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第33話 2人のエルフの胸の中で

 お淑やかに、また気品高く飾られた姿容の人々が丁寧に舗装された通りを行き交う。

 

 心臓の激しい躍動は鳴り止むことを知らず、居ても立ってもいられない俺は自分で自分の陰を追うようにその場をグルグルと回っていた。


「な……長い……」


 あの二人がお店に入ってから一体どのくらい時間が経っただろう。


 前もミラさんがこんな調子で、長々とあのおぞましくも神秘的な人形を買い漁っていたし、女性の買い物というのはこういうものなのだろうか。俺やユメルが買い物に来る時は、事前に購入するものを決めてからお店に入り必要最低限の物しか手に取らないため、そこら辺の感覚はあまり分からないが。


 その後もしばらく弧を描きながら歩き回っていると、唐突にドアが開かれ店内から「ありがとうございましたー!」という、若い女性の声が聞こえてくる。


 二人が出てきたのかと思いそちらの方にチラッと視線を向けると、白黒の衣服を着用した別人がキョロキョロと辺りを見回していたため、俺は肩を落として再度目線を落とす。


 すると、ぱたぱたと音を立てながら、急いてこちらへと向かってくる足音が。


「リオ君ー!似合ってるかしら?」


 この声は……メディナ様!?いつお店から出てきたんだ!?


 まだ店内にいると思い込んでいたメディナ様の声が突然聞こえ、慌てた俺は見るよりも先につい反射的に返答してしまう。


「と、とってもお似合いでs……って、うえぇええ!?」


 言いかけながら、走ってきていたメディナ様と後ろにいたシエラを見た俺は、思わず頓狂な声をあげてしまった。


「もうっ!うえぇえとは何よ、うえぇえとは!これでもわたくし、一国の王ですのよ?」

「も、申し訳ありません!しかし、その恰好は……」


 俺の反応に気を悪くした女王は、ぷいっとそっぽを向いてしまった。


 似合っていないとか、そういう意味で変な声を出したわけではないのだが、確かに女性のおめかし(?)を見て第一声があの反応は、相手が女王でなくとも失礼に当たるのかもしれない。だが、すぐに謝罪は入れるものの、やはりその姿を直視することはどうしてもはばかられてしまう。


 先程、俺が別人だと勘違いしていた白黒の衣服を着た人影──正確には、目の前にいる二名の妖精エルフが身に纏っている黒を基調としていて所々を白色の布で覆った、主に女性の使用人が仕事着として用いるメイド服。


 王族がこのような服装になっているというのがそもそもの驚きだが、実の問題はそこじゃない。そもそも、使用人の使う一般的なメイド服は、どれも落ち着いた様相のものが多い。仕事をする上で汚れるのが前提なため、装飾や特徴を必要としないからだ。


 しかし、あの二人が着ているメイド服は派手な装飾こそないものの、丈の短いスカートと大きく開かれた胸の部分によって、もはやメイド服の意味を成していない唯々男性の扇情心を煽り立てる何かとなっている。ていうか、露になってる谷間が苦しそうに抑えつけられてて、今にも弾けそうなんだけど!


「どうしたのリオ君~?」


 頑なに視線を逸らしていると、悪戯っぽい笑みを浮かべながらわざとらしく胸が中央に寄るようにかがみ、俺の視界に入るよう移動するメディナ様。この人どこまで魔性なんだ!?


「い、いえ……別に何も……」

「何で目を逸らしてるのかしら~?ほらほら見て、この子とっても似合ってて可愛いわ!」


 無邪気にそう言い放ち、ガバっとシエラに抱きつく様を見せつけてくるメディナ様。


 確かにただでさえ天使としか形容し難いシエラだが、色っぽさをより一層引き立たせるメイド服を着ていると艶麗えんれいさが特段に増し、息をするのも忘れてしまう程に見惚れてしまう。


「あらあら。息が荒くなっている気がするのだけれど、気のせいかしら?」


 クスっと笑いながら煽動的せんどうてきな視線を向けてくるメディナ様と、不安と心配が入り混じったような視線を向けてくるシエラ。

  

 碧と橙の引き込まれそうな美しくも妖艶な瞳に当てられ、必死に保っていた理性という壁がボロボロと音を立てて崩れていく。


「こっちにおいでなさい?ほら、いちっ、にっ、いちっ、にっ!」


 数に合わせてパチパチと手を叩いて合図するメディナ様。


 もう完全に幼児を手懐けるさまで馬鹿にされきっているが、俺の意識とは裏腹に一歩、また一歩と勝手に足が進んでいく。


「リ、リオ……?眼つきが何か、変だよ……?」


 憂いをたたえた表情のシエラだが、もはやメディナ様の声しか耳に入ってこず一度進み始めた足が止まることはない。


「あ……あぁ……」


 声にもならない音が呼吸と共に漏れる。


 そして、二人の妖精エルフまで距離後数センチといったところまで行くと、急に腕を力強く引っ張られて、俺の体は豊かに実った四つの膨らみへとダイブした。


 胸が……胸がァアアッ!!


 人生で初めての感触。どこまでも至福で、隔てるものがない平和な世界。理性のたがが外れた今なら何者にでもなれる気がする。


 息ができなくなりそうなほどに圧迫されて押し潰されてしまう俺の顔。

 だんだんと息が苦しくなってきている気が……。


──いや、待てよ。これ本当に息ができなくなってる!!


「ンンンンンンッ!!!」


 どうにか脱出するべくジタバタしてみるが、やけに力が強く身動きが取れない。


「うふふ。嬉しそうにもがいちゃって。そんなに胸が好きなのねぇ」

「ちょっとお母様!これはやりすぎよ!リオもいい加減離れなさい!」


 離れたいのは山々なんだよ!!


 叫びたいが、空しくただの呻き声として姿が変ってしまう。


 次第に意識が薄れてきて……。


「もうっ!いい加減にしなさい!!……って、大丈夫リオ!?」


 やっとの思いで解放されたが、その時にはもう俺の意識は朦朧として飛びかけていた。


 軽い悲鳴をあげながら体を揺さぶるシエラと、楽しそうに哄笑するメディナ様の声を最後に記憶が深い闇の中へと消えていったのだった。


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