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103/104

103、物語の結末−1

陛下からは正式に謝罪を受けた。だが、それに対するセシリアの返答は予想外のものだった。

「お心遣い感謝申し上げます。ですが正直申し上げてグレッグ・スターライドがわたくしの父親であった事は一度もなく、わたくしも彼の娘であった事はございませんでした。

ですから、何の感慨もございません。お気になさる必要はございません。ただ、永久に和解する事はない…それだけでございます。

わたくしは今でも両親はブライト家の2人だと思っております。

実はあの時、死んだのかも知れない父親に対し、何の感情もなかった事にショックを受けていたのです。わたくしの全てを否定する存在が突如いなくなった、わたくしの父を殺したシルヴェスタ公爵はあの時何を思ったのか…、そんな事だけでした。冷たい娘ですね」


お金のために存在を思い出した娘、道具としてしか見ていなかった娘が結果的に全てを奪っていくのを憎みながら死んだ男、スターライド侯爵家を毛嫌いし愛を選んだはずが誰よりもスターライド侯爵家の者らしく自分以外を愛せない人間だったなんて滑稽で…、つくづく私と言う人間は普通の親子関係には縁がないのだと自覚しただけ。まあ、人生も2度目、親に捨てられるのも2度目、流石に打たれ強くなったのかも…。それもこれも伯父さんやお兄様やリアンのお陰ね。


陛下たちも困惑している。

普通の令嬢であれば心で思っていても口にしないようなことまで包み隠さずセシリアが話をしたからだ。悲劇のヒロインを気取り、国から賠償金を得る。又はアシュレイ王太子殿下はまだ婚姻を結んでいないので自分を婚約者にすげ替えろと言ってもおかしくない、絶好の交渉の場だからだ。


アシュレイ王太子殿下が口を挟んだ。

「ねえセシリア、シルヴェスタ公爵の魔法で消えた者たちはどこへ行くのだと思う?」


突拍子もない質問だった。

そこにいる皆がアシュレイ王太子殿下の質問の意図を掴めずにいる。


「さあ…分かりません、ただわたくしも考えた事がございます。

シルヴェスタ公爵は愛する家族に絶望し、もう要らないと存在を消した時、どこへ捨てたのだろうか?と、最初はただの消滅を思い、次に何処か遠くの場所に転移のように移動させた事を思い、マジックボックスの中も想像しました。ですが1番ピンと来たのは記憶の中ではないかと思ったのです。幸せだった時間に思い出と共に存在も仕舞った。

ですが本当のところは分かりません、確認のしようもありませんから」


「その考察ではグレッグは仕舞えないな…」

「確かにそうですね。シルヴェスタ公爵がマジックボックスを持っていないのであれば、やはり跡形もなく消滅が1番可能性がありそうですね」

「そうだな、セシリア…スターライド侯爵、グレッグの遺体を返せずにすまない。

グレッグ・スターライドも死は王家の責任をもって保証する。また葬儀など相談があれば言ってくれ」

「はい、感謝申し上げます」



そして長らくかかったシルヴェスタ公爵関連の審議も終了し、その罪に合わせた罰が執行されていった。利益を貪り国益と人々の暮らしを脅かした者は強制労働へ送られた。命令で仕方なく従った者たちは、身分を落としたり任を解いたり、様々な処分を行った。やっと時間をかけて調べ細部まで処分に踏み切った甲斐もあり、王権強化され、命令系統が正しく機能するようになった。


そしてシルヴェスタ公爵は公開処刑となった。


事件が発覚した当初のディアナの処刑はみんな石でも投げつける勢いだったが、国が正常化し生活が安定すると、シルヴェスタ公爵の事は既に過去のことと認識する者が多かった。勿論、関係者に至ってはいつまでも風化する事はないが、街の人々の反応はやっと終わったんだ、その程度だった。


シルヴェスタ公爵家は国内最大貴族で傍系も多かった為に、頭を悩ます状況であったが、ノーマン子爵家の様に深く関わりがない家は財産を一部没収の上、降格処分とした。深く関わっていた家は反撃とばかりに謀反も考え、行動に起こしてもいた為に既に大半が処刑され家も取り潰しとなっている。

国内の貴族がサッパリした感じだ。その結果から見てもシルヴェスタ公爵の残した爪痕は大きかった。


因みに前国王陛下もシルヴェスタ公爵が処刑される前に突然倒れ他界した。

今で言うところの脳梗塞だったのかもしれない、地方の離宮には大した魔術師も医者もなく、あっという間に死んでしまった。これによりアシュレイ王太子殿下の結婚式は延期されることとなった。

本当のところ、前国王陛下は幾度となくシルヴェスタ公爵の復権を打診してきていたので、現国王陛下は亡くなってホッとしていた。


アシュレイ王太子殿下も婚約者のリディアと仲睦まじく良い関係を築いて、喪が明けると盛大な結婚式を大聖堂で挙げた。



あっという間にセシリアも学園を卒業となった。

それぞれがそれぞれの道を歩いている。


アシュレイ王太子殿下はリディア妃殿下との間に子供ができた。国民はそれを歓迎し国をあげての祝賀会が三日三晩続いた。国民にとって今の国王陛下はシルヴェスタ帝国を崩壊させた英雄として人気があり、アシュレイ王太子殿下は魔獣により壊され困窮した際に、食糧支援、流通の整備、経済支援、孤児院、養護院などの整備と支援など国民の生活に密着した政策で救世主と崇めている。実際にアシュレイ王太子殿下の功績は大きく、国民は国王になる日を待ち望んでいる。そのアシュレイ王太子殿下の子供ということもあり、全国民が慶事に湧いた。



プリメラもロバートと婚姻し、幸せな家庭を築いている。

こちらは双子を産んだ後にまた双子を産み、賑やかな家庭となっている。

ロバートは良くも悪くも平凡であった為、穏やかな家庭を作ることが出来た。プリメラの父親の雇い主でもあるロバートパパも優しく、案外上手くやっている。



グラシオスもケイティアと結婚した。

こちらはケイティアの卒業後結婚したが、ケイティアも優秀な人材ということで王宮の国務部に勤めている。

グラシオスは堅物のイメージが強かったが、案外 溺愛系の人間だった。自分が認めた者には甘い性格で、ケイティアに嫌われたくなくて基本的には何でもOKしてしまう。本来は家にいて欲しいと思っているが、ケイティアが王宮勤めをしたいと言えば、渋々認める。

『私が王宮勤めしたら、偶に会えるかな?』

そんな事を言われてしまうと、偶然廊下ですれ違う2人を想像してニヤけながら「いいよ、でも他の男と仲良くしないで」と言ってしまっていた。

考えてみるとケイティアが優秀であればこそ生まれる状況、子供が生まれて仕事を辞める時は来るかも知れない、でも王宮内で偶然に出逢ってお茶をしたり食事をしたり同じタイミングで一緒に帰ったりは、しようと思っても出来る事ではない、そう考えるとそんな状況も楽しく思えた。何より優秀なケイティアを自慢したくて仕方ない。


現実は新人がゆっくりしている暇はなく残業続き。

グラシオス自身もかなり忙しかった、アシュレイ王太子殿下付きの側近として長く仕えているが、卒業してからはアシュレイ王太子殿下の仕事量も増え、自分の視野の狭さから毎日が勉強で、暇があると陛下の執務室と殿下の執務室を行ったり来たりで、ケイティアとお茶どころかすれ違いの生活だった。

ケイティアも新人なので下っ端は走り回り休みもなく、帰ってくると気を失うように寝ていた。ただお互いに忙しかっただけに、互いの仕事を尊重し労わることが出来た。

グラシオスの方が少し早く余裕が出来てきた、だからぐったりしたケイティアを甘やかすのが楽しくて仕方ない。これはこれで上手くいっていた。



ベルナルドは魔法騎士団に入団し現在は下っ端騎士だ。

婚約者とはまだ婚約状態。

と言うのも下っ端騎士は集団生活を義務付けられ家に帰る暇がないのだ。

お相手のリンダ・カーライルは騎士テストを受けたが、魔法騎士は落ちてしまった。だが、女性の騎士は少ない為、王宮騎士で合格した。それは女性王族の警護に女性騎士が少ない為だ。本来は魔法騎士の中に近衛騎士があり、近衛騎士が王族警護にあたるのだが、女性騎士は少ないので王宮騎士の中に特別枠がある。あくまでも魔法騎士の部下扱いだが、女性王族の女性騎士しか入れない場所もあるので、割と重宝されている。

つまり、ベルナルドもリンダも忙しい為、婚約状態が続いている。偶にあっても2人で稽古に励んでおり楽しくやっている。



ローレンは卒業して、アシュレイ王太子殿下の側近として働いている。

シルヴェスタ公爵も処刑され、やっと気持ちの整理もついた。

マルゴット侯爵家に養子に入ったとは言え、シルヴェスタ公爵家の縁の者と知れ渡っている、殆どの者が遠巻きにして様子を見ている。ローレンの実家もシルヴェスタ公爵家から多大な支援を受けていた為、降格処分となっている。そんな一族の中でローレンは裏切り者でしかない、つまり命を狙われるほど危険であるため、結婚どころではないのだ。

養子に入った頃はマルゴット侯爵家で暮らしていたが、落ち着くとセシリアの屋敷に移った。ブライト伯爵家では刺客が来た時に対抗できないからだ。セシリアの屋敷は結界があって特定の者以外は立ち入れない、万が一入ったとしても生きて帰る事はできない。

うっかり迷い込めば聖獣の楽園か、魔獣の楽園(黒い魔獣)、ドラゴンの眷属執事がいる屋敷、普通では認識できない屋敷、まず高密度の魔力や聖力で結界がなければ正気を保ってはいられない。そんな所にローレンをお迎えした。

ローレンの存在は皆知っているのでローレンも気兼ねない。この屋敷の中は自由で、心が安らいで楽しい。暗殺の心配がなくなってもここで暮らしたいと思っている。


伯父さんもここに住んでいる、セシリアの大切な存在と知っているのでここに住むものは『伯父さん』を気にかけている、まあ色々細工がされているし、魔道具で完全防御の仕掛けがしてある為、どこで何があっても伯父さんに危険が及ぶ事はないだろう。

だが、最近伯父さんはファームに住んでいる。ファームで子供たちの世話をしながらソディックたちと暮らしている。セシリアの屋敷も隠れ家も人がいないのでセシリアたちが忙しくしていると孤独でちょっと暇なのだ。この世界で生きる覚悟も決まり、危険がない範囲で積極的に人と関わるようになってきた。子供たちにとっても信用できる頼れる大人との関わりはこれまであまりなかったので、慣れると甘えるようになってきた。子供たちはこれまで生きるのに精一杯で遊ぶことなどあまりなかった、空いた時間で缶蹴りや縄跳び、メンコやボール遊びなどをしながら楽しく遊んだ。これらの道具はセシリアに言って作って貰った。人数が集まったら野球やバスケットボールもやらせたいと意欲を見せる。



ローレンはブルームと一緒に出勤している。

隠れ家も知っているし、最早 家族と一緒だ。ブルームにとっては弟のような感じで可愛がっている。

ローレンを狙ってもブルームがいれば問題もない。



セシリアはと言うと、リアンと正式に婚姻した。

だが、それは表向き 実際の夫はブルームだ。リアンが人間世界に身を置くにはどうしても『聖人』として婚姻を求められる、よってセシリアと婚姻した。

スターライド侯爵はセシリアがそのまま継承し、リアンはそのまま『聖人』の身分となった。

だが中身はこれまで通り。

そして、セシリアはブルームと契りを交わした。

表向きブルームと結婚することは叶わなかったが、2人でいることが出来るので良しとした。


この秘密を知っているのは伯父さん、ブライト伯爵家の両親、ローレンだ。

つまりローレンは新婚家庭に居候している状況。ラブラブな2人にあてられる。

家での2人は関係を隠しもしない。

いつも抱き合い見つめ合うとキスしてる。しかもガッツリ深いキスになる! 最初は見ちゃいけない!と遠慮して席を外す、目を伏せるなどしていたが、話している途中で急に甘い雰囲気になってしまうので、今は自分は石、と無の境地でそこにいる。


「美味しそうだね?」

「味見する?」

「ん」

腰に手を当てて熱〜いキスをして

「んー、美味い」

「あん、もう。こっちで味見して。ブルームが美味しいって言うものを作りたいの!」

この屋敷の中では『お兄様』ではなく『ブルーム』と甘く呼ぶ。


「セシの作るものは全部俺の好みだよ?」

「ホント? 良かったぁ〜」

いつの間にか腰に回された手はセシリアの腹で組まれピッタリとくっついている。

すっぽりとブルームに収まり頭だけ傾け見上げると、またブルームに唇を奪われる。


いつだってどこだってイチャイチャラブラブしている。

こんなん目でも耳でも聞こえるし気づいてしまう。

身内のエロは目を塞ぎたい気持ちでいっぱいだが、自分は居候。

まあ、それに幸せそうな2人を見ていると、こちらも幸せな気分になるから我慢する。だから出て行くとは言わない。



因みにトラスト侯爵はあの後 不正が見つかり、財産の多くを没収された。19歳の息子に家督を譲ることになり、婚約者としてマイラは屋敷に滞在させられていたが、スターライド侯爵は亡くなり、今更マイラを義母として迎える必要がない。父の権威は失墜し息子より若い娘を妻にと鼻の下を伸ばしている場合ではない。今後は自粛し清貧な生活を送ってもらわなければならない。と言うことでマイラは実家に送り返された。だが、以前まで住んでいたスターライド侯爵家は借金のかたに取られ、なくなっていた。だが、兄ライアンからは頻繁に手紙が届いていたので、トラスト侯爵家を出る時、兄が迎えにきてくれた。


ライアンは図書館の職員として働き、狭いアパートで1人暮らしをしていた。侍女も侍従もいない生活など生まれて初めてだったが、いつかマイラを迎えに行く為、と極力金をかけずに生活をしていた。マイラはあまりの狭さとボロアパートに驚いたが、やっと安心して暮らせることにホッとした。苦労したのは食事だった、2人とも自分で料理したことなどないので買ってきた物を食べる、だが高価な物も買えない、同じものばかりで飽きてしまう。


マイラは王立学園はスターライド侯爵(父親)が死んだ時点で通わせて貰えなくなった。そうなってからは屋敷からも出して貰えず、ずっとトラスト侯爵の相手をさせられていた。今は大好きな兄と暮らせるだけで幸せだった。


少ししてスターライドの祖父母が相次いで亡くなった。

スターライド侯爵の本邸は従業員など退職金を払って全員解雇し、屋敷は現在空き家となっている。


セシリアは落ち着いた頃にライアンに手紙を書いた。

何通か送ったが返信はなかった。


セシリアの手紙には今後の身の振り方についてどうするつもりか書かれていた。

ライアンは最初、セシリアも妹として接しようと心に決めていたが、何か裏があるのでは?嘲笑うつもりか? 下僕にするつもりか? と無駄に悪い方にばかり考えて素直になれずにいた。だが、自分は兎も角、妹マイラの将来を考えるとこのままでいい筈もなかった。

意を決して会うことにしたのだ。自分が謝り下僕になればマイラを救ってもらえるかもしれない、僅かな期待を胸にセシリアと会う事にした。

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