第40話 夢を見せる悪魔はドMな少女(弟子は渋々召喚した)。
封印されていたのは、『召喚』だ。
正確には召喚した契約対象であるが、融合、神刃、時間、瞑想も大分慣れていた。
そろそろと思って先週くらいから召喚魔法を試してみたのだが……。
『プルプル!』な、なんですか! ソイツらは!(*と言っています)
彼女を見てメタル君がショックを受けた。可哀想に誰の所為か(鏡見ながら)。
俺が契約しているのは、メタル君を含めて七体。つまり異世界では六体と契約を結んでいた。
いきなり全部は無理があったので、今回は二体まで呼び出してみたが……。
『やっほー』
「っ──!」
二体目を呼び出した途端、眩暈が起きて視界が歪む。
【や・ほ・ほー】
声が脳に直接流れてくる。久々過ぎて機嫌が悪いのか? いきなり夢に引き摺り込もうとするが……。
「や……め、ろっ!」
【───】
全身の魔力を掻き乱してやる。こいつの幻覚魔法は夢魔の一種。意外と繊細な術で相手の魔力の流れを掌握し切れてないと術に掛けづらくなる。特に俺の場合は……
『やっぱり二つの魔力があると掛けても外れやすいかー』
「いきなり幻夢とか容赦ないな。……もしかして怒ってる?」
『変異種の竜族』である彼女は問題なかったが、悪戯好きなこっちの方が厄介だった。ここまで酷いのも珍しい。いつもなら夢の中に入り込んでエロい夢を見せてくるが……。
『ぜーんぜん怒ってないよー? あの子より後だけど……(ぼぞ)』
すっごい気にしてるじゃん。まさかの順番の問題か。
「ま、まぁ悪かったって」
『まぁ、いいですけどー?』
若干不満そうにしても一応は機嫌を直してくれたようだ。
彼女を覆っている闇が晴れると、ボロボロの黒マントを被った顔半分が骸骨マスクで、灰色の髪をした少女が姿を現した。マントの中はピッチピッチの黒のスクみたいで、下着とか着てないから直視しづらい。
『で、ルゥたちを呼び出しているって事は、ようやく使う気になった?』
「その使うって言うのはやめてくれ」
『ルゥとの契約を忘れたの? ルゥを満足させないとイタズラしちゃうよ?』
マントの中を見せてくる。わざと胸元とか股の部分を強調してくる。慎ましいけどピッチリしてるから色々と輪郭がハッキリ見えるし、下半身なんて完全にアウトだ。ゴムみたいな黒の生地が余計に犯罪臭を上げてやがる。
「奴隷扱いをご所望なのは知ってますが! もう少し節度を考えてくれませんかね!?」
『もっと道具みたいに使ってよー。乱暴にされちゃう性奴隷でもいいからー』
「救いようがない! だから呼びたくなかったんだ!」
寧ろ二番目に呼んだだけ感謝してほしいわ。試験がなかったら絶対最後の方に回してる。
「はぁ……けど必要なんだ。今回もそうだが、今後を考えると精神干渉に特化してる夢魔族と悪魔族の力を持つお前の能力が……」
『加減が出来るからでしょうーか? お優しいですねぇー何かあっても夢で済ませれますもんねー』
やや皮肉気味なのはそれが弱者の証だと散々言われてきたからだ。
相手を夢に引き摺り込む魔法。一見強力に思えるが、弱点も多々ある。普通の幻覚魔法よりも条件が厳しい。
しかもルゥの場合、戦闘力自体が低い。魔力は俺よりはあるが、攻撃系の魔法は少ない。一応悪魔族の血筋もあるが、夢魔の幻覚系の魔法ばかりに適しており、身体能力だけならこちらの一般魔法使いレベルだ。
つまり攻撃分野においては極めて弱い。それをルゥは昔から気にしているようで、ドMだけどその類の攻めは本気で嫌悪している。
『人間相手なら楽ですし、どんな夢を見せますー? 全裸のルゥが犯されてるのにでもするー?』
結果、超不機嫌になった。俺の所為で。
分かっていたが、契約した奴らは一人一人個性があるわけで、それをどう活かせれるか契約者に掛かってくる。というわけで……っ。
「今度、首輪、作る」*死んだ魚のような瞳。
『なんでも申していいからね、マスター! この『夜夢の悪魔』のルゥが素晴らしい夢を見せてあげるー!』
「加減はお願いね? あと『同調融合』で使うからそこも分かってる?」
やり過ぎて相手が廃人とか恐ろしいから。本当こいつとの交渉は苦手だ。何か大事なものが失われてる気がしてならない。
ちゃんと俺が補助して使わないとどうなるか分からん。その辺りはやはり人外らしいと納得してしまうが……。
藤原輝夜は無駄な事の時間を割くタイプではない。
本人の気分や余興ですることもあるが、今回の件に関しては本人は乗り気ではなかった。
だが、周囲の意見が徐々に大きくなり、やむなく失点を覚悟で彼に仕掛ける事にした。
(彼なら難なく回避して振り切られるのがオチだと言うのに)
予め用意していた作戦の一つ。綿密に組んでいたのだから間違いないと言ったが、それは他のチームの場合に限っての事。
見張り用のチームは本来なら鬼苑か四条のチームに回す予定であったが、彼を包囲する為には通常の人数ではどうしても足りなかった。
自身の遠隔魔法を活かすためにも人員を増やすしかなかったが、最初から無駄であった。
「っ藤原! どうなってる!」
「やられましたね。どうやったのか不明ですが、用意したチームは全員攻撃を受けたようです」
「バカな! 戦闘のエリア外での生徒へ攻撃は反則の筈!」
「それを我々のように掻い潜ったのでしょう。感じから何か精神系の魔法を使用したようですが……バッジが反応してない事を考えると」
そして六チームの三十名を使用した龍崎刃包囲網が完成したが、やはりと言うか彼は彼女の予想通りこの試験の仕組みを考慮。こちらの出方を判断するや何かしたらしい。遠隔からの監視なので藤原でも得られる情報には限りがある。
一応警告用でもあるバッジが保険でもあったが、まさかその防犯装置を掻い潜ってくるとは……。
「一体どんな魔法を──っ!」
動員したチームがあっという間に全滅していたが、それだけじゃない。魔法陣の術式を通して、そこへ意識を向けていた彼女もいつの間にか───
【ふ、ふ、ふ、ふ】
術に掛かっていた。ずっと離れている筈なのに、女の子が脳裏に響いて……。
【じゃましないでー、いい子でー、お・ね・む・りー】
一気に彼女は深い眠りへ落ちそうになったが───唇を噛みまだ動く手の爪で膝を突き刺す。
魔力も通し痛みを与えて無理矢理、自身の意識を覚醒させた。
「っーー!」
「ふ、藤原?」
さらに流れて来た魔力を自分の魔力で押し返す。同時に魔法陣と繋げていたパスも切って遠隔魔法を完全に解除した。
「かっはー! ……はー、はー!」
周囲から慌てて心配の声が掛かるが、彼女はそれどころじゃない。
まず荒れた息を整える。次に魔力の乱れを元に戻して硬直していた体を落ち着かせる。座り込んだのでいよいよ周りが深刻そうに見てくるが、藤原は汗を流しながらも笑顔で振り向いた。
「作戦は失敗したので約束通り私に従ってもらいますよ、皆さん?」
次第に冷たくなる汗が加熱した彼女の頭を急速に冷まさせる。やや濡れたような瞳で龍崎に仕掛けようと強く押した大武を含めた一部の生徒を見つめた。
「よろしいですね? 大武君?」
「……ッ」
見つめられた生徒は蛇に睨まれたように固まる。頷く以外返答は許されない雰囲気で、代表で大武がゆっくりと頷いた。
「っ……! ここまでが限界か……!」
『約五分の同調融合。まぁこんなところが今の限界じゃないかなー?』
倒れた連中から離れたところで、使用していた融合スキルが解除される。
解かれると纏ってた黒のマントが消える。骸骨マスクも消えると闇の霧が集まってルゥの姿になった。
『マスターの感知力とルゥの幻夢の力。相性が良いかどうか正直微妙だけど。その段階で五分も戦えるならあのドラゴンの子と融合してもいけるんじゃなーい?』
「その反動も大きいけどな。同調は“一体化”の技法を俺流でアレンジした融合スキル。完全に肉体まで変えれてる訳じゃないから中途半端な融合だが……」
それでも使って慣れておく必要があったので、この試験はちょうど良かった。
ルゥの登場はもうちょっと後の予定であったが、本命のアステルを呼ぶ前準備として良かったのかもしれない。
今回は封印されていた五つ目の正体『召喚』の話でした。別に全部しっかり明らかにしている訳じゃありませんが、少しずつ紹介しているので五つ目となります。
ちなみに契約しているのは、ダンジョンに潜っていた際に彼がスカウトした多種族の種族たちです。魔物ではありません(多分)。