第41話 波乱前の静かな五日目(弟子の存在は皆を惑わす)。
──五日目。見えない異変に気付いたのは、バッジで調べたランキング表だ。
『試験ランキング(現在)』
ランキングポイントは魔物討伐(数とランク)、ミッション(難易度)、所持ポイント(初期ポイントはチームごとに200)の総合評価で決まる。
第一位 龍崎チーム 5130ポイント
第二位 鬼苑チーム 2420ポイント
第三位 四条チーム 1980ポイント
第四位 藤原チーム 1590ポイント
第五位 白坂チーム 1370ポイント
とうとう鬼苑チームが動いた。間違いなく双子が稼ぎ頭だろうが、まさか一気に二位まで浮上してくるとは。
動いたのは藤原チームに妨害を受けていた四日目か。その時に鬼苑チームと桜香チームが激突したのだろう。
桜香のチームの点の伸びしろが悪くなって、藤原に抜かれている。恐らく誰かダウンして点が半減したんだ。
一番ポイントを所持しているのは桜香だろうが、他のメンバーだって結構持っていた筈。戦闘エリアかミッションを使ったか知らないが、俺に戦力を注ぎ過ぎていた藤原にまで抜かれたとなると相当不味い。
「加勢すべきか」
だが、六日目じゃないと直接的に手が出せない。召喚による『幻夢』が通じるとは考えない方がいい。
相手が乗り気みたいだから、誘ったら戦闘エリアに進んで入ってくれるかもしれないが、残り二日が激戦になると考えると……。
「まだ動くべきじゃないか」
桜香チームには自力で頑張ってもらおう。予定変更して六日目から頑張ってみるか。
心の中で桜香に祈りを捧げて、俺は点数稼ぎに勤しむことにした。……第四層で。
最悪の展開っていうのは、最初から考慮していた方が割とショックが少ないんだ。
「動いていいの?」
「離れても大丈夫なの?」
第三層の四層入口付近で、双子が鬼苑に首を傾げながら尋ねた。
「ああ、十分だ。明日からお前らは好きにやれ」
夕飯の肉を齧り付いて告げるが、双子の視線が徐々に肉の方に移り出した。
既に結構食べているが、鬼苑はとくに気にせず持っていた肉を追加で焼いた。双子は意外と食欲旺盛なのだ。
「白坂のチームはオレたちでやる。藤原は四条とぶつかるだろうから、まずは邪魔くさい白坂を潰す」
「ですが、鬼苑殿よ。警戒すべきは一年だけではありません。明日からは二年三年も出て来ます。我々も遅れを取るとは言いませんが、それだけ戦場も荒れます。せめてあと一日、最終日まで待ってもよろしいのでは?」
と敬語でやや古い口調で話すのは出雲と名乗る大柄な男子。金剛と同じくらいだが、こちらの方が不良というより正統派の武闘派・和尚を匂わせる。髪がないとか関係なしに。
「その場合、仮に最終日で龍崎を倒しても総合点で負ける。今の龍崎の点数ペースを見る限り、六日目でオレたちの三倍から下手したら四倍近くの点を取ってくるかもしれん。それだと一度戦闘不能にして半減したところで届かない」
「私たち、頑張るよ?」
「じゃんじゃん魔物狩るよ?」
鬼苑の話を聞いて両手拳を構える双子。ムッとしてヤル気を見せているつもりだが、場が和むような雰囲気なので鬼苑を苦笑いさせる程度で終わってしまう。他の二人は微笑んでいるが、口に出してこれ以上話に割り込もうとはしない。
「意気込みは買うが、龍崎だってバカじゃない。もし最終日まで仕掛けて来ないと察したら、前日中に点数を荒稼ぎしてくる。いや絶対にする」
どれくらいの勢いかは分からないが、この数日の異様なペースの上があるなら総合点の倍々ラッシュは回避出来ない。実力は疑っていないが、双子でも追い付けるか怪しくなる。
だったら厄介な方でも他の連中は敢えて賭けず、確実性を求める為に奴を最終日前に一度潰しておく事にした。
「早いうちにコイツらを放った方が多少は気にせずに済む。まぁそれでコイツらが負けたとしても、二位狙いに路線を変更するだけだが……」
その可能性も決してゼロではない。わざと双子から視線を逸らして口にするが。
「「負けない。あんなポッと出たニセモノなんかに」」
「ニセモノ?」
「なら問題ないな」
「そう、ですな」
女子の高松と出雲が首を傾げる。鬼苑も気になったが、予定通り焚き付けれたので良しとした。
「白坂のチームは落ちたようですね。二名が倒されて回復中だそうです」
「やはりそうか。こちらとしては嬉しい事だが、こっちはこっちで人員が不足が致命的だ。気絶した者たちもまだ帰って来ない」
藤原チームは不足した人員に悩まされながらも、なんとかポイントを稼いで白坂チームを抜いた。
本来なら鬼苑チームに届くポイントを獲得予定であったが、大武を含めたチーム数名が龍崎刃の獲得速度を警戒した為に起きた……損害が大きかった。大き過ぎた。
「リタイアしたと判断すべきです。これからはより慎重に動かねばなりませんね」
「……」
微笑んで大武に視線を向ける藤原。
居心地が悪そうに苦い顔で顔を逸らされるが、特にそれを咎めようとしない。ちょっとした揶揄いである。
「龍崎君の方は一旦置きましょう。それよりもまず倒しておきたいチームがあります」
「鬼苑チーム、四条チームか?」
藤原は頷くが、指を一本立てる。
「どちらかに絞りましょう。六日目と七日目で分けます」
「……龍崎は本当に放置するのか? 二位狙いに変更するのか?」
「七日目まで待ちます。もしそれまでに彼のポイントが半減するようなら……」
『我々が邪魔だと思ってるのは龍崎刃だけだ』
『彼を追い出せれば、それでいい』
学園の……彼らの思惑に乗る事になりそうだ。口にはしないが。
「やはりちょっと工夫が必要ですね」
彼女の目的はあくまで一位狙い。五日目もポイントを稼ぐ為にミッションと魔物狩りへ移った。
「幼馴染君、凄いね。本当に前までは弱かったの?」
「弱かった。というより魔法の才能が全くなかった。魔力が……全然宿らなかった」
仲間が二人もやられてしまい、やむなく五日目は小休止する事にした白坂チーム。
六日目にはやられたメンバーも戻って来るので、最悪の事態は回避されたが、仕掛けて来た鬼苑チームの戦力が予想以上に強い。このままでは六日目に衝突した際に全滅の可能性が濃くなっていた。それだけ双子の存在が厄介なのだが。
回復しながらランキングを見ていたメンバーの女子がふと白坂にそう尋ねてきた。
「子供の頃からそうだった。一般の魔力量の4分の1未満。初級魔法しかまともに使えなくて、家柄も関係して一部から蔑まれてた。期待されてたのもあるけど……」
「期待?」
いったい何を期待したのか、首を傾げる女子の顔を見て白坂は少し嫌そうな顔で答えてくれた。
「……有名な占い師が彼はやがて世界を超越した魔法使いになるなんて言ったんだ」
「……どういう意味?」
「どうでもいい。その所為で余計に彼は目立ってしまって、そして余計な重圧を浴びせられ続けた」
その所為で最後には家を追い出される事になった。
許嫁の自分や次期当主の緋奈が強く言えば見逃してもらえたかもしれないが、あの時点で
彼は神崎家で居場所が無いに等しかった。
あのまま彼が十歳を超えたら、どうなるか分からなかった。当時の自分にはそれがとても恐ろしく感じた。
「大人たちの口車に乗って、アイツを引き離すしか方法がなかった」
「でも、好きだったんだよね? 今も」
「っ……裏切った事に変わりない」
今回の試験は彼にとって最後のケジメなのだろう。妹の緋奈に頼まれたのも要因だが。
「刃を巻き込んだのは最後の確認をしたかったからだ。アイツが本当に変わったのかどうか、私たちに頼らず魔法世界でやっていけるのかどうか」
「……」
それさえ分かれば自分はもう……。と頭では納得させようとするが、聞いていた女子にはとてもそれで終われるとは思えない──苦渋に満ちた表情をしていた。
そして六日目の朝。
ダンジョンの一層の入り口で、彼ら彼女らは揃った。
彼らの前には教員が一人、一年の総合クラスの学年主任である。
「急な事になったが、よく集まってくれた」
彼は学園上位の三年と二年で構成されたメンバーを見ながら頷く。……その端で明らかに学園の関係者ではない、女子生徒数名が混じっていたが、学園長から一応聞いていたので頷くだけで留める。内心は大変複雑であるが、とりあえず彼女らの女性教員へ話を通す。
「姫門学園の皆さんも本日はよろしくお願いします。急で色々と分からない事があると思いますが……」
「いえ、こちらも突然の申し出ですので」
相手に笑顔はなくキリッとした仕事顔で握手を交わされた。やはり日本有数の女子校だけあって教員も美人だと緩みかけたが、握手した手のひらの硬い感触が男性主任の緊張を高める。相当腕の立つ剣士なのだと心の中で理解した。
「では伊吹先生に変わって私が引き継ぎます。事前に試験資料には目を通されていると思われますが、確認の為に再度こちらからご説明します」
と戦術クラスの長谷川が説明を始める。さりげなくメンバーの戦力によるカウント、分析もするが、仕事慣れしている彼には造作もない芸当で……。
(なかなか面白くなりそうですね。軽く情報を操った程度ですが、そこそこの駒たちが揃ったようだ)
三年と二年以外にも姫門学園の『星々の使い魔』のメンバーたち。
(彼を試すにはちょうど良いでしょう。彼らは他にも手段を用意しているようですし、しばらくは様子を見るとしますか)
魔神の使者として色んな思惑を抱く人々を誘導してそれを眺める。表情には見せていないが、目だけは面白おかしく渦巻いている遊び場を眺めていた。
ちょっと今回のは少しやりづらかって時間がかかりました。視点変えるのはやっぱり苦手。
なるべく余計な情報を増やさないようしたいですね。増やすとまた遠ざかりそうなので(汗)。




