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16、ゲームの世界のはじまりはじまり

今日は騎士団の訓練場近くに出している屋台に来ていた。


「マリオ!」

「お嬢! いらっしゃい!」

「どう?」

「んー、今日からだから、まだぼちぼちだな」

「そう」


ここは騎士団の訓練場近くに出している屋台でいつもはホットドッグの甘口、中辛、辛口の3種類で出している。そこに本日から白身魚のフライフィッシュも仲間入り。ソースは4種類サルサソース、中濃ソース、醤油、タルタルソースだ。

ここでは片手で気軽に食べられる物を出している。


それとここではもう一つの目玉! 冷たい飲み物が売っているのだ。

世の中、貴族はお茶と言えばホット! 冷たいなんて論外なのだ。でも運動した後は冷たい物飲みたいじゃない! だから温かい飲み物で紅茶、コーヒー、鶏がらスープ、冷たい飲み物で紅茶、コーヒー、スポーツドリンクの6種類を置いている。

鶏がらスープは何故って、具も入れたかったけど片手にホットドッグ、片手に飲み物だと具が掬えない、だから具なしのスープって訳。ミネストローネとかも良かったんだけど、ここはあくまでも手軽をコンセプトにした。


「まあ、練習が終わるのはこの後だから、後で報告に行くよ」

「ええ、お願いね」


「あーーー!! しまった!! 金がない!!」

見れば兄ブルームと同じ年頃の少年?青年?が自分のポケットを弄っているが所持金がなかったらしい。

「あー、くそっ! 腹減った。ついてないな、仕方ない…か」

頭をガシガシかいている。


「どうかなさったのですか?」

「ん? 珍しいところに女性がいますね。目当ての騎士でもいるのですか!」

ニヤニヤとコチラを見てくる。

はっ? 感じわっる!

「いえ、新商品が出ると聞いて興味があったので見に来ただけです」

「そっかー、ごめん。完全に八つ当たりだ。私はこれから訓練に向かうのだが、腹が減っているのに財布を忘れて気が立っていた、すまない」

「左様でございますか、気にしておりません。それでは失礼致します」

「屋台のものを買いに来たのだろう? 私が邪魔をして買えなかったなら悪い、気にせず買ってくれ。ついでにどんな味だったか教えてくれると嬉しい」

さわやかな笑顔を振りまくが、な、何という厚かましさ!


「私は このフィッシュフライのサルサが気になっている。お嬢さんは因みにどれが気になる?」

何で絡んでくるのよ! 帰るって言ってんじゃん!

ふーーー、我慢だ、我慢! この無神経な男も大切な顧客だ!


「お兄さん、サルサの物を1つくださいまし」

「はい、毎度あり」

「おっ、いいね! 匂いだけでも嗅がせてくれないか?」

「…………。」


「はい、お待ちどうさま」

「有難うございます」


振り返ると早速匂いを嗅ぎにくる。顔がヒクヒクしちゃうじゃない!

「さあ、どうぞお召し上がりくださいまし。それでは失礼致します」

セシリアは踵を返すと歩き出してしまった。


「おい、君の名前は? これ奢ってくれるの? 後で金を返すよ! また会う約束をしようよ、おーい、名前教えてくれよー!!」

マリオは陰で大笑いしている。


「ここで何をしているの?」

聞き覚えがある声の振り向くとブルームが訓練を終えて歩いてきていた。

「お兄様!」

「何かあった?」

「いいえ。お金を忘れてしまった方がお腹が空いて仕方ないから匂いだけでも嗅がせてくれと仰るので、フライフィッシュをお譲りしてきたところです」

「…そうか。 ふふ、そんなに怒っているのを見たの初めてだな。 ちゅ 我が姫、一緒に帰ろう」

「はい、お兄様」


彼女の名前を知りたいと思ったが、彼女は有名人と共に帰ってしまった。

『お兄様』と呼んでいたが、本当の兄だろうか、それとも兄と呼ぶ程近しい関係なのだろうか? 頭にキスを贈っていたな…特別な関係に違いない。

持っていたフライフィッシュをカリッと口に食むとジュワッと魚の旨味と油が口の中に広がった。そこにサルサのピリ辛でサッパリとした味わいが食欲をそそる。

「美味い!」

「お兄さん 美味いかい? そりゃー良かった。今度金を持っている時、他の味も試してくんなよ」

「ああ、そうさせてもらう。他の味も是非試したい美味さだ」

「そりゃどーも!」


私の名はベルナルド・キャスター、自分で言うのもなんだがモテて人生を歩んでいる。自分を見ると大抵の女はキャーキャー騒ぐ。それを私は面倒に思いながら爽やかな笑顔で受け流す。

私が女性にモテるのは私が剣術の天才と称され、父の跡を継ぎ次期 騎士団長の任の就くと思われているからだ。頼んでもいないのにいろんな物を持ってくる。声をかければ恍惚の表情を浮かべる、甘く微笑めば腰砕けと皆座り込む。女性に不自由したことはない、ただ付き合う時は後腐れない女性を選ぶ、深入されたくはない。

誠実そうな顔をして偶に微笑めばいつだって相手は私に夢中になる、少し困らせる事を言えば困惑しながらも『自分だけには甘えてくれる』と勘違いしてくれる、女性は扱い易い可愛い存在だった。


あんな心底迷惑そうな顔をされたのは生まれて初めてだった。

女はみんな聞いてもいないのに名乗っていく、だけど彼女は最後まで名乗らなかった。折角この私との接点を作ってやったのに、気づかないフリで気を引く魂胆か?この食事の代金を返したくとも名前が分からない、馬鹿だな加減を間違えている。呼びかけても振り返らないなんて…、その上屋台の親父には笑顔、やはり私の気をわざと引くつもりでわざと無視したのだろうか?


それにしても一緒のいたあの男は…、ブルーム・ブライト!

『剣術の天才』はアイツの登場により私からあの男に移ってしまった、しかも周りの期待にも謙虚で、誰からも好感を持たれている聖人君子、私にとっては目障りな感じの悪い奴。

騒いでいる女たちの話では顔よし、スタイルよし、剣術よし、頭もよしと来ているらしい。小さい時から魔獣討伐にも参加していて人脈も広いと聞く。密かにライバル認定している。あの娘とはどう言う関係なのだろうか?

恐らく聞けば知る事が出来る、でも癪に触って聞きたくない。あーくそっ!!


「店主! さっきの娘はよくここへ来るのか?」

「んー、どうでしょう? 数が多いので顔までハッキリとは覚えてないんですが、前に一度あったかも知れませんねぇ〜」

「そうか。……美味かった。ご馳走様」

「はい、まいどー!」

それはそうか、混んでいれば顔まで見てはいないか。

ベルナルド・キャスターは食べ終わると訓練場へ向かった。



「大丈夫? セシ」

「はい。でも何だか周りにいないタイプで少し困ってしまって」

「彼はね、ベルナルド・キャスター私の1つ上で、剣術の天才と呼ばれている」

「お兄様が現れるまでね?」

「ふふ、そうだね。そう言えばどうしてあんな所にいたの?」

「あそこの屋台で今日から新商品を出したの。だから様子を見に行ったら、うっかりあの方に捕まっちゃったの。お客様と思うと無碍にも出来なくて…」

「そうか、だったら私も1つ買えば良かったな。ごめんねセシ」

「お兄様ったら、お兄様はお忙しいですし、ご無理なさることはありませんわ。お気持ちだけで十分です」


「そうだ、セシ本当に王立学園に行かなくて良かったの?」

「はい、別にどこの学園でも勉強は出来ますから。私はブルーベル侯爵のところで十分に学習させて頂きましたから、余計な費用をかける必要はありません。

それに、リアンを連れて行ける所の方がいいのです」

「そうか、まあ王立学園だとプリメラ嬢と同級生になるから、それもいいかもね。

そうだ、父上から預かってきた物があったんだ。これからちょっと取りに行ってもいい?」

「はい。勿論です」


荷物は王立学園に置いてあった。実家から戻った際、時間がなくて取り敢えず学園に持ち込んだのだ。

「ちょっと取って来るから馬車の中で待っていて」

「はい、お兄様慌てなくても良いですからね!」

「ふふ、分かった」


「あー! ブライト様探していたのです! 少し見て欲しい書類があるのです!」

ブルームを見つけた男は慌てている様子だった。

振り返ったブルームはすまなさそうにしてこちらを見たので、笑顔で問題ないと手を振り告げると、引き摺られるようにブルームは行ってしまった。


馬車の中で王立学園をなんとなく見つめていた。

あら、何かしら…この門どこかで見た気がするわ…、どこだったかしら?

んー、でも王都に来ても王立学園付近に来たことはない、ではどこで見たのか?

あれ?私はこの門をもっと俯瞰した場所から見ていた…、そうだ学園全体を見渡すような高い位置…噴水があって、銅像があって、講堂があって、訓練場がある? 何故知っているのかしら?


………………………………っあ!!

まさか! まじキュン!? 乙女ゲーム!!

『まじでキュンする LOVEゲーム!!』

何、この映像…知ってる、いつ?どこで? なんだっけ?あっ!


あれって登場人物って誰だっけ!?

ヒロイン…ん!? プリメラ・ハドソン伯爵令嬢!!

おい、嘘だろう!!

メインキャラの攻略対象者は

アシュレイ第1王子、後は宰相候補 グラシオス・バーナー、騎士団長候補 ベルナルド・キャスター、後は 義弟 ローレン・シルヴェスタ。

悪役令嬢はディアナ・シルヴェスタ!


なんだよ おい!


はーーー、転生あるあるね。あーーーー、モブ? いや、セシリアなんていなかった、モブ以下、その他大勢で良かった、中身アラフォーで恋愛経験なしのおばちゃんが『私だけの王子様』ぶちゅーーーなんて鳥肌もんだわ。最近、人生を生き直しているところあったけど、流石に恋愛にのめり込むのは前世持ちとしては難しい。


ん? んん?? あれあれあれあれ!? いや、勘弁してくれ!!

ヒロイン プリメラの幼馴染で未練がましくストーカーと化すのがまさかのお兄様!?

はっ!! そう言えば小さい頃婚約の話が出た事があった!!


ヤダヤダヤダ!!

お兄様だけは汚したくない!

あのプリメラの相手とか許せん!!

絶対邪魔してやるーー!!


ん? お兄様 プリメラの事 嫌ってたっけ?

まさか、王立学園でプリメラが入学すると好きになっちゃうの!?

むむむ…こうなると 学校が違うのは厳しいかも。邪魔が出来ない!

でも、もう決まっちゃったし。


セシリアが通う学校は『カンザックル学園』、何故この学校を選んだかと言えば、リアンだ。

王立学園は王侯貴族が通う由緒正しき伝統ある国が運営する学校だ。通う人間には試験があり通過しなければならない、平民も受け入れているが学費が高い為、優秀で金持ちか、特別に優秀で学費免除の特待生で入って来る者しかいない。よって学園に入れる従者も身分が必要となる、品位を重要視している。勿論、全員が従者を連れている訳ではない、連れて行く者には従者にも審査があると言う事だ。だが、カンザックル学園では従者の登録は家の保証さえあれば通過できる、だから金額も安いカンザックル学園を選んだのだ。


この世界に転生を果たし、望愛の記憶でセシリアの人生を歩んできたため、セシリアの愛は主にリアンのみに注がれていた。親子とか家族とか愛を信じる事が怖かった。期待して捨てられる事が怖い。動物に注いだ愛は同じように返してくれる、だから動物たちと共に過ごしたがった。


そんなセシリアの本心に寄り添ってくれたのが兄ブルームだった。

人間の愛をどこか信じきれないセシリアに自分を信じても良い、甘えても良い、怒っても良い、喧嘩しても拗ねても我儘を言っても、変わらず傍で愛すると時間をかけて教えてくれた。

リアンがバレそうになった時、追い出されそうになった時、常にブルームはセシリアを味方し助けてくれた。いつしかブルームを信頼し愛しリアンの存在を告げた。リアンがドラゴンだと聞いた後もブルームは何一つ態度を変えなかった。セシリアがこの世界で唯一全幅の信頼を寄せる人間だ。セシリアの両親は善人だ、愛してくれている事を感じている、でもどこか諦めている部分もある。今の両親は優しい人たちと分かっていても心の奥底では『捨てられる準備』をしている、傷ついた心を癒せてはいなかった。


『兄』に対する感情はもっと複雑だ。

嫉妬であり、罪悪感であり、憧れであり、唯一の兄妹であり、憐れみであり、愛情でもある。

複雑な心境ではあるが、今世での兄ブルームは認識した瞬間から特別だった。表現し難い感情を持て余していたが、前世で会ったこともない兄とブルームは違っていた。懸命に妹を慈しみ護り多くの時間を共有してくれた。リアン以外に初めて信じることが出来た身内。護りたかった、元気に成長して欲しかった、家族として側にいたかった。


んーーー、お兄様を護るにはどうしたら良いかしら?


セシリアは兄に対する感情が暴走し、日毎に溺愛は加速し、重度のブラコンを発症していたのであった。

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