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第45話人を殺すこと

「……盗賊?」

「は、はいっ!!二十人以上の大勢に囲まれています!!しかも、あの顔ぶれは、手配書で懸賞金を懸けられている極悪な連中ですよ!」

妖精剣士シェダハを乗せた馬車を狙うなんて、運の悪い哀れな盗賊もいたものね」

「なるほど。ヒューマン、か」

「さっさと追い返しましょうファルネス。こんなとこでノロノロしてられないわ」


 平然とした表情で言い立ち上がるミラさん。


 しかし、ファルネスさんは依然動き出す素振りを見せず、顎に手を置き何かをじっと考えていた。


「……何してるの?ほら、早く行きましょう」

「いや待て。よしっ、この盗賊の一派は君達がやるんだ。対人間の戦いは……おそらく初めてだろう?」


 座って様子を伺っていた俺やシエラ、アリシアやネルウァさんに視線で合図を送るファルネスさん。確かに、妖精剣士シェダハと普通の人間じゃ地の戦闘力が雲泥の差だが……


「あなた、本当に生徒達にやらせるのッ!?別にそれ今じゃなくても……」

「いや、良い機会じゃないか。相手は何人もの尊い生命を奪ってる極悪人間。ヒューマンの敵、ほぼ魔族みたいなもんだ」

「ッ!で、でも……ッ!」


 ミラさんの表情が歪む。その顔には様々な感情の色が垣間見えたが、どうしてミラさんがここまで引きつった顔になっているのか理解が出来ない。


「大丈夫ですよミラ先生。ボク達が追い払ってきますから」


 見かねたネルウァさんが前に出て進言する。


 皆がそれに同意を示す仕草を見せる中、ミラさんは「そういうことじゃなくって」と弱々しく呟き、ファルネスさんは訝し気に首を捻った。


「追い払う?」

「はい。ボクとリオ君が霊剣抜刀エティソールした状態で出て行けば、さすがに愚かな盗賊とは言え恐れおののいて逃げていくでしょうし」

「いや?君達には外に出てから瞬時に霊剣抜刀エティソールしてもらう。そして、外にいる盗賊たちを一人残らず《《抹殺》》してきてくれ」


 ────抹殺?霊剣抜刀エティソールして、皆殺し?


「…………今、なんて?」

「一人残らず殺すんだ。逃がすことは絶対に許さない。もし一人でも逃がした場合、四人とも全員指揮官への背信として学園に強制的に帰還してもらう。つまり、合同実習任務アルフィビガンからの離脱。退学だ」

「ちょっと待ってください!相手は生身の人間ですよ!?それではまるで……」

「まるで、虐殺だと?そう言いたいのかい?リオ君」


 あまりにも突然な指示に声を上げたが、言おうとしていたその言葉を冷淡な声音で聞き返されてしまう。俺はゆっくりと頷くが、


「だとしたら、『殺す』という行為に関しては魔族も変わらないだろう。ただ、人類は倫理や戒めによってそれを同種に対して行っていないだけ。君は、魔人を斬った時にも同じように躊躇したのかい?」

「そ、それは……」

「しかも、外にいる彼らは何人もの罪なき人々を殺して生計を立てている者達だ。魔族と何が違う?」

「ですがッ!それでも彼らはヒューマンです!」

「なら、何もしなきゃ良い。その代わり私もミラも一切動かない。だが、殺す気が無いのに霊剣抜刀エティソールするのは絶対に許可しない。あれは、殺す力だ。脅す力じゃない」 

「しかしそれでは、逆に襲われてしまうのでは……」

「仕方ないだろう?君達の選択じゃないか。生かす者を選択する力があるというのに、その使い方を分かっていないんだから」

「……ッ」


 退学したくなければ盗賊を……人間ヒューマンを殺せと、そう迫られこれ以上の言葉が出てこなくなる。いや、頭の中では分かっているんだ。ファルネスさんの言っていることは間違ってないと。だけど、俺の中の理性が踏み込もうとしているその選択に、危険を知らせている。そこを越したら、もう戻れなくなると。


「ほら、早く決めるんだ。急がないと、そろそろ盗賊が乗り込んでくるぞ?」

「俺は……俺はッ!」

「いきましょう!もしここで逃がしても、新しい絶望が生まれるだけです」


 奥歯を噛み締めながら言いよどんでいると、この重い沈黙に大穴を開けるように言い放つ声が。


「アリシア君はこう言ってるが……君達はどうするんだ?」

「もちろんボクは、アリシアと一緒に戦います」

「私は、リオの決定に従います。妖精剣ヴィンデーラとして」


 この選択に拒否権なんて毛頭ない。いや、ファルネスさんはここにいるメンバーが確実にこの選択を取ると踏んで投げかけてきたのだろう。


 思えば、そもそも合同実習任務アルフィビガンでさえ選択権なんてものは無かった。


「俺も……戦います。盗賊を、殺します」


 甘い考えを捨てきれない俺は、ここでコイツらを逃がしたら他に悲しむ人が出てしまうから、という大義名分でしか動けないけど、それでもやるしかない。


「じゃあ、外に出て霊剣抜刀エティソールした後、対象の殲滅を。初めての任務を与えるよ」

「……はい」」


 こうして、俺達は馬車の外に出て行った。




 *




「ねぇ、やっぱりあの子達にはまだ……早いんじゃ」

「知ってると思うが、魔族と生身のヒューマンやエルフを相手にするのとじゃ失うものが違う。魔族と戦った時失うのは自分の命。生身の生き物と戦った時失うのは、今までの価値観と甘え。これから向かうのは、ほぼ確実に魔の手に落ちた街だ。むしろ、今でないといけないさ」

「…………そう、ね。」

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