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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死にゆく私へ~ノブレス・オブリージュ

作者: 七西 誠

ゆるゆるのふわふわ設定です。


優しい気持ちで読んで下さると大変有り難いです。


死にゆく私へ~ノブレス・オブリージュ



「クロード殿下に申し上げます。少しでも私に温情を持っていて下さるのなら、どうか死罪を賜りたく存じます。」


「メリッサ嬢。私が聖女の母から受け継いだ、神器と魔力の事は知っているだろう!。私は貴女を無罪にすることができる。私と一緒に・・・」



「いいえ、いいえ、どうか死罪を。」メリッサはそう言ったまま目を閉じて俯いた。


クロードはこれ以上の説得は無理だと悟った。


「メリッサ·クラウディン、そなたを死罪・・・とする。尚、毒杯をもっての執行とする。日時は追ってしらせる。」


「ありがたき幸せでございます。後の事は、よろしくお願い申し上げます。」


メリッサは、そのまま守衛の騎士に牢屋に連れて行かれた。




許さない!!!・・・。クロードが復讐を決意した瞬間である。



   ***



メリッサと初めて会った日は、彼女が兄エロールの婚約者になった日である。


赤み掛かったブラウンの巻き髪。深い翠の瞳。人懐っこい可愛らしい微笑み。社交界でも、人気者で誰にでも優しい。


そのどれもが、私のものにはならないのだと分かっているのに愛する事を止められなかった。


他の者の婚約者であれば、どうにか出来るだろうが、相手は兄であり王太子である。

兄との婚約は政略だ。王家と国一番の魔力を保有する公爵家との関係を強固にするためである。



私は彼女が王太子妃教育のために、王宮に通ってくる姿をたまに見掛けるのを何よりも楽しみにしていた。

そんな細やかな楽しみさえも無惨にもなくなったのだ。


どうやら兄は、男爵令嬢のミーナと密会を度々繰り返していた。メリッサを、蔑ろにして・・・。


それでもメリッサは、王太子妃教育を真面目にこなし、

政治や外国語など、沢山のカリキュラムを順調に吸収していた。


ある日の午後、メリッサが王宮の庭園にある東屋で1人で紅茶を飲んでいた。週に一度の兄とのお茶会である。


私は侍女に頼んで私の分のお茶を用意して貰い、椅子に座った。

「兄は何処へ行ったのです?」


メリッサは、微笑むだけで何も答えてはくれなかった。

その日以来、兄は週に一度のお茶会ですらメリッサの事を放置する様になった。


王宮内でも、社交会でも兄がエスコートをするのは噂の男爵令嬢だ。


父である国王に相談をした。すると

「公爵令嬢は王太子妃、男爵令嬢は側室で何も問題はないではないか。」と笑っていた。

その男爵令嬢の振る舞いに問題があるのだが、この人には理解できないのだろうか?。


私は直接兄に苦言を呈する事にした。

「兄上、公爵令嬢であるメリッサより男爵令嬢を優先させるのは、如何なものかと思います。体面的にも、もう少し改善をした方が良いのではありませんか?」



「クロード、私も馬鹿ではない。色々考えているから、大丈夫だ。」兄は面白そうに笑いながら答えた。


その時にもっと話し合えば・・・いや、メリッサと王位を奪えば良かったのだ。


数日後のパーティーで、謂れのない兄の公開断罪が突然に始まった。エロールは男爵令嬢の腰に手を回して引き寄せながら


「メリッサ、貴様はミーナに醜い嫉妬心からイジメを行ったそうだな。頭から水を掛けたり、階段から突き落とそうとしたり。目撃者も居るので言い訳は無用だ。」等と公の場で責め立てた。


「私は何もしていません。」メリッサは凜として答えた。


そして、言ってはいけなかった一言が発せられた。

「ミーナは、私の子を身籠っている。私の子は王族だ。彼女へのイジメは王族への不敬である。」と宣いメリッサを糾弾したのだ。


王族への不敬は、大罪である。


社交の場で始まった追及が、噂を無限に広める事となり、一部貴族からメリッサへ厳しく追及するようにと王に陳情があり、坂道を転がる様に悪い方へと流れは止まらなくなってしまった。


メリッサの父である公爵と対立している派閥の貴族達が、ここに来て幅を利かせて公爵に詰め寄る。

これ以上、王室と公爵の派閥の距離が近づくのを嫌ったからである。公爵を失脚させたいのだ。


公爵は娘のメリッサを激しく罵り、公爵家から除籍すると発表した。

そして国王に魔力の供給をストップする等と脅しをかけてきた。


派閥の争いに、魔力の供給問題。騒がしくなった世間の噂。

事がここに至り状況の悪さに初めて気が付いた王である父と王太子である兄は、メリッサへの処分を私に丸投げしてきたのだ。



そして死罪の執行の日がやってきた。

私は側近達だけで毒杯を牢獄まで持っていき、もう一度メリッサに確認をした。


ガリガリに痩せて顔色も優れない。それでも気品溢れる彼女は、姿勢を正しカーテシをして見せた。

「クロード殿下、私は恥じる行いをしてはおりません。」


「分かっている、貴女が死ぬ事はない。私が何とかするから逃げよう。」

そう言ったが、聞き入れて貰えない。


部下が毒杯を渡すと、彼女はそれを一気に飲み干した。


この瞬間の映像は記録され、クリマ水晶で王国内全土に流された。



口から血を流し、顔色が蒼白く変わっていく。


「死刑は執行された。だが、メリッサ嬢は最後まで『私は何もしていない。』と主張していた。私は王家の名にかけて、この一件をこのままで終わらす気はない。真相を追及するつもりだ。何か手掛かりを知っている者は自ら名乗り出る様に。事件の発端となったイジメや王太子殿下の御子を害した時の目撃者には、後で取り調べを行う。以上だ。」


クロードはそう言ってクリマ水晶の通信を切った。



作戦決行の日まで、後僅かしかない。クロードは、出来るだけ証拠を固めた。神器と魔力の多用は致し方ない。メリッサを追い詰めた奴らには全員地獄を見せてやる。



   ***




今日は王家が主催のダンスパーティーだ。王族、貴族が一同に会する絶好の機会。この日を逃す手はない。今日こそ決着を付けてやる。


ダンスパーティーが盛り上がりをみせる中、王太子は男爵令嬢のミーナをエスコートして入場してきた。

一斉に注目を浴びる中、満面の笑みで

「今日は、皆に発表がある。メリッサの事は大変残念に思うが、私は真実の愛に目覚めたのだ。私はミーナとの婚約を宣言する。」王太子は声高に言い放った。


国王の許可を取ってはいないらしい。父上の動揺が隠しきれていないから・・・やはり、馬鹿王太子だ。



私は人混みを掻き分け、兄の前に進み出る。

「王太子である兄上とミーナ嬢に、お喜びを申し上げます。」


兄と男爵令嬢は、満足気に頷いている。

「クロード殿下、ありがとうございます。」令嬢が一段高い位置から、私に礼を述べた。



「ちょうど良い機会ですので、私から報告がございます。先日のメリッサ嬢の死罪についてですが・・・」



「そんな事は、今話さなくても良いだろう?」と兄が説明を遮ろうとする。



私は両手でパンパンと音を鳴らして、皆の注目を集め困った様な顔で解説を始めた。


「それが・・・今でないと意味がないのです。お集まりの貴族の方達にも聞いて貰いたい。まず、メリッサ嬢は男爵令嬢にイジメを行っていないと最後まで訴えておりました。王太子のいう目撃者に聴取したところ、お金で雇われたと申す者が現れました。」


5人の貴族らが拘束されて跪いている映像が、クリマ水晶から流れた。

「これは、明らかなる不正行為です。誰に金を貰っていたか、追求すべき案件でしょう。」

貴族達の顔が映し出されると、エロールの額からは汗が流れ出ている。



そしてクリマ水晶の画面が切り替わり、3人の貴族令息が拘束されて跪いている。

今度は、ミーナが顔色を変えて小刻みに震える。


「彼らは皆、男爵令嬢であるミーナ嬢と頻繁に身体の関係をお持ちだそうです。ミーナ嬢が身籠っていたとして、はたして誰の子か?そして、王族に対する不敬罪なのですが・・・ミーナ嬢の腹の子が王太子の御子であると、どう証明なされるつもりでしょうか?」



野次馬となっている、噂好きの貴族達がヒソヒソと話しを始めた。男爵令嬢への中傷の言葉だろう。

私は知っている。メリッサにも同じ様に中傷の言葉を投げかけていた貴様達も許しはしない。



「ミーナ、どう言う事だ?」エロールは、絡め取られていた腕を引き離しミーナに詰め寄った。

エロールは顔を歪めて怒りを露わにし、ミーナは俯いて首を振っている。


クロードは、追い打ちをかける様に言う。

「誰の子かも分からないようなら、メリッサ嬢の罪とは一体何ですか?王族への不敬罪とは、王太子の御子に対してですよね?」


そして溜息を大きく付きながら

「愚かな王太子殿下・・・そもそも男爵令嬢ごときに、王太子妃が務まるとでも思っているのですか?」



クロードはゆっくりと首を回し、国王の方へ目を向けた。

「報告は以上です。国王陛下は、どう思われますか?」



「メリッサ嬢は、立派な王太子妃になったであろうが・・・死罪の判決を下したのは他でもないクロード、そなたではないか。」



クロードは目と伏せて一呼吸ついて言った。

「では、わたしが判決を下した理由を申し上げます。」


クロードは便箋を取り出し、読み始めた。



※※※



死にゆく私へ~


私はこの王国の由緒ある大貴族の娘でございます。

貴族の娘に産まれた私の婚姻とは、義務です。王太子殿下との婚約が結ばれた私は

別の方に芽生えた淡い恋心を殺して、王太子妃の教育を受け続けたのです。


愛などを求めてはいけない・・・それは、母国のため。国民のためです。


義務の為の婚約・・・私は王政のお役に、国民のお役に立てるように勉学に励みました。


殿下は、勉学をさぼり、国民の事を露程も考えない、恋愛に溺れて貴族のマナーすら守れない。

何回もお諫め致しましたが、私の事を疎ましく思っていた様です。

そんなエロール殿下の事をお慕いしてはおりません。嫉妬心など芽生えましょうか?


貴族とは王族を支え、国民を守る事を第一とし

王族とは貴族との信頼関係を築き国の繁栄を有事とする。


それが私の考える王族と貴族の在り方だと存じております。


しかし、現状は貴族は派閥を作り私腹を肥やす事だけを考え、王族はその血筋に胡座をかき努力を怠り国政を疎かにする・・・


そしてエロール殿下は今まさに、私を冤罪に落とし入れようとしています。

国王陛下は息子可愛さに見て見ぬ振りをし、公爵である父は敵対する派閥を追い込む事で頭が一杯の様です。


生きて言葉を発しても、誰も私の声に耳を傾けたりはしないでしょう。

王族に、敵対派閥の貴族に、父に。私の声は、闇に葬られてしまいます。


私は死罪を受け入れる事でしか、この国を正しい方向に導く術を持ち合わせてはいません。


どうか私を死罪にして下さい。


そして私の死後に、この手紙を公開して下さい。

死を持って訴える。そうする事で国民にも声が届き、少しは人々が耳を傾けて下さると信じます。


このような方法でしか、貴族の義務を果たせない私を、どうかお許しください。


国民の幸せを心から祈らせて頂きます。


メリッサ·クラウディン


※※※



クロードは震える肩と声を、抑制しつつ手紙を読み終えた。

「メリッサ嬢は、自分の命より貴族の義務を優先させたのです。」



国王は半ば諦めたように息をつき、その場を取り繕う。

「・・・事情は分かった。公爵に詫びメリッサへの罪状を取り下げ、名誉を回復しよう。エロールは廃嫡し、そなたを王太子とする。クロードよ、これでよいか?」



見棄てられそうになったエロールが、慌て口を出す。

「父上、私もこの女に騙されていたのです。」そう言いながら、ミーナを突き飛ばした。



「いいえ、二人とも。それには及びません。こんな腐った王国はこちらから願い下げ致します。馬鹿な王太子と尻の軽い男爵令嬢、誰の子か分らない者が嫡子となり王国を継げばよろしいかと存じます。それでは失礼します。」


クロードは、立ち去りかけて足をとめた。

「あっ、私は母から受け継いだ心眼と邪眼の両目と神器を持っております。無駄な抵抗はお控え下さい。まぁ今ここで、殲滅しても構いはしませんけど。」


と言って改めて一礼をして、会場を後にした。


パーティーの様子はクリマ水晶を通して、全国に流れておりメリッサ嬢への同情の声が沸き、王族貴族への批判の声が響いた。




クロードは側近の数人だけを従えて、馬を走らせた。

隣国ブルー二ティ帝国から公爵として受け入れられる手筈は、整っていた。


ブルーニティには、以前留学をしていた時に親友となった皇太子がいる。

クロードが自ら国を裏切るのだ。ブルーニティからすれば、迎え入れる事は当然の事であった。


噂に高い政治手腕。高い魔力とその両の目、神器の後継者。何より国交流により、重ねて来た信頼。

ブルーニティでなくても、喉から手が出る人材である。


宿も休憩も取らずに、馬を走らせ続けた。もう少しで辿り着く、私の新しい人生に。


ブルーニティの治める領土に入り、予め準備をしていた邸宅へと着いた。息を飲みながら、扉に手を伸ばす。



静かに扉が開かれると、待ち構えていた侍女達が迎えてくれた。

「お帰りなさいませ。ご無事でいらっしゃいます。」


侍女の視線の先を辿ると・・・そこには、メリッサの姿があった。




数ヶ月間に渡り、クリマ水晶で母国の様子を窺った。


男爵令嬢は、家族連座で死罪になった。国民中の非難を浴びながら。


国王とエロールは、毎日貴族達から糾弾されている。王国一番の魔力の持ち主である私と神器を失った事。その前にはエロールの真実の愛など、大したことは無かった。


王族の権威は失墜し、失態がクリマ水晶で全国に流された今、エロールが婚姻を結ぶことは不可能であろう。



もちろん、貴族達も無事では済まされない。国民が蜂起し、領土の方々で内乱が起こっている。

メリッサの愛した善良な国民を救う為に、陰ながら支援する事にした。


「王族が倒される日も、近いな。」

クロードは吐き捨てる様に言って、クリマ水晶の通信を切った。



あの日死罪のメリッサに飲ませたのは、仮死状態になり、副作用で記憶を失う特別に調合させた薬だ。


メリッサを諦め切れなかった私は、母国と家族を捨てた。



記憶の無いメリッサには、私達は幼友達で高熱により倒れて記憶を失ったと説明をした。

共に両親を亡くし、2人で生きて来たのだと。



私は助けて貰った、ブルーニティ皇太子殿下の片腕として皇帝宮に勤めている。

今のところ、両目は封印しているが・・・魔力と神器の後継者として毎日忙しくやっている。


メリッサに日常生活の不便は無く、一生懸命に修得した貴族のマナーや3カ国語も記憶にある。

母国で起こった事だけが記憶にない。


ブルーニティに移住してきて1年・・・

この国での社交界からも受け入れられ、最近はメリッサの笑顔も見られる様になった。


だから、今日から2人の楽しい思い出を作る。


いつの日か、私がプロポーズをした時に・・・私の愛を受け入れてくれる事を願いながら。




= = 完 = =




ラストシーンはどうしても悲恋で終われませんでした。未熟者で申し訳ない・・・


ブクマや☆いいねを付けて下さると、我は嬉しくて夜中に踊り出します。

誤字脱字報告もありがとうございます。

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