第84話 因縁の対決と最終決戦の相手は(そして弟子は辿り着く)。
何度か警備の魔物らしき存在を瞬殺。師匠たちが一緒だから当然だけど。
驚異的なスピードで着々と最上階へと近付いていた。残して行った人たちの事は心配だが、今は一刻も早く魔神と魔王の企みを阻止する事が優先だ。
零さんとヴィットの世界にいたと思われる敵の復活。
もしかしたら盗まれた物が関係しているのかも知れないが……何か嫌な予感がしてならない。魔物やトラップの危険もあるが、出来る限り急いだ。ひたすら階層を上り続けた。
そんな俺たちの前に──。
「ッ、止まれ!」
「え、は、はぁぁぁぁぁ!?」
いち早く気づいた師匠が止まるように促す。次にトオルさんがこの階層で待っていたソイツを見て激しく動揺した。
「そ、そんな……事が……」
「っ……!」
一番動揺しているのはマドカだった。いや、俺も言葉を失っていた。だって信じられるか?
「『鬼神』──デア・イグス」
【ウォォォォォオオオオオオオ!】
真剣な顔の師匠が呟くと獣ような雄叫びを上げる鬼神のイグス。
灰色の髪をした猛獣のような面構え。マドカの父親であり魔王となった男。かつては『鬼神』と呼ばれて師匠の世界では『最凶の冒険者』とまで呼ばれていたらしい。
師匠とは宿敵でもう何度も戦っているそうだ。呪いで不死に近い存在となって殺しても意味がない理不尽な存在になったと嘆いていた事があった。
「ハァ、仕方ない」
「やるのか?」
「全員で挑むと返ってやり辛い」
「じゃあオレも残るぜ。一応守護者だし、アイツをぶった斬れる機会なんて早々ないしな!」
「…………まぁ、二人の方が早く終わるか」
「なんで不承不承!?」
多くても怪我人が増えるだけ。確かに今の魔王と同じなら『鬼神』と戦うならサシでやるか、精鋭の二人か三人の最小限の人数で挑むのが得策だ。多いと連携に支障が出るからな。
「片付いたらオレたちもすぐに追いかけるが、もし間に合わなかったら……ジン、マドカ、この世界の運命はお前たちに掛かってると思え」
「師匠……」
ここでプレッシャーとか反則じゃないですか? でもこれ以上の最善もない。オレが残っても鬼神相手に師匠たちと合わせれるか怪しい。足引っ張る予感しかしない。
「刃、行きましょう」
「……ああ」
ニセモノでも強敵に間違いない。師匠たちを信じて俺たちは先を目指した。
「こうして見ると昔の方がまだ人間味があるよな?」
「知るかよ。大して変わらんだろ」
相手はニセモノで魔王でもないが、正真正銘の化け物の分類である。
ジークもトオルも警戒しながらゆっくりと鬼神へ接近。間近で睨み合えるくらいまで近付いた。
「よっ、言葉は通じるか? バトル中毒者」
【ククククッ】
「見た目通りの獣感しかねぇな。肉体は本物っぽいが」
不敵に笑っているが、ジークもトオルもコイツに本人の魂は入ってないと確信する。
問題はどこまで模倣されているか。オリジナルの魂が入ってなくても似せたモノを入れている可能性が高い。戦闘パターンまで真似ていると考えて行動すべきだ。
つまり……
「容赦なく潰せば良いってことだッ!」
「首斬ればいいってことだなッ!」
【ガァアアアアアア!】
瞬速のジークが拳を、トオルは居合いを打つける。
不意打ちであるが、鬼神は獣ような反応速度で両方を受け止める。異常な握力でジークとトオルの手首と握り潰そうとするが……。
「シッ!」
「オラッ!」
力技による押し切り。ジークは潰される前に膝蹴りを叩き込んで、トオルは剛腕な腕力で無理やり振り解いた。さらに飛ぶ斬撃を後退した鬼神へ打つけるが、素早く盾代わりにした片腕で弾かれてしまう。強靭的かつ強固な肉体もしっかり真似られていた。
「『術式重装』、『零極・矢』!」
すぐさまジークが倍増した無属性の矢を放つ。威力が高い極太の矢であるが、また鬼神は片腕で弾き飛ばす。
「『跳ぶ兎』、『零極・衝撃』!」
しかし、放たれた矢は囮でしかない。特殊歩行の驚異的な脚力による飛び蹴りが防御で止まっていた鬼神の腹部に直撃。
【ウォォォオオオオオッ!?】
足に込められた無属性の衝撃波が内部から鬼神の肉体を破壊していく。衝撃に耐え切れず巨体を転がせながら倒れる鬼神へ……
「ミヤモト流・二刀改式」
愛刀である妖刀と小刀である脇差をクロスさせるトオル。
その位置をちょうど鬼神の首が挟めるように──。
「『断斬の処刑法』!」
一気に鋏のように斬り裂いた。……ように見えたが、ガキンッと硬いモノに弾かれた。
「硬い首だな。アザ程度かよ」
【ウゥゥゥゥ!】
気も込められたトオルの剣撃であったが、鬼神の異常過ぎる首で出来た鎧によって防がれる。
「攻撃の手を緩めるなトオル! 『零極・斬』!」
「『青桜・青花乱れ桜』!」
【ウォォォオオオオオオオッ!!】
二人が放つ異なる光の斬撃を前に鬼神は死属性の咆哮を上げる。
両者の攻撃が激突し合う。攻撃の衝撃波は闘技場のように広いフロアの全体まで拡散していった。
最上階と思われる巨大な扉まで遂に辿り着いた。予想よりもかなり早い。
殆ど相手にせずやり過ごした階層も多いが、ヤバい相手は師匠たちが引き受けてくれたお陰だ。
「邪魔なんだよ! そこを退け!」
『……!』
乱射させた銃弾で扉を守っていたゴーレムの四肢を破壊する。
以前戦闘したゴーレムに酷似したヤツでなかなか面倒であるが、前回と違い戦闘経験と味方がこちらに付いていた。
「マドカ!」
「『深き黒の黒刃』!」
異世界の闇系統の斬撃。ゴーレムの核ごと綺麗に切り裂いてくれた。
「ハァ、ハァ……」
「魔力の方は大丈夫か?」
「ハァ……はい、なんとか。精霊の力を借りれば……」
「どうする? 少し休憩するか?」
一気に駆け上がったが、やはり消耗戦になった。マドカは大丈夫だと言っているが、それでもかなり疲れている。
俺もここに来るまでに銃弾を殆ど使い切ってしまった。残っているのは異世界の魔法が込められたAランク二発、Cランク一発。こちらの魔法である『火炎弾』と『通電撃』がそれぞれ二発ずつ。通常の弾はもう三発のみだ。節約って難しいな。
「いいえ、すぐに動くべきです。……刃もそうした方がいいと思って急いでたのでしょう?」
「それは……そうだが」
師匠たちがすぐに片付けて来てくれたら……なんて期待して待ってもし事態が悪化したら悔やみ切れない。
「時間がない。そう思った方がいいです」
「分かってるのか? もし魔王以外に配下の三体、魔神までいたら勝算は絶望的だが?」
──負ける。俺は限定的な超人でしかも現在はほぼ限界ギリギリの状態だ。
奥の手のブレスレットの魔力は回復し切ってない。召喚による増援も無理。残っている強力な手札といえば『融合』と『神ノ刃』くらいだ。
そして逆転の一手になりそうなアレが残っているが、アレは非常に条件が超厳しい。
仮に成功したとしても倒せるのは魔王か魔神のどっちかだけだろう。マドカがいても勝算はそこまで変わらないと思う。相手の戦略次第でどっちも倒せずやられて終わるが……
「それでもやるか? マドカ」
「やりましょう。それが私たちの役目です」
マドカも覚悟は出来ているという事か。なら……俺も腹を括ろう。
「行こう」
「はい」
扉をこじ開ける。鍵は掛かっておらずデカい扉であったが、簡単に開いていく扉を見ながら俺は心の中で呟く。
……アレを使う。準備を頼むぞ──****。
【……】
返答は聞こえなかったが、了解されたと確信した。
『来たか。侵入者どもめ』
待ち構えていたのは黄金の異形者。ファフニールと呼ばれている魔王だ。
フロア内部は王室をイメージしているようだ。壁や天井は灯り以外黒く塗り潰されて、玉座に座っているソイツは『王』と呼ばれる相応しい風格を宿している。……配下どころか魔神もいない。
「一人だけか? 魔神や配下はどうした?」
『魔神の方は知らん。仮に知っていたとしても教える訳がない』
それはそうだが……まさか読まれたか? だが、今さら戻るわけには……。
「チャンスと考えましょうか刃」
「ああ、決着を付けよう」
『言われるまでもない。此処で消してやる!』
俺たちの最終決戦の相手は魔王となった。
此処までの道を譲ってくれた人たちの為にも──絶対に勝つ!
「最初から全開だ! 第三権能『超融合』発動!」
火と風と光。本来なら二つ以上の属性が必要になるが、俺の『天地属性』はその代用に出来る。
師匠が扱っている中でも特に強力と言われた『最高位の融合属性』の一つ。
──大空を支配する属性。
「擬似・融合属性──『天王』!」
『!』
藍色で青空のようなオーラと金色に近い太陽のオーラの二色を纏う。髪や瞳を変化しただろう。
両腕にそれぞれのオーラを集めた。
「『王空殺しの魔剣』『王光殺しの籠手』!」
空を支配している青空色の魔剣── 『王空殺しの魔剣』
太陽を支配している太陽色の籠手── 『王光殺しの籠手』
大空の専用の魔法武器を両腕に装備した。
「私も! ──『常闇王の極衣』!」
マドカも闇系統Sランク最高位の身体強化魔法を纏う。
長い黒髪がさらに濃くなる。服装にも黒色が混じって背中には『妖精族』の黒い羽が生えた。
「行くぞ!」
『ッ!』
籠手から火炎球を魔王に向かって放つ。
融合属性が練られた大玉であるが、魔王は黄金の障壁を腕に展開して弾き飛ばす。
そこへ一気に俺は距離を詰める。その腕を籠手が装備された手で掴んで睨み付けた。
「最後に名乗ってやる。『魔導神(ついでに魔王)』の弟子、龍崎刃だ!」
「過去の名は捨てた! 我が名は魔王ファフニール! 神共に失望した世界の革命者だ!」
神の弟子と神の守護獣が激突する。
全てを賭けた死闘が始まった。
あ、(ついでに魔王の弟子)を付けるの忘れた。