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神と魔王の弟子は魔法使い 〜神喰いの継承者〜  作者: ルド
第3章 弟子の魔法使いは優等生達を欺き凌駕する(何気なく)。
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第28話 真に欺いた者とは 龍崎編(弟子の暗躍は犯罪臭い)。

「容赦ないな。やっぱり噂通りか」


 鬼苑が二人を懲らしめている光景を、離れた校舎の一室から眺めていた。

 七階建ての校舎、その五階の教室を借りている。

 結構な距離があるが、見張りに気付かれないようにするなら、あり得ない位置から覗く必要があった。……ここからでも悲鳴が聞こえて来そうだ。


「結局こうなったか。これじゃ藤原に釘を刺すのは厳しいな」


 ほぼ無駄になった気しかしないが、すっかり鬼苑が場を支配しているみたいだ。

 本来俺からしたらどうでもいい光景でしかないが。


「あんまり喋られても、潰されても困るんだよ」


 懐のホルスターに付けてある銀銃を分解。

 狙撃用のライフル銃に変化させて、銃口の先を少しだけ開けた窓から出した。

 スコープ越しで鬼苑を覗く。……ふと藤原の方に向けそうになるが、魔力感覚がズバ抜けている奴の察知能力は侮れない。


「お前は一旦放置だ」


 そして的を鬼苑───の持っているデジカメに合わせる。

 躊躇いなく、引き金を軽く引いた。





 ───時は妹の緋奈が訪れた夜まで遡る。

 彼女が帰宅してしばらくすると、満足顔の爺ちゃんとマドカが帰宅する。

 意外と漫画喫茶を満喫していたか、真顔な彼女のほくほくと嬉しげに見えたが……。


「……女の匂いがしますね」

「な、何じゃと……!」


 なんかコントが始まっちゃった。

 一瞬でキリッと顔でマドカが呟いて、ジィちゃんがお土産の紙袋を落とす。独特なマークが描かれているが、恐らくアイドルのチームマークだろう。


「落としていいの?」

「よくないっ!」


 慌てて拾う。俺も手伝っていると、何故か伸ばした俺の手をマドカが掴んだ。


「匂います」

「あー、多分緋奈の匂いだな。メールで伝えただろ? 妹の緋奈がさっきまで此処に「悪意」──……は?」


 呟いてギュッとマドカが手を強く握り締める。

 触れるくらい間近にいるのに、何故か俺に聞こえないように声音を操作している。

 心なしか光のない瞳がジッと俺の手を見つめていた。


「匂いが強い。非常に強いです。これだけの悪意はなかなか見ませんね」

「マ、マドカ? どうした?」

「元と言ってもやはり身内だからでしょうか? 死線を見抜く勘がまったく働いてませんね。封印の弊害でしょうか?」

「さっきから何を言って……」

「刃」


 いきなりグイッと引っ張られた。

 彼女の顔の真前まで引き寄せられる。

 近過ぎて息が当たるくらいで、ややこしょばゆく感じていると……。

 

「素晴らしく素質を持った妹さんですね。直接お会いした事はありませんが、もう好きになれそうなくらい私の中で高評価です」

「……よく分からないが、お前が好きになるって言うと、なんか不安の方が勝つから程々にしてくれ」


 彼女が何に気付いたか、この時の俺は全然分からなかった。





 事態が動いたのは、やむなく桜香に接触した次の日の放課後。

 本日の授業も問題なく終わって、日常ループを取り戻そうとしていた。


「ん? 何だ?」


 懐に入れてあるスマホから振動が伝わる。


「?」


 誰だ? 知らないアドレスだ。

 首を傾げながら一応開く。ただのセールや詐欺紛いなのなら即消し気分であったが……。



【藤原、接触注意、取引希望、報酬有り、深夜零時、第十層、連絡待つ───*_&%$^\#%&@】



「……」


 前半は何故か意味深な単語が並べてあるが、一番目が超気になる。


「この文字……」


 だが、後半の文字化けしたような文章は気になるどころではないな。

 いったい何の冗談だ? この文字、こっちに合わせて多少変化しているが、ちゃんと読めるくらい、あの……。


「……帰るか」


 色々と気になるが、此処では人の視線が多過ぎる。

 帰宅してから考えようと、教室を後にしたが、既に事態が進んでいた。


「ちょっとツラを貸せ」

「貸せるわけないだろう。顔の皮でも剥ぐつもりか?」

「ちょっとオレ達に付き合えって言ってんだよ」


 ジョークが通じない金剛たちに絡まれた挙句。


「期間限定デラックス・スペシャルパフェ……」

「なんか不穏な単語が聞こえたんだが……」

「あ、スミマセーン!」

「……無視か」


 アイドルの春野にまで捕まってしまった。

 奢らされた上、面倒な裏話に付き合わされることになった。

 本当に同じ学校で起きている事かと、実は嘘でしたパターンを期待したが。


「鬼苑くんを退学させたいんだ」

「春野の最終目標は一番邪魔な白坂を退学させること」


 残念ながらそれは悲しい幻想であったが、同時にメールの信憑性が上がった。


【予定通り動いた。そちらも準備しておけ】


 白状するとこの時点では、まだ気持ちは半々だった。

 霧島とかいう女子から藤原の名が上がった際は、出来過ぎてないかと疑ったが、一応動きあったことを連絡した。

 正直返事だけでばくれようか考えたが、帰宅したマドカに見透かされ、仕方なく俺も行動を起こすことにした。


「さて、どうしようか。ただ排除を目指すか、それとも牽制で留めるか」


 スマホでメッセージを打つ。


【今日は疲れたから無理。明日の同じ時間ならどうだ? ───***?】


 宛先はあのアドレス、まさかなぁーと思いながら名前を書いて送ると……。


【同意、ただし条件追加、補給装備、食材要求】


「……やはりそう返すか」


 だとすると、相手はアイツか。

 何故奴がと疑問に思いながら、さっさと寝たいので了解と返した。







「こんなものか」

「本当にお一人で向かうんですか?」


 そして、次の日の零時前。

 食材を含めた補給品を入れた大きめのリュックを背負って、学校へ続く坂の辺りでマドカの車から降りる。服装は目立たないように黒のジャージ姿だ。

 いつの間に免許を取っていたか、外国車の左ハンドルだが慣れた感じでここまで乗せてくれた。


「ああ、一時間で戻る」

「はい、カメラの方はバッチリです。入り口も防犯魔法はお任せします。では、しばらくドライブでも楽しいましょうか」


 ドアを閉めると、マドカが車を走らせて去っていたのを見届けた。


「さて、中に入るか」


 ジャージの内側から銃を抜いた。サイレンサー付きの。

 まだ坂で距離があるが、正門の出入り口の方へ銃口を向ける。深夜なので灯りは少ない。


「二人か……問題ないな」


 バスッバスッと空気が破裂するような音が漏れる。

 火花も少しだけ漏れたが、少量なので目立つことはなかった。

 薄暗い先で何かが倒れた音がした。


「スパイ映画……バイト募集あったら応募しようかな」


 冗談は置いて、正門へ到着した俺は入り口の大きな門を開ける。

 見た目はただの門だが、高度な結界や防犯が施された厄介な仕組みになっている。

 周囲の柵も含めて、よじ登ろうと触れた時点でバレる。

 それ以前に周辺のカメラに見つかったらアウトだが、そこは潜入メイド兼教師のマドカ先生が操作してくれたので大丈夫。電子系統にも利用出来る雷の精霊魔法。


「お邪魔しまーす」


 そして、専用の開錠の鍵があれば、入り口の巨大な門も問題なく通れる。

 倒れている警備の人から拝借した物だ。

 本来であれば奪い取っただけで、開錠として使えないが、鍵に触れて術式を少し弄る。───原初魔法(オリジナル)を発動した。


魔法原書の改竄術(クラッキング)

冒険家の秘密道具アドベンチャー・シリーズ』の一つだ。

 師匠のような魔法式が見える魔眼を持ってないが、この世界の魔法術式なら暗記している。

 鍵穴に挿して鍵を回すと、警報が解除されて入り口の結界も解除された。


「……受け取ったとき師匠から『オリジナル魔法』には使えないから問題ないって言われたけど、これ……こっちの世界ならやりたい放題じゃん」


 幼少期からの猛勉強がこんなところで役立ってしまうとは……。親父が聞いたら号泣しそうだよ。悲しくて。

 少しだけ開けて中に入ると、防犯センサーやカメラも沢山あるが、マドカが味方に付いている状況では驚異にすらならない。


「この辺りなら大丈夫だな」


 ダンジョンの入り口も夜勤の警備員がいたが、記録を残す訳にはいかない。

 入り口に入らず、迂回して外の外壁に背を向けて座る。瞑想するように静かに目を閉じて、あの魔法を発動させた。





 そして時刻は日付も変わった深夜の零時過ぎ。

 取り引き場所である第十層に到着した俺は、林ばかりの周囲を見渡す。

 階層の入り口から俺を見張っていたか、複数の気配がこちらを取り囲んで、その中の一つが接近して来た。


「潜ってる情報はなかったから、半信半疑だったが、わざわざご苦労だったな龍崎」

「お前が鬼苑……」


 現れたのは灰色の髪をした目付きの悪い不良。

 ガタイは金剛の方が上に見えるが、結構な長身。

 目付き悪いから分かりづらいが、割とイケメンだと思った。……あと、頭がフランスパンじゃなかった(ショック)。


「……かぁ」

「なんでガッカリした反応してんだ?」

「リアルフランスパンが見たかった」

「ハ?」


 何言ってんだコイツみたいな目で見られる。

 確かに見られても仕方ないと思うが、こちらも動揺を隠すのに必死なんだ。勿論フランスパンじゃない。それはすぐ意識から消えてしまった。


「何でもない。少なからず驚いてた。同じ学年にマジ者の化け物が紛れてるなんて……」

「ほぅ、気付いてるのか?」


 俺の視線が彼を見てないから彼も気付いた。少しだけ呆れた目に好奇心が混じった。

 そして明確に戦闘態勢が露になってくる。 さっきまで見えるか見えないかだったが、構えていない鬼苑から殺気が漏れ出した。


「こんな場所に誘って来たんだから、それなりの戦力は予想してたけど……」


 いったい何の冗談だ? 囲っている気配の中で異常な存在が二つも混じってる。

 デカ過ぎる魔力と抑え切れてない覇気。剣豪をイメージさせる鬼苑のバックに控えている。


「話し合いの必要なんてないだろう。決闘で攻めたら白坂のグループに勝ち目はない」

「そうでもない。アイツらは弱い者イジメって奴が嫌いでな。言うこと聞くのはダンジョン時くらいだ」

「あの双子の外国人か? 何者なんだ」


 何だか感じたことのある魔力な気もするが、外人の知り合いなんて異世界の人たちしか想像できなかった。

 流石にあり得ないのですぐ思考から省いたが、その人たちに近い超人が控えている状況。


「こんな状況で取り引きとは面白い冗談だ。それとも作戦全部スッ飛ばして俺を潰すつもりか?」


 ……最悪の場合、こちらも相応の覚悟を決めないとならない。……そうなったら大騒ぎになるのは避けられない。


「安心しろ。待機しているのは万が一の為だ。情報が漏れて見張られても困るんだ」

「念の入れようだ。けど、本当にただ取り引きだけが目的か? 俺にはそれ以外もあるようにしか見えないが」

 ところが鬼苑は見当違いだと真っ向から否定する。

 ならば何故、それほど戦闘の意思を見せる? 攻撃的な殺気は何よりの証拠だと警戒している俺へ鬼苑は手ぶらで近づく。

 ……背負っていたリュックを下ろした。


「勿論、お前と交渉が目的だ。……ただ、その為にやっておく事がある」

「それは……なんだ?」


 隠す気がないのか? 不敵な笑みを見せて……。


これだ(・・・)


 躊躇いのない鋭い拳が飛んで来る。

 予想通りだったから問題なく捌いたが、続け様に蹴りや手刀が叩き込まれて、俺は防御と回避に徹する。他の奴らからは動く気配がない。


「そんなもんか? もっと見せろよっ!」

「っ、何がしたいんだ!」


 奴の戦い慣れた動きとしつこさに、次第に戦闘が加熱する。


「いい加減に、しろ!」

「──ッ!」


 最後の蹴りの連撃を、イラっときた俺が拳を打ち返す。

 加減したが衝撃で空中で回転した鬼苑だが、器用にバランスを取って着地する。

 まだやるのかと、俺も拳を構えて受けて立とうとしたが……。



「オレと手を組め」

「……は?」

 


 突如始まった喧嘩は、奴の思わぬ発言で終わった。


 終わりませんでした(汗)。

 この龍崎編はネタバラシ回だったので、この1話で纏めようとしたのですが、思ったより詰め込み過ぎました。

 次で決めたいと思います。

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