第67話 次元を越える者たちと夏休みな主人公(弟子は束の間の安息時期を満喫したかった)。
こちらでは久々の更新です。
カクヨム様の方が一旦落ち着いたので、こちらも少しずつ更新していきます。
「ッ、見付けたぞ!」
とある世界で唐突に時空へ繋がる空間が開いた。因みにそこは古代遺跡がある人のいない山奥。
そこから白いローブを身に付けた銀髪の魔法使いジーク・スカルスが現れる。人気が無かった事もあって、空からそいつを見つけるのに数秒も要らなかった。
「ちっ、面倒なのが来たか!」
「お前は……まさか龍種の守護獣か!?」
壊された遺跡から出て来た黄金の異人。一瞬でその正体を見抜いたジークであるが、同時に信じ難い表情で目を見開いていた。
「ほぉ、一目で私の正体を見破るとは大したものだ」
「何故だ? 神獣側の守り神とも言えるお前までどうして魔王に堕ちた?」
「貴様に説明するつもりはない! 退け!」
バッとその場で飛び立つ黄金の存在。逃さないとジークも回り込んで正面から止めようとする。だが、回り込もうとしたところで、別方向から光の弾丸が無数に放たれて来る。ローブの魔力で全て弾いていたが、その間に魔王と呼ばれた者は出現した塔の方へ移動していた。
「待て!」
魔力を纏って追い駆けようとするが、異空間を開いた塔はそのまま異空間内部へ。ジークも飛び込もうとするが、寸前で扉が閉じてしまい何も無い空間をただ突っ込んだだけに終わった。
「くそッ、このままだとマズイぞ」
すぐにでも追いかけたいが、分身である彼の空間移動は制約が多い。ここに来る前に連続で時空を飛び越え続けたのもあり、しばらくはこの地で待機しなくてはならない。
「っ……仕方ないか」
複雑な表情でとりあえず地上へ降りる。この世界の損害も気になるので、時間潰しに内部へ入ろうとした。
「トオル、聞こえるか? こっちは遅れそうだから先にジンのところに行ってくれ。後から行く」
その前に別世界まで届く通信魔法で相棒へ連絡を取っておいた。
「行くぞ刃」
「ああ、ジィちゃん」
クソ暑い真夏の真っ昼間、向かい合う俺とジィちゃん。
場所はジィちゃんが管理している魔法寺の広間(見た目は道場みたいな)。周囲には子供たちがわんさか(親御さんもいますが省略)。少女と間違われてもしょうがないマドカさんもいっらしゃる中、俺とジィちゃんを間には巨大なガラスの器が置かれていた。
「『雄大な青なる泉』!」
水系統の一級位魔法。巨大な器に飲み水としても飲める莫大な量の水が注がれた。衝撃でうっかり器が倒れそうになったけど、子供たちの反応が良かったので寧ろ良い具合であった。
「『属性優劣』」
続けて俺の番である。天地魔法による属性変換によって、溢れていた大量の水が氷へと変化した。
ひんやりした気持ちの良い冷気を浴びながら完全に凍り付いたのを確認して、用意していた竹刀に風の魔法を付与させる。さらに天地属性を混ぜ合わせて風の形態を変化させた。
「『微風の刃』からの……秘剣『氷削剣』」
「ネーミングセンスが崩壊しとるのぉ」
なんて酷いジィちゃんだ。孫の甘いなら褒めるところでしょうが。
「アイス・シェーバー(笑)」
マドカさーん? あなたもですかー?
「ふっ、そこまで言うなら見せようじゃないか!」
「そこまで言った覚えはないがのぉ?」
「一言しか言ってませんよ?」
なんて言っているグラサンもロリも無視。
ミヤモト流の構えを取ると器に乗っている特大の氷塊に向かって斬り掛かった。
結果として特大のかき氷が出来上がって子供たちからは大ウケであったが、何故だろうか……大人やジィちゃん、マドカからは苦笑いされた。かき氷は美味しかったです。
夏休みとは学生の長期休暇みたいなものだ。大半の奴なら遊ぶか旅行。家でブラブラしているのもいると思うが、暑さを紛らわせようとプールに行くのも多いと思う。目的は色々あるが、その大半の者たちと違って俺にとってこの夏休みは、ある意味最後の安息時期と言えた。
「はぁ、夏休みが終わるぅ」
「終わりますねぇ。かき氷また食べたいです」
自由なマドカさんは本日もこんな調子だ。夏休みも登校しないといけない日があるそうだが、一応新人扱いなで受け持っているクラスもないので日数は他の教員よりは少ないらしい。それでも【魔導師】の階級なので何度かダンジョンの関係で行かないといけない……いや、それよりもだ。
「少しは俺の苦労を労ってくれよ。あの試験に所為ですっかり悪目立ちが悪化してんるんだぞ?」
試験ランキング第一位(プラス筆記試験一位)。その不名誉な肩書きが増えた事で夏休みに逃げ込んでも、俺の学園ライフはお先真っ暗である。夏休みが明けた途端あのウザったい優等生共と教員たちの圧を受けるハメになるんだ。何の嫌がらせだよ。泣くぞマジで。
「仕方ありませんよ。そもそも悪目立ちしていたのを試験で暴れ回った事でさらに印象を濃くしたんですから。まぁ、仕向けた私が言えた話でもありませんが」
「そうだよ。そもそもマドカが強引に出ろみたいに言って来なかっ「言わなくても白坂桜香の件で出ていたと思いますが?」たら…………」
「違いますか? 他人でいようとしたのを妹さんの口車に乗って引き受けた。裏があると分かっていたのなら最悪の展開も想像出来た筈ではありませんか? 私の方はご褒美を用意していましたが、あちらに関してはあなたの自己満足程度の報酬しかないのでは?」
「ねぇ? なんか言葉に棘がない? 暑いからグサグサするはやめてくれ」
……結局俺がちゃんと拒絶しなかったのが悪い。という話である。
自己満足と言っているマドカが正しい。認めたくはないが、俺はまだアイツらに……。
「はぁ、にしても暑い。ちょっとした買い出しも鬱になる天気だな」
「布団が干し放題な良い晴天ではありますがね」
ラフな夏シャツで向こうのダンジョンでも灼熱階層があったが、これはどうしようもないな。
かき氷を食わせた後、お菓子やら飲み物も配ったのだが、食べ盛りというやつだろうか、途中から足りなくなって買い足す事になった。……絶対ぽっちゃりな男の子あたりが犯人だ。
「お前まで付いて来る必要はなかったんだぞ? 見た目的には俺よりも日光に晒されたら危ない白い肌だし」
「分かってて言ってます? あの状況に一人取り残されているくらいなら、あなたとこうして炎天下な道を歩いていた方がマシなんですよ」
白いワンピースから出ている真っ白な肌を見て告げるが、マドカの反応はウンザリした疲れたような顔である。なんとなく理解した俺は苦笑いを浮かべながらそっと視線を逸らしてしまう。
「思ったよりも人気があったように見えたが、そんなにキツかったか?」
「女の子よりも男の子の方がかなり強引で困りました。私はただかき氷を食べてのんびりしていたかったのに……」
不運というか必然というか、神秘さもある容姿なマドカ少女の存在は集まっていた子供たち男女問わず引き寄せてしまったらしい。それこそ強引に一緒に遊ばせようとするくらい。途中取り合いになっててジィちゃんも俺も笑顔で見送った。
「あ、そうでした。よくも見捨てましたね(怒)? どうして助けてくれなかったんですか」
「だって男の子たちの敵目線が辛かったんだもん」
だもんじゃない。みたいに睨み付けてくるが、あの状況では下手に割り込むとこっちが悪者。同年代や大人たちの視線よりも堪えるんだ。
「人でなしな刃の悩みなんて知りません」
「それが理由か。悪かったよ。アイス奢るから何か考え──「キャァァァアアアアアア」ッ!?」
不機嫌になるマドカをどうにか慰めようとするが、突如響き渡った女性の悲鳴が俺の思考を切り替えさせる。高い悲鳴であるが、聞き覚えのある声……方向場所を瞬時に読み取った。
「マドカ」
「分かりました」
先に行くぞと目で訴えるとマドカも頷く。念の為に彼女を置いて、付近にいる他の人達も悲鳴に驚いている中、声のした方へ駆け出す。
「声は……裏手の道か」
幸いか悲鳴が止んでも居場所は掴むのに支障はなかった。何故か、それは凄まじい彼女の殺気が裏手で充満していたからだ。……そして
「ちょ、ちょ、ちょっと落ち着いて! 今のは不可抗力で!」
「っ、問答無用だ! この変質者ッ!」
「……」
先ほど悲鳴を上げたであろう幼馴染の桜香さん。顔真っ赤で凶暴化して胸ぐらを掴んでる男を今にも撲殺しそうな感じだ。……あれ? どっちの危機で駆け付けたんだっけ?
いざ駆け付けたら殺人事件でも起きそうな殺気(桜香威圧)が充満して、暑さとは別の冷や汗が俺の額に流れ始めた。




