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第48話近代都市テオドシウス

 手綱を引かれた馬は長々と歩き続けていたその足を止めて、馬車の揺れがピタリと止まったのを確認した御者のおじさんが、こちらを覗き込みながら「到着しましたよ」と声をかけてきた。


 一番出口に近い場所に座っていた俺から順々に立ち上がり、一人、また一人と馬車から降りていく。ちなみに、ミラさんは盗賊の件での後処理があるとのことで、方法は良く分からないが後々合流するらしい。


「ようこそ、テオドシウスまで。歓迎するよ対魔族本部ジェーラメントからの使者の方々よ」


 俺達が降りてくるのを見計らって、数人いる群の中から無精髭を生やした茶髪の男が前に出てきて、軽い会釈を済ませる。


「お久しぶりです、ミルザさん。遅れましたが、都市監督ワーデンのご主任おめでとうございます。しばらくテオドシウスにお世話になりますね」


 ファルネスさんはこの茶髪の男──ミルザと呼ばれた人物と知り合いだったらしく、会釈を返しながら互いに握手を交わす。


「そうか、ファルネス。君は前都市監督(ワーデン)と交流があったんだったな。あの人は、とても気が良い人でまるで親父のような存在だったよ。必要不可欠な存在を亡くしてしまった」

「そう、ですね……あの方も、例の疫病で……?」

「あぁ。原因が分からないあの疫病には我々も困り果てていてね……それより、後ろの生徒達のあの格好は?」

 

 ファルネスさんの後ろで佇んでいた俺達──特に、契約者エティソスの二人を見ながら怪訝そうにそう訊ねるミルザさん。まぁ、純白で丁寧に仕立てられたあの制服が、こんなにも赤黒く汚れているのだから当然と言えば当然だが。


「いやぁ~、道中で厄介なのに絡まれましてね。臭いも気になるだろうし、彼らを早く宿舎で着替えさせてやりたいんですよ」

「あー……なるほど。それはまた気の毒に」


 何の臭いか……そこにはあえて触れず、微笑を浮かべながら答えるファルネスさん。ただ、妖精剣士シェダハであることや俺達の表情、血液特有の色から察したのだろう、合点がいったようで何度か頷きながら身を翻した。


「じゃあ早速、用意した宿舎まで案内しよう。対魔本部ジェーラメントからの支給物資もそこに揃えてある」


 そう言い、街中へと続く橋を歩いていくミルザさん。そこに追随して俺達も、指定危険区域の狭間に位置する娯楽の都市──テオドシウスへと足を踏み入れた。






 都市として名前を馳せ始めたのが、ここ数年という割かし直近なのもあり、テオドシウスの街並みは近代的な様相を呈していた。


 白く塗られた外壁に囲まれた建造物は、シンプルな四角柱ながらもその屋根が鮮やかな赤褐色や水色で彩られており、取り付けられている窓の数が非常に多いのも特徴的だ。一つ一つの建物が比較的大きく、それらがズラーっと規則的に並んでいるその光景は迫力と何とも言えない美しさがあった。


 大半が商館や観光者向けの施設の中でひと際目立った尖塔の縦に長い建造物もあったりと、見栄えが最高なこの場所がイリグウェナよりもずっと危険な位置に存在している街だとはとても思えない。


「もっと閑散かんさんとしてるものだと思ってましたが、相変わらずの賑わいを見せているんですね」

「いやいや、これでも大分人の数は減ってしまったがね。ただ、感染者をリスト化して調査してみたところ、短期間の滞在をする者──つまり、観光者にはほとんど感染していないことが判明したんだ」

「……それは、この街の人々や長期滞在者にのみ発症が見られるということですか?」

「そういうことだ。我々がそれを公に発表してからは、こんな感じで戻りつつある。その様子だと対魔本部ジェーラメントから聞かされていなかったのか?」

「恐れながら、初耳です」


 長期滞在者にのみ発症が見られる疫病であり、おそらく今までに前例のない病状。しかし、分かっているのはそれだけで、原因もその理由も追及できていないと。仮に魔族が関わっているとして、わざわざこんな厄介な手法を取る理由とは。いや、それ以前に、魔族がもたらした疫病によって────


「……リオ?」

「…………ん?」

「何だか、体調が悪そうだったから……」

「あぁ、いや。大丈夫だよ。ちょっと疲れちゃって」


 隣を歩いているシエラが、不安気な声音で小首を傾げる。俺は口角を上げて平然を装ってみたが、シエラの変わらず憂いを帯びた表情を見る限りあまり意味はなかったようだ。


 考えれば考えるほど極端に悪い方に傾いていく思考を閉じて、華やかな街並みの空虚に一つ、息を吐きだし嘆息をもらした。


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