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100、ロックオン−6

アシュレイ王太子殿下とリディア嬢が踊っている。

それをセシリアとブルームとリアン、それにルシアンも並んで見ている。

「セシリア、色々と有難う」

「ルシアン様、わたくしの方こそお礼を申し上げねばなりません。本当に感謝しております」

他者には聞かれないように結界を張る。


「ねえセシリア、分かっていると思うけど、私たちはセシリアを大切に思っている。幼いあの日に出会えなければきっと今の自分はないと知っている。あの女の戯言なんて気にしたりしないでね、私もエレンもフリードも皆んな君を愛している、大切な君のピンチには共に戦おうと思うほどにね」

ルシアンは殿下を見ながら淡々と話しているが、それが余計に心に沁みる。

時に違う方向を見ていたとしても志は共にある、味方だと示してくれる。

ぐっ、胸が詰まる。


「はい、わたくしも友の窮地には何を置いても駆けつけたいと思うほどの信頼をここに持っております。わたくしはブルーベル侯爵領で幸せに生き、人生において必要なものを得ることができました。わたくしの胸は皆さまからの愛で満たされております」

「そう、良かった。忘れないでね、私たちの存在を」

「勿論でございます。ルシアン様もお困りの時はわたくしを思い出してくださいませね」

「ああ、勿論だ」



その後、ブルーベル侯爵家の皆さんもいつものように来て、セシリアを守ってくれる。そして愛を伝えてくれる。

「セシリア、私は君を自分の娘のように愛しているよ」

ブルーベル侯爵までがセシリアに愛を伝えてくれる。恐らくクレアの『誰にも愛されず捨てられた』発言を気に病んでいるのだろう。みんな優しい、そして愛しい。

「ブルーベル侯爵様、抱きしめて貰ってもいいですか?」

「ああ、勿論だ。さあ、おいで私の愛しい娘」

ぎゅーーーーっと抱きしめ合う。

耳元で『セシリアは私の命の恩人だ、私に出来ることは何だってするよ』そう囁いた。

見上げるセシリアは嬉しそうに微笑む。ブルーベル侯爵は思っていてもこんな事を言う人じゃない、皆セシリアに言葉でも態度でも愛していると伝えてくれる。それが凄く凄く幸せだった。スターライド侯爵家では得られなかった本当の愛。

『ふふ、捨てられて本当に良かった、わたくしは幸せ者ですね』

綺麗に微笑むセシリアの頭をポンポンと撫でる。

それからヨハンもローハンも同じようにしてくれた。流石親子!と内心笑ってしまった。

アリエルもエレンもセシリアを抱きしめてくれる。「大好きよ、わたくしたちの末の妹セシリア」そう言って抱きしめてくださる。

勿論ブライトの両親も「貴女はずっと私たちの自慢の娘よ、戸籍が変わっても一生大切な娘に変わり無いわ」そう言って抱きしめてくれる。

ローレンもアシュレイ王太子殿下も割と側にいてくれるのも、味方だと示してくれているのだろう。


「お兄様、わたくし凄く幸せです」

そう微笑めば、

「ああ、そうだな。みんなセシの虜だ」

「やだ、お兄様ったら」

「セシ、1人で背負わなくていいんだ。みんなセシの味方だからね。セシの覚悟を半分背負わせて? 何を決め実行したとしても私とリアンは絶対にセシを嫌いにもならないし、側にいる、ずっと味方だからね。この世で1番セシを愛している」

ハラハラと涙が落ちていく。


『私の覚悟をお兄様はご存じなのだわ、その上で言葉を重ねてくださる』


「はい、お兄様。後で全てをお話し致します」

「うん、それでいい。何もかもを受け止めるから」

つい手を伸ばすとブルームは優しく微笑み、セシリアを腕の中に囲った。小さな子供にする様に体を揺らし優しくポンポンと背中を叩きあやす。子供扱いに少し頬を膨らませるセシリアが少し幼く見える。


こうしてルクレツィア王女殿下の誕生パーティーは終わった。



セシリアの母フィーリアはヘネシー伯爵たちと共にヘネシー伯爵邸へ帰っていった、そしてセシリアも。セシリアはヘネシー伯爵家で共に暮らしたが少しするとセシリアだけブライト伯爵家に戻っていった。


ヘネシー伯爵家にはフィーリアの上に年の離れた兄がいた。だが、鉱山で落石に遭い死んでしまっていた。だから伯爵夫妻は戻ってきたフィーリアにヘネシー伯爵家の仕事を譲り渡したいと考えていた。だが、フィーリアはグレッグの事も分からないし、自分の結婚の事実も理解していない。それでいてセシリアを見かけると心無い言葉を吐くようになった。まるで敵視しているかの様だった。

「お前は誰? 何故ここにいるの?」

「何を言っているの!? フィーの娘でしょう?」

「娘? 知らないわ。泥棒よ! この家を乗っ取ろうとしている泥棒!!」

「お母様…」

「お母様? 気持ち悪い! あの泥棒を追い出して!! あの女は悪魔よ! 私の幸せを奪う悪魔!!」

手を振り上げセシリアを何度も叩く。それを伯爵夫妻は必死で止める。それはフィーリアの視界にセシリアが入ると毎度行われた。結果、フィーリアとセシリアを一緒にすることができず、次第に顔を合わせないように対処するようになり、セシリアだけ自分の部屋で1人食事を摂る、フィーリアが部屋から出ている時はセシリアが部屋の篭る。何度も言い聞かせ親しくさせようと試みるが、セシリアが話しかけようとするといつもと同じ様に物凄い力でセシリアを叩く、ヘネシー伯爵夫妻は参ってしまっていた。

フィーリアはセシリアがいない時は人形の様に過ごし、セシリアを見かけると豹変するのだ。


娘の心は壊れてしまっている事を実感せざるを得なかった。セシリアはあの夜会ではブルームたちの横で幸せそうに笑っていたのに、ここではいつも痣をつくって泣いていた。

セシリアは母を母と呼ぶ事も出来ず耐えていた、それを見るに忍びなく、スターライド侯爵家で何故 セシリアを養子に出し、フィーリアを屋敷から出さなかったかの理由を知った。スターライド侯爵家もフィーリアに対し懺悔の気持ちがあったのだろう、本来であればセシリアを手元に残し、フィーリアを実家に返す事も出来た、だがそうせず セシリアを下の娘に預け、フィーリアを手元に置きグレッグを屋敷から追い出した。フィーリアの為であったのだろう。


娘フィーリアのセシリアに対する冷酷な仕打ちに何とも言えない感情になった。

セシリアは生まれて1年も経たないうちに養子に出された。…それは、1年にも満たない幼い娘に暴力を振るっていたと言う事なのだろうか? セシリアの態度は母であるフィーリアに畏れの感情と思慕を抱いている、そんな幼い娘に憎しみをぶつけていたのか!?

まさか、本当に? 自分の娘が? 夫に愛されない不満を生まれて間もない娘にぶつけ暴力を振るっていた!? だから2人を離す必要があった!? 

養子に出した先の娘は実家に不満を持ち実家に寄り付かない、考えれば考えるほどセシリアが養子に出されて田舎の貧乏伯爵家で育ったのは、フィーリアのせいなのだ理解してしまった。

自分たちもセシリアを守るためにはフィーリアと離さなければ、セシリアの心まで壊れてしまう…。


ヘネシー伯爵夫妻はセシリアをセシリアが幸せに笑うことが出来る場所へ帰すことを決めた。

「セシリア、お前は私たちの大切な孫だ。だからいつでもここへ来て構わない、ここもお前の家なのだから。ただ、心を壊したフィーリアの側にいてはお前まで心が疲弊してしまう。

お前の人生は始まったばかりだ。お前が楽しいと思い愛しいと思う心から笑える場所へ戻りなさい。私たちはここにいる、だから気にせず自分の場所に戻りなさい。私たちもお前の幸せを願っているよ」


そう言ってセシリアを送り出した。



だが、ブライト伯爵邸には戻れない。それはグレッグが未だのセシリアを狙っているから。

だから王宮へ向かい、王宮から転移してセシリアの家に帰って行った。馬車は王宮へ着くとヘネシー伯爵家へ帰っていった。



ライアンは釈放されたが、クレアはまだ牢にいた。それは『聖人』の婚約者に暴力を振るったからだ、しかもあまり反省もしていないので少し長引いている。

ライアンは母の処遇を知らず家に帰って初めてまだ帰ってないことを知った。父は屋敷を開けており、妹は部屋で泣きながら籠っていた。


「何故マイラは泣いているのだ?」

「ライアン様、それが…、旦那様がご婚約者様のトラスト侯爵邸に居を移されるようにお話しになって以来お泣きになられて、お食事も召し上がれない状況です」

「何故! まだ学園だってあるのに急にそんな…、結婚だって卒業後の筈なのに!」


マイラの部屋へ向かうとマイラはベッドの中で涙を流している。

「マイラ…」

「お兄様! 私…私…結婚なんてしたくない! あの方とダンスを踊ったの…、お腹がとても出ていて私にくっつくの! 生温かい温度が伝わってきて…手もね手袋越しなのに湿っているのが分かって…、凄く臭いの! 無理よ、あの方を夫だなんて思うことなんて出来ない! お兄様みたいな素敵な人とまでは言わないけど…、あの方は無理よ…うぅぅぅ」

「マイラ…、お父様はいつ引っ越すように言ったんだ?」

「………1週間以内にって。荷物は後からでもいいからって。お兄様! 私行きたくない!」

「マイラ…、うぅぅマイラ…。どうしたらいいんだ!」


このスターライド侯爵家では父グレッグの言うことは絶対、父に逆らうことは出来なかった。母に止めて貰いたかったが、その後帰ってきた母も最早父を止めることは出来なかった。

泣いて嫌がる妹を歯を食いしばって「体に気をつけて」と見送ることしか出来なかった。


マイラのいなくなった屋敷に親子3人、どことなく蟠りが残る。

今までは何の問題もなく幸せだと思ってきたのに、確かに父はまだ15歳の妹を金を引き出すために売ったのだ。泣いて嫌がる妹を平然と家から追い出した。


それに母が先日の夜会でアシュレイ王太子殿下の前でセシリアに暴力を振るい、我が家の事情を知られるところになった事に父は激怒し、未だかつてないほど母を叱りつけていた。その上 最近父は時間が空くとヘネシー伯爵家へ足繁く通っているらしいのだ。

父の行動の真意が分からず困惑する。今日は母に『実家に帰ってはどうか』と聞いた。

信じたくはなかったが、父は母を捨て本妻を迎える気ではないだろうか…、嫌な想像ばかりしてしまう。


「父上は母上をお捨てになるつもりですか?」

耐えきれず思わず心の声がポロリと漏れてしまった、一度口にした言葉は元に戻ることはない。

当然、叱られる そう身構えた。だが思っていた反応とは随分違っていた。


「捨てる? 元の場所に戻るのだ、私はスターライド侯爵本邸へ、お前たちはアンバー男爵家へ。そうすればこの家の維持費も掛からなくなる、いい手ではないか?

ライアンの結婚相手は何故決まらないのだ? 仕事が遅いな、仕方ないから私が探してやろう、金を自由の出来る令嬢は年齢的に難しいか、金を持っている未亡人でも探しておこう。クレアも実家に戻るのが嫌ならばどこかの後妻に入ってはどうか? 今度は愛人ではなく正妻として…それなら文句はあるまい?」


クレアはグレッグの横っ面を叩いた。

流石に我慢の限界だった。20年以上尽くしてきたのに不要になったからと他人に押し付けようとする態度に我慢ならなかった。

「何をするのだ! 所詮は男爵家の女か! 今まで大切にしてきてやったのに!! 今すぐ出て行け!」


出て行けと言われて出来るものならマイラにあんな婚約話を持ってきた時点で出て行っている。グレッグは実家から縁を切られた時頼ったのはクレアの実家だった。規模の小さいアンバー男爵家は余裕がない中、何とか金銭を工面していた、それもこれも娘が侯爵夫人になればいつか報われると思えばこそだった。だが実際はスターライド侯爵家はグレッグと縁を切り、フィーリアを実家に残した。それは娘クレアを迎えるつもりはないという意思表示に他ならない。

アンバー男爵家はこれ以上の支援は出来ないと断った、するとグレッグはアンバー男爵家に了解を得ないまま、アンバー男爵家を担保に金を借りた。上手くいかなかった事業は借金だけが残り、その借金はアンバー男爵家が被ることとなった。

アンバー男爵家は恩知らずなグレッグを見限り姿を消してしまったのだ。それ以来クレアも連絡は取れていなかった。


今更帰る場所も頼れる人間もいないと知りながらグレッグは実家に帰ってはどうか、などと聞いたのだ。クレアはドレスを握りしめ、歯を食いしばって謝罪した。

「ごめんなさい、私が間違っていました。どうか家に置いてくださいませ」

「いつまでもいていいとは…もう言えないな。今後の身の振り方を考えておきなさい」


絶望だけがそこにあった。

ライアンも父にかつてない程失望した。父は私たち家族を愛してくれていると信じていたからだ。愛する妹を棺桶に片足突っ込んだような脂ぎった男に嫁がされても、この家を守るためには必要だった、父だって苦渋の決断だったのだと何とか飲み込もうとしていた、だが違っていた。あのセシリアと言う妹もマイラも私も父の道具に過ぎないのだ、愛されているなんてただの思い込みだったのだ。父はただ両親に自分が正しかったのだと見返したかっただけなのだ! 幸せな家族は幻想だったと気づいてしまった。


ライアンはかつて父がそうしたように、自分自身の力で生きるべく仕事を探し始めた。

いつか自分が引き継ぐと思っていたスターライド侯爵領はフィーリア夫人のものになると言う。ずっと、父が管理していると思っていたが、フィーリア夫人のものになれば自分のものになることはないだろう。だから父は何とも思っていない正妻の元に足繁く通っているのだ! 最後になると思い領地を見に行ってみた。以前見た時より活気に溢れ豊かになっている気がするが、これらを齎したのは父ではない。


小さな子供が父親と共に農作業をしていた。

ライアン自身の父と遠乗りに行った思い出や家族で旅行に行った思い出が蘇る。

昔は優しい人だった。

いつから狂ってしまったのだろう…。

何が間違っていたのだろう?


やはりあそこだ。父は母を愛しながらフィーリア夫人と婚姻を結ぶべきではなかったのだ! 父が2人の女性とその家族を不幸にした原因なのだ!  

私は…血を分けた妹セシリアを犠牲にする事に痛みを感じなかった…。セシリアだってマイラと1つしか変わらない妹なのに。あの子は赤ん坊の頃に捨てられ両親の温もりを知らないまま育ったのだ。悪いのは父なのに何故あの子に当たってしまったのか! あの子こそ道具と扱われ傷ついていただろうに…、あの子の幸せを奪ったのは確実に私たちだと言うのに…、私は何と利己的で非情な人間だっただろうか。

あの子は父に売り飛ばされそうになってブライト伯爵家にもいられないと聞く、そんなあの子を母は公衆の面前で引っ叩き罵ったのだな……最低だな…。父も母も私も みんな最低だ。


ライアンはスターライド侯爵領を出て王都に戻り、図書館で働く友人の元を訪ねた。

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