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第62話 神剣ミラファルア

「この街……全て?」

「……とりあえず状況を整理しよう。自分を責めるのは後だよミラ。一回座って今からの算段を話し合おう」

「え、えぇ……」


 完全に意気消沈しているミラさんは、暗い表情のままヨロヨロと立ち上がり、ファルネスさんの横の席へと腰かけた。


 それを見ていた俺とネルウァは、ミラさんの初めて見せる弱々しい姿と、ファルネスさんの言ったあまりにも突飛でスケールの大きすぎる一言に唖然としながらも、その言葉の続きを待った。


「何となくは察しが付くけれど、まぁ簡単に。街の人間……いや、ヴィランに誘い込まれたんだ。そうだろ?ミラ」

「……えぇ、まんまとやられたわ。正直、私がいるから大丈夫と高をくくっていたの。でもそれが間違いだった」

「誘い込まれた?何で街の人間が?言っている意味が全く──!?」


 二人の深刻な表情に事態の重篤じゅうとくさは容易に伺えたが、それでもなお淡々と話すことができるのは、今まで培った経験があるからなのだろう。しかし、頭の中が真っ白で狼狽えることしかできない俺に状況の整理など付けられるはずもなく、手先の震えを抑えながら二人が言った言葉を重複してしまう。


「それよりこんな所で話し合ってる場合じゃないですよ!!早くあの二人を助けに行かなくちゃ!!」


 理解のできない状況の予想し得る最悪のシナリオに恐怖し、俺は立ち上がって感情のまま動き出そうとする。するとファルネスさんが、軽く、だが力強く腕を引っ張りその場で制止させられた。


「何ですかファルネスさん!?早く……早くしないとあの二人が!!」

「待つんだ。一回落ち着け」

「そんな呑気なこと言ってられないじゃないですか!?」

「待てと言っているんだ!!」


 唐突に部屋に木霊したファルネスさんの芯の太い声音によって、ぐちゃぐちゃに混濁していた意識はまとまりを見せ、俺はふと我に返った。


「これは敵の罠だ。何の考えもなく、全員が状況を把握できていないのに敵地に突っ込んで何が残る?最悪──いや、当然のように皆が殺されて終わりだぞ」

「そ、それは……」

「困惑する気持ちは良く分かる。ただねリオ君、今も実際の戦場も焦って生き急いだ奴から死んでいくんだ。助けられたはずの命も、君が冷静さを欠いたせいで取りこぼしてしまう。シエラ王女とアリシア君を救いたいのなら、今は様々な感情を押し殺して俯瞰的に状況を見ろ。衝動では、殺すことはできても助けることはできない」


 しっかりと俺の瞳の中心に視線を据えたファルネスさんは、諭すような落ち着いた声音で言葉を並べる。ただの空気の振動であるはずのその言霊は、今の俺には重い鉛のようにズシンと肩にのしかかった。


「……はい。すみません」

「よし。それでこそ私の教え子だ。それじゃあ話を戻す。今さっき、一通の便りがこの家に届いた。それがこれ。ネルウァ君、これを開いて読み上げてみてくれ」

「はい。分かりました。えっと、『憎き妖精エルフの王女とその従者である赤髪の少女は預かった。この二匹の命が惜しければ、日暮れまでに指定された場所まで来い。ただしあまり待たせるなよ?気分によっちゃ日暮れ前にコイツらの首を撥ねて奇麗な体を家畜共の餌にする』。何とも汚らしい文章だな」


 一枚の古びた紙を手に取り、言われた通りそのまま読んだネルウァは、頬を歪ませ嫌悪の表情のまま吐き捨てる。


 想像しただけでも吐き気が出そうな安い脅し文句に、俺は抑えていた殺意が再び溢れ出て、奥歯を噛み締めながら口を開いた。


「……ッ!コイツ絶対に殺すッ!!」


 それを聞いたファルネスさんは一度頷きながら、ネルウァが持っていた挑発文を突き刺すような目線で凝視する。


「あぁ、絶対に殺そう。関わった者は総じて生かさない。ただ──」


 そこまで言って、まるで苦虫を潰したかのような表情でにミラさんと顔を合わせた。


「……ただ?」

「ただ……この救出任務は全員が限りなく死に近いものになるだろうな。リオ君とネルウァ君は、私とミラが夜な夜な外出していたことは知っているね?」

「はい」

「実はあの時、敵の──魔族の巣窟、つまり敵の拠点を探していたんだ。ここに記載されている貯水も調査した」

「貯水をですか?」

「あぁ。この街の水道は何区画にも分岐されていて、それぞれの貯水が一定の区域の水として供給される仕組みでね。例の流行り病の感染域を調査した時に規則性というか、水が供給されている区域事の感染者のまとまりに気が付いたんだ」


 水が供給されている区画事の感染者のまとまり?つまり、あの感染病は自然的ではなく故意的に、それも誰に感染させるかを意図した上で流行させたということか?でも一体それに何の意味がある?それをやったところで、娯楽都市として栄えてるテオドシウスの評判は地の底に落ちるだけじゃないか。そもそも、それを魔族がやっていたとして、気付いた住民が対魔本部ジェーラメントに報告すれば──


「……まさか」

「理由は直接本人達に聞かないと分からないが、間違いなく言えることはヒューマンと魔族が結託しているということ。それに──」


 ファルネスさんがそこまで言ったところで、宿舎の窓が盛大な破裂音とともに砕け散る。外には、完全に自我を失っている見た目は人間の化け物が。


「とうとうおでましか。この話の続きとあの二人が連れ去られた経緯は後で聞こう。今は武装できない君達がここを離脱するのが先だ。私とミラが退路を開くから、全力でここから逃げるんだ。良いね?」

「そんなっ!俺達も戦います!」

霊剣抜刀エティソールできない君達に何ができる?今は生きてここから離脱するのが優先だ。さっきも言ったけど、戦場では絶対に理性を欠くなよ?生きて王女に会いたかったらね」

「……分かりました。ここの戦闘は、お願いします」

「心配しなくても、君達には魔族との戦いで大いに暴れてもらうさ。その算段は何となくだが立てているしね」


 そう言って踵を返し、片手を大きく開いたファルネスさん。そして、


「さぁ開戦だ。私と、私の可愛い教え子に刃を向けた者は誰一人として生かさない。それが魔族でも……ヒューマンでもね。行くぞミラ。霊剣抜刀エティソール、神剣ミラファルア」

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