第78話 魔神の真の罠とは(弟子は魔神に殺意を込める)。
突然現れた真っ白な甲冑騎士。
それをチラリと見ていた魔神が微かに笑みを溢している。ちょうど突撃して来たトオルを暗黒の雷で押し返した時で、零と睨み合っていた。
「ふふふっ」
「何がおかしい」
「うん? ちょっとねぇ。面白くなりそうだなぁって」
剣を構える零が問い掛けると魔神の女は顔を向ける。仮面越しで瞳が笑っている。揶揄うように指を動かして、指先を現れた白の甲冑騎士に向けた。
「アレが見える? アレはね……絶望なんだ」
「絶望だと?」
「そう、彼の絶望の引き金さ。憎悪も含まれるけど引かれたら……きっと面白い事になるだろうねぇ」
──絶望。その単語を聞いた零の脳裏に自身の絶望と呼べる過去の地獄が過ぎる。
そしてある可能性。あり得ないと思ったが、もし魔神が狙っているのがあの時の自分に似たような策略だとすれば……あの中にいるのは。
「あ、気付いちゃった? 多分正・解だよ」
「ッ刃、待っ──ッ!」
血の気が引いた。同時にイカれていると思ったが、魔神の動機よりも今は刃が優先である。
だが、行く手を阻むのは魔神が放つ暗黒の雷。零から刃の姿を遮る巨大な雷の壁が無数に出現した。
「っと行かせないよ。何の為にボクたちが出張って来たと思ってるんだい?」
「最初からオレたちを引き離す事が目的だったのか!」
「バラしてあげた事も含めてねぇ。仮に剣導王や四神使いが気付いてももう手遅れさ」
やられた。魔神の狙いは刃だ。自分やトオルが危惧して魔神を引き受ける事も計算の内だったんだ。
さらにヴィットの足止めの為に魔王も投入している。何が何でもあの正体不明の甲冑と刃を打つけさせたいんだ。
そして刃の手によってその甲冑騎士を───。
「誰が入ってる! 答えろ!」
「もう手遅れだって言っただろ? もう声だって届かないんだ。黙って見てなよ」
「ッ──害虫が!」
零の全身に『黒夜』の黒色が放出される。異能を全開にした。
それを見て魔神は肩をすくめて呆れる。愚かな選択だと鼻で笑った。
甲冑の鎧が影響しているのか魔力は殆ど感じない。
魔物かどうかも不明だが、邪魔して来る時点で敵サイドなのは確定だ。
「悪いが雑魚でも幹部でも今は忙しいんだ」
魔王どころか魔神まで出ている状況だ。チンタラする気はない。
融合スキルを使用する。火属性と風属性を合わせた第二権能の属性融合だ。
「手早く済ますぞ。『火龍の炎帝衣』!」
俺自身のオリジナル属性融合。
炎の尻尾と炎の翼が生まれる。髪にも赤い炎が混じって瞳も赤く燃えているだろう。
「『炎帝ノ劔』」
激しい炎を手のひらに生み出して、それを鋭い風の膜で固める。
風の特性を斬撃で生かして破壊力を火の特性で活かす。破壊力重視の一振りの魔剣だ。
翼と速力を活かした爆発的な突撃。置き物のように立っている甲冑まで一気に接近した。
「改式『龍炎・断斬』」
大振りからの一撃。龍が火を吹くように刃から炎が煙のように吹いた。
『……』
「ッ?」
真っ白な甲冑は何をするか。出方も当然注意していたが、こちらの振り下ろしに対して甲冑は機械のような動作で左手で掴んでいる盾を出す。表面が鏡のようなそれで俺の魔剣に対抗して来た。
燃費は悪いが破壊力には自信がある魔剣。そう簡単に防げれるものではない筈だが……。
「!」
──チッ。
激突した瞬間、鏡のような盾が輝いた。
刹那、接触した魔剣の刃が勝手にブレる。吹き出していた炎の煙も揺れて、俺が振り下ろした一撃が……
「──ッ!?」
返って来る。するとはね返ってくるエネルギーを抑え切れず、魔剣の柄から上の刃が砕けた。
火龍の威力が全てこちらに返って来る。───というかちょっと待て!? ……この魔法は!?
「『魔法反射』……だと!?」
『……』
理解してしまった瞬間、本能が勢いよく警報を鳴らした。攻撃を止めろと。殺してしまうと。
「ッ爆龍!」
砕けてはね返って来る炎の欠片。全てを『火龍の炎帝衣』の身で受けて吸収する。
再び魔剣を生成させると『炎帝ノ劔』の刃を炎の龍に形態変化する。
「『炎帝・炎刃衝』!」
攻撃するなと本能が警告する中、もう一度炎の龍となった長い刃で鏡のような盾に一撃を与える。
また盾の鏡に備わっている『魔法反射』が発動する。魔力を含めたエネルギーが血管のように刃を伝って衝撃となりこちらに返って来るが……!
「爆龍!」
返って来るエネルギーを新たに呼び出した龍の顎門に喰わせる。さっきよりも大きくなった龍の刃で構えた。
「『炎帝・火龍刃牙』!」
先ほど振るった一撃にも乗せて火龍の斬撃が甲冑に向かって、甲冑は動かず盾を前に出した姿勢のまま、盾の鏡のみが輝きを見せる。また取り込んでそのエネルギーを刃に伝わらせてこちらに返そうとする。
「『炎帝・火龍劫火』!」
俺は俺で火龍を追加する。三体目の火龍がさらにはね返って来るエネルギーを盾へ押し返す。
三回分の火龍のエネルギーが魔剣と盾の間で拮抗しそうになるが、やがて全てのエネルギーが盾の方へ集中する。
『……』
輝き続ける鏡の中へ取り込まれる。ガタガタと盾と持っている手の部分の鎧が音を鳴らして揺れる。直立不動を維持しているが、下手に動けないのは間違いなかった。
「マドカ!」
「はい!」
そんな甲冑の背後をマドカが捉えてくれる。遠目で見ていた彼女も勘付いている。
「『魔を祓う闇の霧』!」
異世界の闇系統である魔法除去。闇の霧が不動の甲冑の顔を覆ったところで俺も飛び出す。
「盾を引き剥がす! そっちを頼む!」
「分かりました!」
さらに闇系統の捕縛の鎖を出すマドカ。向かって来た俺に剣を動かそうとした腕や手足を拘束。見た目通り固い甲冑のようだが、腕力はそれほど強化されていなかった。
「『超融合』!」
第三権能の融合スキルで三体の龍の魔剣を一つに。
マドカの鎖によって手から落ちようとする盾の鏡。巨大になった火炎龍の青龍刀を下から上へ。
「『炎龍帝・炎天龍斬』ッッ!」
力一杯、振り上げた魔剣が鏡を叩き割る。衝撃で鏡の欠片が手榴弾のように破裂したが、今の俺には関係ない。
「ふざけるなよ? お前!」
特大の火炎龍の斬撃が塔に向かって飛ぶ。真っ二つになりかねない馬鹿デカい一撃が塔を襲おうとしたが、塔を覆っている見えない多重障壁がこちらの攻撃を弾く。
弾かれた火炎龍でもう一度突撃しようとしたが、瞬間移動のように零さんとトオルさんを振り切った魔神の女が出した暗黒の炎に喰われて消滅する。
「ふざけてないけど?」
「じゃあアレはなんだ?」
指差したのはマドカが拘束していた真っ白な甲冑騎士。奴の洗脳が解けたようでグッタリと顔を垂れて覆っていた白い兜が取れる。
「……意識が途切れてるだけです。大丈夫、助かります」
「……あとを頼む」
顕になった見知った顔を見て、俺の中で何かが一気に切れそうになった。いや、もう切れる寸前だ。
「人の妹に何してんだ?」
「ちょっとした余興。お茶目なイ・タ・ズ・ラ・だよ」
親父たちと一緒にいた緋奈がここに居るのか。いつの間に捕まったのか。など大きな疑問がいくつも浮かんだが、その全てがどうでもよくなった。
「……そうか、ならもう問わない」
光のない瞳から涙を流している緋奈の顔。それを見ただけで───。
「殺シテヤルゾ。コノ害虫風情ガァ!」
こいつを生かしては置かない。
魔王よりも先にこのふざけた仮面を粉々に踏み潰してやる!
───アア、イイゾ。今度コソ喰イ尽クシテ……神々ノ領域ヲ踏ミ荒ラスカ!!




