第65話 試験終了とそして……(弟子は絶望した)。
後日談……しか語りようがない。
試験終了から既に三日が経過していた。
意識なかったし仕方ないじゃん!
ハードスケジュールなダンジョン探索の特別試験。
アクシデント満載なクソ試験の末、世界一相対したくない魔神と激突して……。
「気付いたら病院にいます。もしかして隆二さんの言葉が現実になった?」
なんか魔力切れ起こして瀕死になった気がするが……肝心なところの記憶が全くない。
完全に休眠していた気分だ。もし美人ナースが側にいたら天国かと勘違いしていた。
「それだと全部の病院が天国という事になりますが?」
「さらっと人の煩悩を読まない。あと頭に美人って言ったんだから全部は言い過ぎ」
あとナースなマドカの場合は『美少女ナース』。
たとえドジっ子な注射使いでも受け入れてしまいそうだ。
「暴走したのか……俺は」
「はい、魔神には逃げられたようですが、一部ほど喰ったようです」
「あーマジか」
掴まれた時点で意識の方は朧げだったが、魔力も気力も完全も切れていた。
寸前で何かが胸の奥から出てくる感じがしたが、どうやらギリギリのところで食欲より理性が勝ってくれたらしい。
「はぁ、検査も終わったし、そろそろ聞かせてくれるか?」
「……白坂隆二は全てを認めて現在は謹慎処分で自宅軟禁となってます。私情で二校を引っ掻き回して龍崎家、四条家のご子息二人への脅迫に加えて喧嘩も売った……という扱いです」
他にも色々とやらかしているが、その辺りは立場もあって大目に見られたらしい。省いた部分もあるようだが。
一応二校へ賠償とか俺やミコへの慰謝料と謝罪料も支払われるようで、謹慎が解けたとしても警務部隊の隊長権限は当分剥奪。三ヶ月以上のダンジョン労働も確定しているそうだ。
「既に白坂家からは当主自らお祖父様にお会いして謝罪されましたが、刃がお目覚めになったら改めて謝罪にいらっしゃるようです」
「来られても困るんだけど」
隆二さんの暴走は俺にも原因はある。もちろん大半はド・シスコンな本人が悪いけど。
「隆二さんの方は分かった。……緋奈はどうなった?」
「表向きは姫門の生徒として参加したという形で落ち着きました。白坂の男性は万が一の事を考えて、急遽参戦した姫門の生徒の中に彼女の名前も混ぜたリストを用意していたようです」
誘ったのはどちらか知らないが、隆二さんは保険を掛けていたか。
「なるほど……で、裏向きには?」
「当主の命で謹慎処分を受けてるそうです。具体的にどんなやり取りがあったかは不明です」
マドカの話じゃ知っていた祖父は何も言わなかったか。
結局妹とちゃんと和解できたか怪しいが……あの騒ぎじゃどうしようもないか。
「他の家も手を組んでいましたが、白坂が一手に罪を引き受けた事。それにダンジョンのトラブルも合間って有耶無耶になりました」
「しっかりとした証拠があればいいが、学園の上層部も関与しているならそれも厳しいだろうしな」
ぶっちゃけるとマドカなら言い逃れ出来ない証拠も掴んでそうだが、あと二年は送りたい学園生活をここで振ってしまうような真似は極力避けたい。……何より。
「今学園を刺激するのは得策じゃないしな。ただでさえ俺の追い出す策が失敗したのに、裏切っていた教員が謎の死を遂げてるんだ。……対応の山に発狂してるかもな」
ある意味、色んな騒動の中で最大の爆弾だ。
ダンジョンの入り口を爆破、最下層の魔物の群れを利用して生徒たちを追い詰めて、さらに白坂桜香を人質にした戦術クラスの長谷川教員だが……事故死という形で処理された。
「隆二さんも共犯だと疑われてる?」
「ええ、一部の者たちから。白坂隆二は彼の助力もあってダンジョン内部へ入り込んでいましたので、疑われても仕方ないとは思いますが、最も被害に遭ったのは彼が暴走し原因の白坂桜香さんですから、疑われているのは少数です」
魔法関係の警察部署の警務部隊を呼んで徹底的に調べる重要な件だ。
現に処分を受ける事を承諾した隆二さんも長谷川の死とその身辺調査については、絶対調べるべきだと学園と警務部隊に何度も進言して一応動いたらしいが……。
「死因は自身が暴走させたと思われる魔物の攻撃。登録されていた住所の部屋も調べたそうですが、何も残されていなかったそうです」
まるで最初から誰もいなかったかのように綺麗な状態の部屋。
調査しようとした機関の人間も学園のPCや銀行などを辿って調べているようだが、この三日、大した情報は得られていない。
「だから俺の方にもいずれ事情聴取の要請が来るわけか」
「明日にも来ると思うのでもう寝坊はダメですよ?」
いや、好きで三日も寝込んでいたわけじゃないだが……。
まぁ話を求められても俺が答えれる内容は少ない。
「隆二さんがある程度話しただろうし、俺が話せると消えた教員を追いかけようとしたが、何処にも見つからず、代わりに核の柱に縛られていた桜香を見つけたから救助。そのあと竜王と戦っていた双子に参戦してそれに勝利した。……ってところでいいかな?」
世界最悪な魔神とドンパチしたなんて言っても信じてもらえない。
そもそも異世界の話に触れないと説明が不可能なので、双子たちもその辺りの報告は誤魔化したと予想してまとめて見た。
「いいと思いますが、竜王と戦ったところは伏せてもいいのでは? 倒しましたが、バッジを付けてなかったので向こうには学園側にはバレてませんよ?」
「騒ぎを避けるならそうすべきだが……もう嫌ってほど目立ってる。ならそれを利用して学園側に示す」
Aランクの双子がいたといえ、俺が竜王だろうと平気で挑む危ない奴だって。
今後強行的な手段をするなら……そいつを潰してやる。
「というわけで上手い情報操作の方をよろしくお願います」
「そっち路線で進むんですね。ガンバです」
進み以外に道ありますか? 騒動起きる前のデータは集まってるんだ。もう誤魔化しても仕方ないでしょうが……。
あ、未来が闇に染まったのが見えたわ。
「はぁ、家に篭ってたい。また引き篭もりたい。早く夏休みになんないかなぁー」
「まだ筆記試験が残っているのでサボるのはダメで……あ、そういえば特別試験の結果なんですが」
普段は甘いマドカも試験をサボらせる気はないと言い捨てようとしたが、試験の単語で何か思い出したか。……なんでか彼女は笑顔で頭を撫でて来た。……ワッツ?
「ご褒美は『美少女ナース』との時間でどうでしょう? 今ならお休みからおはようまでフルコースでご奉仕てあげますよ?」
「そのご褒美って試験結果が一位の場合───いや、言わなくていい。というか嬉しそうな顔が怖すぎるからご褒美もちょっと待って……ねぇ? 訊いてますか? 訊いてますよね? お願いですからその賞状らしき物を出すのはもうちょっと待ってくださいっ!!」
この瞬間、俺の安定された平穏が激変したのを悟った。
夏休みを挟めば上手くいくかと思ったけど甘かった。
二学期どころかその先まで、学園一目立つ生徒として君臨してしまう『暗黒の未来』が確定しまいました。
『随分顔色が悪いが、何があったのか?』
「君には関係ない事だよ。それより頼んでいた物は全部揃えてくれた?」
薄暗いホテルの部屋。
外は昼まであるが、魔神の彼女はカーテンを閉めて光を完全に遮っている。
僅かにでも光が当たると包帯丸けな両手に染みるのだ。
『悪いがもう少し掛かる。どうも神々が手を組んで私を追っているようなんだ』
「どうでもいいけど失敗したらその時点で契約違反だから」
実際大変な仕事であるが、彼女は苛立ちを隠さず告げる。
床の敷いた魔法陣から映っている『黄金の者』に冷たい眼差しを送った。
「いいかいシャドウ───否、魔王ファフ二ール」
『……ああ、承知している』
魔王と呼ばれたそいつはコクリと頷いた。
やがて通信が切れて映像の消える。魔神はハァと深い溜息を吐くと疲れ切ったように床へ倒れ込んで……。
「は、はははは……ハハハハハハハハ……」
乾いた笑い声が徐々に大きくなる。
「アハハハハハハハハハハっ! アァァァァァハハハハハハハハっ!」
防音出なかったから間違いなく苦情が来ている。
それほどの高笑いを喉が枯れそうになるまで続けた魔神は……暗い天井へゆっくりと手を伸ばした。
「龍ゥゥゥゥ、崎ィィィィィ……ジィィィィィィンンンーーー」
闇を宿した瞳が天井の先で何かを捉える。
掴むように包帯の手を握り締めて、彼女はまた大笑いを上げてその笑い声はしばらく続いた。
やっと終わりました。で五章へ続きいます。
『元勇者と後輩』ついて。
延長したまま放置しており、こちらが切りが上がったら再開予定でしたが、モチベーションどうにも保てそうになく、書いてもグダグダになる予感しかないので延長なしで完結扱いに決めました。
一応何を書く予定だったかはダイジェスト版で近いうちに出すつもりです。
細かい話はそちらの作品でお知らせします。 色々と振り回してしまってすみませんでした。