第86話 死闘の果て……(*****)。
──負ける。そう感じたのは試験で魔神と戦った時以来だが、その前はいつだった?
きっと修業時代だと思うが、どうしてか曖昧な記憶しか残っていない。あの時と同じだ。追い詰められたところまでは覚えているが、最後の最後で必ず声がして……気付いたら──
「刃っ!」
『グアァアアアアアア!』
「ぐ──ッッ!?」
鞭のような伸びた奴の尻尾。巨大な大木のような尻尾の殴打を受けて、フロアの壁まで叩き付けられる。……頑丈な肉体と強化がなかったら即死だぞ。
『“轟雷武闘”!』
「……ッミヤモト流・特式!」
龍化したソイツの姿は人型の黄金龍。人型にしているのは戦い易さを選んだからだろう。大人の倍くらいはあるが、その動きはとんでもなく速く……力も強い。
『ラァァァアアアアアアアアッ!』
「『神速・神散嵐舞』!」
魔王が放つ砲弾圧のような拳の連打。
対するは魔剣の威力と頑丈性を生かした拡散剣戟。
『アアアアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!』
「ハァァァァァァァアアアアアアアアアアッ!」
高速同士の攻撃ラッシュ。僅かにでも緩めたら一瞬で相手の攻撃の嵐に飲まれて死ぬ。
呼吸すら忘れるほどの攻撃の応酬。こっちは魔剣が折れたら速攻で負けるが、打ちまくっている相手の拳は少しも斬れている気がしない。……いや、少しは斬れているか? そう思おう。
「刃ッ!」
そこへマドカの援護攻撃。闇系統の魔弾を走らせて魔王の背中や翼へ攻撃を集中させた。
『グッ……小賢しいッ!』
「マドk──!?」
大したダメージはないように見えたが、マドカの攻撃に苛立った魔王がターゲット変更。裏拳の衝撃で俺を吹き飛ばすと翼を振るわせてマドカへ迫った。
「っ『混沌の爆……」
『遅いわッー!!』
強烈な掌底が小さな彼女の体に叩き付けられた。
咄嗟に妖精の翼が衝撃を抑えようとしたが、威力が強過ぎて先ほどの俺のように壁まで吹き飛ばされる。かなりのダメージの筈だ。瓦礫に埋もれてしまったが、起き上がる気配がしない。
「マドカ!」
『残す貴様だけだァァァァッー!』
「──ッ、魔王!」
何処までやれる? 融合を使用しているが、魔力が全開じゃない以上普段よりも時間がない。
あと何分維持できる? 尽きた途端一気にぶり返しが来る。のんびりしていられない。
「間に合わすッ!」
『死ねェェェェェェエエエエエエエッ!』
今度は口から黄金のブレスを吐きやがった。溜める時間が殆どなかった。
『龍炎王・息吹』
『改式・火炎斬り』
「がああああぁぁぁぁぁッ!?」
『ゴ、ボ!?』
吐き出されたブレスを斬り裂こうとしたが、完全に防ぎ切れず片腕と上半身が少し焼けてしまった。
魔王の方も斬撃の余波を受けてブレスを止めたが、すぐに拳を振り上げて来て──
「『龍炎王・焔爆拳』ッ!」
「かはっー!?」
横に避けようとしたが、左脇腹を抉るような炎拳を受ける。呼吸が止まるかと思ったが。
「ッ……『天王の喝拳』!」
『グ、フッ!?』
お返しの一発。太陽の光と炎が込められた籠手で憎たらしい龍顔を殴り飛ばした。
「『光殲』!」
『っ……グッ!』
属性魔力で強化された光の魔剣で突き刺す。だが、魔王は怯むことなくその魔剣を腕で絡めるように捕らえて来た。
『ウ、ァァアアアアアア!』
体も持ち上げられると翼を広げて飛び立つ魔王。
何をしているか拘束を解こうとするが、抜け出せない。
「貴様ッ……!」
『ガァァァアアアアアアアアアッ!』
一気に急降下。必死に抜け出そうとするが、抜け出せず……。
「──ッッ!?」
地面に陥没するほどの勢いで打ち付けられる。
内臓や肺がやられたか口から血を吐き出した。
『フン!』
「あ、あ……!」
さらにハンマーのような拳の猛打が襲い掛かる。
『オオオォォォォォォォォォォッッ!!』
何度も顔や全身を打たれる。殴られる度に骨が何本も逝って……いよいよ意識が飛び掛けるが。
「ぐっ……!」
なんとか引き抜いた銃の連射。装填していた残りの通常弾と『火炎弾』二発、Cランクの闇系統の拘束魔法で魔王の勢いを一時的に殺した。
『コ、コイツ! まだ足掻くか!』
「ハァハァ……!」
その隙に脱出する。空になった薬莢を全て捨てて残りの弾薬を全て装填した。
魔剣と籠手もこれまでの戦闘で大分ボロボロになっているが、なんとかまだ使える。『天王』もどうにか維持している。もう数分もない筈だから急がないと。
「ッ!!」
二発の『通電撃』が込められた弾を放つ。
貫通力も高い雷の弾であるが、魔王は呆れたように手のひらで弾いた。
『こんなものが……』
「ミヤモト流──特式ッ!!」
弾いた動作で僅かに生まれた隙を狙って斬り掛かった。
狙うは奴の首元。最高速の剣撃を繰り出せば……。
「『神速・天斬』ッッ!!!!」
『ガハアアアアアアアアッッーー!?』
しかし、驚異的な本能が危険を察知したか、強引に首を逸らした事で斬撃は奴の胴体を斜めに斬り裂くだけに終わった。
両断出来ればよかったが、魔剣の限界もあってか激しく血飛沫を上げるだけで完全に斬り裂けれなかった。
『ハァハァ、よ、よくも……!』
「ッ、魔剣が砕けた」
忌々しげな口から吐きながら睨んで来る魔王を無視。粉々になった魔剣の柄を捨てる。どうせ残りもすぐ消滅する。
籠手の方で持っていた銃を持ち直して、籠手の方に魔力を集中させる。太陽の光と炎が集まるのを感じる。
『させるかッ!!』
「グガッ!?」
魔力の気配から危険を察知したか。翼を活かした突進力と跳躍力を合わせた速度。そこから繰り出される掌底の衝撃波が俺の体を外側だけで内部をも破壊しようとした。
「ゲホッ! ハァハァ……!」
どうにか攻撃範囲から外れるように回り込む。
「『天王の極撃』……!」
籠手に込められた『天王』の魔法を発動する。
凝縮された極めて危険な太陽の一撃であるが、普通に撃っても倒し切れる保証はない。躱される未来しか見えない。
「吹き飛べ……!」
『──!』
銃に込められている二発のAランクのうち一発を撃つ。
マドカに頼んで入れて貰った異世界の光系統Aランク『閃耀の爆撃』が魔王を吹き飛ばそうとしたが、寸前で吐き出したブレスによってギリギリ相殺されてしまう。……だが。
「ここだッ!!」
『なにッ!?』
ブレスで潰れた視界の隙間から魔王の懐へ飛び込んだ。
溜め込まれた『天王の極撃』と『術式重装』、『鬼殺し』も混ぜ合わせた最大級の天拳。
「『天王極・喝拳』ォォォォッッ!!!!」
『グハァァァアアアアアアアアーーッッ!?』
胴体の斬り口。そこを抉り込むような天拳でぶっ飛ばした。
師匠なら街一つは消し去れるくらいの魔法。俺ではそこまではいかないが、頑丈な龍族の肉体くらいなら……今度こそ。
『ググググ……ガ、ガァアアアアアアッ!』
「……!?」
……耐えやがった。
吹き飛ばされた魔王だが、背中の翼を使って反転。血を大量に吐くもなんとか堪えて雄叫びを上げた。
「ッ……!」
ここでさらに恐れていた問題が発生する。
力が一気に抜けて行く。自分の意思に関係なく属性融合が解けて副作用の倦怠感と脱力感が襲い掛かってきた。
タイムアップだ。クソッタレ。
『ハァハァ……“迸らせるは龍炎王の憤怒”』
体の痛み、ボロボロになった骨も影響して全く動けなくなった。
そんな俺を前に魔王は静かに呪文のように呟きながら右腕を空高く上げた。
『“蹴散らすは我が領域を侵す愚か者”、”振り翳すは我が誇りを護る一撃”』
黄金の炎や雷が集中していく。巨大な魔力だけじゃない。気や魔神の暗黒魔力まで混ぜ合わせたものが……
『龍炎王・滅雷破』
黄金の炎と暗黒の力、さらに稲妻のような強烈な動きから放たれる破壊の一撃。
避けるだけの余力なんてある筈なく、棒立ち状態の俺目掛けて魔王は全身全霊の大技を撃ち落とした。
「───」
激痛を超えた強制的な意識遮断。
僅かな抵抗もする暇もなく、俺の意識は完全に途切れてしまった。
──ガブリ……
【『起死回生』強制発動───タイムリミットハ……十分ダ】
自身の中に潜んでいるソイツが静かに告げた。
前回話した短編の詳細情報。
現代世界(別作品『取り憑いた魔神の娘(略)』と『転生した魔術師(略)』と同じ世界……何年か経過してます)。
ダンジョンの存在が明らかになった世界。中学生(ゲーム好き)でも入れるダンジョンでデビューを目指したが上手く行かず、高校受験もあったので諦めて勉学に打ち込んでいた。←前までとほぼ同じ設定。
*下から少し変更しました。
勉強はあまり不得意な主人公(馬鹿とは言いません。やる気の問題)。
息抜きでかつて父が開発した電脳ゲームをプレイしていた(世界バランスがアウトな為にお蔵入りした貴重な一品)。
ところが別世界から妖精がやって来て、ベットで眠っていた主人公と合体(深い意味はない)。所持していた『覚醒の種(仮)』が影響してゲーム世界のキャラの力と契約モンスターが主人公の中に宿って、最強に近い力を得るが……
でも受験生なので受験に集中! やっぱりお受験大事!
自由な高校生活を目指していた彼は妖精の娘と適当に契約。
ゲーム内の自分のキャラや契約モンスターも自由に任せた結果…………ダンジョンランキング*位に。正体不明の召喚師(というかただのゲーマなの変更あり)が知らない間に無双してます。
とりあえず詳しくは短編版でお楽しみに。