第48話 戦場に現れるは七大魔法名家(弟子の友人はずっと天才であった)。
「ゲホっ……ククククッ、カハハハハッーー!」
血を吐きながら鬼苑の笑った。白坂が自分に手傷を負わせたからだ。
「何が可笑しい? 鬼苑っ!」
「口だけの女じゃないって、喜んでるだけさ」
彼が持つ黒光なトンファーが雷属性───派生属性の【磁属性】を纏う。
「『電磁気の重装拳』!」
トンファーと腕を覆うように地面から黒い砂、砂鉄が集まって黒い大きな拳に変化した。
「今度は大盛りで行くぞ!?」
「っ……“斬撃の風よ、我が敵を殲滅しろ”!」
振り下ろされる巨大な拳に向かって、風を纏った白坂の剣から斬撃が飛び出した。
「『疾風の如き鎌鼬』ッーー!」
巨大な拳と衝突する。バキッと音を立てて崩れる拳を鬼苑は可笑しそうに見て、また笑っていた。
「クククッ、想像よりもやるな」
「ふぅ……貴様の考えはやはり理解出来ない」
白坂の方も決して無傷ではない。
負っている怪我の状態は鬼苑の方が多いが、疲労の方は白坂が大きい。
「どうして本気で倒しに来ない。それだけの余裕はあった筈だ」
口にするのも嫌だが、鬼苑亜久津の実力は本物だ。
同じ【魔法剣士】の階級だが、口だけでないのは寧ろ鬼苑の方である。
「何を遊んでる? バカにしてるのか」
「クククッ、別に馬鹿にしてない。遊んでいるというより楽しんでると言った方が正しいがな」
首を横に振り否定して口元の血を拭う。彼の周りで砂鉄が槍状に形状変化した。
「だからもう少し楽しもうか」
彼女に向かって手を振うと、一斉に槍が飛び出す。ただし砂鉄で出来ている為、蛇のように歪な動きで飛んで白坂を惑わそうとする。
「ッ……“護りの風よ、我が身を守護せよ”! ───『疾風の護風壁』!」
変則すぎる攻撃、躱せれないと即座に判断して風の防壁魔法を発動。
彼女を包み込むように防壁の風が張られて襲い掛かる砂鉄の槍を弾き返すが……。
「ハッ!」
「──カハッ!?」
弱った防壁を突破したトンファーの攻撃が頭部に打たれる。
さらに脇を蹴り飛ばされて横に倒れてしまう。
「ッ……うっ!?」
「ほらよ!」
空いた手で髪を掴まれる。鬼苑はそのまま雷魔法を発動させようとするが。
「ガッ!」
「っと! 危ねぇな」
頭を掴んでいた鬼苑の手を斬ろうとするが、寸前で離されて空を斬るだけに終わる。ヒヤヒヤした様子で手を見つめる鬼苑に、白坂は立ちながら吐き捨てる。
「目的はなんだ鬼苑ッ! みんなを傷付けて私を怒らせていったい何がしたいッ! いい加減答えろッ!」
怒りのまま魔力を込めて剣で叩き込もうとするが、鬼苑のトンファーに阻まれてしまう。
「もう誰も巻き込むな!」
「巻き込まない世界なんてつまらないだろ!」
白坂の剣を振り払う鬼苑。トンファーに雷属性のオーラが纏わせて、横薙ぎの要領で振り投げる。
雷を帯びたトンファーがブーメランのように白坂に迫る。
「『豪炎火の太刀』ッ!」
火系統の一級位魔法。炎の剣となった彼女の刃がトンファーの攻撃を弾き返す。その勢いで白坂は駆け出す。
「クククッ! いいぞ来い!」
戻って来たトンファーをキャッチした鬼苑は迎え打つ。
ますます昂りに身を投じたくなる気持ち。白坂の言う通り目的があったが、この時だけはそれも忘れて楽しんでいたかった。
「『大地を破壊する地震』!」
空気の読めない乱入者が邪魔するまでは。
彼らが立っていた地面が破壊されて、激しい衝撃波が彼らを吹き飛ばす。
「な、何が!? 何処から!?」
予期せぬ地面から攻撃に流石の白坂も対応が遅れて混乱している。すぐに体勢を戻しているが、視線を何処に向ければいいから分からない様子だ。
「ハァー、そっちから来やがったか。空気読めよクソッタレ」
しかし、同じく吹き飛ばされた鬼苑の方は落ち着いた……というか苛立った様子で立ち上がっている。
どっちから攻撃が来たか分かっているのか、迷う事なく振り返り歩いて来る男を睨み付けた。
「王様気取りか? 随分と派手な登場だな土御門サマよ」
「様はいらん。だが、先輩は付けろ後輩」
龍門学園の最強にして生徒会長、土御門鷹海。
学園でただ一人のSSランクであり、日本のトップの一角の七大魔法名家でもある。
メガネを付けたキリッとした佇まいの長身の男性。痩せ型な優男にも見えるが、実は鍛え抜かれた肉体の持ち主でもある。
規律を重んじる生徒の中の生徒と言っていい男だ。
「追加ルールに則り『ハンター』として我々も参戦させてもらう。鬼苑、白坂、疲れてるようだが、手加減はしないぞ?」
「安心しろ。負けた時に言い訳にはなる事はない。オレの獲物は最初からお前だったからなァ」
ダメージと疲労は間違いなくある。
それなのに鬼苑の闘志は白坂の時よりも燃えがっている。
よく分かるくらい獰猛な笑みを見せていた。『磁属性』の磁気が全身から漏れ出て、見ていた白坂が呆然とする。
「鬼苑……まさかお前の目的って」
「桜香、悪いがお前と楽しむのは一旦お預けだ。行くなら行っていいぞ」
もう用はないと白坂から背を向けて土御門を向き合う。
「最初からオレか……藤原と組んだりしたのもこの為か?」
「アレはただの暇潰しさ。あんな奴にも最初から遊び以外の価値なんてない」
全身を砂鉄の鎧を纏わせる。磁魔法の『電磁気の鎧武装』
漆黒の鬼をイメージさせる分厚めの鎧で、土御門に向かって駆け出す。
「大物喰いにしか興味ないんでなッ!」
「身の程を弁えろ! お前程度に負けるオレではないわ!」
対する土御門を全身を土の鎧を纏わせる。土魔法の『大地の鎧武装』
岩のような褐色の分厚い鎧と兜を纏って真正面から受けて立つ。
『悪童』と『不動』の激突。
第三層も第四層と同じくらい激しさを増した。
しかし、第四層の方も負けていない。
刃とルールブ双子の元へ同じ七大魔法名家の一角である四条尊が駆け付けていた。
「思い出した。貴方は四条尊」
「鬼苑が警戒しているトップ三人のうちの一人」
つい先ほどまで胡散臭そうに乱入者のミコを見ていた双子。肩にいる金色の鳳凰には警戒したが、本人はなんか軽い印象。
赤い髪とチャラい見た目とは裏腹になんか気の抜けた感じがする。
少しの間は双子も警戒を緩んでいたが、鬼苑との会話を思い出して警戒心が戻ってきた。
「土御門、桂、四条、この三人の顔写真と名前を覚えるよう言われた」
「この先自分たちの脅威になる可能性が高い。本気で潰さないとならない要注意人物だと言った」
「へぇ、それは光栄と言うべきか? あの不良に警戒されても正直鬱陶しいだけだが」
少し苦い顔で首を振る。……いや、お前の場合知り合い以外は全員嫌だろう。
「私たちも興味ある」
「是非一度戦ってみたかった」
鬼苑からの注意を思い出して、寧ろ双子たちのやる気が増した。
属性による武装した姿で武器を構える。本気の状態なのは一目瞭然であった。
「こいつ、先に返すぞ?」
双子に視線を固定しながら手を伸ばしてくるミコ。
すると袖の裏側から出てくる銀色の液体。俺が手を伸ばすと俺の袖からも銀色の液体が出て、ミコのと引っ付いて袖の裏に戻っていった。ご苦労さんメタル君。
「本来通じない別階層との通信補助が出来るスライムとか、何処で拾ったんだ?」
「ん? 普通に鍛えただけだが? なぁ?」
ムクっと襟元からメタル君が手を作ってピースする。しばらくの間にだいぶ器用になった。
「ハァ……それで? オレを呼んだって事は色々と教えてくれるって事でいいよな?」
やっぱりそう来るよな。未央たちの事もあるし、保険として呼べるようにしていたが、巻き込むのなら訳を話せって事か。
「まぁ、そこはオイオイとな?」
「誤魔化す気か?」
「いや、だってさ? いま話せるような状況か?」
二人とも視線は双子の方に向いたままだ。
待つ気なんてそもそもないようで、構えていた二人が同時に飛び掛かって来る。
前よりも速く魔力による威圧も上がっている状態でだ。
『───(バサッ)』
「「──ッ!?」」
だが、その双子の動きは金色の鳳凰が伸ばした両翼によって封じられる。
急に大きくなった翼に対して動揺と燃えそうになる武装に困惑している。火傷しないのが不思議そうだが、ミコに女を燃やす趣味なんてない。
「こうすれば話が出来そうだぞ?」
「はいはい分かったから、とりあえず二人を倒す方を優先しようぜ?」
相手が悪過ぎたな。
四条尊の階級は【魔法師】だが、その実力は既に【魔導師】に届いている。
ハッキリ言って階級が上の未央より上だと俺は睨んでいる。実戦経験が多い筈の桜香や緋奈よりもコイツは強い。
「「お前は……本当に何者だ!?」」
「知ってんじゃないのか? オレの事?」
四条家に伝わる火の守り神───『鳳凰』こと『フェニックス』。
それと契約している四条家の正統な後継者。
四条家の誰もが認めており、神崎家が緋奈を使ってでも取り込もうとした男。……結局コイツは俺の方に興味を持ったがな。変な意味とかじゃなく。
「四条尊───いつか日本最強になる。火の魔法使いだ」
『──!!』
鳳凰が呼応するように確保した双子を投げ飛ばす。
争い切れず岩壁へ激突。岩の瓦礫に埋もれた。
「よく覚えておけ」
調子に乗るから絶対に言わないが、俺もそうだと心の中で頷く。
俺の知る限り奴以上の火の使い手は異世界にもいない。いると思えなかった。
ずっと昔からアイツは天才を超えた鬼才であった。
今回は七大魔法名家の登場回でした。
あんまり進まなくてすみません。そろそろ六日目も終盤に入りますので。
第三層と第四層の同時進行。……やっぱり遅れそうですな(汗)。