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第42話いたのか……ユメル……

「────ていうことがあって」

「ふむふむ」

「なるほどなるほど」

「なので、お節介なのは重々承知の上ですが、同じチームとしてどうにかあの二人の関係を少しでも良好に出来ないかなと……」

「確かにねぇ……」

「でもミラ……変なとこで頑固だからなぁ……」


 結局あの後、俺とアリシアが戻ったのは良いものの、どうしても強情になってしまう姉妹は口を交わさないどころか、視線すら合わせようとはしなかった。


 事情を知っているファルネスさんはぎこちない笑顔を張り付けたまま淡々と任務の内容を説明していき、状況が一切分からないシエラと、アリシアの契約者エティソスであるネルウァさんは二人の表情を伺いながら右往左往としている始末。


 もはやこれでは、仲を深める親睦会どころかさながら精神修行のような状態ではあったが、互いに空気を壊してしまった自覚はあるのか再度喧嘩が勃発することはなく、平穏といえばいいのか凍てついた空気といえばいいのか何事もなく時間は過ぎていった。


 そして現在。俺は少し相談があると言って呼び出したファルネスさんと共に、絶大な大きさを誇り美しく装飾された学園の図書室に来ているわけなのだが。


「あの……それよりも────」

「何?リオ?」

「どうしたんだ?リオ君」


 不思議そうに首を傾げているファルネスさんと、当然のごとく座っているもう一人。


「どうして別のチームに配属されたユメルも聞いてるわけ!?ここに座った時は俺とファルネスさんだけだったのに、気付いたら当たり前に座ってて本気でビックリしたんだけど!?」


 俺はここが図書室だということを忘れ、言葉の勢いそのまま椅子を弾き立ち上がる。


「リオ静かにして!ほら、あそこにも書いてあるでしょ!喋っても良いけど周りの迷惑にならないようにって。破ったら殺すとも!」

「そんな物騒なことは書いてない!」


 何故か怪訝な顔で人差し指を唇の前に突き出し、「シーっ、シーっ」とまるで小さい子供をたしなめるかのような仕草をとるユメル。


「たまたま本が読みたくなっちゃって、たまたまこの時間に図書室に行ったら、たまたまリオとファルネスさんがいただけだよ~。うんうん、偶然って重なるね!」

「…………ほんとは?」

「二人でコソコソ歩いて行ってたのを見かけて、面白そうだったからついて行っちゃいました……はい……」

「……ったく、そんなことだろうと思ったわ」

「良いじゃん!堅苦しいこと言うなよリオ!僕達親友じゃないか!……それに、最近出番少なすぎて忘れ去られそうだったしこれでセーフ!!」

「は?出番?……何の話?」

「気にしないで!こっちの話だから!」


 ニコニコと笑みを浮かべながら意味の分からないことを羅列しているユメルを一瞥し、弾き出してしまった椅子を引き再び座る。


「それにほら。僕もアリシアとは交流があるし、もしかしたら役に立つかもしれないじゃん?」

「はぁ……まあ良いけどさ。でも、他言は絶対するなよ?」

「それは、長年の付き合いがある僕を信用してくれたまえよリオ・ラミリア君!紳士で性格の良い僕が、可愛い女の子の情報を他人に流すわけがないじゃないか!」


 飄々とした様子のユメルは白々しく俺の名前をフルネームで口にし、自身の胸をポンっと軽く叩いた。ほんとに紳士で性格の良い人は面白いもの見たさに尾行なんてしないんじゃ……?とは思いつつ、話が進まないためそっと心にしまっておく。


「君達は相変わらず本当に仲が良いな!」


 俺とユメルの言い争いをぼーっと眺めながら耳を傾けていたファルネスさんは、頬を緩めて楽し気に言った。


「これを仲が良いというんでしょうか……」

「ほら、喧嘩するほどなんちゃらって言うだろ?いやぁ~青春だね!若いね!青い!私の髪の毛みたい!!」

「なんかその例えちょっと嫌だなぁ……。それに、ファルネスさんも十分若いのに何言ってるんですか」

「ん-まぁ、年齢的なこともそうなんだけど……経験っていうか、ね。仲が良い友達がいることが、この世界に身を置く者としてどれだけ幸せなことか。大事にするんだぞ!これは、年の功っていうより、私自身の後悔から来ているアドバイスな!」


 特徴的な青色の髪の毛を揺らしながら、含みのある笑みを浮かべたファルネスさん。その表情からは、一瞬悲しさや寂しさといったものを感じた気がしたが、いつも通りニカっと笑っているものだからこの違和感の正体には触れず曖昧に頷いた。


 予期せぬ方向に逸れた話題を元に戻し、しばらくの時間三人で喉を唸らせながら知恵を振り絞っていたが、そもそも家族間の根深い問題であるという、他人が踏み込みづらい部分なため、話し合いは難航を極め平行線を辿った。ファルネスさん曰く、ミラさんがアリシアに対して期待しているのは嘘ではないらしいのだが、あの様子のアリシアにそれを伝えたところで意味が無いのは容易に想像ができてしまう。


「でも話を聞いてる感じだと、それだけ関わりがキツいのにアリシアがミラさんを嫌ってるようには感じないよね~。むしろ、めちゃくちゃ大好きなような……」

「私が学生時代の頃に、一度だけアリシア君に会った時も『お姉ちゃんは!お姉ちゃんは!』って、ミラの話ばっかりだったからなぁ……」

「じゃあ、今回の反発はその好きの裏返し…………姉妹大恋愛!?そうかそうか、アリシアの性的趣向はそっちだったのか……。是非僕も、その花園に飛び込ませてくれないだろうか……」

「お前なぁ……ふざけてる場合じゃないだろ。あと、今のアリシアにチクるからな?そして嫌われろ!」

「ちょっ!冗談じゃん!?なぁリオ?嘘だよね?」

「はぁ……まぁとにかく、時間が解決してくれるのが一番ですが、俺としても合同実習任務アルフィビガンの中で状況を見つつアリシアに少しずつ話を聞いてみるので、ファルネスさんもミラさんの方をよろしくお願いします」

「あぁ!任された!」

「……僕は?」

「だから、ユメルは配属が違うだろって!………まぁ、死なないようにな!」

「死なないどころか、最高の戦果を持って帰ってきてやるさ!最強の妖精剣士シェダハになるために!!」

 

 そういえば、結局ユメルは話し合いで全く役に立たなかったけど…………まぁいっか。面白かったし。

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