第53話 異世界の想い出と今後の問題(疲れた弟子はとりあえず寝たが……)。
「つまり、かくかくしかじかって訳で……こうなった」
「なるほど……ツッコミ待ちか?」
半目で睨んでる。やっぱりだめ?
「そこで面倒く下がるなよ!」
「冗談だって、あー、何処から話すか……」
いざ説明しようとすると困る部分が多い。
もう全部話してもいいかもだが……。
「全部話してるとホントに夜更かしするハメになるんだが……」
「簡単にまとめてくれていいから! オレだって普通に疲れて眠いから!」
「あー」
よく考えたら第三層から第四層に超特急で移動して、さらに異世界人である化け物クラスの双子と相手をしていた。
いかに魔力量がズバ抜けて多くて能力が高くても、まだ学生だった。
既に色々と押し付けてるって今になって気付いた。
「感覚が抜けてたよ」
「は?」
「いや、年月が経ち過ぎて色々と忘れるなって話だ」
どうしてかって言われたら、歳食ったからとしか答えられない。
「初めに言うが、俺はもう学生の年齢でもないんだ」
「……どういう意味だ?」
そう思うとあの頃の記憶が呼び起こされる。
何年続いたかも分からない。濃密なダンジョンの記録が脳裏で流れた。
得体の知れない世界が広がる。
ダンジョンの中とは思えない無限に広がる世界。
空が果てしなく高く、三つの太陽が見えた。
『オレの弟子になってみないか?』
『面白い餓鬼が落ちて来たナァ』
そして化け物が可愛く見える。常識外の中でも常識外な二人の弟子にされた。
『魔法の可能性を見せよう』
『精々楽しませてくれよォ?』
言葉でどう表現したらいいか分からない。
あの時間は俺にとって未知すぎる領域だった。
そして俺自身もやがて常識から外れた存在に近付いて行った。
元の世界ではあり得ないペースで、あちらの世界の魔法を覚えた。より高等な魔法や特殊な原初魔法は別であるが、あの人の魔力に触れてから俺自身の何かが勢いよく学習を始めているのを何となく感じ取っていた。
『オマエの中にイル【悪食の根源】が覚醒し始めてる。明らかに異物が馴染んでンじゃねぇーかァヨ』
剣術もそうだ。多分数ヶ月でミヤモト流を覚えていた。
その後も槍や弓、銃の方が合っていたのでそちらを優先したが、体術を通して気術を身に付けた時は色んな意味で驚かれた。
『魔力と魔法しか取り柄のねぇテメェとは正反対だなァー魔導王?』
『それしか取り柄のないオレに負けたのは……誰だった? 不死だからって調子に乗ってた間抜けだったと思うが?』
『束で挑まないと勝てなかった奴がよく言うなァ?』
『妙だな? その後サシで戦ってオレが圧倒した筈だが?』
『何戦したと後の話してンダァ? 勝利数ならオレの方が多い』
『ああ、死んでないから負けじゃねぇって言ったアレとかアレか? アレこそ不死の無駄遣いだ。潔くやられた方が楽なのにボロ雑巾みたいでしつこかった。アレを勝利数としてカウントするなら確かに勝ってるかもな。情けないくらいボロ雑巾だったけど? 立ってたの俺だったよな?』
そんな師匠たちの謎の張り合いがあったが、どうでもいいので飛ばします。
後日談になるが、俺が修業中の際にも何百戦目の戦いをしたらしいが、それはジーク師匠の奥さんとデアさんの娘であるマドカが割って入り終わったそうだ。
ダンジョンをメチャクチャにした二人にはキッツイお灸を据えたらしいが、それこそ俺には関係ないし、関わりたくないので飛ばします。
話を戻すが、体術の師であるデアさんの【悪食の根源】は近いようで遠かった。
どうしてそんなのが俺の中にいたか、それは俺にも分からないが、そいつは元の世界では眠っていたのにあの世界で少しずつ成長していった。
そして修業を通して少しずつチカラを上げていく。
飛躍的な技術の成長はソイツが能力を喰らった影響だと分かったが、もう一種類の魔力の異常な変異の原因が……。
『ジン、喰うなァァァァッ!』
『ガァアアアアアアアアアアッ!!』
神を喰い殺したい。
ソイツの本能だと知った時には、もう手遅れだった。
「以上、回想終了」
「……ちょっとタイム」
省いた部分は結構あるが、要点は伝えたつもりだ。
中学二年の頃、突然別世界のダンジョンへ飛ばされた。
そこで神様を名乗る『魔導神』、それに最下層のラスボスの『魔王』の弟子にされた。
「異世界のダンジョンで、しかも神様の弟子って……」
「一応魔王の弟子でもあるけど、全然尊敬してないし、後継者のつもりもない。ていうかなりたくない! 鬼畜の後継者とか絶対イヤだ!」
「差がスゲェけど何があった?」
ダンジョンに挑みながら二人から魔法と体術を覚えさせられた。
修業を通して色んな超人的な人たちと出会って、剣術を含めた技術と少しずつスキルを身に付けた。
「鬼畜だよ。本当に鬼畜な魔王様だったよ。俺の性格が歪んでるのも絶対あの人の所為だ」
「その辺りの細かな詳細は省いてくれっていい。お前の反応を見てるとなんか聞くだけでもアウトな気がしてならない」
最終的にはダンジョンを制覇。
魔法使いの師匠の後継者として、こちらの世界に帰還を果たした。
ただし、帰還の際に肉体を元に戻す事になったが、その状態だと反動が強過ぎるスキルのいくつかを封印された。
ダンジョン付きの魔法の学園を選んだのは、経験を積む事で封印状態のスキルや魔法武器を慣らして、封印を完全に解くためだ。
「ブレイドって言うのは、向こうの人たちが付けた渾名みたいなもんだ。直接会ってる人たちから言われた事は少なかったが、ダンジョンの外では結構広まっていたらしい」
そうだ。師匠の仲間の人たちが面白半分で俺の事を広めた。
名前が刃だからブレイド。安直だが、ミヤモト流を覚えた頃に付けられた為か、意外と馴染んだそうだ。
「で、あのルールブ姉妹はその世界の住人って事か?」
「あの双子たちとは直接的な繋がりはないが、仲間の娘で魔法使いの師匠を尊敬していた事が問題だった」
「お前が後継者……つまり嫉妬か」
そこで双子と俺の衝突原因を突き止めた。
同時に俺に向かって同情的な視線を送ってきた。
「苦労してんなー」
「分かってくれるかー」
涙出そう。心の涙だけど。
「まぁなんか勝ったみたいだし、異世界の方の問題は解決したじゃね?」
「ところがそうじゃないんだよなー」
とりあえず双子の件は一旦終わったと言っていい。向こうはどう思っているか別だが、今回に限っては終わりということにしていいだろ。
「そっちの問題は今のところ保留だ。次に俺が当たらないといけないのは……嫌な話だが色んな家の問題だ」
無視したいが、無視出来ないところまで来てしまっている。
双子の件で忘れそうになっているが、俺は朝の時点でいない筈の『星々の使い魔』のメンバーとリーダーの未央さんに見張られていた。
「そもそもお前を呼び出そうとしたのは姫門の生徒たちが原因だ。事前の貰ったハンターリストにも居なかった連中が何故か朝から俺のテントを包囲してた」
こちらの位置を把握してない限りあり得ない。
事前に学園側から俺のバッジの位置情報でも聞いてないと無理だ。
「学園側に裏切ってる奴がいるのか?」
「下手したら学園そのものがだ。じゃなければ、姫門の生徒を使って俺を潰そうとは考えない」
土御門が来ると予想したが、やって来たのは西蓮寺とその他数名(名前は知らん)。
真面目な性格だから西蓮寺や他の連中と組んでまで俺を潰そうとは思わなかったか。だとしたらラッキーの一言であるが……。
「どっちにしても奥の手で倒したから意味ないよな」
「あの英国騎士みたいな姿の事か? その時計? 腕輪か? よく分からんが、その魔道具で使ったのは分かった」
見ていたからかミコは興味深そうに時計となった俺のブレスレットを覗き見ている。
「本当は使うつもりはなかった。あの双子にイライラしてたが、正直失敗したわ」
仲良くなった異世界の人達の絆。
それを『黙示録の記した書庫』はチカラとして再現する。
「別にこれが継承の証というわけでもない。まぁ一部はそうかもしれないが、チート過ぎて魔物以外で使う気になれなかった」
だが、結局使ってしまった。
呆気なく勝ったのは良いが、支払った代償は想像以上に重い。
「強過ぎるチカラの代償は高い。俺自身の絶不調もそうだが、一度これを使うと最大二十時間再使用が出来なくなる」
しかも、同じ人のチカラは丸二日も使用不可になる。
二種類のみ除いて、二つの制約が付いてくるから長期戦だと厄介だ。
「そんな凄いアイテムよく入り口の検査で通ったなー。オレが教員側なら絶対調べるぞ」
「ああ、だから言・う・な・よ?」
「……」
ウィンクすると唖然として呆れられた。
言うわけないじゃん。検品するとか言って没収される未来しか見えん。
「銃の方は学園の方で既に誤魔化してるから問題なかったが、使用した弾丸とか知られたら流石に調査が入るかもな」
「もし双子たちが学園に言ったらどうする? ルール上は完全に反則だぞ?」
「まぁ、双子だけじゃなくても西蓮寺やついでにやられた土御門から抗議があったらヤバいかもしれない」
けど双子以外の面々はきっと何が起きたか分かってない。
願望に近いかもしれないが、あの状況でちゃんと理解していたのは異世界人である双子だけだ。
「他が置いても双子は絶対抗議しない。というか出来ないと言った方が正しいな」
「どうして? 向こうからしたら反則行為で負けたようなものだろ? しかも試験のルールも破ってる。抗議してお前を失格させておかしくないと思うが」
それが出来るならスライム越しで接触した時にしている。
春野の件でも後ろめたい事を色々やってる。俺を陥れたいならその時点でやればいいが、彼女らはしてこなかった。
「何が何でも正面から勝ちたいんだ。邪魔な学園のルールは寧ろ彼女たちにとって拘束効果が高い。特に一般的な身分証明とかな」
「何を……ってああ、そういう事か。よく考えたらアイツらは入学した時点で偽ってるのか」
「理解が早くて助かるよ」
そう、何より彼女たちは異世界人だ。そもそもがこの世界の人間じゃない。
具体的にどうやったか知らないが、間違いなく身分関連は偽って入り込んでいる。手伝った事を否定しなかったマドカの顔が過ぎるが、過程はどうであれ結果は同じだ。
「だから双子の方は大丈夫だ。今のところは」
「問題にすべきは姫門学園の連中を呼び込んだ学園側の意図か」
「状況証拠だけで考えるなら黒だが」
事前にマドカの警告はなかった。いや、知っていて報告しなかった可能性もある。
彼女は試練と言って双子も招き入れた。だとすると姫門の生徒たちも彼女が? いや、面識はないに等しい。知ってて黙認している方が納得出来る。
「どう考えても黒だろう。それに姫門の生徒って事は神崎家が裏にいる。お前の元妹が管理してる学園だぞ」
「不本意で認めたくないが、姫門が乗った理由も説明が付くか」
そして脳裏に緋奈の顔も浮かぶが……腑に落ちない。
いくら何でもアイツだけでこれほどの事が出来るとは思えない。
まさか神崎家が全体で動いている? それなら可能かもしれないが、共犯と思われる土御門や西蓮寺が乗るか? 西蓮寺は知らないが、土御門は……実際に乗っているから否定し切れないが、イレギュラー過ぎる行為をここまで見過ごして便宜を図るか?
「問題はこちら側が誰か主犯かって事だ。土御門や西蓮寺、藤原も思い浮かんだが、どうも違う気がする。引退しているが、ここは一応龍崎家のジィちゃんが管理する場所だ。ジィちゃんに気付かれずにここまでやるとなると……」
チラリとある家の名が思い浮かんだが、流石にそれはないと無意識に除外する。
どちらにせよ龍門と姫門を繋げた大物な第三者いるのは明らかだが、それが誰なのかまだ分からなかった。
「今後はどうするつもりだジン? もし学園側が裏切ってるなら勝ち目はないぞ?」
「……」
結局そうなるよな。さて本当にどうするか。
最悪、学園全体が黒ならこのまま一位で終われる保証は消えている。
ミコの言う通り勝ち目なんてない勝負だ。
「そうだよな」
ルール無用なら俺も考えるべきかもしれない。
相手が誰であろうと俺の邪魔をしているのは明らからなんだ。
誰かなんて問題ではない。邪魔するなら排除するだけだ。
「なら俺が選ぶ選択はたった一つ」
「ど、どうする?」
ゴクリと喉を鳴らすミコ。
本気な俺の見てヤバい未来でも想像したようだが、俺は不敵に笑って───
「もう眠いから寝るわ」
「台無しだっ!」
もう遅いので俺は欠伸を出しながら寝る準備をする。
まだ色々と聞きたそうにするミコを無視して、お疲れな俺はさっさと就寝した。
諦めたミコが退室する気配を無意識で感じながら。
それから二時間ほど経った頃。
隣の部屋で深い眠りに入っている刃に気を配り、尊は本来使えない筈のバッジの通信機能を使用してある人物に連絡を取っていた。
「寝たぞ」
『大丈夫なんだろうな?』
「疲れていたのもあるが、飲み物に入れた薬が効いたらしい。念の為に様子を見たが、起きてる反応は見られない」
冷たい声音で通信する男に返事をする。
そこにはもうミコと呼ばれていた刃の親友の顔はない。
感情を押し殺した兵士のような面構えで、男の支持を仰いだ。
「あの薬が本物なら仮に意識が戻ってもしばらくは動けないんだろ?」
『その辺りは保証しよう。何せ対Aランク魔物用の催涙薬を人間用に変えた物だ。死にはしないように調節はしてあるが、強力なのは変わりない』
「そうであってくれないと困る。アンタは見てないだろうが、あのジンはもうオレの知ってる神崎刃でも龍崎刃でもなくなってる」
そこで少しだけ厳しい顔付きをする尊。
あの話を聞いても未だに信じられない。あの欠陥品と呼ばれていた刃の暴れっぷりに、『火の化身』とまで呼ばれていた四条家の後継者である自分が恐れを見せたのだ。
「もしサシでやったら確実に負ける。だからアンタたちの策に乗ってやったんだ。隆二さん」
『ふ、ならちゃんと感謝しろよ? 藤原の方も交渉が済んでる。念の為にお前の姉をガードに付けさせてもらうが、構わないよな?』
「ああ、構わない」
一瞬、姉と言う単語にピクリと反応するが、声には決して漏らさない。
「もし姉貴が従わず暴れるようならオレに言ってくれ。次期当主の声なら姉貴も嫌々だが黙って従う筈だ」
「つくづく恐ろしい男に成長したな四条尊。ほんの数年前までは弱い彼の後ろに隠れていたお前が……」
「……時が経てば人は変わるもんだ。アンタの妹やアイツの妹だって変わった」
鞄からロープのように細い鎖を取り出す。
特殊な金属で出来ている魔法使い専用の拘束具だ。
通信相手の白坂隆二が用意した代物。魔法警務部隊に所属する彼なら拘束具の一つや二つは簡単に用意出来た。
「アイツもいい加減分かるべきだ。いつまでも仲良くなって……この世界じゃ無理だって事を」
慈悲のない声音で尊は刃のいる部屋へ向かう。
既に深い眠りに入っている刃はその気配、さらには入って来る気配にも気付かず、四条尊と白坂隆二の策略に嵌ってしまうのであった。
学園が用意した『バッジ』に関する補足説明。
何度が出てますが、あまり細かい説明がなかったので、ここで追加します。
ダンジョン(セキリュウ)のエンブレムが付いた赤い金属のバッジ。
魔道具の一種でダンジョン内の魔力で稼働。外では使えない。
いくつか貴重な金属を使っており、数には限りがある(年々増やしている)。
今回のような育成の為の学校関連や政府の関係者、偉い人の時のみ無償で貸し出される(壊したら当然弁償)。
それ以外の場合は大金を払って貸出が可能(壊した場合は当然弁償)。
機能について
発信機(外の管理システムで監視が可能)
通信機(バッジ同士や外の管理システムまで可能)*今回の試験で悪用を恐れて使用不可。ただし管理システムからは可能。
データ受信(地図や管理システムからの情報を得る事が可能)
アイテム収納(ダンジョン内で倒した魔物や素材、アイテムとバッジの収納空間に入れる事が可能)*ただし上限があり、入らない物もある。
体調管理(使用者のバイタルチェック、異常を知らせる事が可能)
以上。こんな感じでしょうか?
まだまだ続く感じで終わりが見えそうで見えないですが、よろしくお願いします。