第27話根源魔術
『──────。──かい?』
体の感覚がない。視界が白い。
誰かが俺に話しかけている気がするが、雑音でしか耳がその声を拾うことができず、まぁいいかと聞くのをやめた。
───俺は、死んだ?
魔人によって放たれた魔術は、足場ごと俺の体を爆散させてしまったのだろうか。
そういえば、あの時自分じゃない思考──シエラの考えていたことが流れてきて、状況つかめないまま何かしようとしてたっけ?
あぁそうだ。あの魔人の魔術に対抗するために、俺達も魔術を展開・発動を試みようとしてたんだ。
てことは、失敗してそのまま死んだから、俺はこんなところにいるのか?
シエラと一緒に戦うとか決意改めておいて、このザマか。本当に最初から最後まで情けないな。
いや、ちょっと待てよ。それなら、
────シエラは、どこだ?
『自問自答が多いね、君』
さっきまで雑音でしかなかった声が、いきなり鮮明に聞こえてくる。
『君の心が、俺を遮断しようとしてたから聞えなかったんだよ。今ちょっと隙間が空いたから、入らせてもらった』
俺の考えていることは筒抜けか。
『一つだけ伝えておくよ。君達はまだ死んでない。だけど、生きているかと言われれば、それもちょっと違う』
この声は何を言っているのだろう?生きているのに死んでいる?矛盾もいいところだ。
第一、そもそもあんたは、何なんだよ。
『そんなことはどうでもいいだろう?いずれ知ることになるだろうし。それのそんなに長々と話していたら、君の相棒のシエラ王女、死んじゃうよ?』
なら早く、この良く分からない空間から出してくれないか?
『話聞いてた?君達は、死んでなければ生きてもない。いや、正確には、俺によって生かされてる状態なんだ。それに、今君があの場に戻ったところで、魔術は発動しないからね。根源魔術を舐めてもらっちゃ困るよ!』
生かされている?根源魔術?
微かに楽し気な声音で発せられている内容は、全くもって理解できない。
『おかしいなぁ。君達二人の思考に触れて、根源魔術を流し込んだはずなんだけども……』
もしかして、シエラから流れてきたあの不思議なやつのことを言っているのか?
『そう、それそれ!何とか間に合って良かったよ』
あれは、あんたの創造物だったのか。てっきり、シエラの才かと。
『だから、根源魔術を舐めてもらっちゃ困るって!確かのあの妖精の王女はとんでもない才能があるけれど、契約した直後にあんなのが《《構成》》できるわけがないし、魔術回路と魔力が結合してない状況じゃあ、古の力は当然として、普通の魔術だって使えないよ』
契約した直後……何もかもお見通しか。
ほんと、あんた一体何なんだ?って聞いても、どうせ答えはしないんだろうけど。
『おぉ!やっと、俺との会話の仕方を覚えたんだね。じゃあ、君の成長を祝して、今からある光景を見てもらうね。なぁに、見た内容は君があっちの世界に戻った時、綺麗さっぱり忘れているさ』
じゃあ、何で見る必要があるんだ?
『一時的とはいえ、根源魔術を発動させるのに必要だからさ。シエラ王女を守りたいんだろう?それに、記憶からは消えても、君の心には残り続けるからねぇ。魔術っていうのは、精神と感情の結びつきを起源としている。君の心が、一度《《壊れれば》》それで充分。根源魔術を発動する者の、二つの禁忌は解かれる』
今なんて……?俺の心が壊れる?それってどういう────
『やっと俺との会話の仕方分かったのに、また逆戻りかい?』
その声の口調が一転、冷めた感情の色が見えない声音となる。
どうやら、どう転んでも俺の選択肢はないらしい。
『よし決まりだね。じゃあ、君の視覚ちょっと借りるね』
真っ白な視野から一変、今よりもずっと昔であろう光景が急に俺の瞳に流れる。
そこからは、地獄のような時間が過ぎていった。
吐き気を何度も催すような情景、目を伏せたくなる醜穢なそれら。
しかし、目を逸らそうとしても、瞑ろうとしても、その行動は謎の声によって制御されてしまう。
ガ……ッ!も、もうやめて……ッ!無理だッ!無理だッ!!
『なら、諦めてシエラ王女共々一緒に死ぬか?美しい王女様と最期は戦死。悲劇としては、それもいいかもしれないね』
それは……それだけは、ダメ、だ。
『だったら、最後まで目を逸らしてはいけない。そうじゃなければ、何も意味を持たなくなってしまうからね。君の深層意識、奥深くに根付かせろ。恨め、憎め。そして、禁忌を踏むんだ』
グガァァアアアアア!!
苦しい、苦しい、苦しい。
殺してくれ、殺してくれ、殺してくれ。
何で、何であんたは、こんなのを俺にッ!?
『それが、人類の犯した罪だからさ』
*
「はぁ……はぁ……随分と手こずれせてくれたじゃない」
手こずらせてくれた?この魔人はいったい何を言ってるんだ?
俺はお前の目の前にいて、こうして生きているじゃないか。
「あの力……古の禁忌。何であんな妖精剣士がッ!」
苛立っている様子の魔人は、自身の腐敗している肌を搔きむしり、その部分からは屑がボロボロと落ちていた。
あの魔人、どうやら俺の姿に気付いていないらしい。
そういえば、さっきからシエラの声も全く聞こえないな。
「まぁいいわ!このことを魔王様に伝えれば、私はきっと幹部になれるッ!さらなる力を頂けるッ!」
あぁそっか。まずここから出ないとな。
ここはまだ、あの場所だった。
俺は、一歩足を前に出し進んだ。
自分の感覚が戻ってくるのを感じる。
俺は、もう一歩足を前に出し進んだ。
シエラの声が認識できた。
『リオ!成功したみたいね!』
「……いくぞ、シエラ」
妖精剣の剣先から伝い、体の全身に純白の聖炎を纏わせた。
「何故……何故だ……ッ!何故お前は死なないのだ!?そのグチャグチャの体で何故動けるんだッ!」
「不死鳥の炎舞」
俺は、脳裏に浮かんだ単語を口に出し、その魔術を構成する。
すると、身に纏っていた炎が一瞬にして弾け、損傷していた部位は尋常ではない速度での修復が済まされていた。
「魔術!?しかもこの再生速度の速さッ!……まさか、根源魔術……」
「正解……って言ったら?」
「そんなことは決してありえない……ッ!いや、あってはならない……」
「…………」
あの光景を見た後だからだろうか、この魔人はいつでも殺せるがどうしても気が引けてしまう。
でも、こいつを殺さないと、シエラが死んでしまうから。
「せめて、安らかに眠れよ……」
「…………は?」
『あなた……何言って……』
中指と親指をこすり合わせ、パチンと音を鳴らす。
そして、その音が鳴りやんだ頃には、魔人の体は白い炎によって灰燼に帰していた。
結局、俺の心には焦燥感だけが残る、呆気ない決着となり幕を閉じる。
しかし、もうそろそろこの焦燥感も無くなり、また元通りの日々に戻るだろう。それが、あいつとの契約なのだから。
意識が朦朧としてくる。
消え入るゆく意識の中で、どうしてもシエラに尋ねたかったことを聞くために、俺は口を開く。
「……シエラ。悪って、何だと思う?」
『急にどうしたのよ?妖精剣士になって初の戦果を、もっと喜んでいいと思うのだけれど?』
「……どうしても、聞きたいんだ」
思考を通して知ることもできるが、どうしても言葉として聞きたいのだ。
「頼む」
『…………そうね』
シエラは、そっと添えるように、優しく言葉にしてくれた。
『あなたと私以外……て言ったら、幻滅するかしら?』
「そっか」
血と灰が散らばる洞窟の床に倒れ、俺はそのまま意識を失った。
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これにて、第一章完結です!
ここまで長く拙い文章の物語を読んで頂き本当ににありがとうございます!
作者自身、ここまで話数を重ねた作品を書いているのが初めてなので、とても様々な経験を得られました!
感想や★、レビューがいつも作者のモチベになり、励ましになっているので、ここまで読んでくださった方々に日頃から抱いている感謝を、この場を使って伝えます!
本当に、本当にありがとうございます。
次話からは第二章となります!
是非、これからもご愛読ください!それではっ!