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第11話 理解者であり好敵手。故に親友

 名門フィレニア学園の華々しい入学式から一夜明け朝日が昇った今日。ミラさんからお詫びにと貰った不気味な人形しか置いていない質素な一人部屋の自室にいる俺は、床に座り腕を組みながら横揺れしていた。


「はぁ……」


 ここ何日かで溜息をつく量が格段に増えた気がする。

 加えて今はずっと独り言のオンパレード。


「一ヶ月でエルフと契約ペアって……俺生まれてからここに来るまでの間、一度だって話したことなかったのに……」


 昨日突如として宣言された『一ヶ月以内に人間ヒューマン妖精エルフ契約ペアになれなければ退学』という事実に、どうしても動揺の色が出てしまう。


 そもそも、妖精剣士シェダハという役職自体が人間ヒューマン妖精エルフが手を取り合ってこそ成り立つものだというのは周知の事実だが、そこに至るまでには契約ペアによる魔術的契約が必須となる。ユメルから聞いた話だが、その魔術的契約はとても神聖なもので契約ペアを交わした二人は生きるも死ぬも契約が続いている以上は共にすることとなるため、とても敷居が高いものだとかなんとか。


 妖精騎士シェダハを育成・輩出することを目的としている学園であるがために、そもそものカリキュラムが契約ペアになっている前提というのに理解はできるが、そんな重大な決断をたったの一ヶ月は中々に酷であり普通にきつい。


 でもユメルのやつ、『そんなに心配しなくても大丈夫だと思うよ!契約ペアを交わしていない妖精紋には性格的、能力的に相性の良い人間ヒューマン妖精エルフが近くに位置している時、相互で反応が起きるっていう科学的には証明できない神秘の力が働くらしいから!運悪くその巡り合わせから外れて全く見つけられない人もいるらしいけど……まぁ、大丈夫っしょ!』て言ってたけども……。


「その巡り合わせっていう枠組みから自分が外れてるかもしれない心配は、あいつには無いのか……?」


 こういう時あいつのタフさというか、能天気さはちょっと羨ましい。


 ただ、ファルネスさんから衝撃の事実を伝えられた時生徒の間でもそこまで震撼していなかったというか、特に気に留めていなかったように見受けられたし、俺が心配しすぎているだけなのだろうか。


 誰へともなく一人で唸りながらボソボソ呟いていると、部屋の扉がコンコンとノックされた。


「はーい」


 腰を上げ部屋に訪ねてきた人物を確認すべく、扉を開ける。


 そこには、朝の掃除から戻ったばかりのユメルが立っていた。


「あ!すまん!ゴミ捨て手伝いに行くって言ったの、考え事してたら夢中になって完全にスッポカしてた……」

「あーいや、それは別に良いんだけど、唸り声と独り言が聞こえて。顔色も悪いし大丈夫?」

「外の通路に聞こえる声量でブツブツ言ってたのか俺……大丈夫だよ、本当にちょっとした考え事してただけだから」

「本当にちょっとした考え事で、そんなに顔色悪くしながら独り言呟くかな?」

「うっ……いや、たった今俺が心配性という結論に至ったからっていう意味の大丈夫であって……」

「あー、何となく察した。まぁ気にするのも分かるけどさ、せっかくの休日なんだからそういうことばっかり考えてたら気が滅入っちゃうよ?」

「ごもっともで……」

「僕は用事があるから外出するけど、リオもここで引きこもってないでどっか出かけた方が良いと思うよ?」

「出かけるって言ったてさ、来たばっかでこの都市について全然知らないし……学園の校舎は出入り禁止だし……」

「うーん、そうだなぁ……」


 ユメルは顎に人差し指を置き唸りながら熟考し始めた。そんなユメルを見て、改めて気の遣える優しい友人だなと、そう感じさせられる。


 こいつは昔からこういうやつなのだ。他人のことなのに必死になって、まるで自身の問題事のように親身になる。本人はお節介がすぎると言うが、実際俺はそんな所に何度も救われた経験があるし大きな長所だと思う。


「あ!そういえば、リオ温泉に入るの好きだったよね?」


 心がほっこりとしながら物思いに耽っていると、勢い良く顔を上げたユメル。


「うん、温泉入るの好きだけど……それがどうかした?」

「寮母さんから聞いたんだけど、イリグウェナから馬車で北に行くと、山中にネディアっていう小さい街があるんだって。そこには知る人ぞ知る名湯、女神の湯っていうのがあるらしくて、何でも入ったら身体的な疲労はもちろん、心の病も治ったとか」

「それは正直めちゃくちゃ興味あるけど……一つ。俺は心の病ではない」

「まぁまぁ、それは例えの話だって。せっかくだし行ってみなよ!そんで気持ち良かったら次は僕も連れてって!」

「確かにその温泉気にはなるな。よし!その提案にのって、ネディアってとこの女神の湯を堪能して来ることにしよう!」

「久々にゆっくりしてくると良いよー」


 そうと決まれば早速支度して出かけよう。確かに、孤児院にいた頃は良く近くの湧き温泉に浸かりに行ってたが、この学園に入学すると決まってからバタバタしすぎて全く入っていなかった。


「ユメル……その、ありがとうな。それと……心配かけてごめん」


 ユメルははにかみながら笑みを浮かべ、


「何だよリオ。柄にもなくしおらしくなっちゃて。その代わり、学園始まって可愛いエルフと仲良くなったら僕にちゃんと紹介してね!」

「分かった分かった。うん……俺がエルフと話せたら……ね」

「だぁーもう!ほら早く行った行った!」

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