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第53話 Shall we Dance

「よく来てくれた。ここがテオドシウス随一の舞踊会場である『中央ラジウム』。今夜はこの街総出のパーティーとなっているが、この会場に踏み入っているのは基本的に貴族や政界で広い顔を持つ方々だ。とは言え、変に気を遣って肩肘を張らなくて良い。気楽に楽しみたまえ」

「は、はぁ……ありがとうございます」


 空もすっかりと暗くなり、綺麗な星々が天空で自分自身の存在を主張するかのように輝きを放つ頃合い。


 片手に赤ワインをいだグラスを掲げているミルザさんは、含みのある文言を残して会場の中へと進んだ。


 言い方的に、気楽とは言いつつも絶対に粗相は起こすなという強い意志を感じるが、このメンバーの中に何かしでかしそうな者など──


「リオ君凄いぞ!この中には最高級の料理とか、美人で超お金持ちな女の人とか!!テンション上がるなー!」


 確かに一人いた。しかも俺の真横に。


 妙に目を輝かせてテンションを上げているファルネスさんは、無邪気な子供のように俺の肩をグワングワンと揺らしながら見るからにはしゃいでいる。


「今言われたばかりじゃないの。絶対に中で騒ぐなって」

「……?ミルザさん気楽に楽しめと言ってただろう?何言ってんのミラ」

「?じゃないわよ。時々思うけど、アンタって頭が良いのか悪いのか良く分かんないわよね」


 俺やシエラ、アリシアが個室露天でわちゃめちゃとしていた間にテオドシウスに到着して無事合流を果たしたミラさんは、心底不思議そうに小首を傾げる。


「私は頭良い方だろ。学生時代も座学で学年一位だぞ?」

「そういうことじゃないんだけど。ていうか、何かその時のこと思い出したら段々イラっと……」

「そういえばお前ずーっと二位だったな。毎回私に嚙みついてくる割には一度も勝ててなかったし。涙目でイジけ散らかしてた時の顔はそりゃもう傑作だったわ」

「あー……ダメよアタシ落ち着きなさい。ここでコイツを蹴ったらアタシが変なエルフだと思われちゃうわ」


 息をスーッと吸い込みながらゆっくりと深呼吸するミラさん。これだけ美人な妖精エルフが街中で喚きながら蹴り上げてるその姿はイリグウェナでも割と目立っていた気はするが、ここで余計なことを口挟んだら俺が殴られそうなので何も言わないでおこう。


 てか、サラッと流してたけどこの人達座学で学年一位と二位だったの!?フィルニア学園の座学ってそもそもが難しい上に、他の生徒も有り得ないほど秀才が多いから、真面目な話全部が百点とかそれに近くないと一位二位は無理だぞ!?


「ファルネス先生とミラ先生は勉学も出来たんですね。さすがです」


 俺が心中で愕然としていた内容を、さらっと口に出すシエラ。


 それを聞いたファルネスさんとミラさんは、特に表情に機微がないまま、


「まぁ授業聞いてたら覚えるからね。シエラ君だったら余裕で首位取れると思うよ」

「そうね。ちなみに、契約ペアで順位が三十以上離れていたら、牢獄みたいなところに閉じ込められて三日間くらい補修させられるから頑張らないとね、リオ君?」

「そうだったんですか!?……まぁでも、シエラが順位を下げてくれれば……」

「いやよ!私は勝負事には常に全力を尽くす主義なの!」

「ですよねー。せっかく娯楽都市来てまで嫌なこと考えたくないので、早く行きましょう。ほら、ミルザさんも待たせていることだし……ね?」


 このまま話を続けているとせっかくのパーティーを葬式のような顔で過ごすことになってしまいそうなため、頬を歪にゆがめてむりやり笑顔を作った俺はファルネスさんの背中を押し先をかさせた。







 貴族や政界の人間が集まる場所なだけあって、『中央ラジウム』という名の舞踏会会場は豪奢で飾り付けすぎなくらいに華やかな空間となっていた。


 金色の装飾品に取り付けられた蠟燭ろうそくが灯した明かりが、塗装を施されたつやつやの床に反射し、壁沿いにはたくさんのテーブルに並んだ豪勢な食事が美しく盛り付けられている。


 空間の大半が開けた場所となっており、その理由は当然踊りを踊るためなのだろう。実際に今も、オーケストラの一団が奏でる生演奏に合わせて、何人もの男女が密着しながら体を揺らしている。その誰もが、派手かつ美麗なドレスや、ピシッと卸されたタキシードに身をくるんでおり改めて住む世界が違うなと実感する。

 

 中の賑わいに居心地の悪さを感じた俺は、貸し出しされたタキシードの襟を直しながらドレスを着用しに行ったシエラの帰りを、夜風の風当たりが良いこの街が一望できるテラスで一人ぽつんと待っていた。


 テオドシウスの明るく照らされた街並みと、忙しなく動いている人々を薄目でぼーっと眺めていると、背後からカタッカタッと固い音が聞こえてきた。


「ごめんなさいね。お待たせしてしまって」

「……ッ!」


 振り返るとそこには、純白のドレスと花の髪飾りを身に纏い、煌びやかな金色の髪を揺らした王女の姿が。眩く光を反射させるその白いドレスはまるで、シエラ自身が光源となって輝きを放っているのかと思うくらい神聖なもののように感じ、絶世の美しさ過ぎて目が離せず言葉が出ない。


「…………」

「あ、あの。似合ってなかったかしら?」

「…………」

「もしもーし?」

「……だハァッ!!はぁ……はぁ……ごめん、呼吸忘れてた」

「呼吸忘れるって何?」

「それくらい美しいってことだよ。本当に綺麗だ。宝石みたい、いいや、それ以上に」

「ほ、本当!?嬉しいわありがとう!」

「やっぱりシエラって神様だよね?俺が初対面で言ったこと間違ってなかった!」

「それだけは断固として否定するわ。神様ではないもの」


 呼吸を荒くした俺を見ながら屈託のない満面の笑みを浮かべるシエラ。


 この笑顔が他の誰でもなく俺だけに向けられているのが何よりも嬉しいが、シエラにその余韻に浸らせてくれる様子は無く、自身の手袋を着用した左手を俺の前に差し出し、


「リオ。私と一緒に踊らない?」

「いやでも、踊りの経験とか全く無いよ……?」

「あら、私を誰だと思ってるのかしら?相手をリードしながらダンスをする技術くらいお手の物よ!……それとも、女の子にリードされるのは嫌かしら?」


 シエラにリードされるのが嫌?そんなわけがない。もちろん出す答えは一つ。


「喜んで」


 差し出された左手をそっと取り、俺とシエラは音楽と話し声が支配する室内へと入って行き、シエラの動きと掛けてくれる声に沿って見事一曲が終了するまで踊りきってみせた。ただ、踊っている最中の記憶は、ほんのり火照った頬と瑞々《みずみず》しい唇、凛とした碧眼の彼女に目が釘付けでほとんど覚えてないのだけれども。

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