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神と魔王の弟子は魔法使い 〜神喰いの継承者〜  作者: ルド
第4章 弟子の魔法使いは試験よりも魔神と一騎討ち(でも試験荒らしてトップを蹴落とす)
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第58話 魔物暴走と暴走機関車(弟子に与えられた時間は限られていた)。

「桜香に何をした」

「眠らせてダンジョンの核に縛り付けてた。簡単だった」


 いつの間にと思ったが、このダンジョンの入り口は教員も利用出来る。それに相手は魔神の関係者で隆二さんの件で動きやすくなっていた。

 隆二さんと緋奈が来る前に、多分夜中のうちに桜香を拉致していたのなら納得できる。


「桜香姉さん、どうして……」


 映し出された映像に困惑する緋奈。

 無理もない。緋奈からしたら桜香は幼馴染というだけで全く無関係。

 間接的な繋がりはあるかもしれないが、それでもこうして人質のように晒される理由にはならない。


「オレの妹に何をしたキサマァァァァァ!」


 しかし、状況的にそう見えるのは明らか。

 此処で最も桜香に関してだけ理性が利かないシスコンには、そんな疑問や事情なんて通じるはずはなかった。

 一体どんな地獄耳の持ち主か離れていたのに光速のような動きでこちらへ急接近。

 桜香の姿を空へ移している長谷川が主犯だと即座に認識して、豹を纏う刀を叩き付けようとした。


「おっと!」

「ッ……キサマっ」


 だが、叩き付けられた一閃を長谷川は真っ黒な手袋を着けた手で受け止める。

 そのまま刃を掴み横に反らす。空いている手の指先を隆二さんの目元まで寄せると……。


「シッ」

「お、強烈な!」


 俺の飛び蹴りを察知して隆二さんへ向けかけた手でガードする。

 そして俺と隆二さんを両腕で振り払うと、杖を取り出して暗黒の魔法陣が生成される。


「ッ!」

『ガウッ!』


 嫌な予感が増して瞬時に銃を出して全弾撃つが、盾持ちのリザードマンが長谷川を守りに入る。

 すぐに退かす為、飛び掛かってメタル君の銀マントを操りながらリザードマンを横に飛ばすが、その時点で男の姿は完全に魔法陣の中へ消えていた。やはり転移の魔法陣だ。


「ッ、奴は何処へ移動した!」


 怒りの形相で隆二さんが叫ぶ中、俺は無言で消失した部分の魔力残滓に触れる。僅かに残っている痕跡を辿って見る。


「桜香が居るのはこのダンジョンの核がある場所です。奴の動機はともかくまずそっちに行くのが先決じゃありませんか?」

「ッ……そ、そうだな。核ならボスの眠る地のさらに奥だろう」


 実際に行った事はないが、ダンジョンのボスは最も魔力が集まる場所の付近で誕生する。

 核の場所に誕生しないのは、無意識にダンジョンが核の破損を恐れていると言われているが、必ずボスは核を守るように近くで眠っている。


「隆二さん、お互い色々ありますが、今は桜香の救助を優先しないといけない。文句も続きもまた後日でお願いします。……次があればの話ですが。悪いですが、今回の件学園が黙っても俺はジィちゃんに報告します。まぁしなくてもアイツの所為で騒動は漏れると思いますが」


 有耶無耶にされてまた仕掛けられても困るので前もって言っておく。厄介な展開になったが、魔神の使者のお陰でさっきまでの面倒がほぼ解決扱いになった。

 もし何も起きず隆二さんの企みが失敗してもきっと諦めずにまた仕掛けようとしただろうが、それは今回の件がバレなかった事が前提の話だ。


 こうして騒ぎになれば必然的に多くの人間の耳に入る。その中にはジィちゃんの息の掛かった人間だって紛れている筈。

 もう引退しても力が完全に無くなった訳じゃない。二校を巻き込んだ隆二さんの件をジィちゃんは絶対に許さないだろう。隆二さんだってその事はよく分かっている筈だ。


「分かってる。これだけやったんだ。次は無いと考えて動いて来た。だからこうなる展開も予想してオレなりのケジメを付けるつもりだったが、まさか奴が桜香を狙うとは……!」


 ギリギリと歯切りする。余程憎たらしいと思っているようで、握り締めている刀がカタカタと震えていた。

 良い感じの殺気で周りの魔物も警戒するが、退く様子もない。怖気付いている奴も見る限りいない。


「まずはこの辺の魔物をどうにかしないと動けません。とりあえず上に連絡出来るなら人を呼んでください。こうなった以上、もう隠蔽も不可能でしょう?」

「試してないと思ったか? 魔物が出て来た時点でオレも異常を感じて作戦を中断してる。連絡可能な魔道具も持って来ていたが……」


 そう言って小さなタブレットの形をした結晶を出す。それが連絡用の魔道具のようだが、何も反応を見られない。まさかと隆二さんに目を向けると嫌そうに頷かれた。


「監視室と連絡が取れない。理由は分からないが、通信を遮断されてる」

「……」


 そのセリフに俺は無言になる。

 こっそり銀マント越しでトントンと中にある物を指で叩く。


『(トントン……)』

「大丈夫そうか……隆二さん、俺は行くよ」

「何?」


 とりあえずの確認は終わった。

 休ませていた二種類の魔力を燃え上げる。


「“魔力・融合化”」


 二種類の魔力を融合させる。

 活性化させた身体能力、思考力の超加速。


「この気配、刃君……君は」

「『身体強化(ブースト)』、“風魔(フウマ)”、『微風の刃(ウィンド)』」


 身体強化から速さだけでなく風を操れる風魔のスタイルになる。


「失せろ『空力崩落(エア・ダウン)』」


 スキル『風力操作(エア)』で大量の風を手のひらに集めて───地面へ叩き付けた。


『『ガギャ!?』』

「刃君!」

「兄さん!?」

「邪魔する奴らは全員蹴散らす」


 周囲に強烈な風の衝撃波を与えてリザードマンを吹き飛ばし、包囲を崩す事には成功した。

 風と周囲の熱を混ぜ合わせる。軽く雷の魔法も混ぜ合わせて……。


「“雷電(ライデン)”、『通電撃(ヴォルト)』」


 雷雲を呼び寄せる。雷を操れる“雷電”にスタイルを変えて……。


「『雷力崩落(ヴォルテック・ダウン)』」


 激しい稲妻を地上のリザードマンと上空にいるワイバーンに叩き付けた。

 さらに集まってくる雷を大きな球のように凝縮させる。いくつも生成して地上のリザードマンの密集地点を狙う。

 稲妻の爆発が発生して組まれていた陣形がさらに崩れる。まだいるが、このくらいで良いだろう。


「悪いが先に行く。緋奈、命の危険を感じたらすぐに逃げろよ」

「待ってください兄さん! 私もっ」


 同時に風をマントに付与。ハングライダーの要領で翼のように広げて飛び立つ。

 緋奈やミコを置いていく事にやや心配もあるが、急がないとならない。まともに包囲網を崩している暇もない。あそこには他にもメンバーがいるし大丈夫な筈だ。


『ガァアア!』

「退けっ!『断斬(ダンザン)』っ!」


 纏っている風を巨大な刃のようにすると、空中で回り込んで来るワイバーンの群れに突撃。

 俺が通り過ぎた場所にいたワイバーンのみ、翼や尻尾、頭や胴体、首まで両断されて落下する。


「桜香っ!」


 さらに加速して一気にボスが潜んでいる方向へ飛ぶ。

 遠くでも融合化の影響で感知していた。あの長谷川とかいう魔神の使者が何かの魔道具と一緒に核の方へ移動しているのを。


「なんだ? アレは」


 数分もせず目視出来たそれは乗り物である。このダンジョンの中では明らかに不釣り合いな代物。

 長い列車のような形状しており、岩だらけな地面でも真っ直ぐ走っている。魔道具で出来た移動用の魔道車両だ。かなり速く五十キロは出してる。


 この速度なら核まであと数分で到達する。いつボスが出て来てもおかしくない。


「ッ──!」


 その辺りで敵の狙いが何のか理解して、速度を上げる。同じくらいに並ぶと速度を合わせて窓らしき部分付近まで接近。


 翼となったマントで助走を付けて蹴破るように侵入した。

 

「おお、もう来たか。どうかな? 日本の魔法軍隊から取り寄せた魔導機関車は?」

「この列車もどきを止めろ! 出ないと核に直撃して制御が利かなくなる!『魔物暴走(スタンピード)』が起こるぞ!」

「それが狙いだと何故思わない? 人類の混乱と恐怖が我々にとって幸福だというのに!」


 イカれた目をして長谷川が操作基盤を弄っている。アレで操縦しているのかと思ったが、次の瞬間、肝心の基盤が粉々に破壊された。


「これで止められない。さぁ、一緒に見ようじゃないか! 混沌の世界を!」

「お前っ」


 瞬時にこれ以上の言葉は不要だと理解させられた。この男はとっくに思考の回路が壊れている。


「シッ!」

「ハッ!」


 飛び掛かるが、素早く取り出した杖から放たれた暗黒の電撃で後ろへ飛ばされる。


「ッ、また魔神の魔力か」


 後ろにある座席に打つかりながら、何とか起き上がる。

 座席を壁代わりに銃を抜いて相手の様子を窺おうとするが。


「それで隠れたつもりか? 時間を稼いでも損しかないのに。なんなら一つ面白い事でも教えようか?」


 男は何故か追撃して来ず、可笑しそうな顔をして杖を持たない手の指を上に向けた。


「君の狙いは分かっている。万が一核が破壊されてダンジョンにいる全魔物が暴走『魔物暴走(スタンピード)』を起こしても、ある程度の人間を上に避難させる時間さえ稼げれば被害は最小限に済むと考えているのだろう?」


 そうして何人か残ってもいざとなれば救出も出来なくはない。

 人数が少ない方が助けられる確率が上がる。俺の狙いの一つを男は気付いているが……。


「だが、もし肝心の入口が封鎖されていたらどうする?」


 ピクンと銃を持っていた手が震える。薄らと脳裏に過ぎった。


「このまま『魔物暴走(スタンピード)』が発生して、逃げ惑う生徒たちは入口が封鎖されて絶望する姿。……想像するのは難しくないんじゃないか?」


 男の発言の所為で僅かにあった筈の猶予が消えた。

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