第46話 警告の緊張とキレた刃の挑発(弟子はイラついてやる気になった)。
ピピーッ!と警報が小さく鳴った。
監視していた画面の一つに反応があった。生徒の誰かが致命傷に近いダメージを負った警告だ。
「普通科の龍崎刃のバッジより警告サインが来ました!」
「血圧と脈拍の上昇を確認。気絶はしてないようですが、情報から出血の可能性が高いと思われます。どうしますか?」
報告する教員達の声に真っ先に反応したのは、マドカ、戦術クラス担任の長谷川、それに臨時で来た三年の教員数名。
マドカは表情に出していないが、内心はかなり焦っている。ちょっと前の情報では仕掛けて来た姫門学園の女子たちを倒したと聞いたが、そこからすぐに戦術クラス所属のあの双子の奇襲を受けてしまった。
彼女らの正体をマドカは入学式の前から知っていたが、異世界の方から連絡もあって黙っていた。
『ジンに必要な試練だ』
その言葉に彼女も納得したが、同時に不安もあった。
刃の実力は確かに本物と言っていいが、どうしても限定的にという言葉が付いてしまう。
魔力量の少なさを技術と肉体、それにスキルでカバーしている。その技量は流石であるが、それらを踏まえても基本的な戦闘力は双子に劣る。
融合スキルによる『魔力・融合化』に加えて属性融合、もしくは一体化など使わない限り対抗出来ない。
あるいは奥の手である他の封印されたチカラか、切り札のブレスレットで仲間たちのチカラを借りるか。
確実に勝利を手にするには後者しかないが、あの双子が簡単に隙を作ってくれるかどうか。
画面を見つめがらマドカが眉を潜めていると……。
「少し想定と違いますが、そちらとしては悪くない展開では?」
「不謹慎な発言は控えてもらおうか長谷川先生」
「他の教員もいます。我々はあくまでサポートが仕事です」
長谷川の発言に三年の教員たちが睨み付けて黙らせる。別に間違っていないと長谷川は思っているが、神経質な者達ばかりなので肩をすくめて頷いた。
やや呆れ顔でそれが三年の教員達の表情を険しくさせたが、一々反応していたら何も知らない他の教員に不審がられる。
「とにかく、黙って指示に従ってください」
「分かりました。彼らが来ましたら、私の方で案内しますね」
「必要ないと思いますが、頼みましたよ?」
念を押すように伝える三年の教員。
重要な単語は口にしてないので大丈夫だが、その件だけは刃よりも重大な案件。忘れました、失敗しましたでは済まされない。
「VIPですからね。当然、分かっていますよ?」
にこやかに微笑んで頷く。やはり不安だと表情に出す教員もいるが、自分たち三年の教員は参加している三年や二年の監督。招いた姫門学園の件で既に目立っている以上、余計な行動は控えないといけない。
「……」
嫌な予感は残ってしまうが、その場で一番上の教員が目を閉じた事で他の教員も黙るしかなかった。
「み、みんなっ! しっかりして!?」
「っ! もう遅かった!?」
双子に振り切られて遅れていた春野達は、『星々の使い魔』達が倒れていた場所に到着。
青ざめた春野が必死に呼びかけるが、倒れているメンバーから返事がない。霧島も舌打ちしたい様子で周囲を見ていたところ……。
「綾! あの人!」
「え?」
慌てて指差した霧島の指す方へ視線を向ける春野。少し離れていたが、ヨロヨロと歩いて離れる姫門の制服が見えた。
「──み、未央先輩っ!」
背中越しであるが、その髪型と背格好で春野は誰なのか一目で理解して飛び出した。
すぐに追い付いてフラついているその体を抱き締める。仲間の剣を杖代わりにしてなんとか歩いていたので抱き止めた瞬間、力尽きたように倒れそうになった。
「……あや?」
まだ刃の時の精神ダメージが残っていた中で、無理やり体を動かしていた。
精神疲労がさらに蓄積して、本来なら気絶しても不思議じゃない未央の精神はとっくに限界を超えていた。
「どうしてっ? どうしてこんな無茶をしたんですか!?」
「……たすけないと」
「私の事ですか!? こんな事されても嬉しくないですっ! みんなを苦しめてまで、私は戻りたくなんかないのに!」
次第に涙目になる春野なって叫ぶ。彼女にとってこのチームの皆は楓と同じくらい大事な人達。こんな自分を受け入れてくれた大切な仲間。
楓の方を優先して皆の期待を裏切るような事をしたのに、それでも彼女達は春野を見捨てなかった。
「っ……カエデちゃん!」
「分かってる。すぐ教員に連絡する」
だが、今は彼女らの救護が優先だ。
膨れ上がる感情をどうにか堪えて楓に頼む。
とりあえず他のメンバーがいるところまで戻ろうと、肉体を強化し未央を抱えてその場から移動した。
ただ移動中……。
「じんくんを……たすけないと」
そんな呟きを未央が漏らしていたが、既に意識が途切れ途切れな枯れ切った小声。
抱き止めている春野の耳に届くことはなかった。
斬撃を浴びた瞬間、赤い液体が噴き出した。
頑丈な素材の制服が切れて、中のシャツが赤く染まる。
何かの警告に引っ掛かったか、バッジからピピッー!と音が鳴り始めた。
「ふん!」
だが、切り口を筋肉と気で強引に塞ぐと警告音が鳴り止む。
多少の警告には触れてしまったようだが、これで応急処置できたと判断された筈。
「切れたのは骨の上部分まで」
「Aランク級の魔法に耐えれる強度」
双子はクロスさせた武器を解くと、検分するような目で俺と切れた部分をジッと見つめた。
「「なかなかやる」」
ガッシャと双子がそれぞれ武器を構えた。
「……」
そんな二人に対して俺は沈黙する。
肩の痛みは大したことはないが、この受けた怪我の原因がなんなのかと、ふと改めて考えていた。
『つまり貴方があしらった所為ね」
そうだ。切っ掛けは師匠が適当に放置したからだ。
『う、そうは言うが……立場的にちょっと拙いだろう?』
『だからって異世界転移を許す? 多少の常識抑制はしてあるけど、あの子達だってまだ子供なのよ? ハメを外さない保証が一切ないのよ?』
何一つ安全の保証がないのに、師匠はこちらへの転移を許した。
『ジークを尊敬しちゃってるから、弟子の貴方に嫉妬してるみたい。だから覚悟した方がいいわよ?』
嫉妬とは何か、覚悟とは何か。
『シルバー・アイズの弟子』
『全世界最強の魔法使い。魔導王の後継者は───貴方ではない』
ほぼ強制的に弟子にされたようなものなのに、言うだけ言って二人は襲って来た。
『『貴方であっていい筈がない。だから後継者の証を渡せ』』
次第に苛立ちが増していく。理不尽なこの状況に。
師匠の怠慢、勝手なサナさんの言葉、彼女らの一方的なもの言動。これまでの問題……全てが鬱陶しくて……。
「処女クセェ雌ドモガ、下ラネェ事デ来ヤガッテ……! 送リ返ス前二、ボロ雑巾ニナシテ犯スゾ……!」
「「──ッ!?」」
傷が原因だろう。俺の中のヤツが瞼を開けたのが分かった。
口調がやべー事になってますが、そこは暖かい目でご了承ください。
「何か……見えた」
「傷口から何か出かけた」
その増悪に満ちた殺気を浴びても、双子は恐怖で震えることはなかった。
警戒は最大まで強まったようだが、自分たちの見たものが現実なのかと揃って理解し切れてない様子。
「『精密形態武具』……」
そんな中、正常に戻った俺は風の『微風刃』と火の『火炎弾』を左右の魔力の刀と融合させた。
「『擬似・空喰いの魔剣』『擬似・太陽喰いの魔剣』」
師匠が扱っている融合魔剣を二刀生み出して、笑顔を向けてやった。
「アレだけやってこんなもんか? 師匠の後継者になりたがってる割には大した事ないな?」
「「……上等!」」
双子のお陰でやる気になったわ。
憂さ晴らしついでに懲らしめてやる。
……ただその前に。
「あ、一応訂正しておくけど犯すとかはなしだからね? さっきのはあくまで冗談みたいなもので……」
「「……」」
「身を寄せ合って警戒しないで! 本当しませんからね!?」
そもそもタイプじゃないし! 俺はもっと山がある方が……!
というかサナさんの関係者とか……勘弁してくれ! 色んな意味で無理ですッ!
複雑極まりないルールブ姉妹の乱入で、状況がカオス化した第四層。
俺こと龍崎刃の苦労はまだまだ続く(終わりませんよ?)。
シリアスなのか、ギャグ回かあやふやな回でした。
ホント分身の術か式神でもいいから覚えたい。執筆が全然進まんもん!(涙目)
はぁ、ちょっと整理もしたい。色々とやり直したいのもあるし。