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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
AX
98/125

第98話 分かり合えないと分かり合えたから


 人混みが煩かったという理由で、AXは《響慄》を発動する。魔力耐性の無い者や格下に根源的な恐怖を刻む音を発生させる事で、発動者の一定の半径範囲内から生物を追いやってしまう。これは、強き者が弱者を傷付けない為の配慮でもあり、煩わしさを解消するスキルでもある。

 過去には、大量殺戮の為に悪用されたスキルでもあるが。


 「お前がそのスキルを使えるなんて思わなかったな。」幸助は悪気無く言った。

 「私が《破練師スランバー》だって事、忘れてない?」

 「そりゃ使えるか。」

 「使えない方がおかしいわよ?」

 「しかし、なんでこんな所で使う?」

 「野次馬が煩いでしょ?」

 「・・・ああ、そうか。俺だけ見えていた訳じゃなかったんだな。安心した。」

 「こんなの、気付かない方がおかしいわよ。仮にも《箱庭》使いなら分かる筈。この街の人々が既に傀儡となっている事に。」


 違和感は、最初からあった。

 それは、この世界に戻って、病院から目が覚めた時だ。

 蘇り、泣き叫ぶ家族ははを見て、幸助は安堵したと共に、そこに魔力の残滓を感じた。

 この世界には、魔素が大気に存在しない。なのに、魔力を感じてしまうというのは、異常なのである。


 幸助は、気付かないフリをした。

 

 病院から帰る車の中でも、母親と2人きりだった。その時にも、母親から微量の異質な魔力を感じた。


 その時も、幸助は気付かないフリをした。


 幸助は、1人の家族の為にこの世界へ帰ってきた。そして、過去の巫女を見つけ出し、殺す為に、この世界を目指した。


 ーーーーだが、イヤになる程に、自分は落ち着いている。

 

 自分自身に失望した。少しは悲しんだり、泣いたりすればいいのに。


 そのたった1人の家族を殺さなければいけないなんて、これ以上の悲劇は無いだろう。

 現に、殺さなければいけない理由は目の前にある。この故郷の人や景色全てが、途端に胡散臭いモノへと変わっている。

 これがもし、母さんの仕業なのだとしたら、危険過ぎる力だ。もし、これがブラッドのような現実改変をもたらす能力だとすれば、僕だって母さんによって作られた存在だという否定は出来ない。

 全ての真意が聞けるかは分からないが、これ以上知らないフリをするつもりは毛頭無い。もし、僕を異世界に送った理由の張本人が母さんだったなら、許す訳にはいかない。

 それだけ、異世界ベータでは辛酸を舐めてきたからだ。復讐する動機としては充分過ぎる。

 

 「ドライだな。もっと感情的になるかと思っていた。」AXは驚いていた。

 「ずっと、覚悟してた事だ。母親と対峙する可能性は、ずっと、頭の片隅にあった。」

 「そうか。なら、今は魔王軍とか関係無く、協力関係って認識でいさせてもらう。」

 「意外だな。俺を殺したいとか言い出すかと思ったのに。」

 「それはまだあるぞ。」

 「あるんかい。」

 「イロアス・アカシクは私の最優先事項だ。あいつを殺せれば、満足なんだ。」

 「・・・初めて知ったよ。母親の本当の名前。」

 「だから、情に絆されて急に寝返ったりするなよ。」

 「しねーよ。それが出来たら、俺はこんな事になってない。それは敵だったお前が一番分かってるだろ。」

 「・・・そうだな。」

 「よし、じゃあせっかくだから、チーム名考えるか。俺たち2人で《雨上がり自殺隊》とかどうだ?」

 「は?ぶっ殺すぞ。」

 「ごめん。今考えたら、ノリで言ったせいか全然おもろくねぇわ。」

 「雨降ってないじゃん。」

 「そこにキレるんだ。めっちゃ真面目じゃん。」

 

 口調が軽くなるのと反対に、足取りは重くなっていった。覚悟はとうの昔から出来ているのだが、それでもやって来る痛みは避けられない。どんな経験をしても、痛覚も精神も痛みに強くなる訳じゃない。痛みに慣れるから耐えられるようになるだけだ。


 僕の母は、優しかった。

 何をするにしても、僕を肯定してくれた。

 きっと、僕は誰よりも愛されていたと思う。


 僕の父は、僕が生まれるより以前に交通事故で亡くなっている。その時に身籠り、僕が生まれた。

 僕は、父の忘れ形見として、大切に扱われた。親戚一同も、僕の母親に同情し、最初の方は資金的な援助を与えられる事があった。

 でも、母さんは僕と違って抜群に頭が良くて、父さんの司法書士事務所を継ぐ形で朝から晩まで働きながら家事もこなした。その様子を見た親戚は、僕を一人で育てられると安堵したらしい。それくらい、常人離れした凄い人だ。


 ーーーーーこれが全部、嘘だったら。

 それより恐ろしいモノは無い。


 「AA。君の頭脳があれば、世界アルファは楽しい所だと思う。」


 幸助は言う。もしAAが母さんの子供ならば、今までの研究者としての功罪を考えたら、超天才の域にいる人間だ。そんな能力の突出を羨ましいと思う反面、惜しいと思ってしまう。


 「確かに、学問の体系は面白いと思うわ。」

 「ここなら、人殺しさえしなければ平穏に暮らせると思うが。」

 「馬鹿なの?絶対に無理に決まってんじゃん。」

 「全部が終わった後のヒタなら大丈夫だろ。まぁ、その頃にはどうなってるか分からんけど。」


 ーーーそう、ずっと気になっていた事がある。

 幸助が帰ってきてから、このヒタの人間は、まるで魂を感じないのだ。

 傀儡を天から糸を垂らして、自動的に動いているような違和感がある。

 それを強く最初に感じ取ったのは、生徒会長の加賀だった。

 幸助の登校を祝うように、不自然な形で接触を図ってきたのだ。当然、表面上は軽く接したものの、とても信用に足る人物には思えなかった。


 それと反対に、『生きている』と感じたのは小春だった。小春だけは、他の人間と比べて、『ツクリモノ』感を感じなかったのだ。


 ーーーそして、小春が竜に襲われて、確信した。小春が、《過去の巫女》であると。


 「ここにいる人達は、人形みたいなものだろ。人形を壊しても罪には問われない。」


 幸助は溜息をつく。魔力を感じられるようになって、吸血鬼となってから帰ってきた地元は、異様で異質を極めていた。今まで自分は、外の世界を知る由も無い窮屈な《箱庭》

の中で、無知な少年期を過ごしていたのかと思うと、吐き気がした。

 母さんが僕に向けてくれた愛情とは、一体何だったのだろうか。


 こんなことは、自殺した人間が言える身分では無いのかもしれないが、何も言わずに僕を育てたという時点で、全ての因果を感じずにはいられなかった。


 とても気持ちが悪い。


 どんな思いで、僕を育てていたのか。あの愛情は全部、嘘だったのか。

 そもそも、僕に愛はあったのだろうか。


 だが、現状として、ヒタがこうなってしまったという事は、母さんは全てを把握して、今の状況に対応している筈だ。

 突如として不自然に降りかかるタロットカードや、ヒタを覆う違和感も、全て仕組まれたものの筈だ。


 ーーーーあまりにも常軌を逸している。

 世界を改変する《箱庭》の領域設定が広過ぎる。宵撃龍コンフリクトは札幌全体を自らの《箱庭》としていた。今回のも、そのレベルの話だ。

 もはや、《龍世界》の域にまで達している。それは、既に神の所業そのものである。

 これら全てを同時並列で行える能力など、全く思いつかない。そもそも、ただの人間がそんな魔力をどうやって捻出しているのか、全く理解が及ばない。


 「マジで言ってる?私には、人形なりに精一杯生きているように見える。」


 先程の問いに、AAは答える。


 「何だよ、俺の優しさを突っぱねやがって。頭の中で逡巡し、何周もした答えがそれか?」

 「自己矛盾の塊なのはお互い様。私はそれらを踏み躙る悪。在り方は何も変わらない。勝手に人の罪悪感を推し量らないで欲しいものね。」

 「ーーーーすまないな。」

 「もう元には戻れないのよ。あんたの師匠も、アンタが殺した魔王軍の皆も、血生臭い過去も、全部。お互いどれだけの人を自分達の都合で殺してきたと思っているの。私は最後まで変わらないし、全てを受け入れるつもりでここに居る。目的の為なら何でもやる。そこだけは、血の繋がりのない兄弟とは言え、似ていると思っているわ。」

 「・・・ありがとうな。」

 「やっぱり、コースケ、貴方は魔王様に似ているわ。」

 「よせ。」

 「褒めてるから喜べ。」

 「無理。あんなカスと一緒にされてたまるか。」

 

 幸助は、口では講釈を垂れ流し、偉そうな態度を崩さなかったが、自宅が近付くにつれ身体そのものが鉛になっていく感覚があった。

 頭の中で、古城アルカンタでの光景が甦る。生きているか死んでいるかも分からない、あの地獄の中で、目の前で、師匠が、自分のせいで、死んで、それからはーーーー


 ・・・必死に、過呼吸になりそうな身体を抑え込む。発作のようにやってくるトラウマさえ、最近はある程度の制御が可能になってきている。


 「・・・はぁ。この後に及んでぶっちゃけるけど、辛ぇわ、やっぱ・・・。」

 

 我が家に着くと、幸助はため息をついて、笑いながら弱音を吐いた。

 そこは、もはや自分の家とは言い難い伏魔殿と化していたのだから。





 何も感じなくなった。

 ここまで来ると何でもありだ。

 さっきまで、帰路に着くまで、遠くからは家にしか見えないモノが、玄関前に着いた途端、モザイク処理されるように変貌し、改変され、まるで魔王が住むようなおどろおどろしい城へと変化したのだ。


 その様子を見て、笑ってしまった。

 盛大に自分達を歓迎してくれているようにも思えた。あまりにも現実味が無く異様だが、納得するしか無い。


 目の前で起こっている事は、全てが現実である。何も嘘偽りの無い最悪が始まっている。ゆえに、言い訳の効かないどうしようもなさを感じた。

 これでもう確定したじゃないか。

 やっぱり、僕のお母さんは、ずっと嘘をついていた。


 何処までが嘘で、何処までが真実なのか、本人に訊いて確かめるしか無い。


 「・・・呆れた。これが実家なの?」


 AAは溜息をついた。


 「んな訳ねーじゃん!!こんな状態初めてだよ!!俺の部屋は何処に行ったんだ!?」

 「その辺にあるんじゃない?」

 「取り敢えず、玄関入るか・・・。」

 「絶対危ないって。多分、私の《箱庭》より危ないって。」

 「いやいやいや、変わり果ててたとしても、俺の家に銃火器はねーよ。」


 そう言って、ガラガラと玄関の扉を開けると、目の前に大砲が置かれており、繋がっている導線から火花が散っている。


 無言で扉を閉めて、後方に飛び跳ねて距離を置いた。


 「あっぶな、銃よりヤバいのあったわ。」

 「ほらね?」

 「まぁいいか。中入ると危ないし、外から壊すか。AA、手伝え。」

 「実家壊すの?」

 「明日からホームレスだな。」


 玄関から先程の大砲が放たれ、扉が吹き飛ばされていく。

 あの扉に、身長が伸びる度に、成長の記録として当時の身長を切り傷として残していた。

 思い出が消えた。

 

 「《偽創具顕現フェイクリエイト・虚夢幻槍ファントマ》」

 

 手から魔王の槍を作成し、変わり果てた我が家目掛けて投合する。原初の《貫通》効果を齎す最強の槍は、極限まで空気抵抗を減らす事で推進力を落とさない。


 「《終末華葬都市プル・ザ・アルファ終縛式腕礼装クライフルール》」


 AAは顕現型箱庭の名を詠唱した。

 見るも無惨な贋物のアカシクを再現する《箱庭》を自らの腕そのものに、小型軽量化した状態で顕現させる。それはもはや、《箱庭》というより性質は固有スキルに近いものとなっていた。

 腕に華が咲き乱れるように、肉と骨で作られた兵器を放ち、詠唱する。


 「《咲き乱れ裂き乱れ裂き濫れろ全ての私が朽ちるまで》」


 突き進んでいく弾丸は、触れた箇所からヴェイルとなり、家の侵食を開始し呑み込もうと増殖する。

 黒の侵食。誰かの自我が溶けた生命体が我が家を糧に増殖していく。

 うわぁ、俺の家がヴェイルまみれになっちゃってる・・・。セトラはよく耐えられたなぁ。いや俺の家の要素カケラも無いし、いっか・・・。こんなの口には絶対に出来ないけど、なんか吐瀉物みたいだなぁ、ヴェイルって。


 「・・・」

 「文句ある?」

 「無いです。」

 「それより。早く本気出せっての。さっきの爆発、またやれば?」

 「あれはまだ制御するの無理だ。今度やったら街ごと吹っ飛ぶかもしれない。」

 「じゃあ魔王様と戦った時の力、使えば?」

 「・・・気が向いたらな。」

 「ーーーー待て。何かが、おかしい。」


 AAはヴェイルの侵食が止まった事に反応する。城を覆い尽くそうとしていた闇の流動は動きを止め、ボトボトと地面に落ちていった。


 槍に貫かれ、瓦解した箇所が、まるで時が戻るように再生を始める。その光景は、アイナが死んだ時に発動する、不死の紋章が齎す現象に酷似していた。


 幸助は確信に至り、溜息をついた。

 これは、《箱庭》の性質だ。


 というよりーーーこの街そのものが、《箱庭》なのでは?という仮説に至る。


 まるで《龍世界》が如き範囲の広さである。こんなものは人一人で展開し運用出来る域を超えている。

 それとも、何かしらのアカシクによる技術が使われているのか。

 

 分からないことだらけだ。

 

 「・・・再生するのを見るに、やはり玄関から入っていくしか無いかもな。」


 幸助は溜息をつきながら言う。


 「それじゃあ相手の思う壺でしょ。わざわざ敵の《箱庭》に侵入するようなもんよ。飛んで火に入る何とやら、じゃない?」

 「確かに、そうかもしれない。でも、俺の家だしなぁ。」

 「じゃあ、どうするのよ?」

 「・・・あ、いい事思い付いた。」

 

 幸助は、頭に浮かんだ解決策を述べた。


 「母さんには悪いけど、色彩魔法で全部台無しにしよう。」


 そう言って、幸助は《偽創具顕現フェイクリエイト》を使用し、かつての若き天才パレットが生み出した概念である色彩魔法を使う上で必要となる、筆杖一体の魔装具、《色彩杖じゅんぱくのパレット》を創り出す。


 それを顕現させると、AAは少し苦い顔をした。


 「ーーーー《くろ》。」


 短い詠唱を終えると、幸助はその杖先端にある筆を振るった。空気中の水分を集結させ、彩度変更により黒く、墨汁の如き闇の液体を筆先に纏わせる。

 そして、それを玄関前に突き立てた。


 ヴェイルとは違い、血が流れるように静かに、黒が侵食していく。

 それは、黒が侵食した箇所から、魔力による強化や概念を全て無効化する。まさに、黒で全てを塗り潰し、塗られた箇所からただの物体へと還る。

 この作用に抗う手段は存在しない。

 かつてのAAの弟であるアザレア・ザナドゥは、この色彩魔法により無力化されたのだから。


 城の如き全体が黒で染まる事、1分。

 

 天を穿つかのような城は折り畳まれるように小さくなり、元のサイズへと返っていった。

 そして、元の我が家の形へと戻っていく。

 家の中が、真っ黒で、もう何が何だか分からないが、ようやく普通の状態に戻ったのだった。


 そして、色彩魔法を使い終わってから気付く。


 「母さん、もしかしてあの城の中に色んなギミックを用意してたのかな。」

 「そうかも。これで楽になったわ。」

 「・・・バグ技でクッパ城クリアする感じか。」

 「何言ってるの?どういう意味?」

 「母さんの思い通りにはならないって事だよ。」


 冷静に、息巻く幸助を見て、AAは拘置所で脳味噌を吸収した男・伊藤の記憶を読み取り、思い返していた。

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