5学年まである。
攻略対象者たちは第4学年に固まっている。
授業などでは一緒にはならない。だから会えるのは食堂や放課後、全校で一緒にするイベントや、ゲームイベントなどしかない。アシュレイたちは生徒会に所属しているのでそこにプリメラも入らなければ接触する機会がない。だから今は勉強を頑張って生徒会に入る為に、生徒会側から目をつけてもらわなければならない。プリメラは一生懸命勉強に専念することにした。
だがもう1つ大事な事がある。
デビューの舞踏会だ。
ゲームでは幼馴染と婚約していたので、エスコートは婚約者がしていたが、今回は婚約を阻止した為、パートナーを探さねばならないのだ。ドレスはゲームで知っていたのでオーダーしてある。んー、でも特定の人を連れて行けば勘違いされる事もあるから…お父様でいっか。
幼馴染ストーカーのブルームって誰を誘うのかしら?
まさか私を誘ったりしないわよね?
この時点ではまだ垢抜けない田舎の素朴な青年……また、ストーカーになられても困るから近づかないようにしなきゃ!!
ブルームの一日はすごく忙しいのだ。
王立学園は寮があるが、王都にタウンハウスを持っている者は自宅から通っている。王都に屋敷がない者、平民などが寮に入っている。ブルームはタウンハウスから通っている。
ブライト伯爵家は、商売をしていたので王都にもこぢんまりしたタウンハウスを持っていたが、セシリアが買った屋敷から通っている。セシリアの屋敷は中心地からは少し離れた所に広大な土地と屋敷を所有している。これはブルームとセシリアの秘密だ。何故かと言えばリアンの為に購入したからだ。
王都でドラゴンになる事はないが、常に緊張を強いられ狭苦しいのが可哀想で、あまり人目につかない所に買ったのだ。それにセシリアは色々と商売をしている関係で、研究棟もある、それに小さな動物の病院みたいなものもある。その関係で獣臭くなるといけないので郊外にあるのだ。
動物たちはドラゴンの気配に最初は萎縮したが、慣れれば従順な下僕のように大人しくなり、打ちとければこれほど心強い存在はない、リアンを守護神と崇めている。
ブルームは当初王都の中心地にある普通のタウンハウスから通っていたが、セシリアが王都に移りここから通うので今ではブルームもセシリアの家から通っている。
セシリアの家は広いのでトレーニングにもよかった。ここでセシリアやリアンと人の目を気にせず稽古も出来る。
朝稽古をしてから王立学園向かう。授業を受け、授業が終わると週の半分 3日間は文官として王宮で働き、残りの3日間は魔法騎士として訓練に参加している。1日休みだが、その1日は父親の商売の手伝いをしている。空いた時間で更にトレーニングもしている、超多忙で生徒会へ参加の打診も何度もされているが、断り続けている。
まあ、本来は生徒会は、より良い条件での王宮への就職の顔繋ぎだが、ブルームには必要がなかったからだ。
と言うのも魔法騎士は小さい頃から同行していた魔獣討伐で人脈を作った。今ではその実力を買われて、かなりの信頼を得て討伐の際は戦力として同行している。
文官もヨハン・ブルーベル様が現在 国務部にお勤めになっており、手伝いとして呼んでくださったのだ。国務部だけではなく持っている人脈を惜しげもなく紹介して下さった。
優秀なブルームはどの部署でも頭角を表し既に存在感を示していた。しかも忙しくなると国務部だけではなく各部にも駆り出される、器用に何でもスマートにこなし、且つ驕らず人柄も良いときてブルームは大人気、どこもブルームを欲しがるのであまり大騒ぎされないように釘を刺されているが、知る人ぞ知る存在になっていた。
17歳にも拘らず。誰よりも忙しい毎日を送っている。
突然 最愛の妹セシリアが変なことを言い出した。
「お兄様、嫌な夢を見たのです。どうかお気をつけくださいまし」
その内容は私があのプリメラ夢中になって追いかけ回すと言うのだ、勘弁して欲しい。
だけど、愛するセシリアが言うことだ、聞き流さず、プリメラとは接触しないように徹底的に細心の注意を払った。
視界には入れない。見かけたら素早く逃げる。間違っても交流は持たない。
それにしてもアレが王立学園に入学できるとは。
昔見た時は裸の王様でアホな子だったけど。少しは反省して勉強もしたんだな。流石にワグナール公爵にもキグナス伯爵にも目をつけられてたもんな、あのままではいられないか。まともになってばいいな。
まあ、何があってもプリメラを好きになることなんてないような気がするけど。
ブルームは案外毒舌だった。
学園の食堂ではアシュレイとディアナが共に食事を摂っていた。
アシュレイが15歳の時に婚約をしたので、もう3年の付き合いだ。
「ディアナ、疲れてる?」
「ええ少し、でも大丈夫ですよ、ふふ」
「王妃教育のせい?ごめんね」
「覚える事が沢山あって大変だけど、アッシュ様が労ってくださるから頑張れます」
「ディアナは優しくて可愛いな。そうだ、今度の休みにデートしない?」
「本当に!? すごく嬉しいです!」
アシュレイはディアナと順調に交際していた。まあ貴族同士の婚約、ましてや王家との婚約なので節度を持った慎みあるお付き合いだ。お茶をして、プレゼントや手紙を贈り合い、こうして偶に同じテーブルにつく。マニュアル通りの穏やかな交際。
アシュレイは8歳の時に失った記憶を探している。
ワイバーンから落ちて発見されるまでの1週間、未だに思い出せない。でも最近断片を思い出すこともあるのだ。似た状況を知っている気がする、そんな程度だが、何かが過ぎる。その一瞬を掴み取りたくて仕方ない。
何故思い出したいかと言えば、あの時助けてくれた人たちにお礼を言いたいから。
人たち…そう、最近顔は思い出せないが断片的に思い出した記憶の中で少なくとも2人いた気がするからだ。私にとってあの時の記憶は私の人生を変えるほどの衝撃があったようだ。王宮に戻ってから度々侍従たちに私の行動に驚く事があった。それを周りは『お労しい』と言ったが、自分ではその変化を悪く思っていなかった。その上思い出そうとすると、何か恐ろしいものを拒否して頭痛がする、とかではなく胸をキュッと掴まれ温かい気持ちになるのだ。
皆が言うように恐ろしい記憶を封印しているのではなく、大切にしまっている、そんな気がしていた。
アレからもずっと、名乗り出るよう触れは出しているが10年経った今も名乗り出てはくれない。成長し様々なことが分かるようになって更に自分が如何に幸運であったかを知った。
記憶を取り戻すべく私が落ちた辺りを捜索していた時、1本の木に血の跡があった。それを起点に捜索はされたと言う。そこで目の当たりにしたのは、太い枝に血がべっとりついていた。血だけではない、肉も骨の一部もついていた。
枝先から2m位まで血肉が付いていた。
ビキっと思考に何かが引っかかる、間違いない これは私が突き刺さっていた場所だ。
地上からは12mと言ったところか、例え兵士見つけていたとしても枝から私を引き抜くまでに私は死んでいただろう。想像すると体が震える。
そして私の怪我だ。
高度な魔法がかけられている事が分かった。
あの枝を見て、今この瞬間も自分の足で歩けている事が奇跡だ。足だけではない今、私がこうして生きている事が奇跡なのだ。
記憶の中で誰に助けられたかは分からないけど、落ちていくあの時を思い出した、自分の足に枝が刺さり一部の肉で繋がっていた足、別の枝が肩に刺さり体が支えられていたからくっついていたがあの支えがなければ、落下する時に足は千切れていたはずだ。
その記憶が確かなら、回復魔法だけでは欠損部位を補う事は出来なかったと言うのだ。
もし無理やり欠損部位を回復魔法で治していた場合、子供だった私に他人の魔力が多く流れて魔力暴走を起こし助からなかっただろう、と…。
でも私はこうして何の問題もなく走ることもできれば、傷跡もない。
かなりの知識を持った魔術師が治療にあたったと言う事だ。
今 こうして生きているのはあの時、私を治療してくれた人たちのお陰なのだ。
私は諦めず探し続けたい、そしていつかお礼を言いたいのだ。
「ん? グラシオス、そこで何をしているんだ?」
「殿下、人探しです」
「人探し? 誰だい?」
「セシリア・ブライト嬢です。15歳と言っていたので、今年入学していると思うのですが、なかなか会えなくて」
「珍しいね、グラシオスがそんな事を言うなんて」
「ええ、まあ。王立図書館で知り合ったのですが、物凄く聡明で上品で美しい人でした」
「ふはは、本当に別人みたいだね」
「あんなに話の合う人は生まれて初めてなのです! もう一度会いたいと思って図書館にも通い詰めましたがアレ以来会えなくて、結局今日まで来てしまったのです」
「そうなのだね。セシリア・ブライト…、ブルーム・ブライトと関係があるのではない?彼に聞いてみたら?」
「ええ、そう思って彼も探しているのですが、彼も忙しいのでちっとも遭遇出来ません」
「ふむ、私も気に留めておくよ」
「有難うございます」
セシリア・ブライトか、あのグラシオスが夢中になる女性か、少し興味があるな。
後日 グラシオスは入学していないと知りガッカリするのだが今はまだ知らなかった。