表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神と魔王の弟子は魔法使い 〜神喰いの継承者〜  作者: ルド
第3章 弟子の魔法使いは優等生達を欺き凌駕する(何気なく)。
26/103

第23話 優等生たちの悪意は彼にとって……(弟子は茶番をやめた)。

 前日、土曜に学園で鬼苑のグループと話があると、桜香から連絡があった。

 これで小競り合いが収まればと桜香は期待の声色で言ってたが、それは叶わない願いだと俺は心の中でのみ告げた。


 もし口にすれば色々と説明をしないといけない上、全てを知った桜香が予想外の行動に起こしてしまう。つい感情に任せてしまう癖が治ってないんだ。追い詰められていると知ったら何を仕出かすか予想が付かない。


 そうなれば折角立てた作戦が台無しになって、最悪気付かれてまた機会を与えてしまいかねない。

 緋奈の願いだから協力したが、必要以上に他所のクラスの問題に巻き込まれるつもりはない。次の試験までは渋々付き合うつもりだが、以降の事も考えて余計な問題は増やさないようにしたい。



 俺が相手しないといけない敵は別にいる。

 それだけは忘れてはならない。 





 意外にも入り口の職員から止められることはなかった。

 まだ五層までしか突破してないが、臨時の春野のチームとしての書類を提出すると、すんなり通してくれた。


「事前に言ってあったからねぇ。その分通し易かったよ」

「わざわざご苦労なことだな」


 そこまでお膳立てしていたとは。

 作戦が本当ならマジで怖い女だな。


「じゃあ、まず十五層まで降りるようか」


 準備を整えて、俺たちは第一層の入り口付近の階段。

 その隣にある床が魔法陣のスペースへ入る。


「行くよ」


 ダンジョン専用の転移魔法陣。

 彼女は持っているダンジョンカードに意識を向けて起動。

 光に包まれた俺と春野は、一気に転移して第十五層へ降り立つ。


「次はこれね」


 カードをしまうと、さらにもう一枚カードを取り出す。

 まだ魔法陣の上に立っているので、そのまま転移魔法陣を起動させる。

 そこからさらに十層降りて、第二十五層へ辿り着いた。


「第二十五層、迷宮ステージか」

「情報だと迷宮の難易度はそこまで高くない。トラップも少なくて待ち伏せさえ注意すれば難しくないらしい」


 そこは四方がレンガで出来たフロアと通路である。

 天井に明かりがあるので暗くはないが、通路の方は幅が狭そうだ。


「それで隠し部屋はどの辺だ?」

「待って……こっちの方だね。急ごうか、もしかしたらもう回収を始めてるかも」


 スマホを確認して早歩きする春野。電波は届いてないが、どうやら地図が載せているようだ。

 俺は黙って後ろをついて行った。




 しばらく歩くと違和感に気付いた。

 土曜だから人気がまったくないのは分かる。

 だが、通路を進むにつれて微かな痕跡が目立つようになる。


 つい最近通ったと思われる探検者の足跡だ。


「近いな」

「うん、次の角を右に曲がって真っ直ぐ行った少し先の壁が──って龍崎くん……!?」


 説明を聞いた俺は先へ駆ける。足音を殺して春野の静止を無視して、まずを曲がり角まで接近。待ち伏せがないと判断して一気に曲がると、少し先のレンガの壁が崩れて開いている。言われていた隠し部屋の入り口か。

 その奥から人の声が微かに聞こえたので、上着のポケットに手を入れた。


「彼処か……」

「ちょっと急に走らないでよぉ……!」


 追い付いた春野が小声で抗議するが、俺が目配せすると視線の先を見て頷いた。


「近付くぞ。用意しろ」

「うん」


 スッと懐からデジカメを出す。緊張した様子で先の方へ歩く。

 それを見て俺も続くように歩く。……気付かれないように、赤い弾を転がすように捨てた。


 入り口の壁の影に隠れながら、春野と一緒にゆっくりと中を覗く。

 すると見覚えのある学生がチラホラ見えた。


「確か金剛だったか?」

「うん、鬼苑くんの側近だね」


 他にも霧島も来て、金剛の部下らしい四人がいる。

 特に警戒してないのか、全員が隠しフロアの奥、台座に置かれた抱えれそうな大きさの宝箱に注目している。……金剛と霧島の耳にイアホンがあるのを視認した。


「魔物の姿がないな。倒したのならしばらくは死骸が残る筈だが」

「多分鬼苑くんが事前に倒してたんだと思う。入り口は土魔法の壁で誤魔化したのかも」


 なるほど、帰ったのが前日なら、それまでこの辺りで張り付いていればいい。違和感はあるが、誰も近寄ろうとしない。それが不良グループなら尚更か。


「この位置から撮れるか?」

「多分いける」


 言うと春野も用意する。金剛たちも箱を開けようと手を伸ばす。

 そして構えようと───。


「ごめんねぇ?」


 ドンと背中を押し出された。

 前のめりになった俺は、そのまま隠し部屋へ放り出されるように入ってしまった。


「よぉ? また会ったな。こんなところで何してんだ?」

「金剛……」


 待ちかねたように、笑みを浮かべた金剛が拳を鳴らして見下ろしている。間近で見るとやっぱりデカいなー。

 霧島があっちゃーって顔に手を当ててる。何してんのって言われなくても分かったわ。


「覚えてたのか。悪いがオレは覚えてないぞ?」

「どっちでもいい。ところでこれはどういうことだ?」


 別にどういうことでもないが、何も知らないフリを続行。

 振り返って俺を押し出したであろう春野を見る。


「ん? どういうって、なにかなぁ?」 


 小馬鹿にするような声音と笑み。動画機能もあるのか、カメラをずっと俺の方を向けている。

 アイドルというより悪女だよなぁ、って思わせる顔を浮かべる春野に、俺は溜息を吐いて立ち上がる。


「嵌められたのは俺か?」

「えー? 嵌めたって何が? 私はただ金剛くんたちと此処で待ち合わせしてただけだよ?」


 何がじゃないよ。心の中で文句を吐いていると、ニコニコしながら春野は金剛たちの方へ移動した。もう芝居はいいらしい。


「そしたら私たちが見つけた隠し部屋を覗いている男子がいるじゃない? 宝の横取りでも企んでるかもって背中から押したの。ごめんねぇ?」


 いや、横取り企んでるのそっちじゃん。霧島が苛立った目付きで後ろから春野を睨んでる。で、すぐ俺の方へ視線を戻す。本当にどうすんだ!って目が言ってる。

 

「ふーん? で? こうして押した後、俺をどうする?」


 うん、どうしようか。

 正直いつ暴れてもこっちは良いけど。


「見たところ、ここはダンジョンでも珍しい隠しフロアのようだ。魔物は居ないのか? で、台座には見るからにお宝が隠されてそうな箱が一つ。欲しいならさっさと持って行けばいいじゃないか?」

「アハハハハ! 意地が悪いなぁー。普通に持ってたら回収されるの分かってるのに、なんの準備せず持って行くわけないじゃん」


 まったく隠す気がないのか、春野はベラベラと話す。すんげー楽しそう。ストレス溜まってたのかな?


 そうしている間に、金剛の部下の男子二人が入り口を塞ぐ。もう一人は春野をガードするように横に立つ。霧島は傍観姿勢か興味なさそうに宝の側から離れない。


「ヤバそうな物があるって話は本当なのか」

「だ・か・ら、ここの秘密を知ってる龍崎くんをこのまま帰すわけにはいかないってこと」


 ハートマークが付きそうな甘ったるい声音で告げる。言ってることは、もうアイドル関係ないや。


「そういうことだ。ま、悪く思うなよ?」


 金剛が目配せすると入り口を塞いでいる男の一人が背後から近づいて来て……。


「大人しくしていれば、骨の二〜三本で済ませてやるよ」


 いや、それ全然済ませてないよな?

 男は得意気に言うとガシッと肩を掴んで来る。……どうでもいいが、不良はいちいち人の肩を掴む習性でもあるのか?


「……? あ?」


 最初に違和感に気付いたのは、肩を掴んでいる男だった。

 握力と圧力で俺を倒れさせようとしてるのか? 全然反応しない俺を見て、違和感が徐々に大きくなる。


「……」

「……え?」

「何? どうしたの?」


 伝染するように違和感は広がり始める。特に金剛、春野、霧島は徐々に違和感が異常へ切り替わっている。金剛なんて険しい顔で、男へ声を掛けようとしたが。


「なんだ? 肩で握手なんかして。何処の部族の習わしだ?」

「な! て、てめぇ、この……!」


 顔だけ振り返って男に余裕の笑みを見せる。

 それだけで男は違和感を異常と認識する。僅かに躊躇いつつも、空いている手を拳にして、俺の顔めがけて殴りかかって……。


「ど、どうして……!」

「?」

「な、なんで、なんで平気なんだよ!?」


 あれ? 最初だし、避けずに殴られてあげたんだけど、お気に召さなかったかな?

 チラッと他の奴らも見てみると全員が固まっている。強化されてもないただの拳だし、受けたからってそんなに驚くことないと思うが……。


 それよりも……。


「手」

「は、は?」

「退けてくれるか? 邪魔なんだけど?」


 指で右側の頭部を殴り付けたままの拳を指す。

 そして肩を掴んだままの手も指すが、男は呆然としている。……聞こえてないのか?


「邪魔って……言ったよな(・・・・・)?」

「──ヒッ!?」


 お、やっと退いてくれた。ちょっと殺気が強過ぎたかな? 随分と怯えた様子で慌てて離れたけど。


「ふ、お前らのやり口はよく分かった」


 一息吐いて、とりあえず肩を軽く回す。

 ここの主犯である金剛と春野を一瞥する。


「なら、仕方ないよな?」


 腕を軽く、手首を軽く回す。

 結構無防備に見えるけど誰もかかって来ない。不思議だねぇ、倒す気が少しでもあるなら、一斉に襲い掛かればいいのに。


「脅されて、殴られて、襲われてる以上」


 あの人たち……『鬼神(・・)の魔王』ならきっと容赦なく、俺を地獄へと追いやろうとした筈だ。

 所詮は学生レベル……いや、この世界の常識の範囲だった。


 茶番だ。何もかもが。



「りゅ、龍崎くん……?」

「反撃しても構わないよな? 春野?」

「っ……!」



 最後にコキと首を軽く鳴らした。

 これで軽い準備(ストレッチ)は終わった。


「遠慮するな。全員で掛かって来な? ───ゆとり世代の優等生ども(・・・・・)


 さぁ、欠陥品の恐ろしさ。

 その身にたっぷり教えてやるよ。

 やっと来ましたよここまで!

 水戸○門様、気分で言いましょうか!


 さぁ刃さん、懲らしめてやりなさい!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ