第21話 長過ぎる寄り道はブラック会話で終わる(弟子は入った高校を後悔する)。
なかなか会話が終わらない(泣)。
ダンジョンに潜る予告しましたけど、まだ無理でした。
バトル展開が好いしいよぉ(中毒気味)
プルプル───ガチャッ。
『どうだった?』
「早いね。もしかしてずっと待ってた?」
『生憎と演技派じゃないんだ。相手を威圧するのは慣れてるが、アレで良かったのか春野さん』
「うん、ナイス演技だったよ。金剛くん」
刃と分かられて帰宅途中。一応報告の為に連絡を入れた金剛との会話。
尾行しないように伝えたので心配だったか、電話を掛けるとすぐに声が返ってきた。
「ちゃんと誘い込んだから。鬼苑くんにもそう伝えておいて」
『正直オレはまだ疑ってる。あんなモブみたいな男が白坂の幼馴染とか』
「情報筋はあの藤原さんだから間違いないよ。それよりも鬼苑くんの方は大丈夫なの? 取り引きは話し合いの日の夕方でしょう?」
『ん、ああ、ついさっき二十四層の安全地帯から連絡があった。目処が立ったそうだ』
「ホント化け物だねぇ。中層前だけどBランクの魔物も混じってるんじゃない?」
『想像以上にあの双子が使えるらしい。電話越しでも鬼苑さんが呆れてるのが目に浮かんだ』
やっぱり化け物はあの双子かと、春野も頬を引きつらせて軽く引いた。今回の唯一の不安分子なので、彼女も気にしている。
金剛はまだ疑っているようだが、情報元が藤原だと再度認識させる。その上で取り引きの話を振って進めさせる。
他の男子のように完全に操れてはいないが、少しくらいの思考の誘導は可能だ。……それでも金剛の忠誠は鬼苑一択であるが。
「あの双子には伝えてないんだっけ? 今回の作戦」
『絶対反対するから伝えるなって鬼苑さんが禁止してる。あんまり狡い手は好きじゃないからな。戦うのは大好きなようだから、今回はホント助かってるけど』
「邪魔にならないならいいけどねぇ。あの子たちとの約束破っちゃうかもだけどいいのかな?」
『……攻略に手を貸す代わり、普通科の龍崎刃には絶対手を出さないこと。彼だけは自分たちの獲物だから……か』
そう、唯一の不安であるAランクの双子の条件。
一番初めに鬼苑が彼女らをスカウトした時に出された奇妙な条件だ。
『特に問題もなく、大したことないと最初はただ安堵したが……』
ハッキリ言って双子は天才を超えた鬼才。
階級は教えられてないが、一年のAランクの中でも突出した戦闘力を持っており、それは鬼苑すら凌駕しているように見える。
実際に戦っていないので判断は付かないが、悪童の鬼苑は潰すのではなく彼女らをグループに加えることにする。経験がそうさせたのか、正面から挑もうとは初めから考えていなかったようだった。
「鬼苑くんにしては随分慎重だったのにねぇ。怒らせずに戦力確保したって喜んでたのに」
幸い白坂のグループどころか何処のグループにも興味がなかったようで、さっきほど言った条件と成績の保証で呑んでくれたが……。
あの内容は前々から疑問に思っていた。鬼苑も探ったこともあったが、分かったのは
ただの根暗っぽい男子だったってことだけ。引っかかったのは家が七大魔法家系でありながら普通科だったことだ。
『春野さん、これは偶然だと思うか? そいつが監視中の白坂に突然接触したと思ったら、初めはただの物の取り引きだったのが、あんな奴を嵌めることも条件にされた。……なんだか出来過ぎてる気がしてならない』
「事情は分からないけど、取り引き条件を反故にするなら覚悟した方がいいよ? じゃないと藤原さんも応じないって言ってるし」
──ここが嘘だ。追加の条件など存在しない。
藤原との取り引き。それは手に入れた魔道具の貸し与えること。真の所持者はあくまで鬼苑。
さらに次回の試験の時に、鬼苑は戦力の提供も約束している。……それだけの好条件、藤原の方にもより大きな提供があると考えられるが、具体的な内容は鬼苑のみしか知らない。
問題なのは春野が嘘を付いて、刃を罠に嵌める為に金剛たちを動かしていることだ。
彼らが刃に絡んでいる際、タイミングよく割り込めれたのも初めから打ち合わせしていたからであるが、結果として手出し無用と言った双子たちとの約束を破りかねない、ギリギリのところまで来てしまっていた。
『し、しかしなあ……アイツらを敵に回すと今度はこっちが危うくなりそうでヤバいんだが』
「別に白坂みたいに退学に追い詰めるわけじゃないんだから、多少双子の機嫌が悪くなっても知らないで通せば大丈夫じゃないかなぁ? もし彼を操れるようになったら、それで双子も素直になるかもしれないよ?」
今更止めると言ってもそうはいかない。
仮に刃を縛ったとして、双子を言いなりに出来るとは春野も思っていないが、決してゼロではないのも事実。二人の感じからして限りなくゼロだと思われるが口にしない。
『はぁ、だったらいいけど。追加条件もそれに今回の接触も鬼苑さんには伝えてない。勝手な行動ばっかしたから、バレたら殺されるかもな』
「あれ、伝えてないの? てっきりもう報告したと思ったけど」
少しどころか結構意外。そんなリアクションをする春野に対し、金剛も色々と考えた末なのか、重々しく肯定して話した。
『今も迷ってるが、あの人の苦労を増やしたくない。それに条件自体はいつものオレたちがやってるのと同じだ。あの双子の反応だけが不安だが、お前の言う通りバレなければなんとかなるかもしれん』
バレたら一巻の終わりだけどな。と苦笑い混じりに言うが、それは冗談に聞こえるほど彼女も楽観的な思考はしていない。
「そうだね。バレたら本当にただじゃ済まなさそう」
決して他人事ではない。
話しながらちょうど送った相手から返信が届いた。
金剛や刃と交換しているのとは違う。プライベート用のスマホから。
【わかりました。では、手筈通りにお願いしますね? ──藤原──】
電話も終えて了解と返信する。
日もすっかり暮れて誰もいない夜の道で、彼女は……。
「ホント、男って単純なんだから……」
疲れたような溜息を吐いて、昼間と違い少しだけ寒くなった夜道を静かに歩いた。
「じゃ、パッパと話そうか」
買ったジュースを軽く口にして喉が潤んだか、霧島はボトルを片手に説明を再開した。
「まずさっきの会話で合ってるところだけ伝える。アタシや春野のことを話す前に、そこを正確にしないとマズイでしょう?」
「ああ、そうだな」
否定は出来ない。春野が嘘の情報を混ぜている可能性が出た以上、もう彼女の情報は当てにならない。
……もしかしたら話の大半が嘘で、魔道具自体がデマかと一瞬だけ期待してしまったが、そこは残念ながら本当なのだと、霧島の接触と行動を見て思い知らされる。
嘘なら面倒だと絶対絡んでくる筈がない。
「鬼苑が白坂を排除したがってるのは多分本当」
「最初から多分かよ」
「正直アイツの思考はアタシでも分かんない領域だからね。白坂の反応見て楽しんでる節もあるから、積極的に潰したがってるわけじゃないと思う。おんなじ中学だったけど、結局イカれた奴って認識が解ける機会は来なかったし」
春野が言った同じ中学出身の三人のうち、一人は霧島だったのか。金剛を含めてこれで二人が判明したな。……あとイカれてるのか。
「隠しエリアにある魔道具を欲しがってる件も本当。けど元々の情報筋はアタシも知らない。気付いたら専用の地図を持ってて、トントン拍子にダンジョン攻略と白坂への嫌がらせも増した。必要のない話し合いの場を用意し易くする為って言ってたけど、他にも狙いがあるかも」
「本命を隠すためにあえて派手な撹乱を行う。手品師みたいだな」
もしくは手癖の悪い詐欺師か。
未だ顔をお目にかかったことがないが、いよいよフランスパンが似合わなくなってきたな。
「まだ本人は何人か仲間を連れて潜ったまんまだけど、回収予定は話し合いを行う土曜日。無駄に長引かせてその間に金剛たちに回収させるみたい。アタシも付き合うことになってる」
「お前もか」
一見すると春野が話した内容とほぼ合っていると思われるが……。
「アンタが気になるのは、春野の方でしょう? ここでアタシたち側の答えとして言うけど、アイツもこっち側の人間。ていうかスパイで鬼苑と密かに組んでる」
それだけで一気に状況が変わるぞ、オイ。
「今回の回収作戦には追加があんの。白坂の幼馴染のアンタを誘き寄せるってのが」
「……知ってたのか? いや、藤原か? 誘き寄せるってどういうことだ?」
ブラフじゃないのは表情から思ったが、藤原の話が出て来てまさかとも考える。
「その言い方からして本当に幼馴染だったんだ。すっごい意外。あと藤原のことも」
「ほぼ縁なんて切られてるけどな。有り得るとしたら藤原だと絞っただけだ」
「アンタの言う通り、情報源は藤原よ。しかも追加条件でアンタをボコせって言ってきたのもね。お陰で今グループ内がややこしくなってんの。たくっ」
ジュースを今度は一気に飲む。空にはなっていないが、もう半分以上が無くなってる。
「待て待て追加条件だと?」
「取り引きよ。こっちは最初から藤原と裏で手を組んでんの。鬼苑が何を求めたか知らないけど、今回の魔道具も貸し与えることになってる。けどアンタが白坂と接触した直後、向こう側からいきなりアンタと潰すことも追加条件にされた。しかも、この条件を呑まないと取り引き自体を中止にするって、一方的に言われてこっちは頭に来てるのに、春野が金剛たちを利用して単独でアンタに接触した」
話し過ぎてまた喉が枯れたか、残りも全部飲み干す。
もう一本にも手を伸ばしかけたが、これ以上飲むとトイレが近くなると思ったか、渋々開けるのを止めた。
「多分アンタの件は鬼苑の耳には入ってない。一応金剛が提示報告してるみたいだけど、あの双子を気に入ってる鬼苑がそんな条件を呑むか正直怪しいから」
「双子?」
「そっちは関係ないから、アンタは知らなくていい」
いや、結構関係ありそうな言い方だった気がするが……。
誰のことだ? と思ったが、脳裏で入学式で見た金髪女子の二人を思い出す。
もしかして春野が口にした鬼苑と白坂以外のAランクとはその二人のことか。
そして鬼苑グループに入っているかと、想像していると不意に春野が話した肝心の作戦を思い返す。
「待てよ。じゃあ、その後の潜入するとか写真で証拠を押さえるとかっていう話は……」
「ない。隠しエリアの場所まで案内したら、囲ってアンタをまず潰す。……その後は言わなくてもいい?」
「いい。想像しなくても分かる」
はい、見事に罠に嵌っちゃった俺が見えましたよ。
始めはこっちも嘘かもと疑ったが、霧島の言い方に嘘を感じられない。嘘を付けれるようなタイプにも見えない。
胡散臭い笑顔を浮かべていた春野よりも、まだ信用ができた。
「けど春野はアタシたち──正確には鬼苑も嵌める予定。追加の条件も気を逸らすのと白坂を揺さぶる為の嘘。アンタを潰させてる隙に、交渉に必要な魔道具を持ち出して、取り引きを不成立にさせるつもり」
「なんでそんなをリスクを犯す? 鬼苑という男が裏切り者に寛容とは思えない。しかも、重要な取り引きを台無しにするのが目的なんだろう? 殺しは流石に大袈裟だが、半殺しされてもおかしくないぞ?」
リスクに合わない。
バレた時のことを考えても、この取り引きを邪魔する理由が見つからない。
あるとすれば、例の魔道具であるが、持ち出すことすら至難の技。仮に手にしたとしても、鬼苑が見逃すとは到底思えない。
「藤原との取り引きに使うと言ったが、どういうことだ? なんで他所クラスのアイツが関わってる。よりにもよってアイツが……」
「へぇ、名前しか知らないって思ったけど、一応アイツの名の意味は知ってるんだ?」
「寧ろ知らない奴の方が珍しくないか? 藤原グループは魔法企業の中でもトップクラスの会社だ。その娘が始業式で新入生代表で出てたんだ。魔法に少しでも関わってる学生なら顔を見なくても名前で反応する」
まぁそれだけが理由ではない。
家的に別に藤原家と因縁がある訳ではないが、あの娘は特別警戒すべきだと個人的に思っている。
「そりゃそうか。藤原だけど、アイツは春野の雇い主」
そう言ってスマホを取り出して、何かを開くと画面を見せると動画が再生した。
『それで……分かってんでしょうね?』
『ええ、勿論。貴方が裏切らなければ、お約束通りあの学園に戻して上げますよ。裏切らなければね?』
『っ……分かった。あの魔道具は手に入れる。白坂も潰せばいいんでしょ?』
『はい、貴方が言った通りにすれば、彼女は簡単に落ちます』
『どうだかね……その男にそれだけの影響があるって言うの?』
『それは結果次第です。それ以前に貴方に選択肢なんてありませんよ?』
『ひ、人の足元ばかり見て……!』
そこは学校の何処かの教室。二人の女子生徒が密かに話している様子を入り口からこっそり撮っている。盗撮じゃ……。
映ってるのは苛立った様子の春野。睨み付けているが、何処か恐れている。
そして、その原因とはもう一人の……。
「撮れたのは偶然。魔道具は多分アタシたちが狙ってるヤツ。春野は鬼苑が持ち出した取り引きを台無して、魔道具を掠め取る為に藤原が送り込んだスパイ」
「……藤原と繋がってるのは分かった。でも、なんで白坂が関わる? 鬼苑と対立してるなら藤原が手を出す必要なんてないだろ?」
「そんなの知らない。けど、今度の話し合いを利用して、アイツを追い詰めるのは間違いない。話からアンタが関係してるなら、話し合い時のダンジョンじゃないの?」
「……」
問題は動機か。方法は霧島の言った通りだとしても、不可解な点は藤原の動向である。
いくら奥義級でも魔道具欲しさで藤原が動くか? 用心深いアイツが? 怪し過ぎる。
もしや霧島が何か知ってるかと、彼女の名をあえて多く使ってみたが、この女はその辺りは本当に知らないようだ。
「で、どうすんの? こっちは言いたいことは言ったけど、まだアイツに協力するつもり? 個人的に断ってくれた方が都合が良いんだけど? 鬼苑がキレて藤原と戦争とか考えただけでもメンドだし」
「最初に協力者と言ったが、どうして春野のことを知ってる? 当然の話だが、アイツだってちゃんと隠してるんじゃないのか?」
「最初に言ったでしょ? 協力者みたいにされてる被害者って……脅されてんの。不本意だけど」
「……」
苦虫を噛み潰したイヤそうな顔で、彼女は空のボトルを握り潰す。……思わず俺は真っ暗な天を見上げた。
ちょっと脅迫が多過ぎませんかね? 今回の件。
口にはしないが、入る高校を間違えたのではと、かなり深刻に思ってしまった。
「それで? どうするわけ? 断るの? それとも分かった上で受けるの?」
「……」
悩んだが、即答することは出来なかった。一応連絡先だけは交換したが。
「あー、もう七時過ぎる。マドカも帰ってるかも」
結構遅れたから、流石のジィちゃんも怒ってるかもしれない。そんな現実逃避しながら長々と続いた寄り道を振り返って重い溜息を吐くのだった。
会話が多過ぎて処理オーバーしそうでした。
マーベルの新作映画を見て来ましたが、新情報が多過ぎて軽く頭痛しました。映画館行くといつもですが。




