第50話 六日目の決着(面倒になった弟子はチートで全員倒しました)。
『第四層で想定数値を上回る高濃度の魔力を感知しました! 第四層で想定数値を上回る高濃度の魔力を感知しました!』
『第三層、第五層に高濃度の魔力が侵食! 一部の感知機、監視装置が故障! 職員は速やかなに調査してください!』
ピーピーピーピーッ!! と先程よりも警告音が激しく鳴り響いた。
他の警告音も同時に鳴って唖然とする教員たち。画面に映る異常な警告に皆が開いた口が塞がらない様子だ。
「バ、バカな……この数値は……! あ、あり得ない。何故あんなヤツが……!」
ただ戦術クラスの長谷川教員だけは何か気付いたようで、信じ難い顔をして画面を凝視している。
高濃度の魔力が余程信じられないのか、ブツブツと呟いて冷静さを保てなくなっていた。
「刃……」
彼と繋がりを持っているマドカは、苦しげに胸元を押さえて静かに祈っていた。
「お願いです。どうか落ち着いてください」
繋がっている故に分かっているのだ。彼の疲労を、彼のダメージを、彼の怒りを。
抑え切れなくなり、暴走の一歩手前まで来ている事を。
「あなたは力に溺れたりしない。あの戦いでそう証明した筈です」
願いながら思い出すは、最終試験として用意された舞台。最下層での魔王との戦いだ。
封印されている今とは違う。全盛期と言っていい力と肉体を持った龍崎刃がマドカの父である魔王デア・イグスに本気で挑んだ。
最終試験だけあって全盛期の彼でも追い詰められた。
重傷を負って血を流して、全て使い果たした。……筈だった。
『ガァァァァァァァッッーーー!!』
彼の中にいる怪物が敗北を許さなかった。
暴走して獣ように暴れ回ったが……。
「あなたは乗り切った。そうでしょう?」
貴方は力の誘惑に負けたりしない。マドカは悲痛な表情で祈り続けた。
「こ、この魔力は……シルバーの?」
「そ、それだけじゃない。まさか……魔王も」
双子、ルールブ姉妹は目の前に光景に凍り付いてしまった。
発動して押していた筈の魔法は、彼の殺気と魔力に萎縮して自然と消滅する。
すぐにでも攻撃を仕掛けないとならない場面なのは分かっているのに、彼女らは目の前にいる相手の変化をただ見ているしかなかった。
得体の知れない恐怖が彼女らを縛り付けていた。
「『擬似・究極原初魔法』──発動」
身に付けていた銀時計のブレスレットに変化して起動する。 ───正式名は『黙示録の記した書庫』。
さっきまで分からなかったが、異世界の魔道具だと今になって気が付いた。
「“受け継ぐは氷河の世界”」
だが、遅過ぎた。
二種類の禁断の力によって、その魔法は既に発動された。
「───【氷結地獄】ァァァァッ!!」
瞬間、世界は身も心も凍らす氷の世界に染まった。
「サラッ!」
「リサッ!」
全身を凍らせる恐怖が増して、合図もなく同時に叫ぶ双子。
彼の劇的な変化よりも身を守る事を最優先で動いた。
「真っ赤な洞窟が真っ白に……」
「なんだよあの姿は!?」
「ッみんな逃げなさいっ!」
ルールブ姉妹だけじゃない。危険を察知した西蓮寺や他の生徒も呆然とする生徒に向かって必死に叫ぶが……。
「悪いが、全員逃げ場ないよ。『白き薔薇の呪い』」
俺の解き放った『氷結の原初魔法』。
真っ白な薔薇の蔓が白い冷気の煙を噴き出しながら第四層全体にまで広がっていく。
何人か捕縛すると全員が真っ白に凍り付いて停止する。そう、これは『凍結』を超えた『停止』の原初魔法。
「この魔法にこの蔓っ! 間違いないっ!」
「なんでこいつがお母様の原初をっ!!」
繋がりを得る魔道具と究極の原初魔法が合わさった完全なチートだ。
「本来ならお前らのような相手に使う魔法じゃないが……」
サナさんの魔力を得た影響で髪は金髪に染まる。
服装も変化して学生服からマントを付けた白い騎士になる。
氷をイメージさせる青白い三叉の槍を肩に乗せて、逃げ惑う彼女らを見渡した。
「勝負にならないと思う。異世界人でも学生だ。だから使いたくなかった」
けどお前らは俺を本気で怒らせた。
キレない人間なんていない。大人気ないと思うが……悪く思うな。
「静かに眠れ。この白き世界で」
「「ッ……ブ、ブレイドォォォォォ……!!」」
反撃しようと武器や即席の魔法を打つけているが、この魔法は停止以外にも魔力吸収も備わっている。
複数の術式が入り混じった混合魔法でもあるんだ。
「母親の魔法で負ける。知ってる魔法に敗れるのは───」
そりゃあ屈辱だよな? 惨めだよな? だから選んだんだ。大人気ないだろ?
とうとう捕まり巻き上げられて、体が白く染まって凍りついていく。その奥から憤怒の双子の叫びを聞きながら、俺は疲れも含んだ重い溜息を吐いた。
やがて解き放った魔法は第四層の全てを白くする。死人は出してないが、ほぼ全員が氷漬けだと思う。
「季節外れの冬が来たな。……ん?」
そこで魔法の影響か感知能力が拡大して、上の第三層の方で気になる魔力を三つ感知した。
「そうか、ちょうどそっちも戦っている最中か」
そういえば白坂だけじゃなく鬼苑にも協力の話があった。
「行け──“白き薔薇よ”」
外部との空間を閉ざす階層の断層など関係ない。
全てが魔力に関しる限り、『原初魔法』は概念を打ち破る。
「土御門、西蓮寺、それにハンター諸君、登場早々いきなりで悪いが、君たちには退場してもらうよ」
白き薔薇は赤い岩の天井を侵食していく。
普通なら壊れるだけで済むが、魔力にすら干渉を与えるサナさんの原初魔法は魔力の断層を突破する。
そうして白き薔薇は侵入不可な筈の第三層の断層まで一気に侵食して行った。
「ハァハァ……何で逃げない? オレはどっか行けと言ったぞ?」
「ハァ……お前に借りを作りたくなかっただけだ!」
砂鉄の鎧が粉々になった鬼苑と血を流しながら白坂も窮地に立たされていた。
本当なら二人が決着を付くまで戦い続ける筈だったが、思わぬ乱入者がその結末を断ち切りに来た所為で、二人してすっかり追い詰められている。
「ここまでだな。二人とも」
巨人や大仏のようなイメージさせる岩の鎧を纏った男───学園最強の土御門鷹海。
「消耗していた割にはよく保った方だ。オレに傷一つ付けれなかったが」
「ハッ! 自慢のつもりか? もう勝った気でいるつもりかよ」
二人とも魔力が尽きかけているが、鬼苑は少しも後退しない。
寧ろ追い詰められて勢いが増しているようだ。いったいこの男の原動力は何なのかと、白坂も土御門も目を疑っていると……。
「本当に口だけはよく回るやt───ッッグアアアアアアアアアアアッッーー!?」
呆れていた土御門の表情が激痛で歪んだ。
一体どうしたのかと飛びかかろうとした鬼苑が立ち止まり、膝をついていた白坂がポカンと口を開ける。
突然地面から出てきた真っ白な薔薇と蔓。それが頑丈な彼の鎧を足元から体に巻き付いて締め付けていく。
「ゔっ、なんだこの魔法はっ!? 氷の蔓だと、何処かrアガアアアアア!?」
困惑している間にも土御門を縛っていく白き薔薇。彼からしたら完全に想定の事態だ。
狼狽しながらどうにか引き千切ろうとするが、鉄のように硬い蔓は破けない。魔法を唱えようにも魔力を吸収されて、鎧まで解かれてしまう。……そう思ったところで逃れる手段がまだある事に気付いた。
「くッ! か、解除だ!」
この時だけは纏っていた巨大な鎧に感謝した。
分厚い鎧にした事で岩の鎧が砂のように崩れる。すると肉体と縛る蔓との間に隙間が生まれる。かなりギリギリであるが、そこがこの地獄からの突破口であった。
「ッ……ふっ!!」
その隙間を縫うように細い自分の体を通り抜かせて、薔薇の地獄から見事脱出を果たす。
多少の手傷を負ってしまうが、まだ少ない代償である。あのまま捕縛されていた場合を想像して、土御門の背筋にゾッと悪寒が走る。
「あ、危なかったな……」
上手く脱出したとホッと胸を撫で下ろして安堵した。
……だが。
「何だか知らないがチャンス到来だッ!」
「──鬼苑ッ! き、貴様ァァァァァッ!」
脱出する事に全神経を注いでいた土御門に鬼苑が狙いを付けた。
それだけで鬼苑の意図を理解出来たが、脱出した直後で体が追い付いていない。彼の行動を止める術が得るまで、僅か数秒のタイムラグが生じていた。
「ハァァァァ!」
「ぐっ、止めろォ……!」
まとめ上げた砂鉄の網で彼を捕獲する。そして彼ごと網をグルグルと回して……。
「ククククッ、それじゃあアバよ? 学園の最強さん?」
「ッふざけ──」
再び薔薇の方へと投げ飛ばした。
「鬼ェェェェn───ッッ!?!?」
最後に土御門の恨みがこもった声が聞こえかけたが、飲み込まれた途端その声は途切れて、莫大な彼の魔力も蔓の中で完全に消えてしまった。
やっと決着ですが、まだダンジョン試験は終わってません。
そうです。まだ六日目で最終日の七日目が残ってます! まだ続きます! まだ続いちゃいます!




