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14、野宿

セシリア達は野宿することになった。

ここには馬車が1台、馬が4頭、馬達は近くの木に結びつけた。幸いにも子供たちは馬車の中で過ごすことができる。ブルーベル侯爵領は結界が張られていて魔獣が出ないと言っても絶対ではない。実際にセシリアは小さい頃、結界の魔石が崩れたが為に襲われそうになったことがある。それに魔獣は入って来なくても野犬や夜盗が来ないとも限らない、何にしても準備は必要なのだ。


1人の護衛を残しブルームは護衛たちと共に薪を用意しに行く。セシリアは弓矢を持って食料の調達に行く。

「わたくしたちは何も出来ないのね」

「私も一緒に行きます!」

「ルシアン様 お気持ちは有難いのですが、今は十分な護衛がいません。分散されると守りきれなくなるので、こちらに居ていただいた方が助かります」

シュンとする。


「ブルームやセシリア何故いいのだ? 私よりも小さいのに…」

「慣れの問題でございます。ブルーム様は討伐にも同行されておりますし、セシリア様はトレーニングでここら辺をお1人で走っていらっしゃるので、ここら辺を熟知しています。しかもその弓の腕は確かです、戦力としてカウント出来ます」

またもシュンとする。


「でしたら、私が戻れと言ったら何もかもを置いて馬車の中に逃げてくれますか?」

「勿論だ!」

「でしたら、ここら辺にこう言った落ちている小枝を拾ってください。でも決して見えないところに行ってはなりません、必ず目の届くところにいて下さい。私は周囲を警戒していますから、その中では自由にしてくださって結構です」

「分かった!」


ルシアン、アリエル、エレンはせっせと小枝を拾い集めた。それから燃えやすそうな枯れ葉なども集めた。暫くするとセシリアが戻ってきた。背中にはいつもの大きなリュックを背負って。

「セシリア…リュックがパンパンだけど、その中には何が入っているの?」

「今日はお泊まり会になるみたいだから色々持ってきました」

そう言ってリュックの中からは、大きなシートにブランケットに枕それに魔石の魔獣避け、野菜に調味料に鍋に皿にカトラリー、ジュースにおやつに番犬6頭。


「ねえ、そのリュックどうなっているの? 明らかに容量以上のものが出てきているわよ?」

犬は勿論 セシリアと一緒に走ってきた。

セシリアは質問を笑顔でスルー。

「お泊まり会って…、この荷物どうしたの?」

「一旦家まで帰って取ってきました!」

えーーー、だったら皆で歩いていけばいいのでは?とルシアンは思ったが、

「嘘でしょう! この短時間でブライト家まで往復してきたっていうの!? この荷物背負って!? セシリア…少し休んだら?」

そ、そこ!? この口ぶりだとここから近くはないんだね…。


広めのスペースの四隅に魔石で結界を作り、番犬を配置。これで人間では分からない気配にも気づける様になった。

シートはピクニックで使った物と新しく持ってきた物で拡張され護衛の人たちも横になれる12畳程の広さになった。そこにブランケットは人数分、それに枕も人数分、クッションまである。どんどん快適空間が出来上がっていく。


リュックにとても入りそうもない大きな半円の桶みたいな物が出てきた。

おかしいよね? それって入らないし、何それ。

そう思っていると、地面にブルームが拾ってきた木を一本ぶっ刺した。その上に魔石のついた筒を横に設置したするとそこから水が流れ始めた。イメージししおどし(カコーンなし)、さっきの半円はその水を受け止めるためのものだった。


またもおかしな風景が…!

折り畳みのテーブルが出てきた、なんじゃいあのバッグは!?


「ねえ、セシリア 何をするつもり?」

「みんなで今夜のご飯を作りましょう!」

「えっ!?」

「うわー! 楽しそう!!」

「セシリア、わたくしは何をすればいい?」

「わたくしは?」

アリエルとエレンは順応性が高いな。

「私は何をすればいい?」

ルシアンもアリエルたちを真似る。

「まずは野菜を洗って、野菜を刻みましょう!」

ここにいるのは公爵家令息と侯爵家令嬢、野菜を洗ったり料理をした事なんて一度もない。もっと言えば冷たい水に手を晒す事もない。

「きゃー! お、お水って冷たいのね…」

でも『もうやりたくない』とは誰も言わなかった。一生懸命野菜を洗った。次の野菜の皮を剥く…流石に良家のお子ちゃまに刃物で皮を剥かせるのは難しい。簡単な刃物を使わない物はアリエル達が、刃物を使う物はセシリアと護衛たちで手分けをして剥いた。


枝を組んで鍋を吊るして煮炊きできるよう火を起こす場所を作る。


うーん、子供が調理するには危ないか…、石で枠組みを作って簡易コンロを作った。そこで中華鍋みたいな大きな鍋で油で玉葱とスパイスで炒め野菜も入れて更に炒める。石じゃない方のコンロにも鍋がかかる。何とも言えないいい匂いがする。自分たちの手で作り出すご飯、ワクワクが止まらない。


いやー、これ位の年となれば林間学校!飯盒炊爨はんごうすいさんでしょう! 

そして飯盒炊爨といえばカレー! 

まあこの国にはない食べ物だが、マイダッドの取引先が扱っているスパイスを見つけた時歓喜した。早速スパイスを少しずつ集めてきた、カレーの為ってだけではなく、野生の動物を狩った時、案外野生味溢れるクセの強い味に、スパイスで味つければ、クセがいいアクセントになる。それが今回役に立つ事になった訳だ。米はイマジネーションで作り出したものだ。伯父さんの焦げたハンバーグの時にキッチンの米櫃に入っていた。

もう少し辛めに作りたかったけど、初めての味が辛くて食べられないと悲しい思い出になっちゃうからね。




椅子じゃなくシートに座りテーブルにつく、これも彼らには初めての経験だろう。

今にも涎を垂らしそうなほどカレーを見つめている。みんなで『いただきます!』

「ふぁぁぁぁ! 美味しい!!」

「うん! 凄く美味しいわ!!」

「何ですの、これ!? 初めて食べる味ですけど凄く美味しいわ」

「我々も初めて食べますが何とも食欲がそそられる味です!」

そうだよね、美味しいよね! お腹空いていると碌なことにならないしね。お腹いっぱいになって不安を吹き飛ばさなきゃね!


美味しくご飯を食べた。

セシリアはみんなにミルクプリンをデザートに出した。

それにも皆で舌鼓を打って満腹になった。

デザートもあのリュックから出てきたわよねー、こんな冷え冷えで…いや もう何も言うまい。美味しいは正義だ。


皆で食器を洗う。あれ!? さっきは冷たくて手が痛い程だったのに今は温い! よく見ると魔石が変わっていた。魔石って色んなものがあるんだな。片付けが終わると、たわいもない好きな物とか、最近気になっている物とか、そんな話で盛り上がった。


シートに寝転がって空を見上げると今まで気づかなかった星が無数にあった。

月の光があんなに眩しいと思いもしなかった。

虫の声も獣の声も響いていて、風が体をなぞっていく。

きっとこんな体験もう二度とない、嬉しくて楽しくて意味もなく『うわーーーーー!』と叫び出したい気持ちになる。


淑女たる者が男の方と共に寝転がるなんて、先生に見つかったら1日説教コース、その上ペナルティも課せられただろう。でも今日は目一杯課外授業を楽しむ事にした。

みんな今まで味わった事ない体験に胸がいっぱいになった。


夜空を寝転がって見上げるなんて、少し悪いことをしている気分もあった。

興奮してその空気を楽しんでいたが、次第に目が閉じ幸せな眠りについた。

朝方は陽の光が眩しくて、誰に起こされるでもなく目を覚ました。


そしていい匂いがする。

セシリアはオレンジをジュースにして、キノコと鶏肉のオムレツを作っていた。

それにまたもあのリュックからホカホカ焼きたての柔らかいパンが出てきた。


貴族の朝は割と遅い、だからこんな早朝に起きることはないのだが、セシリアとブルームは既に起きてトレーニングをしつつ、情報収集して来ていた。


アリエル達は普段ベッドの上で、侍女たちが水を張った桶を持ってくる。濡れてタオルで優しく顔を拭き、手や首周りを拭く。自分で起き上がって昨日の水が出る場所へ行って顔を洗ったのも生まれて初めて、それも新鮮だった、みんなは手を拭き席に着く。

美味しい朝食を摂りながらブルームたちの情報を聞く。


「ハドソン伯爵領の様子がおかしいです」

「おかしいとは?」

「暴れ牛も騒ぎを起こしている領民も見当たりませんでした。ただ、空気がおかしい…そう感じました」

「いない? 封鎖までされているのに!?」

「はい、違和感しかありません。本来なら立っているべき場所に兵もいない。その上…嫌な臭いがするんです」

「臭い…、怪しさ満点ね。でもどうする事も出来ないわ、ハドソン伯爵領を捜索する訳にはいかないもの」

「そうですね、気にはなってもこちらに被害がない限り申し入れをする事も出来ない」

「ああ、気になるだろうが引き下がるべきだ。冷静に考えて暴れ牛も暴れている人間も突如としていなくなったのだ、人間は捕まえて牢に入れることが出来るけど、牛は恐らく殺されているだろう。そんな状況で僕たちみたいな子供が何を言っても相手にされるわけがない。ここは無謀なことをするとブルーベル侯爵にも迷惑がかかる、分かるだろう?」

その視線はアリエルとエレンと言うより、ブルームとセシリアに言っているようだった。


だけどみんな勘違いしている。

ブルームもセシリアも正義感の塊などではない。

自分たちの目的のためには貪欲に多くを求めるが余計な労力を使うつもりもない、あまり目立って余計な事に首を突っ込んで巻き込まれるなんてごめんだ。

見て見ぬふりをしろ? ああ、喜んでってなもんだった。

だから今回も道の封鎖が解かれたので、皆でブルーベル侯爵邸に戻った。

ブルームとセシリアはやる事があるのでブルーベル侯爵邸を後にし、自宅に戻っていった。




ブルームは家に戻ると何事もなかった様に父の手伝いをしたり、剣術などの鍛錬をする。その後は勉強も懸命にする。ブルーム自身はこのまま行けばブライトの伯爵位を継ぎ、父の商売を引き継げば安泰で生きてはいける。だからここまで必死になる必要はない。では何故 領地もない中堅の伯爵家の息子が侯爵家や公爵家並みの教養と技能を高レベルで手に入れようと努力しているかと言えば、セシリアのためだ。


セシリアは自分のことに無頓着だ。

小さい時から人に甘えるとか頼るとか、人に何かを期待したりしない。全てが自己完結。

3歳の時だったか、被っていた帽子が風で飛ばされて木の枝に引っかかってしまった。

セシリアはあんなにも小さいのに自分で木に登って取ろうとした。だが登れずセシリアは登ることを諦めた。『取って』その一言が言えない。『取ろうか?』と聞いたが首を横に振った。てっきり然程気に入っていたものではないのかと思った。セシリアは次の日、紐をつけた重石で帽子を取ろうと奮闘した。だが、やはり届かない。次の日は何かを丸めたものを投げていた。何度も何度も投げては取りに行きまた投げるを繰り返していた。投げていた球は別の場所に引っかかったまま落ちてこなくなった。それからも数日間セシリアは帽子を取り戻すために奮闘していた。結局自分の力では取ることは出来なかった、どうなったかと言えば、大雨が降った。そしてぐちゃぐちゃの状態で地面に落ちていた。それを拾ったセシリアは丁寧に洗って乾かしてそれを被っていた。


ブルーベル侯爵家の方たちと懇意にするようになり、共に座学やマナーだけではなく剣術や弓術まで習わせていただいている。セシリアは気づいているのかいないのか、恐らくルシアン様、アリエル様、エレン様、私を含め5人の中で一番優れている。同じに始めても飲み込みが一番早く習得するのが早い。誰よりも優れているのに、誰よりも貪欲に多くを求めているのに、将来については欲がない。

高位貴族の妻になる事も望んでいない。(まあまだ5歳の子供だが)王子様と結婚してお城で暮らすなんて夢にも思わない。セシリアの夢は堅実で、将来はここで動物のお医者さんになりたいなんて言う。ブライト伯爵家にも微塵も拘りがない、最初から私が継ぐべきものと思っていて自分のものではないと興味がない、違うか欲しがったりしない、だから今あるもの以外に自分の居場所を作ろうとする。だから私はセシリアに多くの選択肢を作ってやりたい。


例えば、私が騎士になり爵位を得る事ができれば、セシリアがブライト伯爵家で婿養子を取って爵位を継げるかもしれない。例えば、私が文官として王宮に勤め良い友人を作れればセシリアに紹介してあげる事も出来る。

それにセシリアの能力を国が知れば手放さないかも知れない、その時に少しでも力になれるように力を持っていたい。その為にはブルーム自身が能力を示さなければならない、だから今は休む暇がない、出来ることは何でもしておきたかった。それがセシリアの兄としての決意だった。



セシリアはと言えば、部屋に戻った後、リアンのいる場所へと飛んでいった。

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