第91話 エピローグ??(弟子の戦いはまだ終わらない)。
後日談。夏休み……オワッタ(笑笑)。
そして返ってきた『地獄の学園ライフ』。
家を出た俺を待っていたのは、無茶苦茶存在感がウザったい上から目線の太陽様。……いつ燃え尽きるかな。
「さぁ魔王よ。今こそ顕現して夏休みを戻せ。勝手に暴れたんだ。数少ない平穏の日々を利子付けて返せやオラ。マドカもそう思うよな?」
「では刃、私は先に行きますね。教員は早朝の集まりがあるので。あなたも遅れないよう気を付けてください。二学期早々に遅刻では同居人も私も恥ずかしいので」
……あれ? ぼく無視された?
「あのー……マドカさん?」
「では行って来ます」
完全スルーされた。うそーん。
俺と同じくらい疲れて夏休みを満喫出来てない筈なのに……アレでも教師って事か。
「……」
あれから二週間以上が経過した。沢山あった夏休み日が一瞬で消失したんだから当然だけど……。
事態は当然終息したが、それまでの道のりが険しかった。
まずは俺に関してだが、戦闘後に速攻で倒れて病院行きが決定しかけた。
アイツのお陰で抑えられていた『起死回生』の反動が来たんだ。それに『融合』の反動、ブレスレットもプラス、いや掛け算された気分だ。
生きていたのはオリジナルの師匠が居たからだな。莫大な量の魔力を注いでくれたお陰でギリギリ持ち直せて治療された。普通なら即入院コースだったが、師匠が全部治してくれたので一週間ほど寝ているだけで済んだ。
そう、一週間だけで済んだ。けどもう二週間以上が経った夏休み明けです。
残りの一週間以上どうしたって? 監禁されてた。
冗談とかでなくマジだ。喰わせ過ぎた影響で暴走する危険があるとかで、あの塔の中に強制的に閉じ込められていた。師匠の話では相当便利らしい。あの塔、魔王の配下、じゃくて守護獣の配下からも聞いて本格的に調べたそうだ。
魔王の配下こと守護獣の配下の三人。姿を見せなかったと思ったら俺たちが頂上へ行く途中で阻んで来た敵に化けていたらしい。いや、それも少し違う。
禁術指定の転生魔法。異世界同士の境界すら破る魔法。
ちょっとした特殊な素材とこれもまた特殊な魔力があれば可能だと師匠が言っていた。
素材とは盗まれた物。魔力とは恐らく俺から奪った……不完全であるが『神の魔力』。
それが本来禁忌とされている他世界の境界を打ち破って禁術魔法を使わせた。
ちなみに化けていたのが三人だと分かったのは、師匠たちが倒した敵が消滅した際、入れ替わるように連中が倒れていたから。生きていたのが奇跡なくらいの超攻撃だったらしいが……。
あと魔王の方は無事に守護獣に戻っていた。シャドウと呼ばれる。黄金龍なのに。
『も、申し訳ありませぬぅぅぅ……! 魔神の言葉に惑わされた全ては我の責任ですっ! 何卒、我の部下たちだけは……!』
魔王になった影響で暴走していたが、記憶の方は残っていたようで謝罪後かなり憔悴し切っていた。大丈夫かな? 配下たちの事を庇っていたところを見ると根は優しいタイプのようだ。ただ魔神は僅かにあった守護獣の心の隙間を狙って来た。詐欺師みたいな。
しばらくして、師匠は彼らを元の世界に帰した。処分については向こうの神に委ねるそうだが、寛大な措置と伝えて置いたと言っていた。幸い盗まれた盗品は無事に回収出来た。あと守護獣は希少なので可能な限り残しておきたいのが理由だ。クーちゃんみたいなのが沢山いたら大変だけど。
零さん達もすぐ帰って行った。こちらも師匠が送ってくれたが、帰り際に零さんからこんなお言葉を貰った。
『妹は愛するだけで良い。それすればいつか報われる時が来る。とりあえず一緒に寝るところから始めたらどうだ?』
素晴らしい笑顔で言うから余計にコメントに困った。本気で困った。
助けを求めようとしたが、師匠は目を覆ってトオルさんは顔ごと背けてヴィットは立ったまま寝たふり……蹴り飛ばしてやった。
『オレも人の事を言えないが、お前も大概厄介なモノを抱えてるみたいだから忠告しておくが……どれだけ制御したつもりでもそういうモノはオレたちの常識を超え続ける。自覚がなくてもそれは間違いなくお前を変えてる筈だ。用心しておけよ?』
ヴィットからもそんな事を言われた。え、視えてるの? 最後の最後で爆弾投下と既に役立つかも怪しいアドバイスを貰った。マジで手遅れな気もするが。
シュウさんたちは勝手に帰った。挨拶なし。師匠には何か言ったらしいが、詳しい事は何も教えてくれなかった。
やっと俺が解放されたのは零さんたちが帰って一週間ほど経ってから。師匠たちも塔と一緒に元の世界に帰還した。調査中、暇という理由でトオルさんの鍛錬に付き合わされたが、大人しくしろって言われたのにあれは大丈夫なのか? 知らんけど。
この時点で残りの休日は数日だけだったが、ここで更なる問題が……表の問題が残っていた。
魔神と魔王の所為で完全に忘れていたが、親父が警務部隊で妹が拐われていた神崎家からの質問攻め。二週間近く姿を見せなかった事もありどうしようかと思ったが、ジィちゃんがなんとかして貰った。マドカが言っておいてくれたのか、なんか知らないけど神崎家との話も上手く終わっていた。博物館から盗まれた棺も回収出来たことも理由かもしれない。
……ただし、話してくれたジィちゃんが何やら渋い顔になった。どうしての?
『近々『会合』に呼び出されると思うかもしれんがのぉ……』
ヤバい単語が聞こえた。ぼく怖いから記憶から抹消した。まぁ家の方はそれで解決したから良い。
問題は残っていた課題。魔神たちが実験に使ったダンジョンの点検。ダンジョンの塔が入っていた階層は師匠が調べてくれたが、彼処には俺の拠点用の裏階層もある。チェックの所為で残り数日が吹っ飛んだ。
そして全てを乗り切った筈なのに暑い中、学園までの坂道を登っている。……うん。
「いっそ滅びろ」
「お前は何を言ってる!」
ガスっと後頭部を叩かれた。痛いやん。
「痛いじゃないか桜香」
「やっと見かけたと思ったら、お前がアホな事を言ってるから!」
「盗み聞きか、趣味が悪い」
「ぶん殴るぞ!」
想像以上に不機嫌でした。原因……ホウレンソウかー。
半分はトオルやマドカだと思うんだけど俺任せですかー。
「絶対色々聞かせて貰うから」
「はて? ナンノコトカ?」
「惚けて押し通せると? 言っておくが、今回は誤魔化し切れないぞ? 手を貸して欲しいなら早めに白状した方が身の為に……」
きっと『会合』が関係しているのだろう。脅しとも取れる桜香の言い方だが、そう思って桜香の方を見ていると桜香の視線が学園の方へ向いていた。到着したが、正門に警備の人以外に何人か集まっていた。
「生徒会長」
「白坂、それに龍崎か……ちょうどいい話がある」
久々のご登場の土御門生徒会長様でした。他の人は役員の人か。西蓮寺や咲耶姉さんは混じってない。朝の見回りかと思ったが、俺たちを見て声をかけて来た。何か用か? まさかこっちもですか? 違うよね?
「どうかしましたか? 役員が揃って」
「今日は清掃も兼ねた見回りだったが、ちょっと知らせたい事がある。ついでに龍崎も聞いておくといい」
「なぜ俺も?」
違ったけど何か別の問題のようだ。桜香はなんとなく分かるが、俺は役員関係者でもない。問題児枠ですよ?
「お前のクラスに転入生が入る」
「普通科に? この時期に珍しいですね」
「確かに珍しいが、気にすべき部分はそこではない」
普通科に転入という時点で十分気にすべきな気もする。アイドル女子(笑)が移った時だって結構話題になったが、土御門が気にして欲しいの別との事らしい。
「問題は転入の試験成績が魔法科のトップレベルに匹敵するのに対し、本人の強い希望で普通科に入ることになった事だ」
たとえ外部でも魔法学園の普通科の扱いの想像なんて難しくない筈。
それなのに普通科に入りたがっている生徒。成績はトップクラスなら性格の問題か? だとしたら面倒なので距離を取りたいが。
「珍しいというか単に変わり者?」
「かもしれん。実はもう来ている」
土御門は視線を校舎内へ。すると生徒たちが下駄箱の方へ入っていく中、途中で先生らしき大人と話している女子生徒に目が入る。……視線を感じたかその女子が振り返ってこっちを見ると、先生にお辞儀してこちらに駆け寄って来る。
「俺に知らせた事はアイツが関係していると?」
「調べたところ名家の人間ではないようだが、何処で聞いたか龍崎家……お前に興味津々らしい。可能なら校舎の案内もお前に頼みたいそうだ」
断固として拒否。と言いたいが、笑顔な本人を前にして言う度胸は俺にはなかった。
顔ごと視線がこちらをロックオンしている。知っていると聞いたが、まさか顔まで知っているの? なんか怖いんだけど。
「会長! 彼がそうですよね!?」
「あ、ああそうだ。彼が龍崎だ」
「あぁー! やっぱりそうかぁ!」
見た目は小柄の黒髪女子。髪は背中くらいまで伸びてマドカみたいに長い。ただし夏服から見える二の腕や脚を見ると鍛えられたスポーツ系の女子という印象もある。バランスの取れたスタイルの一つとも言えるが……。
「ふぅーん、君が龍崎くんかぁー」
……見覚えないな。声も初めて聞いた感じだ。
好奇心の塊のキラキラした瞳で前のめりに詰めて来る。近いよ。土御門も戸惑ってないで助けてくれよ。手慣れてないのか?
「……」
あの……桜香さん? 無言で背後から睨むのやめてくれませんか? 視線感じるから居心地悪いのよー。
「で、どちら様? 俺を知ってるって話だが、こっちは全然知らないぞ?」
「まずは自己紹介からだね! ボクは黒神愛莉! 愛莉でいいよ?」
「で、黒神はなんで俺を知っているんだ?」
「華麗にスルーした!」
「当たり前だ。初対面で馴れ馴れしいだろ」
いきなり呼び捨てにしただけで感謝してほしい。ところが黒神は人差し指を振って否定してきた。
「ノンノン、初対面じゃないよ? 少なくとも1回は」
「は? 1回?」
どういうことだ? こんな強引な女が近付いて来たら忘れないと思うが……。
「本当に覚えてない? 結構前だけどボク的にはここ数年の中でも記憶に残るハプニングだったなぁ。あ、君にとっては嬉しいハプニングかなぁ?」
怪しげな笑みを浮かべる。そう言ってさらに近づいて来ると両手を伸ばして俺の両手を掴み取ってにぎにぎしてきた。いったい何?
ん、何か今握られた手がビリッとしたような……
「ほんとうに忘れちゃったの? あんなにボクのお尻をモミモミしたのに」
なんて浮かんだ疑問が一瞬で消し飛んだわ!
同時に何か思い出したぞ! お正月のテンプレハプニング! 尻揉んだって言うがアレはそっちが原因の事故だろうがっ! て言いたいが、恐怖で思うように口が開かない。あ、なんか寒気が……
「オイ、ドウイウコトダ? 今度コソ説明シテ貰オウカ? サモナクバ……」
「お、おい、白坂落ち着け! 校内でそれは不味い!」
死が背後に迫って来ていた! 怖くて振り返ってないが、土御門が必死に押さえてるのは分かる! 頑張れ!
「あれ、ジンじゃんおはよ──どういう状況だ??」
面倒なのがさらに増えた!
最悪なタイミングでミコまで来た。もう地獄絵図だ!
「とりあえず襲おうとしてる白坂を潰せばいいのか? アァ?」
「ハァ? 来てみろ焼き鳥が! 返り討ちにしてやる!」
「止めんか貴様ら! オイ龍崎! 黙ってないでなんとかしろっ! 貴様の問題だろう!?」
生徒会長、管轄外申請したいです。あと振り返ると呪われそうなので断固として拒否します。
あとミコの管轄は咲耶姉さんなのでそっちの方に……やっぱ呼ばないで。この状況であの人まで来たら軽く気絶出来そうです!
「アハハハ! 朝からなんか面白いねぇ! うん、この学園にして正解だったよ!」
元凶の女は満面の笑顔を振り撒いて状況を楽しんでやがる。蹴り飛ばしてやりたい!
「全然楽しくねぇよ……! 不正解だよクソッタレ……!」
「ハハハハハハっ! ちょっと気分が晴れたかなぁー。面白そうだから今後ともよろしくねぇ? ジ・ン・く・ん?」
おかしい。夏休みが終わったのに休み前より学園生活が嫌になっている自分がいる。まさかこれも学園側の策略じゃないよな? もしかして咲耶姉さんとか双子連中まで来ないよな!? 来たら強制的に終わらせるからな!
「はははははは! 超お断りだ」
とりあえずこいつは敵だと認定してやった。揉んだ事は悪かったけどな!
二学期早々から暗雲が深くて濃過ぎる。こんな事なら一学期の時点でマジで転校した方が良かったのではないか? そう思わずにはいられない自分がいた。
これは誰も知らない。とある現象が起きた時の事だ。
魔神が魔王に頼んで盗ませた盗品は全て回収された。別世界のモノを転生させる禁忌の魔法も中断されて、魔神の最終目標まで達成する事はなかった。魔導神も塔を回収する際に注意して、時間を掛けて問題ないと結論付けた。
だが、神も魔神も知るべきだった。
禁忌とは触れてはならないから禁忌と呼ばれている事を。
ダンジョン内で神と魔神が同じ場所に現れた事。
イレギュラーな別世界の力を宿す者たちの乱入。
そして神と魔王の力を持つ龍崎刃の存在。
禁忌の魔法は塔の魔力を利用して発動していた。それを魔導神は魔力を操作権を奪う事で封じたが、それは発動してからかなり後の事だ。さらに言うと刃が魔王や魔神と戦っている途中でようやく支配権を奪った。
既に遅過ぎた。いつの間にか魔法の一部は自我を持ったかのように逃走。外のダンジョンの別階層へ移動していた。
学園ダンジョンの最下層。まだ学生は誰も入った事のない魔の領域である。
塔にあった物とは異なる祭壇と棺が置かれて、その下には魔神が描いていた赤黒い魔法陣が刻まれており……
『……』
……棺がゆっくりと開いた。
もし現れた者を刃たちが目撃していたら、きっと驚愕の顔をしていたに違いない。
本来は銀色のイメージであるが、そいつは全身が真っ黒のダークのイメージ。対局的な真っ黒なローブと赤い瞳がより悪の印象を抱かせる。
人形のようで印象が全く異なっているが、知っている者たちはきっとこう呼ぶだろう。
『消し去る者』
『銀眼の殲滅者』
『大魔導を極めし者』
そして『魔導王』『原初の極めし者』とも呼ばれた伝説かつ最強の魔法使い───シルバー・アイズ……と。
【神と魔王の弟子は魔法使い 〜神喰いの継承者〜】────(完)
以上で本編は一旦切り上げとなります。
……はい、色々反省しています。元々長編は苦手でしたが、それでも気分に走り過ぎました。
学園モノなのに色々余所者を加え過ぎた所為でそっちから大きく外れました。ホントすみませんでした。
次回があればいいですが……あるかな(汗)。
シーズン2については『オリマス』外伝の伏線を用意しましたが、正直出来るかどうかも作者の気分次第で当分はないと思ってください。
今後のスケジュールもまた後日出すと思います。
長くなりましたが、これまでお付き合い頂きありがとうございました。