第7話 不運、豪運、時計
事の顛末はこう。
感情が最高潮に高ぶっていた俺達は、勢いそのまま建物の入り口まで競争をしていた。
そしたら、ユメルが些細な段差で転倒し、それに連なって俺も転びながら足元にあった小石を蹴ってしまい、それがたまたま空を飛んでいた鳥のクチバシに挟まった。
その鳥は、しばらく悠々と小石を運ぶと不意にクチバシを開き、その口からぽろりと小石を零れ落とした。
運が良いのか悪いのか、その鳥が落とした場所は鈍い音を鳴らして動いていた大きな時計の真上であり、丁度良い角度でその時計の中へと入ってしまう。そして結果的に、その小石は中の歯車が噛み合わなくなる原因となってしまい、機械の歪な金切り音がほのぼのとした空間に響き渡ったその瞬間、時計が落下して部品が散り散りとなった。
まぁ……うん。つまり、間接的に俺達が壊したということ。
ただ、これは不可抗力と言うべきか……なんというか、不運すぎる!!
「えっと、やっぱり……入学拒否とか、そういうことになってしまうのでしょうか……?」
「うーむ……」
俺とユメル、レイジュード校長との間に不穏な沈黙が流れる。
「君達が起こした今回のことについてだが……」
「は、はい……」
レイジュード校長は、ふぅーっと少し長い溜息をついた後、椅子に深く腰をかけて、
「今回のことについては、不問という決定にする」
「それは、つまり……」
「我が学園へようこそ、高みを目指す若人よ」
「「よかったぁ……」」
俺とユメルは、意図せずとも声が重なり、心の底からの安堵の嘆息をつく。
「今回は目撃者が複数いて、君達が故意じゃないことは調べがついている。まぁ、入学早々に、ちょっとばかし目立ちすぎているとは思うがね」
「はい……。まさか、僕が転んだことが原因で、あんな大きい時計が落ちるとは思いませんでした……」
ユメルは肩を竦めて落胆する。
「ある意味奇跡かもしれないな。それにこれは、同伴していたにも関わらず学園内を走らせたあやつにも責任があるといえよう。うむ、改修費の半分はファルネスの給料から差し引くか」
「いえいえ!ファルネスさんは全く悪くないです!全て僕が転んでしまったのが原因ですし……」
「あやつには、これから教師として生徒を導く立場という自覚が足らなさすぎる!全く、あやつに教師をさせるなど、本部は何を考えているのやら……」
「えぇ!?ファルネスさんが教師ですか!?」
「なんだ、そのことも聞いていなかったのか。それならどうして、あやつと行動を共にしていたんだ?」
「それは、たまたまここに来る途中に出会って……」
学園に入って早々から波乱万丈すぎて俺の心と頭が全然追いついていないが、あの二人がこの学園に用があるって言っていたのはこういうことだったのか。
「君、リオ・ラミリアと言ったね?」
「は、はい」
レイジュード校長は眼鏡をかけ、じっと俺のことを——まるで珍しい生き物を観察するかのように眺める。
「な、何か?」
「……偶然では、なさそうだな。いや、こちらの話だ気にしないでくれ」
「そうですか……」
「それで、君がユメル・ログジェッダだね?」
「はい……」
「そうか。それと、件の時計を壊した話だが、不問にはしたが罰を与えなくては他の者達に示しがつかん」
「それは……はい。してしまったことの重さは重々理解しているので、どんな罰でも受ける覚悟です……」
「そんなに畏まらんで良い。なに、簡単な話だ。明日から一ヶ月間、毎朝交代交代で学園入口の広場を掃除しなさい」
「え、そんなことで良いんですか!?」
「あぁ。しっかり頼むよ」
「ありがとうございます!毎朝の掃除、誠心誠意頑張らせて頂きます!」
俺とユメルは、レイジェード校長の寛大な心に感銘を受け、深々と頭を下げる。
慣れない生活が始まる中で毎朝の掃除は少し大変かもしれないが、この学園に入れなくなるよりは全然マシだ。
「うむ。話はこれで終わりだから、もう行っていいぞ」
「はい」
レイジュード校長はそう言うと、すぐに自身の仕事机へと向かい始める。その様子を確認した俺とユメルもすぐに立ち上がり、扉の方へと進んだ。
「では、失礼します」
一礼し、ゆっくりとドアを閉める。
そして、しっかりと閉め終わったのを確認するや否や、
「はぁぁぁ!緊張した!」
「……リオ。僕は、絶対に終わったと覚悟していたよ……」
「うん……俺も。ひとまず収まってよかった。本当に」
二人顔を見合わせ、方の力を抜く。
ユメルに至っては、その場でへたりと座り込んでしまっていた。
「つ、疲れた……ゆっくり休みたい……」
「じゃあ、そろそろ当初の予定の寮に行くか」
「そうだね。色々ありすぎてもう既にくたくただよ……」
「ここの寮のご飯、めっちゃ美味しいらしいぞ?」
「本当!?それは楽しみすぎる!!」
しかし、和気あいあいと寮に向かったものの、時計を破壊してしまったことが寮母さんまで届いており、結局その日の晩飯は抜かれてしまった。
こうして、滅茶苦茶な学園初日は、空腹にすすり泣きながら終了することになった。