第58話 アリシアとの抱擁
長らくお待たせしました。いえ、待たせすぎたのかもしれません。
えっと、はい。全く更新できずに申し訳ありませんでした!!
更新再開します!!
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「リオさん。今少し……お時間良いですか?」
テオドシウスに訪れてから数日間が経った、静かさに耽ったある夜。
どうしても読みたい本があった俺は、シエラの就寝の邪魔にならないようリビングで小さな明かりを灯しながら読書をしていた。
そして、しばらく長々とした文字列を目で追いかけて、眠気が徐々に襲い掛かって来ていた頃合いに、本を置いてぼーっとしていた俺の元へとやって来たアリシア。
いつもは両側を編み込んでいる髪の毛は、ゆったりと下ろされており、何かと新鮮味を感じる寝間着姿をしている。
「起きてたんだ」
「はい……何だか、眠れなくって」
「たまにあるよね。そういう夜」
「はい、時々。あの……お隣座っても?」
「もちろん」
湯気が立っている二つのコップを手に持っていたアリシアは、一つを俺の前に、もう一つを自身の前に置いて、隣の席に腰を下ろした。
アリシアが持ってきてくれたのは温かい紅茶のようで、甘さの中にいる深みのある苦さが、この時間帯には丁度良い。
「ふわぁ……温まります」
「これアリシアが入れたの?凄く美味しい」
「はい!お口に合って良かったです!」
互いにカップを啜り、ふぅーっと一息つく。
俺は開きっぱなしにしていた本を閉じて隅に置くと、それを見ていたアリシアは興味深そうに覗き込みながら口を開いた。
「この時間まで読書をしていたんですね」
「うん。今日たまたま見つけた本なんだけど、これが意外に面白くてさ。続きが気になりすぎて眠れなくなっちゃって」
「ふふ、可愛いです。でも凄いですね!あたしがこの時間に読書を始めたら、十秒位で意識が落ちる自信がありますもん」
微かに頬を緩めて笑みを浮かべるアリシア。
薄明りに照らされたそのはにかみに、心なしかドキッとしてしまう。まぁ、純粋に可愛らしすぎるその笑顔に中てられれば、誰だって心臓が跳ねてしまうだろうが。
「アリシアは……何か、心配事とかで寝付きが悪いの?」
「うーん。心配事っていう訳では無いのですが、時々実家での記憶を思い出しちゃうんですよね。本当に情けない話ですが、とっても孤独を感じてしまって震えが止まらなくなるんです」
口調は柔らかく自嘲気味に話すアリシアだが、その手先は小刻みに、だが確実に震えていた。
この時間に襲ってくる孤独というのは、非情で異様に質が悪く、もう自分の中だけで完結できない程に心が蝕まれてしまうもので、きっとアリシアは居ても立っても居られなくなってしまったのだろう。
だが、同室にいるネルウァを起こすわけにはいかず、取り敢えず部屋を出てみたら、偶然俺がいたという所だろうか。
「……そっか。嫌だよね、独りの夜って」
「……はい。とっても……とても」
ほんの少し、どんよりとした沈黙がこの場を支配する。だが、この雰囲気には特に居心地の悪さは感じない。
「……失礼かもしれませんが、リオさんは、何かあたしと近しいモノを感じます。だから、色々と話してしまうのでしょうか」
「それは……信用されてるって捉え方で良いのかな?」
「そうですね。あたし自身が知らずの内に、心を開いているのかもしれません。こういう感覚、初めてなので良く分かりませんが……」
昼間に見ているアリシアの姿とは少し違う、赤髪の妖精の側面を目にし、俺は言葉に詰まってしまう。
きっとそれは、信用とか信頼とかそういう類の綺麗なものとは違うから。言うなればそう、依存に近いような。
だがまぁ、親近感という部分では確かにそうなのかもしれない。詳しい事情は知らないが、今までに聞いた断片的な情報から推定しても、幼少期からどうにもならない生きづらさを抱えていたのは明白で、ずっと心に隙間を空けながら見て見ぬふりをしていたのだろうから。そういう意味では、まぁ、
「……似てるの、かもね」
それ以上は、言葉が出ない。
アリシアは控えめに小首を頷かせると、俺の方へと体を向け直して、
「あの……リオさん。変な事……言っても良いですか?」
「……うん。まぁ深夜だし」
「あたしのことを……その、抱きしめてくれませんか?」
「…………随分と話が飛躍したね」
俺自身も、夜の魔性に支配されている一人なのだろう。こんなことを突然言われれば、いつもなら頓狂な声をあげて驚いているところだ。
しかし、頭は妙に冷静に、それでいて通常に働いている。
俺も、頬を紅潮させているアリシアの方へと向き、いつも通りの平坦な声音で尋ねた。
「大分突然だけど、どうしたの?」
「理由は……眠れないからってことじゃダメでしょうか?そうですね、後は深夜の──この時間帯のせいです」
「……なるほど」
「むー、納得しないでください。あはは……もう、あたしったら何言ってるんだろう。ごめんなさい、今のは忘れ──────」
アリシアの言葉の途中、俺は既にその華奢でいて柔らかな身体を、ぎゅっと抱擁していた。半分意識的、半分無意識といったこの行動。正直、善意なのか自分がそうしたかったのかさえも良く分からない。
最初こそ肩をビクッとさせて硬直していたアリシアだったが、次第にその細い腕を俺の背中に回し、結局は力強く──それこそ、じゃっかんの痛みを伴うほど抱きしめている。
時間としては数十秒いかないくらいのものだったが、その間相手の心臓の鼓動、体温、呼吸の音、様々なものが伝播されてきて、『生きていること』をそれによって実感させられる。
「えっと……その……、ありがとう、ございました」
少しずつ密着した身体を離していくアリシアは、表情を見られたくないのだろう、俯きながらお礼を口にした。
「アリシアはさ、もう寝るの?」
「……まだ、って言ったら?」
「少し夜風に当たりながら話さない?真夜中の誰もいない街路、昼間とは結構見え方が違ったりするんだよ」
「……良いですよ。外、出ましょうか」
そう言い、俺よりも一足先に立ち上がったアリシアは、颯爽と玄関から出て行き、俺もそれに追随するように後を追った。
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新しく連載を開始した属性反転×VTuberラブコメ『清楚な幼馴染が突然ギャルに、ギャルな先輩が急に清楚に。』もご一緒によろしくお願い致します!!!
両作品とも、全力で力を注いでいきますので、作品のフォローと★での評価、何卒よろしくお願いします!!
2022年、境ヒデリの執筆活動、本格的に復帰します!!