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10、共同生活

アシュレイは本を読みながらうたた寝をしていた。

生まれて初めての穏やかな時間。


いつの間にかセリシアとリアンは外のキッチンで楽しく料理をしていた。

リアンはセリシアの言う通りボウルの中でコネコネしている。

今日は伯父さんのちょっと焦げたハンバーグを作っている。ジャガイモは粉吹き芋、インゲンのソテー、それからコーンポタージュ、ホカホカご飯。シャキシャキサラダも手で千切って盛り付けていく。これらは伯父さんのがノアの為に用意してくれたご馳走だ。

祖母の家ではなく伯父の家でもなく、伯父さんの娘になって自分の家で温かいご飯が食べられると生まれて初めて知ったご飯、これだけは特別な意味を持つ。


外のテーブルにクロスを掛けてカトラリーをセットして料理を並べる。


セシリアはアシュレイの元へ行くと顔を覗き込む。

そっと目を開けるとセシリアがいて驚いた。実はジュージューといい匂いがしていたので少し前から気づいていた。寝ぼけ眼で2人の様子を見ていた。優しい光景に瞼を閉じていた。それが目の前にセシリアがいて、また見透かされた気になった。


15、16歳くらいのリアンは何も知らない子供の様だった。

ノアが一つ一つ丁寧に教えている。それを四苦八苦しながらも真似て学ぶ。リアンも無理やりやらされていると言うより、ノアと共に過ごせることを楽しんでいる様だった。

遠目で見ながら遠慮のない、母の様な姉の様なその関係に羨ましく眺めていた。


「殿下、お目覚めならご一緒に食事などいかがですか?」

「あ? ああ、私の分もあるのか、有難く頂こう」


今回の食事も見たこともない料理だった。

「「いただきます」」


『いただきます』とはなんだ?

ノアは小さなサイズに切ると

「はい、あーん。一口食べてみて」

差し出されたフォークに刺さった物をリアンは素直に口を開けて食べる。

モグモグ、ごっくん。

「どう? 食べられる?」

「うん、美味しいよ」

「そう良かった」

料理の腕に自信がないのか、リアンは味にうるさいのか、取り入る料理を作っているのか、兎に角リアンはノアより年上のくせに甘ったれてるな。ノアは私よりも小さい少女だぞ!それに何だよ、私がいるのだから私に気を遣えよ!そう思っていると、

「これはこうして持つのよ。こうして一口大に切ったら、パクリ やってみて」

ナイフとフォークを手に取り、キコキコと切ろうとするも右手と左手が一緒に動いて上手く使えない。ノアの反応は使えなくても当たり前だと言う感じでイラつきがない。

何度か試していると、これもだいぶまともになってきたが皿を割るつもりか?と言うほど力が入り音が耳障りだった。いい加減にしてくれと言いそうになったが、ノアはリアンの手にそっと自分の手をかぶせ、

「ふふ 一生懸命で偉いわね。でもそんなに力を入れなくても切れるから大丈夫よ。こうして音を立てない様に、ギコギコギコではなくキコキコキコ優しくね」


リアンはふーっと息をつくと優しく扱い始めた。眉間に皺を寄せ真剣そのものだ。

その様子を見て自分の幼い頃を思い出していた。私の教育係は厳しかった。王族としてのマナーを身につける為と、少しでも間違うと手を竹の枝が数本まとめられた鞭の様な物で叩かれた。勿論 手加減はされていただろうが、間違えればまた叩かれると思うと恐怖でしかなかった。褒める時もその教育係は『◯◯殿下ほどではございませんが、よくお出来になりました』と言う。ちっとも嬉しくなかった、しかも◯◯殿下を否定するわけにもいかず、その者が教育係から外れた時は心底嬉しかった。


ノアみたいに根気よく丁寧には教えてくれなかったし、やる気を削がない言い回しもしてくれなかった、ノアはいい教師だな。

ところで、リアンはテーブルマナーどころか持ち方も使い方も何も知らないのだな。

これでは『水を持って来い』が通じるわけはなかったのだ。ノアはあの時もこちらを見下していたのではなく、現実的にリアンには出来ないと言いたかったのだろう。だが『出来ない』とは口にせず『難しい』とリアンに気遣って言ったのだ。


「殿下のお口に合いましたか?」

「ああ、とても美味しい。野菜スープとチーズオムレツだったか、あれも非常に美味しかった。あ、有難う」

「お口にあったのなら嬉しゅうございます」


食事が終わると、

「殿下、体の調子はもうよろしい様なのでお帰りになりますか?」

何故か私はショックを受けていた。体が治り王宮に帰れる事は嬉しい事なはずが、ここから出て行かなければならないと思うと、今はまだここにいたいと思う気持ちが大きかった。


「もう2〜3日厄介になりたいのだが」

「畏まりました。ただ殿下の捜索に王宮の兵だけではなく落ちた辺り領の兵たちも使って捜索しております。心に留め置きくださいませ」

「ああ、分かった」


「殿下、私はこの通り幼女ですので自分の家に帰らねばなりません。お一人でも問題ありませんか? リアンも連れて行きたいのです」

「私を置いていくのか? どちらか残るべきだろう?」

「私は無理なのです。リアンは申し上げた通りここにいても殿下に何かあった時に私に連絡をくれることしかできません。ただ、もう殿下に危険はございませんし、ここへ私たち以外の者がやってくる事もありません。殿下の身は安全です。ですから、ここに残られるならお一人の時間を満喫してください。もう今後お一人になれる機会などないのですから。それでは失礼致します」

そう言うとリアンを連れてサッサと帰ってしまった。


「なんだよ! 腹たつなー! 私は王子なのだぞ!!」


1人になると反省するのに、ノアの態度が素っ気なくて結局、悪態をつきたくなってしまう。ノアの態度を見ていると私と親しくなるつもりがないとありありと分かる。している事は親切なのに何故こんな風に距離を取りたがるのかが分からない。


外の道具置きの様な場所に木剣や模擬刀、弓矢や的がある。

あれ? さっき見て回った時はなかったのに……! ノアだ!

やっぱり口では素っ気無い態度を取るけど、私に本当に必要なことをいつだって用意してくれる。それに、ノアはここにいることを拒否しないでくれた。

口ばかりの甘言に慣れすぎていた。

あーあ、そう言う連中にうんざりしていたはずなのに、結局は…はっ、情けないな。


ノアに言われた通り1人だけの時間を楽しむことにした。




セシリアはブルーベル侯爵邸を訪れていた。

どことなくいつもより忙しなく感じた、どうやら今日はブルーベル侯爵邸にエレン様のご婚約者様がお見えになるらしい。

「まあ、その様にお忙しい中、来訪してしまい申し訳ございません。わたくし日を改めます」

「いいのよ、わたくしはいるのですもの。それにエレンはセシリアを紹介したいって言っていたわ」

「光栄に存じます」


エレン様は現在7歳でエヴァレット公爵家のルシアン様10歳と婚約されている。アリエル様は10歳でまだご婚約者様がいない、それはアシュレイ第1王子殿下の婚約者候補に選ばれているからだ。年齢的には殿下が8歳なので、エレン様の方がバランスがいい気もするが、良家の息女に殿下が5歳の時に第1回選定会でアリエル様が選ばれたからだ。定期的に選定会はは行われ、振り落とされていくのだ。最後まで残って結果アシュレイ第1王子殿下の婚約者に選ばれない時、良家の令嬢が婚約者をいい条件で見つけられない場合もある、そこで王家介入で条件のいい相手を紹介したりもする。

今回アシュレイ第1王子殿下のお相手はディアナ・シルヴェスタ公爵令嬢が濃厚だ、だから水面下ではアリエル様の婚約者も探されていると聞く。


「あらエレンどうしてここにいるの? ルシアン様を待っているのではなかったの?」

「お姉様、それがルシアン様の到着が遅れる知らせがあったのです」

「まあ、何かあったの?」

「それが、どこも検問が厳しいらしの」

「ああ、そうよね…。殿下が落ちた付近から王都までの地域が更に厳しくなったと聞いたわ」

「ええ、だからいつ着くか読めないって」

「お寂しいことでありますね。ところでエレン様、ルシアン様とはどのような方なのですか?」


「そうねぇ、年はお姉様と同じ10歳よ、少し…ヤンチャな方で、少し…飽きっぽくて、少し…尊大な態度をとる、そんな方かしら?」


ん? それってちっとも褒めていませんよね?


「ま、まあ まだ少年の様なお心をお持ちということかしら、おほほほ」

「ふふふ、そうよね! そう言うしかないわよね。エレンの口からは言いにくいでしょうからわたくしから補足すると、ルシアン様はエヴァレット公爵家のご嫡男のご長男でとても甘やかされて育ったの。だから周りが耳障りのいいことしか言わないので、少し…だいぶ?我儘な方なの。誰にも指摘されずに、何をしても許される王様のよう傍若無人ぶり、ご自分こそが優先されるべきと、そう勘違いされているのよ」

アリエル様 目が全然笑っていません! 珍しいことです!


「まあ、公爵家のご令息でいらっしゃいますものね。何故エレン様のご婚約者に選ばれたのですか?」

「この婚約はエヴァレット公爵家からの申し出よ。恐らく…わたくしがアシュレイ第1王子殿下の婚約者候補になっているからだと思うわ。もしわたくしが内定すれば縁戚になれるし、成れなかったとしてもブルーベル侯爵家は由緒正しき家柄で、王女殿下が降嫁された事もあるわ、それなりにメリットがあるわのよ」


エヴァレット公爵家も由緒正しき伝統を持った公爵家、対するブルーベル侯爵家も由緒正しい家柄で、アリエル様やエレン様のお祖母様は王女殿下だったのだ、つまりは家格で選ばれた政略結婚だ。


「エレン様は素晴らしい方なのに勿体ないです!」

「そうは言ってもこちらからはお断りできないし…」

「ならば…ルシアン様に成長頂かないといけませんね」

ニッコリ笑う。


「気持ちは嬉しいけどセシリアは伯爵家よ、ルシアン様の逆鱗に触れれば何をされるか分からないわ、気持ちだけでいいのよ」

「はい、勿論です」

その目は何やら企んでいることが見てとれた。


いつ来るか分からないルシアン様をずっと待っているのも時間が勿体無いので、許可を貰ってコードリー夫人との勉強を始めた。


「セシリア様、前回のテストは満点でした。よくお勉強なさっていると思います。前回までで周辺諸国の特産品や貿易、経済、系統などのお勉強は終了と致します。次からは我が国と関係がある国の言語について学びたいと思います。ヨハン様やローハン様の外国語指導をなさっていたカルロス・ベネット氏に指導頂くつもりです。この方は商人で多数の言語を操ります、また現地の教科書では学べない流動的な情報も取り扱っていらっしゃいます。その才覚を買われご子息たちに特別指導をして頂いているのです。

セシリア様も大変優秀なので学ばせて良いとのお言葉を頂きましたので、是非有意義な時間を持ってくださいまし」


「まあ、感謝申し上げます!ご期待に添えるよう精一杯努めさせて頂きます」

「こちらの書物は外国語に関するものです。まずは学び、覚えてから会話ができる様に発音などをご指導頂けるのではないでしょうか。こちらの書物は参考に本日お持ち帰りくださいませね」

「はい、承知致しました」


セシリアは嬉しかった。

商売をするならば、外国語も必要だと思っていたからだ。父の取り扱う商品は多岐に渡る、中には外国の面白い商品もあった。もっと違う商品も手に入るか聞いてみたいと思っていた。

ああ、本当にブルーベル侯爵様には足を向けて眠れないわ。


セシリアは授業が終わると着替えて厩舎へ向かった。

ここでお世話になる様になってから侯爵家の馬や家畜の様子を見るのも自分の仕事としている。受けた恩を少しでも返したくてそうしているのだ。


この世界に転生を果たし望愛は動物と話すことが出来るようになった。それが嬉しくて仕方ない。何度となくどこがどう辛いのか教えてほしいと思ってきた、それが叶ったのだ。

前世で培ったスキルを活かすことができて幸せだと思った。


前世持ちとか36歳のおばさんだとか、口が滑るとか 何も気にしないで自由に心の中で思うまま話ができるんですもの、これほど楽しい事はないわ。



本来 5歳だと足も届かないし、手綱を握る力も弱い、だからポニーから乗馬を始めるが、セシリアは違った。馬と意思疎通できる為、馬の上にさえ乗ることが出来れば馬を操縦することができた。勿論 最初はポニーに乗せられたが、出産を手伝った母馬がお礼に乗せてくれたのだ、それを見た乗馬のキャストン先生がブルーベル侯爵にお話しくださって、普通の馬でも乗れる様になったのだ。どの馬も乗り手との完璧なる意思疎通はノンストレスみたいで上機嫌で乗せてくれる。勉強の中で1番好きな授業だ。

馬も家畜たちも今は心身共に健康だ。ブルーベル侯爵は人だけではなく飼っている動物にも優しい。


はぁ〜、リフレッシュ出来た。

魔法で浄化魔法で体を清め着替えて図書室へ向かった。


こちらの世界には魔獣がいるのよね、魔獣に関する詳しい記述はないのかしら?


魔獣に関する書物が沢山あった。

全てに目を通し複製品を作りマジックバッグにしまう。

ただ、魔獣の生態は詳しく分かっておらず、討伐するためのマニュアルみたいなものが多かった。基本的には殲滅すべき敵であって、魔獣に関し知ろうとする者はいないのかもしれない。

リアンもドラゴンであるから魔獣と言える、知りたい事は分からない事が多い、でも人間が知ってしまったらリアンを殺しに来ることになるかもしれない、それだけは絶対嫌だ。リアンに何かあった時のために知りたいが、触れない方がいい気もして思い倦ねる。


「セシリア様、エレン様のお客様がご到着されました」

「はい、承知致しました」

さて、上手く調教できるかしら? 血統書付きのサラブレッドちゃん、中身も良い子ちゃんになってちょうだいな。決戦の地へ向かうセシリアの顔は悪〜い顔をしていた。

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