第19話 アイドルはブラックでお話はもっとブラック(弟子は安息を諦めた)。
倒したい、勝ちたいと言ったセリフは割とよく聞く。
復讐したい、地獄に落としたいと言った暗いセリフもそうだ。
口にする奴の動機は様々であるが、一般的に多いのはこういうものだと思う。
だが、退学の二字は正直言って全然聞かない。
仮に口にする者がいたとしても、それは学校側だけだと思った。
『鬼苑くんを退学させたいんだ』
───アイドルの本性を見た。
もしこの話にタイトルがあるなら、きっとそうなると思った。
「ハッキリ言って邪魔でしかないんだよねぇ。あの二人」
「邪魔?」
「毎日毎日、教室で言い合ってさぁー。まぁ殆どは白坂さんが多いけど、鬼苑くんはバカにしたように笑ってる」
想像出来そう。性格が本当に水と油くらい合わないんだ。きっと。
鬼苑という男の行いに毎回不満を漏らして注意する桜香。
だが、当の鬼苑は一切気にした風を見せず、アイツの反応を面白可笑しく眺めているのだろう。
「だからリーダー同士、決闘で決着を付けたらいいのに、鬼苑くんは勝負を受けない。何故か本人たち以外のお互いのグループが決闘して、白坂さんのグループメンバーが一方的にやられてる」
「決闘は互いの同意が必要だからな。白坂がやる気満々でも鬼苑って奴がその気がなければ、どれだけ言っても成立しない」
「でも、他の人たちは成立してる。……気にならないかなぁ?」
大凡の見当は付いているが、あえて乗ってみるか?
僅かに俺が身を前に寄せたのを見て、春野は笑みを浮かべながら話を続ける。
「決闘なんて言われてるけど、その実態は公開処刑なんだよ」
「例えでも処刑という単語は穏やかじゃない。その例えは冗談で言ってるわけじゃないと?」
まず間違いなく事実。そう思いつつもこの女が握っている情報にも興味はある。
探るような視線を彼女へ送ると……。
「情報は武器。それが答えだよ」
「まさか、決闘を受けた全員に後ろめたい脅迫ネタがあったのか? 影でこっそり暴力で脅している方が現実味があるが……」
「ネタなんて、いくらでも作れるんだよ? それに暴力の脅しが成立するのは、格下が相手の場合の時で、鬼苑くんを除けばそこまで突出した学生は…………いないこともないけど、今回に限っては違うと断言できるよ」
いないこともないのに、断言できるって、何か確信的なものを見てないと言えない。……見てたのか。
それにいくらでも作れると口にしている。……なんとなく見えてきたな。決闘事件のカラクリが。
「しかし、鬼苑って人を警戒しているなら、不用意に隙を見せるかな?」
「それが面白いことにねぇ? 狙われた人は大半が男子なの。二人くらいグループの女子も決闘を受けたけど、相手はAランクの双子で格が違い過ぎただけ。なのに男子は同レベルなのに一方的に負けている。……変だと思わない?」
「考えたくないが、暴力による脅しじゃないと仮定する。その場合、残された手段は脅迫ネタによる八百長もどき。白坂グループの男子に拒否権なしで、脅迫ネタと引き換えにボコボコにやられている」
いや、多分これしかない。
そして正解なのか、春野の笑みが一瞬で消えて、冷めたような表情で呟いた。
「男って、ホント単純なんだから。強い意志なんて簡単に揺らぐ」
「……」
口を挟まずそんな彼女を観察する。
男に対する嫌悪感を隠さず、蔑むような眼差しで虚空を見つめる。
「心の底からムカつく。だから協力してほしいの」
「元々潰したがっていたわけか。だったら白坂に協力したら良かったんじゃないか?」
その方が手っ取り早い。
わざわざ俺に声をかける必要なんてないが……。
「それは無理。私、白坂さんもあんまり好きじゃないから。組むとか絶対イヤ」
はい、予想的中。
嫌悪感が少しも変化した感じがしない。
つまり鬼苑と同じくらい白坂も嫌いなんだ。もう顔が言ってるよ。
「なるほど、戦力外の普通科の俺を誘ったのは置いて、お前が白坂を頼らないのは理解した」
「戦力外とは思ってないよ? 筆記テストはトップ10なんだから、少なくとも魔法知識は私よりずっと上だと思ってるし」
「いや、知識があっても実戦じゃ……って色々と口を挟みたいところだが、ラチがあかないからそれを踏まえて訊きたい。……俺を誘って何をするつもりだ? どうやって鬼苑を退場させるんだ?」
いい加減遠回しに訊くの飽きた。
この女はとにかくこちらの言葉を封じに来る。ペースを握らせない為か知らないが、いつまでも付き合うつもりはない。
「じゃあ、ズバリ言うけど───一緒にダンジョンに潜って欲しいの」
「……スマン。やっぱり説明に戻ってくんない?」
僕は聞き間違えたのかと、本気で思いました。
何がどうしたら、さっきまでの会話とダンジョンが繋がるというのか。
「そっちが言ってきたのにぃ……」
すみませんね。けど、ぶっ飛んだ発言されたら、まずはブレーキが常識でしょう? 常識考えましょうよ。
「話が飛び過ぎてな。なんでダンジョンに繋がるんだよ」
「仕方ないねぇ。……コホン、数ヶ月くらい前なんだけど、近くの街で魔物災害が起きたの」
おや、話の流れがまた見えなくなったぞ?
「ちょっと、話が……」
「いいから、聞・い・て、くれるかな?」
「はい」
こわっ、笑顔だけど目が笑ってない。
本当に重要な話なのか、また咳払いして若干声を潜めながら話し出した。
……にしても、近くの街か。
「直接的にその災害が関係してるわけじゃないんだよねぇ。魔物自体もその場で討伐されたらしいし。……問題は魔物が最初に暴れた魔法関係の研究施設だってこと」
……研究施設。
「私も詳しくは知らないけど、その施設、実は魔物が暴れる前に誰かの侵入を受けたみたいで、中にいた警備員とか研究者とかが沢山殺されてたんだって」
数ヶ月前に起きた事件で狙われた研究施設。
警備員や研究者が殺されて、その後魔物がその近辺を暴れた事件。
……確証はないけど、もしかしてアレじゃね?
お正月の帰省事件。俺が帰省した直後に起きた魔神が関わってるあの……。
「その時に何点か貴重な素材や魔道具が盗まれてねぇ。その何点かが色んな裏のマーケットで売買されてるって噂を聞いたんだけど、……重要なのはその情報元が鬼苑くんのグループってこと」
「まさか……」
話が繋がり始める。嫌な方向へ。
だが、今さら止められない。
「調べていくうちに何を手に入れたかも分かったの。どういう伝手か分からないけど、彼が手に入れたのは学園のダンジョン地図。隠しエリアに眠ってる『奥義級の魔道具』の在り処を示す地図だよ」
「……」
表情に出さなかったが、内心は激しく動揺していた。
裏のマーケットで売買してるのは、まず間違いなく魔神の奴。
倒したとは思ってないが、追い払ったと思って周囲への警戒を解いてしまっていた。
──不覚だ。奴はまだこの世界で遊んでいるのか。
しかも、そいつがバラ撒いた所為で、学園のダンションで眠ってる破壊兵器の地図まで流出して、それを狙おうと不良グループが動き出してる。
「分かってくれたかな? 私が鬼苑くんを今すぐ退学させたがってる理由」
そして、それを止めようとするアイドル。
カオスな構図が浮かび上がるが、これを放置すると後々絶対に面倒になる。
しかし、それでも確かめたい。
「地図が本物という証拠は? それに鬼苑が手に入れたってどうして分かった? ガセの可能性もあるだろう」
「情報は確かだよ。まだ誰かは言えないけど、鬼苑くんのグループ内に、彼に近い位置に情報をくれる協力者がいるから。鬼苑くんも認めてる金剛くんと同じくらいだから、情報の信憑性は高いと思う」
スパイがいるのか、それでもやや不安があるが、ここで引くと返ってマズそう気がする。
「ここまで話したんだから、今さら無理なんて言わないよねぇ?」
ほら言ってきた。
やっぱりこの女とは極力避けるべきだな。
何を掴まれるか分かったもんじゃない。
──今回は別として。
「ま、白坂が困るだけなら放置でも良かったんだが、そんな危ないオモチャが出てくるんじゃ無視は無理か」
「ふふふ、ありがとう!」
握手を交わす。いや、無理矢理された。
強引にブンブンと、拒否など許さん。そう言って圧を掛けるアイドルがいます。
「じゃあ、連絡先も交換しようか! あ、でも安心していいよ? こっちのは仕事でも使う仕事用だから、緊張しなくてもプライベートのはもっとお互いを知れたら交換しようねぇ?」
「心配ない俺のも連絡先が一桁でほぼ業務用だ。今さらアイドルの連絡先を手にしても、さして困ることはない。最近の連絡なんてジィちゃんがダントツ一位」
「……うん、私が言うのもなんだけど、もう少し友達作った方がいいよ? 私だって表面上はクラスメイトと仲良くしてるし」
いや、表面上の時点で俺より悪質だから。裏じゃどんだけ蔑んでるんだろう。
ジィちゃんが好きなアイドルチームの一人だけど、なんか怖いぞこの娘。
知りたくもなかったが、このお茶会兼ブラックスカウトでアイドルのイメージが完全に百八十度変わったわ。
今年の楽しみがまた減った気分です。
待ちに待ったコナンくんの劇場版のブルーレイが届きましたが、これでまた一つ、今年の楽しみが無くなって若干気分がブルー(泣)。
アプリゲームで憂さ晴らしでもと思ったけど、コラボガチャ回したら連続でカオルくんが出て一気に萎えました(絶望)。三連ちゃんとか呪われとるのか!
さぁ、やっと第三章も後半へ移ります。
やっと話の裏が見えてきた感じですが、やはり遅い気がする。
他の作品も進めたいけど、中々手が回らないから結構ジレンマ。
今年中に『勇者と後輩』を最終章まで繋げたかったですが、正直難しい感じです(汗)。『弟子』はまだまだキリがついてないので(具体的には四章、五章が終わるまでは)。
他にも『魔神(連載版)』『新作オリマス(神々の戦い編)』も計画してましたが、来年以降になりそうです。知らない人が大半だと思いますが(笑)。