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神と魔王の弟子は魔法使い 〜神喰いの継承者〜  作者: ルド
第4章 弟子の魔法使いは試験よりも魔神と一騎討ち(でも試験荒らしてトップを蹴落とす)
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第51話 鬼苑亜久津の秘密(弟子が知らない間にそんな事になっていた)

 突如地面から生えた謎の白い蔓に飲まれた土御門。

 そんな彼を呆然と見ていた白坂だったが、ふと自身の魔道具のバッジを操作。まさかと思い自分のポイントをチェックすると……。


「ボーナスポイントが入ってるって事は、会長は戦闘不能になった?」


 正直自分にもポイントが入っている事に疑問を覚えるが、とりあえず危機は脱したのだと安堵の息を吐いた。


「ゴホ、ク、クククッ……ああなったら伝説の一族も形なしだな。とんだマヌケな最後だ」

「……」


 軽く血を吐きながら鬼苑が笑う。立てないのか寝転がっており、側から見てもキツそうだ。

 白坂も手傷を負っているが、鬼苑は白坂の攻撃も殆ど避けず何度も受けており、その上で土御門の攻撃も負っている。ダメージは肉体的にも精神的にも大きい筈だ。それなのに……。


「予定と少し違うが、まぁこんなもんで良いか」

「随分と嬉しそうだな。もう戦闘不能に見えるが」


 重傷なのは明らかなのに何故か嬉しそうだ。


「ああ、回復ついで一度回収されるだろうな。だが問題ない。オレ個人のポイントは既にチームの奴らに分けてある。チーム全体のマイナスは最小限に済む」

「確かにそれならチームとしては上位を維持出来るが、個人の成績は最低になるぞ? それでいいのか?」

「構わない。お前との勝負はチームの成績だ。総合ならまだオレたちが勝ってる。たとえ負けたとしても……」


 と言いかけて口を紡ぐ。うっかり余計な事を口走るところだったが、白坂は目に疑いの眼差しが増した。


「貴方は土御門と因縁でもあったのか?」


 核心に近くて遠い。だが、あまり外れてないと白坂は心の何処か確信する。


「クラスを支配しリーダーになろうとしたり、あの双子の手を借りながらダンジョンで稼いでいたのも上を狙っての行動だとしたら、これまでの無茶な行動も頷ける部分があるが……何故こんな強引な真似を? 支配に拘らず最初から私たちと共闘すれば……」

「これがオレのやり方だ。お前らとは違う。エリート生まれな(・・・・・・・・)お前らとはな」


 そうだ。鬼苑は天才とは本当の意味では組まない。下には付く気もない。

 それが彼の生き方であり誇りでもあった。



 

 魔法使いとして鬼苑亜久津は決して天才ではない。

 特質した物はなく平凡の一言に尽きていた。


 その代わり喧嘩に関しては一際強かった。

 勿論無敗ではない。彼より強い者は当然おり、罠に嵌められて数に圧倒された事もあったが、彼が真に折れる事はなく、最後には負かされた相手や集団を半殺しにしていた。


 荒れた中学が原因でもあるが、絶えない喧嘩が不良の彼を作り上げた。

 それは武力だけじゃない。悪意に満ちた策略も覚えてやがてリーダー的なポジションに立つ。


 周囲から恐れられて『悪童』と呼ばれるようになった。

 その呼び名に興味を抱いて寧ろ敵が増える事になったが、勝者としての居心地の方はそれほど悪くはなかった。


 そんな彼だったが、魔法の世界に足を踏み込み過ぎた為に、決して抗えない敗北を味わってしまう。


 日本最強と言われた始まりの七大魔法名家。

 その一角と彼は対峙して圧倒的な敗北を刻み込まれた。


 当然のように彼は再戦を望み計画を立てたが、相手は一人でこちらの人員を全員を倒した怪物。

 乗ってくれる者達は逆らわない側近ぐらいなもので、その側近たちも本心では乗り気でない事は彼も薄々分かってしまっていた。


 それだけ七大魔法名家の人間は突出した力を持っていた。

 彼だって出来るなら一対一で勝負したかったが、その異常な魔法を前にしてはサシの勝負は無理だと感じた。 



「それは心の弱さじゃな。主は自覚しておらんが、それが恐怖じゃのぉ」



 気分転換に隣街まで出ていた時の事だ。後にそれが彼の転機となる。

 偶々喧嘩して潰した集団がカモにしていた年寄りが実はイカれた爺さんだった。


「何もんだ? ジィさん」

「主には素質がある。ただ環境が些か偏ってただけじゃ」


 怪し過ぎる爺さんだったが、得体の知れない年寄りに鬼苑は何か引かれるものを感じた。


「ちょっと遊んでみるか? ワシと?」

「年寄りの遊びで強くなれるのか?」

「それはお主次第じゃな。重要なのは肉体や魔法じゃない」


 ニヤリとサングラス越しで目が笑っていた。


「折れない覚悟じゃよ」

「……上等だ」


 そこから先は誰にも語る事はない。

 街外れの山奥。体重く空気も薄いような場所で、ひたすら老人の遊びに付き合わされ続けた。体力には結構な自信があったが、何度も気絶させられて崖のふちや木の上で寝ている事が多かった。

 本気で勝負を挑んだが、爺さんは本当に仙人のような動きや魔法を見せて、鬼苑は訳も分からず敗北を続けた。

 諦める気はサラサラなかったが、勝てる糸口が見えなかった。


 そして半年が過ぎた中学三年の頃だ。


「そろそろ頃合いじゃのぉ」


 爺さんは唐突に終わりを告げた。

 結局一度も勝つ事が出来なかったが、それでもある程度の敬意を持つようになった。……敬語で話すことはなかったが。


「はぁ、飽きたのか? オレが一度目も勝てないから」

「違う違う。お主だって受験があるじゃろ? いい加減何処を目指すか考えたらどうじゃ?」

「何かと思えば……そんなの興味ねぇよ。近くで入れるところを適当に選ぶ」


 どうでもいい理由だったと鬼苑は溜息を吐いたが、そんな彼のリアクションは織り込み済みとばかりに爺さんは続けてこう伝える。


「ほぅ? リベンジのチャンスを自ら逃す気か? せっかくお前さんに美味しい話を持って来たのにのぉー?」

「……なんだと?」


 それが彼の受験先を決める切っ掛けとなった。

 さらに持ち札が少ない彼を思ってか、老人は最後にとんでもない置き土産を残していった。


「ジィさん、何をするつもりだ?」

「餞別じゃ。ワシの力を少し分けてやろう。使い方次第じゃ、最強も目指せれるぞ」


 訝しげながら爺さんの手に触れた途端、鬼苑の体内にあった【雷属性】に変化が生まれた。

 別に消えた訳じゃないが、何か広がって新しい何かが確立したような感覚。身に覚えはないが、知識では少し知っている。この現象は……。




「【磁属性】はこの世界にもあるからのぉ。立場上、お主にあちらの世界の魔法は教えられんが、上手く使ってみるといい」




 サングラス越しで爺さんは嬉しそうに微笑んでいた。




「ん……あ?」


 土御門との戦闘後、白坂と話していた筈が、気づいたら気絶していた。

 起き上がるとそこは何処かの部屋。質素でベットと小さなテーブル以外特に何もないところからダンジョン内にある休憩場だと察するが……。


「オレは失格になったんじゃ……」

「その前に私たちが運んだ」

「治療もやっといた。鬼苑は超感謝すべき」


 ひょっこりとベットに寝ていた彼を覗く二つの影。


「お前ら……」


 起き上がると痛みは確かに感じられない。

 治療の為に上着は脱がされているが、鬼苑は気にせず少々驚いた顔で双子のルールブ姉妹を見つめた。


「目的はいいのか? 龍崎はどうした?」

「終わった。結果は惨敗」

「負けた。言い訳はしない」


 出会いは入学した時期だが、何故かあの爺さんと同じ雰囲気がある双子。

 食費を無くしたという間抜けな理由で、食堂で飢えていた時に気まぐれで奢ったら、懐かれて軽く戦ってみたら実はとんでもないレベルの化け物だった。

 あっという間に負けたが、爺さんと同じだと鬼苑は何故か納得が出来た。


「クククッ、お前らでも負けるのかよ」

「笑わない。結構傷ついてる。体も心も」

「ギリギリで倒れずに済んだけど、プライドの方はすっごいボロボロ」


 利用しようとは始めは思ってなかったが、彼女たちも下剋上のような事が目的だったらしく、あと鬼苑の事が気入ったのか白坂の勧誘も無視して彼の方についた。

 暴力的な事も是とする鬼苑のやり方。渋る部分は双子たちにもあったが、強者が全てな彼のやり方は嫌いではなかったので、真っ向からの勝負事なら進んで手伝っていた。


「諦めるのか? ニセモノとか言うアイツにもうお前たちの心は折れたか?」


 揶揄うようで本気の問いかけを彼は試すように投げかけるが……。


「一度、二度の敗北で諦める?」

「私たちはしつこく。何度だって食らい付く」


 少しも絶望した様子すらない。

 寧ろガツガツやってやる気満々な様子で、グッと拳を握り締めた。


「クククッそうかよ」


 だから鬼苑も気に入ったのかもしれない。

 面白可笑しそうに小さく笑っていると、双子がキョトンした顔で小首を傾げた。


「「あれ? もしかして惚れた?」」

「アホか、なんでそうなる」

「「そうか……残念」」


 何が残念なんだと途端、笑いの毒気が抜ける。呆れてベットに寝っ転がった。


「で、どれだけ経った? 出来るならもう少し休んでいたいが」


 滞在時間がどれだけ残っているか知らないが、多少ポイントを消費しても回復を優先した方がいい。まだ遊ぶなら尚更だ。


「七日目の昼前くらい。丸一日くらい経過してる」

「試験終了まであと六時間と少しくらい。あと一二時間は休んでもまだ大丈夫だと思う」


 時間があるようで無いような気がする。

 だが、不思議と焦りはなく、とりあえず現状の確認から移る事にした。




 そして、ちょうど同時刻。

 最下層の第五層の溶岩の赤い池があるフロアで。


「油断したな。龍崎」

「……」

「ッ……クソが」


 縛られて動けない刃は倒れた状態で見下ろしている二人を睨み付ける。

 思わず毒を吐くが、二人は……特に大柄の方は気にした風を見せず、芋虫のようにもがく彼を鼻で笑った。


「フッ、まさかこうも簡単にいくとは。やっぱりお前に頼んで正解だった」


 一人は居ない筈の白坂家の次男、白坂隆二。

 大柄な男で熱いフロアなのにコートを着込んでいるスーツ姿。

 刀を鞘ごと片手に持って呆れたような笑みで彼を見下ろす。


「なぁ? 尊よ」

「……」


 視線ごと言葉を向けられるが、とうの四条尊は無表情と無言で済ます。

 彼の肩には第四層の時に見せた金色の鳳凰が乗っていた。


「ミ、ミコ、何故だ? 何故お前が……!」


 縛られながら刃は顔を上げて見つめる。どうしてなんだと必死に訴えかける。


「ジン……」


 すると視線に耐えれ切れなくなったか、重苦しい顔をした尊がゆっくりと上体を下げる。胡座をかくくらいまで下げて、なんとか見上げている刃へ申し訳なさそうな顔で謝罪した。


「悪りぃ。家の為なんだ」


 短く告げて立ち上がる。

 その時にはさっきまでの悲痛な顔を消えており、敵を見るような冷たい表情で……。


「頼むジン。オレたちの前から消えてくれ」


 倒れている親友を見下ろした。

 必要か微妙でしたが、鬼苑の過去話になりました。

 不良だけど不良ぽくない要素が多いですが、こんな感じでまとまりました。

 双子との出会いをもう少し捻ってみようかと思いましたが、結局こうなりました。

 

 いよいよ最終日に入りました。終わりが近いです。

 試験終了は夕方の十八時。残り数時間の間に色々と起きてしまいますが、いきなり捕まってしまった刃。


 話は一旦巻き戻って六日目の夜に戻ります。

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