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神と魔王の弟子は魔法使い 〜神喰いの継承者〜  作者: ルド
第3章 弟子の魔法使いは優等生達を欺き凌駕する(何気なく)。
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第20話 アイドルのブラックな作戦ともう一人のブラックな女子(弟子は人間不信に陥りそうです)。

「で、どうやって防ぐ? 退学もだが、まず入手を阻止することが重要だろ?」

「現場を押さえれば大丈夫だよ。証拠は写真で十分。危険な魔道兵器を報告せず手にしたってことで、間違いなく学園から追い払われる」


 そう言ってデジカメを懐から用意する。元々持ってるのか。

 学園のダンジョンで手にした物は、一度全て入り口の職員にチェックされる。入る際も同じだが。

 その時に手に入れたアイテムの魔道具や素材中で危険物が混じっていた場合、ほぼ強制的に回収される。一応その代金は後日支払われる仕組みだが、頑張って手に入れた物でも判定次第では強制回収の的になる。


 そして、鬼苑が狙っているのは奥義級の魔道具。

 情報がガセでなく確かなら百パーセント回収対象となるが、鬼苑はどうにかしてその税関を潜り抜けるつもりらしい。


 そこを春野は狙っている。証拠となる写真さえあれば、奴が黙秘しても専門の魔法使いが調査にしたら間違いなくバレる。事情を話せば学園だってちゃんとした人物を呼ぶ筈だ。


「情報だと魔道具が隠されてる層は第二十五層。いま鬼苑くんは二十三層あたりを攻略中だから、あと一日か二日で目的の階層に届くと思うの」

「入学して数週間だと随分早いな。じゃあ、現場を押さえるなら、すぐに潜らないとダメってことか? 手続きもあるが、二十五層を目指そうとしたら一日二日だと相当厳しいけど大丈夫なのか?」


 いや、厳密には俺だけなら不可能ではない。その気になれば、一日あれば足りる。

 だが、その現場へは同行者として春野も付いて来る。一年の魔法科生徒の平均は知らないが、レベルの低い上層なら一日で五階以上は進めれると思う。


 春野がランクはBと言っていた。階級は不明だが、魔法チームのアイドルをやってるくらいだ。

 桜香たちに近いレベルと計算してもいいが、彼女の前で手の内を晒すのはリスクが高い。どうしたものか……。


「ああ、そこも大丈夫。潜る時は私の臨時パーティーとして、一緒に攻略済みの十五層まで一気に降りるから。残りの十層もちょっとしたショートカットの手段があるし、問題ないと思っていいよ」


 これもダンジョンのシステム。攻略した階層までなら、ダンジョンに設置してある専用の転移魔道具で移動が可能。いわゆる魔法のエレベーターである。

 残りの階層も春野はショートカットと口にした。多分何処かの攻略パーティーを利用して、階層を転移するつもりなんだろう。


 別に禁止されてないし、出来なくはないが、だとすると上級生のパーティーとも春野は面識があるということなる。時期と目的の階層を考えるなら、他の一年パーティーは除外していいが……。


「都合の良い上級生でも籠絡したのか? 二年三年も試験前で忙しいと思うが」

「何を想像してるか考えたくないけど、そこは籠絡って言わないでほしいかなぁ」


 学園の決まりで特別な試験以外では、基本別学年とはパーティーは組めない。

 生徒会や風紀委員会など、学園直轄の役職ところは別であるが、まさかどちらかと繋がりとあると言うのか。


「そうやって憶測するのは自由だけど、話は進めさせてもらうねぇ?」


 余計なことは考えるな。とでも言いたいのかそう切り出す。

 俺も余計な部分にまで深入りしたいと思わない。利害が一致しているところまでで、踏み留まらないと。


「そもそも潜る日は決まってるの。ちょうど今週の土曜、授業は休みだけど朝に潜れば平気」

「随分と具体的だが、何か理由があるのか?」


 今日は真ん中の水曜だ。仮に土曜の朝でも間に合わなかったじゃ困るんだが、何か当たり前のように告げる春野に若干戸惑う。


「これも鬼苑くんの作戦。今はダンジョンに潜ってるけど、目的の階層攻略と隠しエリアの場所が分かり次第、一旦帰って土曜に行われる話し合いに参加するんだよ」


 そうして説明が続くと、どうやら休みの土曜を利用して、桜香のグループと鬼苑のグループとで、今後の話し合いが行われるらしい。具体的にはクラス内での方針について。


 だが、話し合いとは鬼苑が桜香たちを見張る為の口実。

 彼の本当の目的は、見張っている間に隠しエリアの魔道具を手下に回収させること。


「どうして自分で回収しない。その方が確実かつ安心じゃないか?」

「用心深い彼だからだよ。万が一勘付いた時のことを想定して、そこで言い争って止めるつもりみたい。しかも、その話し合いにはクラス担任と一年の担当責任者。それに生徒会の会長と副会長も見張り役として参加する予定なの。鬼苑くんの噂が酷いから、もしかしたら風紀委員会も加わるかも」


 なるほど、話し合いが加熱した時の予防策か。休日なのにご苦労なことだ。

 生徒会も参加となるなら、ヘタなことはお互い出来ないが、同時に見張れるってわけか。

 自分がそれだけ目立っていることを考慮して、逆にそれを利用するように面倒な白坂、生徒会、教員たちを一度に誘き寄せたのか。


「鬼苑って奴が相当なまでに用心深いことは分かった。だったら誰に取りに行かせる? それだけ警戒してるなら身近な奴だって信用してるか怪しいぞ?」

「取りに行くのは金剛くんと手下数名だよ。金剛くんは鬼苑くんが信用してる数少ない人材で、手下の方はただ発見した隠しエリアの調査とだけ、当日告げるみたい。まぁ、この場合、信頼じゃなくて忠誠なのは間違いないけど」


 絶対に逆らわない。裏切らない。

 どうやったか、金剛という男を初めて見た時は、名前の通り鋼のような巨人をイメージしたが。


 そんな奴を躾けるほど、鬼苑は厄介ってことか。


「同じ中学出身っていうのも理由っぽい。他にももう二人同じ中学出身がいて、二人とも鬼苑くんに付いているの」

「なるほど、中学の時点で牙は折っていたか」

「あと厄介なのは税関みたいな出入り口の持ち物検査。あれで魔道具が回収されたらラッキーだけど、既に対策は打ってるみたい」

「そうして無事に手にすれば、たとえ使用した時に訊かれても、ただ購入したか知り合いから貰ったと言って押し通せばいい。ダンジョン以外では制限されるかもしれないが、攻略の為に持ち込んだ物を強制回収する権限は学園側にもない。それで被害者でも出ない限り無理だな」


 そのアイテムと潜り抜ける方法は気になるが、いずれにしても、決行日と潜る際の余裕が出来たことは有難い。

 桜香は置いても、マドカには相談して対策を立てないとな。


「じゃあ、私はこれで。疑われるとマズイから決行日までは極力会わないようにねぇ?」

「分かってる。こっちはこっちで準備しておくから、集まる時間や場所はメールで送ってくれ」


 そう締め括って解散となった。

 本当に寮暮らしなようで、学園の方へ戻って行く春野の後ろ姿を見送った後、俺も帰宅の道へと歩き出す。

 忘れそうだが、会計は当然俺だ。……結構したわ、あのスペシャルジャンボ。


「でも美味そうだったな。今度マドカを誘ってみようか? いや、アイツと外で会ってるが、バレたらそれこそ厄介事に繋がるか」


 と言っても変装すれば問題ないや。

 なんて、知り合いの金髪ロリを思い出しながら、今後の事を考えていると……溜息を溢して止まった。


「いつまで付いてくる気だ? わざわざ人気のない場所を選んで歩いてるんだ。いい加減で出て来たらどうだ?」


 そう、俺が選んでいる道は時間的に人気の少ない通り道。周りは林ばかりのちょっとしたランニングコースだ。

 時刻は夕方過ぎの帰宅時間のど真ん中であるが、殆ど人がいない。朝とか多いみたいだが。

 遠回りになるので渋々だったが、肝心の尾行者が一向に出て来ない。せっかくこちらが気遣っているのに、とイラッとしたので最後通告をすることにした。


「ただタイミングを図ってるだけならさっさと出て来い。もしただ尾行したいだけなら無視して帰る。今後話しかけて来ても無視する。いい加減疲れてるんだ。それでもいいならずっとそうしてろ」

「……分かった」


 背後から呟きが聞こえた。

 すると林の影から一人の女子生徒が出て来る。 結構短い黒のショートヘアに、足が長く全体的にスレンダーな体格。制服色から同じ一年だと分かるが、こいつの鋭い目付きと顔には見覚えがあった。


「確か昨日、屋上に居たな? 白坂を尾行していた」

「気付いてたんだ。それなのに堂々とイチャついて、こっちがどんだけ気持ち悪かったかも知らないで」


 なんかムカっとした不機嫌面で睨み付けられた。なんでだよ。


「別にイチャついてなかったと思うが」

「それ本気で言ってる? 側から見たらただのバカップルの甘ったるい現場にしか見えない。鬼苑の奴の命令がなかったら絶対近付かなかった」


 うそ……マジですか。俺そんなつもり全然なかったのに。

 桜香だって俺の弁当を見て不機嫌にしてただけだし。ていうか、さりげなく鬼苑の関係者なことバラしてる。


「鬼苑の命令ってことは奴のグループメンバーか。何を命令されたか興味はないが、白坂とはただ昼食を一緒び取っただけ。やましいことはなんもなかっただろ?」

「無自覚とか怖っ。まぁ、ただ白坂の機嫌が悪かったみたいにも見えたけど、同じ女からしたらアレもう……いい、言うとまた頭が痛くなる」


 そこまで言ったら最後まで言ってよ。アレって何?


「春野と何か話してたけど、こっちもアンタに話がある」

「あの店の前から付けているのは分かっていた。何か用があるのかと店の外を窺っていたが、一向に出て来なかった。なのにあの女子が居なくなった途端、どうして姿を見せた」

「それも気付いてたんだ。やっぱただ者じゃないじゃん」


 春野の前でも話せないなら後日でもいい。

 なのに彼女は春野が話しかけて来た今日、わざわざ外で待ってまで話をしに来た。


「こっちにも事情があんの。それにあの子の前じゃ絶対話せない内容だから」


 予想通り彼女の前では話せない内容のようだが、言うと視線を近くのベンチへ顔を向けた。……マジかよ。


「どうしても今すぐか?」

「断ってもいいけど、後日聞かれても何も話さないから、それでもいいならどうぞ?」


 さっきの意趣返しか、冷たい微笑でそう告げてくる。

 正直そう言われも帰りたい気持ちの方が大きいが……。


「こっちだってギリギリのなの。話しても話さなくても今後面倒になりそうだし、けどアイツが動いたなら今知っておかないと、アンタ確実に厄介なことになるわよ? 絶対に(・・・)


 そう言い切ってドカッとベンチに腰かける。かなり雑な座り方だったから、短いスカートが舞って中の黒スパッツまで見えたし。


「何処に目入ってんの。このスケベ」

「だったらもう少し気にして座れよ」


 僅かな視線の誘導だが、それでも気付くらい感覚が鋭いようだ。

 さっきの春野とはまるで正反対。こっちこそ慎みがあれば桜香に近いタイプだと分かった。


「で、どうすんの? 聞くの聞かないの?」

「まぁわざわざ待ってもらったし、聞くのは別にいいが……春野みたいに長いなら、また店とかで話した方が良くないか?」


 だとするとまた俺の奢りになりそうで嫌だけど。

 外での密会は色々とハイリスクがある。人気はないとはいえ、絶対にバレない保証がない。あらかじめ場所を用意した方が安心なんだが。


「そんな長々と話す気はない。面倒だし、さっさと話すから」


 俺が座るのも待つつもりがないらしい。せっかちか単に面倒くさがり屋かは判断が付かないが、俺が立ったまま話が始まって……。


「アタシは霧島(きりしま)(かえで)。最初に言うけど馴れ合う気は一切ない。アンタがどうなろうと一ミリも興味ない。その辺のゴミと同じ」


 いきなり心のナイフをグサグサ刺して来た。 

 本当に話をしに来たのか? 溜息混じりに俺も返す。


「だったらなんで尾行と待ち伏せなんかした。鬼苑の指示じゃないなら、面倒だとさっさと帰ればいいだろう」

「っ……そうしたかったけど、このままだともっと面倒になりそうだから……」

「その面倒とはなんだ? さっきの言い方からして春野も関係してるようだが、端的に言うとなんだ?」


 この女……霧島は春野と違って、どうも駆け引きはあんまり得意ではないっぽい。

 言うなら一匹狼。誰かに従うようなタイプではなく、それは会話の中でも濃く出ている。

 さっさとこの会話を終わらせたいと強く思う反面、俺に誘導されるのを嫌っている部分がある。

 面倒と言いながらも、自分のペースに持って行こうとしている。俺がさせないけど。


「なんかムカつく言い方。ついでに助けてあげようかって提案してるのに」

「ムカつかれても困るが、話が見えて来ないんだからしょうがないだろう? 助けると言ったが、具体的には何から? どうやって? 交渉でも求めているなら内容が分からないと一生始まらないぞ」


 素直に言うこと聞くような女ではないが、そんな彼女が何故か鬼苑に従っている。

 見た感じから魔法は不明だが、格闘技にも精通しているようだ。ベンチに座っているが、こちらへの警戒を解いていない。

 スパッツの件もあるが、俺の視線を常に追っているようだ。ランクは知らないが、戦闘センスは相当高いと見えた。


「さっさと終わらせたい。それはお互いの共通認識だと思うが?」

「はぁ……分かった。アタシだっていつまでもここに居たくなし、教えてあげる」


 かなり渋々といった感じだが、霧島は深く息を吐いた。

 

「まず初めに確認だけど、アンタが春野と会ってたのは、鬼苑が計画してるお宝の魔道具が関係してるのよね?」


 ん? はい?


「アンタは春野に頼まれて、それを阻止する役を引き受けさせられた。多分春野のサポートとしてだけど、それで証拠を掴んで学園にバラして、最終的に鬼苑を退学させる的な感じでしょう?」


 ……ちょい、いきなりバレたぞアイドル。

 知らないうちに情報が何処からか漏れているかと、杜撰なアイドルに内心舌打ちしていると……。


「ああ、大丈夫。事前にアイツから聞かされてたから。アタシがアイツの協力者……みたいにされてる被害者よ」

「──は?」

「でも、アンタに聞かせたそれは春野が作ったストーリーでしかない。アイツの本当の目的は別にある」


 さらっととんでもないこと言って、オオカミ女子は話を進める。あ、オオカミでも首輪付きだけど、今はどうでもいいよね! 協力者ってコイツかよ!

 作られたストーリー、目的が別にある。飛び込んできた次々の不穏な言葉、目眩を覚えそうになるが、霧島はお構いなし。色々と吹っ切れたか、ズバズバと話していく。


「アイツにとってアンタは囮以外の何者でもない。アイツが欲しいのは最初から例の魔道具だけ。アンタを利用したのは白坂を潰す為の布石よ。鬼苑なんて初めからどうでもいい」


 そして話は春野から聞かされた内容から百八十度変わる。正直人間不信になりそうで聞きたくない。

 説明する彼女も嫌そうに片目をつぶる。頭痛だろうか、巻き込まれてる感じがヒシヒシと感じる中……。


「そして春野の最終目標は一番邪魔な白坂を退学させる(・・・・・・・・)こと。さらに鬼苑も出し抜いて魔道具で総合科の藤原(ふじわら)と取り引きするつもり。白坂の退学と自分の転校を」

「……そうか、それは拙いな」


 残念ながら帰りはまだ遅くなりそうだ。

 長い一日だと息を吐いたが、藤原の名まで出たことで俺の意識も切り替わる。何故なら───。


「何度も思うが、退学は穏やかな単語じゃないよな。それに転校も気になる。面倒を避けたいなら全部話してほしい。彼女のことを(・・・・・・)


 潰さないといけないかもしれない。

 そう思っていた相手の影を見えたことで、初めてやる気が出たから。


「やっぱり気になったでしょう? 春野のことが」

「ああ、お陰で目が覚めた気分だ。どうやらアイドルのオーラにすっかり騙されていたらしい」


 違う。春野なんて小物はどうでもいい。最後に残っても消えてもどうでもいい存在。

 やがて敵対するかもしれない。藤原(ふじわら)輝夜(かぐや)を潰せる切っ掛けになるなら、喜んで協力しよう。


「すぐそこに自販機がある。せめて何か奢ろうと思うんだが、どうだ?」

「そう。ならお言葉に甘えようかな。何本でもいいわけ?」

「自分が持って帰れるくらいにしてくれ。まさか家まで俺が運ぶわけにはいかないだろう?」

「ふ、そうね」


 軽口を交わして俺たちはすぐ側にある自販機へと向かう。

 春野と同じで、奢りと言われて少しウキウキして歩く霧島の後ろ姿を見ながら、俺は素早くスマホを手にして打ち込んだ。





『予定通り動いた。そちらも準備しておけ』

 どっと疲れました。

 いつもバトル展開が多いので、会話ばかりの時は結構大変です(汗)。

 しかも裏と思ったらまた裏展開で、そろそろキャパオーバーしそうで間違えないか慎重にやってます。なるべく文章に違和感がない感じでいきたいと思いますが(苦笑)。


 次回はいよいよダンジョンに潜る予定です!

 最後に出し抜くのは誰でしょうか! ……テンプレ(ぼそ)

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