第66話 苦労人は死神な異能者で居候は四神使い(弟子の知らない世界)
別物語と超コラボです。
前にやったヤツの改編で、色々と変えていく予定です。
その世界は【メトロ】と呼ばれている。
無数に存在する世界の一つ。地球と呼ばれた世界の一つだ。
そこは日本のとある山奥。密かに異能者たちが管理している危険領域であるが。
「グハッ!?」
「英次!」
九条凪を庇って、大野英次が濁った黄金の雷を浴びてしまう。
咄嗟に肉体を強化したが、神経にまで届くような一撃。ダメージが大きく倒れたまま起き上がれないでいると……。
「英次、しっかり!」
『邪魔をするな。この世界の住人たちよ』
「っ」
倒れた彼に寄る凪へ鋭利な指先を向ける。指先から先ほどと同じ雷を生成され、尖った矢のように放たれて動けずにいた凪の頭部を──。
「させるか」
『ッ!』
届く寸前で黒い盾を持った青年によって防がれる。見た目は薄いただの盾にして見えないが、貫通力が高そうな雷の矢を容赦なく弾く。
「電気針を放つ金メッキか。見かけより地味な手を使うんだな」
「零、遅い!」
「すまん。妹のベットで寝てたら遅r──勉強してたら寝落ちしてた(ボクハナニモシテマセン)」
「全然誤魔化せてないから(何やってんのかなぁ。このシスコンは?)」
冷える夜だけど温度は余計に下がった気がした。
救いようのないモノを見る幼馴染の蔑んだ目に零は咳払いしながら誤魔化す?とその表情から冷徹な戦士の気配が宿った。中身は超が付くシスコンな主人公だが。
「で、この明らかに人外なお客人は誰?」
余計な感情が抜けて分析の目で対象を目視する。
その姿は黄金の人外。大人よりも二回りほど大きな巨体と悪魔のような形相と翼。濁っている黄金の肉体がより危険な何か見えるが……。
「関係ない。敵は──排除する」
『また邪魔者が増えたか。フッ!』
零は冷たい表情のまま納得して、黄金の人外は凶器のような手のひらから雷を迸らせる。
盾の形状を零が剣に変えた途端、溜め込んだ雷を放つ。矢の時とは桁外れの質量であるが、零がそっと刃を前に出すと電撃が剣に集まって霧散、消滅した。
『ッ──貴様、まさか【夜色の死神】ッ!』
「……何故知ってる?」
驚いている人外へ零は不審そうに言いつつ───消える。
『ッッ』
「躱すか」
背後に瞬速移動した零の一閃を人外は辛うじて躱す。振り返り雷を生成した長物を振るって来るが、その長物を零は黒く染まった片手で止めた。
『死神!』
「“黒夜”よ、敵を飲み込め」
『なっ!?』
黒色に染まった彼の手が掴んでいた部分から黒色の異能──『黒夜』が雷を侵食。人外の手から肉体まで飲み込もうとするが。
「っ──避けろ零!!」
「!?」
未来視の能力を持つ英次が叫ぶ。目を見開いた零が距離を取ったところで、彼の居た場所に闇が混じった黄金の火柱が昇る。人外が舌打ちしたのを見て、奴の仕業など理解した零が冷たく吐き捨てる。
「狡い手が好きなようだな。地面からとは……ただの臆病か」
『黙れっ!』
今度は炎を周辺に生成させる。槍や剣などに形状が変化して展開される。
『灰となれ! 能力者!』
「“黒夜”よ、刃となって敵を迎撃しろ」
零も黒夜の黒色を空中に展開。形状をナイフのようにすると、放たれて来る炎の槍や剣を撃ち落としていく。
『っ……この!』
「何の炎か知らないが、除去可能なら容易い」
再び瞬速で移動した零。今度は背後でなく真っ正面から突っ込む。寸前で炎の壁が遮って来るが、躊躇わず大振りで剣を振り下ろした。炎はバターのように真っ二つに斬れた。
「この際貴様が誰か、何故オレを知っているのかは、全て無視しよう」
状況的には零が優勢のように見えるが、この戦闘が長引くのは危険だと彼は早期決着を優先した。
『っ速い!』
「アウトだ」
ー始剣ー斬黒一閃
炎の先で立っていた人外へ零はトドメとなる漆黒の斬撃を繰り出した。
【不可解な迷宮塔】
……だが、斬撃は届く寸前で人外が覆う光によって打ち消される。
夜の山奥、上空から降り注ぐ光に零は僅かに驚きの顔をして、すぐさま上を見上げたところ……。
「何だ? アレは?」
空は当然のように暗闇であったが、さっきまでそこには何も無かった筈だ。
だが、今はハッキリと視界一杯に光を差している巨大な塔が映っている。高層ビルのように高く城のような囲いも見えて、ところどころに浮かせる為のプロペラが付いているが、それだけで浮けるような質量とはとても見えないデカさのヤツが……
今、彼の視界で見下ろすように君臨している。凪も英次も気付かなったようで驚きの声を出しているが。
『悪いが、この世界での私の目的は既に達成している。これ以上邪魔をするなら───貴様は此処で消えてもらう』
「っ───!」
言うや人外は手を空高く上げる。闇が混じった黄金の炎が集まっていき巨大な炎の塊が生成される。
「零っ!」
「……!」
焦った凪が叫ぶ。零は振り返らず剣から槍に形状を変化。
異能技『ー始槍ー黑槍必中』を発動させた。
『灰燼となれ!!』
「──ッ!」
大玉に溜め込まれた炎が分裂して、いくつもの龍の顎となって放たれる。
オーラを纏った黒き槍を零は振り投げる。刹那、射殺するような強烈な視線で多数の龍の奥に隠れた人外を捉えた。
死神の槍と汚れし龍炎が衝突。同時に上空で飛行していた巨大な塔からの光が増す。人外に当たっていた光が広がって零まで飲み込もうとする。
「ダメだ零っ!」
「っ凪!?」
手を伸ばして駆け寄ろうとする凪。動けない英次が止めようとしたが、間に合わず彼と共に彼女まで光の中へ入って……
「マ、マジかよ……」
しばらくして光が止んだその場には、英次以外の二人と人外、それに巨大な塔は跡形もなく消え去っていた。
「逃すかぁぁぁぁ!」
「ッ変態! いい加減執念いのよぉぉぉ!!」
此処は【スティア】と呼ばれている異世界。地球とは異なる魔力が満ちている星。
魔法は存在しているが、精霊は認識されていない。御伽話程度のものである。
【逃げられちゃうわよ!】
【もっと急いでください!】
「もう目一杯走ってるぅぅぅぅ!」
そんな精霊──女神と呼ばれている存在を宿している青年ヴィット。
冒険者であるが、居候先のお店で働くちょっとしたエリート店員さんでもある(エリートは自称で本当は平だけど)。
「ていうか何処ここ!? ただの廃墟じゃなかったのか!?」
現在、逃亡している盗人のダークエルフ(ボインボイン)を追いかけている真っ最中。逃げた先のアジトと思われる古びた建物まで追い詰めていた筈が、何故か途中から天地がひっくり返ったような建物内部で追いかけっこをしている。
「ううっ目が回りそうだ! どうなってんだこの階段!」
【空間が歪んでるのよ! 多分何かしらの異次元ゲートがあってそれが影響して──】
「悪い。ちょっと説明タイム……な!」
姉妹精霊の片割れが凄い大事な説明をしているが、この場所が危険な空間なら呑気に聞いている暇など彼にはなかった。
「っいい加減待てって!」
「っ!」
埒が開かないと気で強化した脚力で、一気に逆さまな階段を登るダークエルフの前へ回り込む。
「返せよ、“神具”を。それはお前が持つような物じゃない」
「っ、いやよ!」
女には優しいので一応問い掛けるが、返答は毒々しい爪の手刀による突きであった。
ヴィットは特に動揺なく躱して残念そうに溜息を吐くと、その場で構えを取った。
「なら優しく交渉するのは無しだ」
その瞳に宿っているのは戦士の意志。やがてやって来るこの世界危機に絶対必要となる“神具”回収の為にも、女には非常に優しい彼も心に鬼を宿す。……スゥーと背中からフライパンを取り出した。
「アリサさん直伝『フライパン暗鬼術』で、そのボインボインを……打つ!」
「──ヒィ!? ま、またフライパンなの!? もうやめてよっ! 何回辱めれば気が済むのよアンタはーー!?」
フライパンが無かったら、きっとマトモなバトル絵面にも見えたが……悲しい現実である。武器?を持っている人間は母性の塊が超が付くほど大好き過ぎて、軽く登場禁止令が出てもおかしくないアレな主人公であった。
【色々台無し! もっと自重しなさないよ!】
【久々の登場なんですからもっとしっかりしてくださいっ!】
「ハハハハハハハ! さぁ勝負といこうかエラちゃん!」
「ちゃん付けで呼ぶなって、イヤァアアアアアアーー!?」
不安満載な主人に精霊姉妹も中で頭痛そうに叫ぶが、意外とノリノリなヴィットは止まることを知らない。ていうか欲望に忠実である。
両腕で巨大な膨らみを隠すエルフに向かって、本当に主人公かと疑うレベルの悪人動作で飛び掛かった。
【はぁ、ダメだね】
【むむむ、やはり巨乳ですか】
で、欲望のままに暴れ回った結果、うっかり隠されていた異次元のゲートを開いてダークエルフを逃してしまい、女神の力を借りて追う事になってしまうのだが……。
――新章始動。
初っ端からやらかしている自覚はありますが、突っ走ります!
こっそり守る苦労人 登場人物
泉零(死神の異能主人公)
九条凪(ヒロイン??)
大野英次
居候人は冒険者で店員さん 登場人物
ヴィット(気と精霊使いな主人公)
コロ(四神精霊◇朱雀◇)*やや乱暴口調
ルナ(四神精霊◇青龍◇)*敬語口調