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神と魔王の弟子は魔法使い 〜神喰いの継承者〜  作者: ルド
第4章 弟子の魔法使いは試験よりも魔神と一騎討ち(でも試験荒らしてトップを蹴落とす)
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第64話 神喰いの継承者(********)。

決着。

「……」


 刃の祖父、龍崎鉄は自身の寺の庭で静かに佇む。

 視線の先は庭に置かれている大きな石碑。

 真っ黒なサングラスな為、その瞳を見る事はできない。


「時代が動く時か……それも悪くないのぉ」 


 奇妙な文字が入っている石碑は、ずっと昔の龍崎家の人間が描いたものだ。

 そこには龍崎家の正統継承者のみにしか分からない家の秘密が書かれている。


 鉄は婿立場であるが、当時の龍崎家の娘であった妻とその両親にも認められている。

 神崎家を含めて他所からの反発はこれでも大きかったが、彼は正式に継承者となり、この石碑の解読方法も教えられていた。


「はぁ、こんな物を残すくらいなら改善案を用意せんか」


 これを残した者は本当に予知のチカラがあったのか。

 一応家系図の書物にも書かれていたが、曖昧な情報ばかりで鉄も対処に困る。


「『全てを喰らう悪魔が生まれる』……ただの迷信ならどれだけ良かったかのぉ……」


 迷信と言うには気になる部分から目を外せなくなる。

 彼が知っているモノは悪魔ではない。


 しかし、やがて世界を喰い尽くすかもしれない。

 

 そんな危険極まりない存在を、よりにもよって彼は生み出してしまい……。

 あろう事か愛していた娘だけではない。


 ───孫にまで理不尽な運命を押し付けてしまった。


 

 


 ───特別試験の最終日。

 ダンジョン最下層にて、二人の超越者が激突した。

 

「ハァアアアア!」

「アハハハハハハハハッ!」


 銀色の魔導師となった龍崎刃の白金の刃が眩い光を放つと。

 心底楽しげに笑う竜化した巨大な魔神の鱗を斬り裂く。


「ミヤモト流───『九式・改』」


 さらに追撃のミヤモト流の剣術を叩き込もうとする。

 普段の持ち方とは全く異なるが、刃は慣れた様子で一切違和感なく放つ。


「『光殲・鷹翼(コウセン・タカヨク)』ッ!」


 翼撃をイメージする広範囲の光の斬撃が巨大な竜に叩き込まれる。

 鋼のような頑丈な鱗が傷付くが、竜化した魔神の表情に苦悶の色は見られない。


「なかなかだね! けどこのくらいじゃ足りないよ!」

「そうか、なら──」


 その様子を見て刃も捌く方法を変更する。

 刃に埋め込まれている三つの魔石の一つ『時空属性』のSランクを選択する。


「『時空の支配者(ディメンション)』、『断裂(スラッシュ)』!」

 

 白金の刃に時空の力を纏わせると鋭い一閃を繰り出す。

 空間を裂くチカラも加わった事で、頑丈な鱗の奥にある肉に到達。


「──ウッ!」


 斬られた腹の部分から血飛沫を漏らして呻く竜の魔神。


「まだだ!」


 勢いを止めない刃は神ノ刃(イクスセイバー)で竜の胸元目掛けて飛び掛かるが……。


「グッ!?」

「やらせると思うかい!?」


 痛みで苦悶していた筈の竜が背を向けたと思えば、太い尻尾の強烈な鞭打ち。

 咄嗟に空中で踏ん張り吹き飛ばされるのを堪える刃だが、魔神は大きな顎門を開いて赤の放線と黒の螺旋が混ざったブレスを放って来る。


「ッッ──『時空の支配者(ディメンション)』、『防御(シールド)』!」


 時空を纏わせた刃で空間に円を描くと、その空間にガラスのような時空属性の障壁が展開される。


 ブレスの攻撃は全て時空の障壁が吸収。

 彼が刃を振るうと障壁からブレスの魔力が魔神の方へはね返された。


「カァァァァッ!」


 だが、魔神も続けてブレスを放ち、向かってくる魔力を相殺させる。

 さらに魔力の出力を上げる。顎門にこれでもかと大なブレスの塊を生成して放つ準備に入った。


「ふふふっ、細胞まで消してあげるよ!」

「今度のは大盛りだな」


 まともに受けずに避けるべきだが、魔神も刃の行動を先読みしており、放つ方向を気絶中の桜香と刃が重なるように合わせていた。


「さぁ避けなよ! 代わりに彼女が吹き飛ぶけどねぇ!」


 避ける選択が無くなれば、正面から受けて立つしかない。

 かなり厳しい状況であるが、刃は神ノ刃(イクスセイバー)の出力を最大まで引き上げようとする。


「へぇやる気かい? いいよ。そうでないと面白───グッ!?」


 面白がっていた魔神の口が突如塞がれる。

 中心が白く周りが青白い炎の塊が魔神の炎を押すようにして顎門を塞いだ。


『すけだち、さんじょう……』

「ナイスタイミングだ。お陰で助かった」


 上空より少しばかり手傷を負った白き龍のアステルがやって来た。

 その隙に刃は白いローブの中に隠れた『メタル君マント』を桜香に向かって飛ばす。


 倒れている桜香を捕まえさせてそのまま移動させた。……さっきまでやや暴走気味だった所為で、メタル君の存在が頭から抜け落ちていたのは内緒だ。


「ッ、白い龍…… もしかしなくても『光の龍族』かい?」

『半分違う。わたしは、はぐれもの』


 律儀に答えるアステルの周りで白い魔力の塊が生成される。その数およそ百近い。


「半分……ていうことは、純潔ではなく混血の龍? それだけ白いのにいったい何と交わったんだい?」

『答えるひつよう……ある?』


 言い終えたところで、塊が全て弾丸となって竜と化した魔神へ襲い掛かる。

 数が多過ぎて避けるのはほぼ不可能。さらに攻撃を中断された衝撃がまだ抜けておらず、迎撃体制がまだ整っていない。


「──ッ、だよねッ」


 防御体制に入るしかなかった。

 頑丈な翼も盾代わりにし体を覆い隠して、降ってくる弾丸をどうにか対抗するが……。


「隙だらけ」

「カメより狙いやすい」


 同じく駆け付けたサラ、リサのルールブ双子が動かない魔神へ奇襲を掛ける。

 魔力武装の状態で愛用の剣と槍に属性魔力を纏わせて叩き込んだ。動いてないので簡単である。


「グッ!? き、君たちはっ」

「その魔力……魔神か」

「魔神は全世界の敵。だから排除する」


 龍崎刃とのトラブルなどあっさり放置して参戦する。

 色々と巻き込まれた刃としては苦い顔を隠すのも難しいが、この状況は決して悪くない。


「いや、勝機だ(・・・)

「ッ! もう勝った機会!?」


 彼の呟きを聞こえた魔神が叫ぶが、彼は構わず勢いよく跳躍をするとアステルの背中に飛び乗る。


「連続攻撃で防御を削る。飛び回って撹乱してくれ」

『わかった』


 双子には視線だけ送って、刃はアステルにのみ指示を出して動く。

 出来れば指示したいが、双子とは未だに敵対関係。素直に言う事を利くとは考えない方がいい。


「「……なら私たちも好きにやる」」


 なので自由にやっていいという気持ちを込めた視線を送ると、双子もなんとなく察して頷いてくれた。


「決着を付けるぞ。魔神」

「ッ──ああ、良いよ。決着を付けようじゃないか、龍崎刃君ッ!」


 こうして竜王を取り込んだ魔神に対して、神と魔王の弟子、契約した白き龍、双子の異世界人が組んで挑む事になった。



 そして魔神は知ってしまう。

 彼の中に潜んでいるモノの存在を。 


「ミヤモト流───特式」

「「エリューシオン流───」」


 飛び回るアステルのブレスや魔法攻撃で警戒が緩んでいる魔神。

 そこへ刃と双子が互いの流派の技で畳み掛ける。


「『天斬(テンザン)』ッ!」

「『葬送極(レクイエム)』ッ!」

「──ッッ!?」


 その結果、刃の剣先から飛び出した光の巨大な斬撃は竜の尻尾を両断。

 双子の斬撃嵐によって竜の両翼がボロボロに斬り刻まれた。


「えいや」


 一度に多大なダメージを受けた事で、魔神の彼女は声のない悲鳴を上げるが、そのタイミングを待っていた白き龍のアステルが巨大なブレスを魔神へ放っていた。


「リサ!」

「サラ!」


 双子も攻撃の手を止めない。

 互いの武器をクロスさせて倒れている竜へ照準を合わせた。


「「『雲海竜の暴風オーシャン・テンペスト』ッッ!!」」

 

 範囲の広い融合魔法で追撃。全身の鱗をさらにボロボロにして弱らせていく。


「ゲホッ……ホント、容赦ない!」

「竜化した時点でする訳ないだろ」

「……ッ!」


 文句を言いつつ血を吐き捨てると側から呟きが返って驚く魔神。

 慌てて振り返るといつの間にか近くで厄介な武器を持った刃が立っていた。



「決める。ミヤモト流───初式奥義(・・・・)


 

 告げて構えた途端、魔力と気のリズムを完全に同期させる。

 この奥義は特式以上に集中力と全体のバランスが大事になる。


 大事なのは出力ではない。全ての型の調和だ。


「『真刀幻夢(シントウゲンム)』」


 この世界じゃ本来は扱わない無属性。

 そして基本の五大属性や特殊属性の二つを操って、光速の連続剣技を繰り出す奥義。


 ───『一刀・雷電』


 ───『二刀・風牙』


 ───『三刀・火龍』


 ───『四刀・雨嵐』


 ───『五刀・地震』


 五つの連続剣技が魔神の頑丈な肉体を何度も削って斬っていく。


「終わりだ!」

「ッッ、ハァアアアアッ!!」


 ───『六刀・無幻』


 最後の無属性の一太刀が魔神の喉元を斬り裂こうとしたが、最後の抵抗とばかりに魔神が咆哮を上げた。


「うっっ!?」


 至近距離だった為に吹き飛ばされたが、飛んでいたアステルが彼をキャッチして衝撃を抑えてくれた。


「っ……またまたナイスタイミングだな」

「もっとほめて」


 苦笑しながら剣を付けてない手でアステルの頭を撫でると、嬉しそうに目を細めて擦り付けてくる。


「ハァ……ハァ、結構しぶとい」

「連戦で、大技を連発してる……ハァ、そろそろ魔力がヤバいかも」


 息を切らした双子も近寄って来る。

 魔力武装を継続している事も原因だが、ここに来る前から何度も大技の魔法を連発していたらしい。


 いくら刃よりも遥かな魔力量を保有しても、身体的な恩恵が大きい魔力武装を続けた上の持久戦は流石に無茶であった。


「俺もそろそろ限界が近い。本当はさっきので終わりにしたかったくらいだ」


 そして無茶をしているのは刃も同じ。

 いつ迄もチート級の魔導師の状態が維持出来る訳じゃない。

 装備している聖剣も同様なので、刃も双子に向かって同意する。


「次で決める。気に食わないだろうが、合わせてくれ」

「「……分かった」」


 少なからず間があったが、返事をして頷くと飛ぶ刃とアステルの隣へ並ぶ。


「話し合いは済んだかい? こっちも準備万端だよ?」


 そうして皆の利害が一致したところで、巨大な竜の何倍もある超巨大な炎の塊を集めた魔神が自身の顎門で浮かせて問い掛ける。……肉体的にかなり無理をしているのか、竜の体が遠目からでも灰のように崩れているのが分かる。

 

「まだそれだけの余力があるのか」

「残念だけどこれ以上は器の方が保たないけど、この階層を粉々に消し飛ばすだけの威力なら……」


 容易く引き出せる。

 それは見ている彼らにも容易に想像は付いていた。


「一点集中で行く」

「そっちも任せた」


 これが最終局面だと理解した双子は、刃に伝えてさっさと行動に移った。

 また武器同士をクロスさせて融合技法を使うのかと思えば……どういうわけか、属性を纏った二つのレイピアと槍の先か溶け合って一つになった。



「「『一体化』───『ブリューナク』発動ッ!!」」



 それは母親の技であろう。

 水と風が合わさり氷が生まれる。


 彼女らは覚えたエリューシオン流ではなく、母親の『氷結騎士』、『氷結の魔女』とも呼ばれた者の力を切り札にしていた。



「『ホワイト・ブレス・バースト』」



 続けてアステルも龍族のスキルで強力なブレスを発動させる。

 魔神の竜と同じように顎門へ白き魔力を凝縮させて集めていくが、召喚である彼女がこの世界で引き出せる力にも限界がある。


「おんなじドラゴンとして同情する。けど、さようなら」


 なので破壊の力をより凝縮させた一撃を。確実に竜王を消し炭にさせる為、出し惜しみの心を一切消し去っていた。



「『永遠の終焉へ(ザ・ラスト)』発動。『継承された神ノ杖(イクス・ロッド)』ッ!」



 唱えると聖剣の力を解放させると、白金のオーラが激しくなり粒子となって漏れ出す。


 形状も変化して手首から外れると一瞬にして白金の杖になった。

 神ノ刃(セイバー)の時と同じオーラを纏って刃は片手で振るう。


「『黙示録の記した書庫アポカリプス・アーカイブ』……解放」


 さらにブレスレットも何色にも点滅する。

 それらが全てロッドの先端の球体へ集まっていく。


 すると全部が白金色だったロッドの先端が変化する。 



「行きますよ皆さん! 第四権能(フォース)究極融合ウルティムス・フュージョン』───発動ッ!」



 最後に融合スキルの奥義を使用した。

 そして集まっていた者たちの魔力がロッドの中で一つになる。


「ッ!? お、お前たちはッ……!」


 気のせいか、彼の背後に彼と同じ銀髪の師や怖い形相の大男、他にも侍のような格好の男や金髪の女性騎士など、数名が並んで愚かな魔神を睨み付けていたが……。




「消え失せろ魔神ッ───『究極(ウルティムス)絶滅の魔法(エンド・マジック)』ッッ!!」



 

 いくつもの光色が混じった全てを消し去る『滅びの魔法』。

 何枚もの解析不能な魔法陣が二メートルほどの球体状になって生み出される。


 他の者たちが放った攻撃が直接竜を消し去ろうとする中、彼が放った魔法は上空から馬鹿デカい炎の塊を消し去る。


 そうして上から竜の元へ飛来すると竜の頑丈さなど全く関係なし。

 双子のルールブやアステルの一撃と共に『竜王』の存在をこの世から完全に消し去った。










「──で、勝ったと思ったかい?」

「ッッ……!」


 咄嗟に双子たちとアステルを魔力で引き離したが、自分が避ける暇は全くなかった。

 彼自身も神ノ杖(イクス・ロッド)で防ごうとしたが、力を使い果たした杖は形状を失い光の粒子となって消失。


「ッ……魔神!」

「へぇ、ギリギリ堪えたようだけど」


 ガードし損ねて腹に突き刺さった真っ黒な金属製の杭のようなもの。

 深々と突き刺さる前に掴んだ刃だが、『魔導王』の力も限界を迎えてローブも消失した。


「残念、君も限界のようだね」

「し、しまっ……ガッ!?」


 見えないが、髪と瞳も元に戻ってしまい、全身から襲い掛かる脱力感と倦怠感が抵抗する刃を一気に弱体化させてしまった。

 遠慮なく首を掴まれてしまうが、その手を掴むだけで全く引き剥がせれない。


「やっぱり甘い。アレは器だって言ったじゃないか。その気になればいつでも融合を解除して自分だけ助かる隙くらいあるんだよ?」

「ガハっ……俺が、竜王と融合……し、した、お前を……倒すのも、予想してた……のか?」

「むしろ予想してないと、どうして思ったんだい?」


 返す言葉がない。

 次第に力が抜けて杭がさらに体内に侵入して来る。

 内蔵もやられて口から血が吐き出てきた。


『ジンっ! ッ……もう、だめ……』


 初めて焦ったような声を上げたアステルが飛んで助けようとするが、限定的な召喚魔法も限界が来てしまう。

 体が煙のように崩れて召喚が強制的に解除されてしまった。


「「っ……ブレイド!」」


 双子たちも助太刀に入ろうとするが、肝心の魔力が底を付いてしまった。

 魔力武装が解けて疲労した状態で地上に落ちてしまっている。

 それでも助けようと魔力を練っているが、時間が掛かり過ぎてとても間に合わない。


「全員ガス欠みたいだね。君はもっと酷そうだけど?」

「っ、はぁ……はぁ……ッ」


 内蔵まで達してしまった深い傷。

 加えて魔王と魔導王の代償が重く力が抜け切っている。

 血の気も薄くなり青ざめた顔で、魔神に首を掴まれても抵抗出来なくなっていた。


「はぁ、はぁ───」

「さぁて、どう料理のあげようか」


 形勢は完全に逆転してしまった。

 魔神も少なからず消耗していたが、暗黒の魔力を操って無数の剣を生成。

 捕まっているだけの彼の周囲に固定して包囲した。


「…………」

「おいおい寝るなよ。それとも目を開ける力もないのかい? これからが楽しんだからまだ目を閉じたらダメだよ」


 掴まえている首を揺らすが、目を閉じて項垂れた彼に反応はない。

 呆れる彼女はパンパンと頬を叩くが、それでも呻き声すら上げない。


「……ひょっとして死んじゃった?」


 まさかとちょうど首を掴んでるので脈を探ってみると…………感じ取れはするが、かなり弱々しい。


「というか魔力も殆ど感じ取れない。大気中の魔力と殆ど変わらないじゃないか……」


 寧ろこれでもまだ生きているのだと感心すら覚えた。

 余程さっきまでの状態にはかなりの無理があったのだろう。

 神にも匹敵する力であるが、虫の息な彼の状態からして明らかに命を削った力だ。


「常軌を逸脱したパワーアップ。限定的なのが納得出来るほどだけど……ここまでだ」


 囲っている剣が一斉に彼の肉体に触れる寸前まで接近。少しでも動けば確実に刺さる。


「所詮は器は人間でしかない。よく頑張ったけど……」


 空いている手で彼の頬に触れる。

 暗黒に染まっていき、その手を通して彼の頬を……頭を侵食していく。


「これが君の限界さ。面白い素体だし持ち帰って実験体n───」


 刃の頭が完全に暗黒によって飲まれる……その直前。



「────」



 閉じていた刃の片目が……まるで本人の意思とは関係なく、光を失った黒い瞳が一瞬で開いた。


「ァァァァァ……」


 刹那、彼の中に潜んでいた【───】が完全に表に出てくる。


「ハラ……ヘッタ。何カ喰ワセロ」

「え、何か言っ……ッッ!?」


 器である彼の体を破って中のモノが顔を覆っていた暗黒と……。


「ジャマダ」

「あ──っ……ギャアアアアアアアアアアアアアッーーー!?」


 頬と首に触れていた彼女の両手を喰らった。

 手首から先が一瞬にして消失したが、コンマ数秒で違和感に気付いてしまった魔神は表現し切れない激痛のあまり両膝を地に付いてしまう。


「て、手、わた、しの……手がっ」

「アア、マジィナァァ……」


 顔を覆っていた暗黒も晴れたが、現れた刃の表情はもういつもの彼から明らかに異なっている。


「ケド、マァ……チカラハ、少シハ戻ッタカ」


 物足りなさそうにするも手を上げると、手のひらから暗黒の魔力で出来た魔法球が生成される。


「コノ程度カ……マァイイ」


 その質はさっきほど使っていた『魔王』とは全然違う。

 崩れている彼女の力とその肉体の一部を取り込んだ事で……。


「ボ、ボクの……魔神の……力?」

「アァ? 何故、不思議ソウニスル? オレノ創造理由、ソレハオマエ達……神族ヲ喰ウ事ダゾ(・・・・・・・・)?」

「は、はぁ……? なんだいそれは……? いったい何の話をして……」


 全く意味が分からない。というかさっきから変だ。異常な事が起きている。

 口調も表情も異なって……顔は変わってないが、別人に見えてしまう。


 必死に手の治療をする彼女には……その真の意味を理解する余裕なんてなかった。


「イズレハ全テノ神族ハ、オレ二喰ワレル食糧デシカナイ……ガ、今回ハ腹ノ足シ程度デ見逃シテヤル」


 そう言うと何でもない風に手のひらに収まる程度の魔法球を軽く放ろうとした。

 そんなに早い動きではない。必死に治療しながら魔神は避けようと後方へ飛ぼうとして……。



「───ッッ!? な、なんでもう此処に……!?」

「サラバダ」



 彼女の胸元に押し当てるように魔法球を当てた刃の姿をした何かと視線が重なった。……さっきまであった距離が瞬きの間も無くゼロになる。


「解放……『邪悪の門(イービル・ゲート)』」


 そして考える暇もなく魔法球が解放される。

 接触した暗黒の球は弾けるように拡散、彼女を覆うように包み込むと渦を発生させて収縮する。


「喰ラウニハ……マダ時期ガ早イカラナ」


 やがて小さな弾サイズまで収縮すると静かに消滅。

 あれほど好き放題していた魔神の姿は、ダンジョン最下位層から跡形もなく消えて無くなっていた。

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