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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
AX
95/125

第95話 それらは全て嘘だ



 橤



 悪剛羅刹ラビ・レイジネス。

 魔王軍十二幻将の一人。

 その一撃は海をも割り、全てを破壊する鬼神そのもの。

 オーガと人間の混血であり、幻獣トリックスタァとの混成体である。その出生は呪われたモノであり、人間に対して憎悪を向けるのは当然の成り立ちであった。

 

 信用出来る者はおらず、突然変異かつ強力無比なその力に太刀打ち出来る者は現れなかった。あまりにも強過ぎたのだ。

 その力は、かつての勇者さえも葬った。


 そして、厄介なのは、《箱庭》が使用出来る点にあった。その《箱庭》の名は、《蛮鋼不楽針山はりのむしろ》。

 

 完全な顕現型であり、発生地点に制限が存在しない。彼女の視界の中に映れば、それだけで発動が可能である。

 その能力は、針の如き建造物を、魔力の限りに具現化する。まるで竹が生えてくるように無限に生えては消える。消えた建造物はラヴに再び魔力として8割程還元される。つまり、効率良く何度でも生やしては消す事が出来る。

 その速度は、瞬間速度では音速を越える。


 つまり、何処からでも突起物が襲い掛かるという訳である。


 ラビ・レイジネスとしての彼女は、地面や壁といった媒介物からの顕現は不可能だった。


 だが、ラヴとして生まれ変わった彼女は、たとえ空といった何も無い空間からでも、塔を顕現する事が可能になった。


 これは、彼女が手にした新たな力である。

 全てを破壊する力と相反した、動力と創造の《箱庭》。それは、彼女の祈りが込められた、願望を叶えた優しい《箱庭》である。


 ーーーー今となっては、殺意を激らせる能力へと変貌を遂げてしまったのだが。


 AAの《終末華葬都市プル・ザ・アカシク》とは、出発点こそかけ離れているが、奇しくも同じような特性を持った顕現型箱庭になってしまったのは、悲劇以外の何物でもない。


 「ーーーーー。」


 AXは、新たに手を無限に生やして、無言で塔に力を込めて、へし折った。

 屈辱だった。雑魚と罵った格下に不意打ちを決められた事に、悔しさを感じた。


 痛みは無い。鼓動も無い。血は出ない。自分には、何も無い。まるで、虚無の具現だ。

 腹に空いた孔は、まるで自分自身を表しているようだった。


 AXは、行き場の無い怒りをぶつけるように、その塔を振り回し、投げつける。

 それがラヴに直撃する寸前で、その塔は一瞬にして消滅した。


 「癪だなぁ!!ああぁあぇあぁ!!!」


 AXは、背中から翼を広げるように腕を生やした。それが無限に増殖を繰り返し、手をラヴへと照準を合わせる。


 そして、手が手を切り離し投げつけながらら、その切り離された手は更に手を増殖させて、無限に体積を増やしていく。

 手の爪の間から黒い流動が噴出し、大地を黒で満たす。


 「どっかで見た事あるような技ばっかりだな、AX。」ラヴは挑発する。

 「《焼き尽せ 鳳凰焔炎陣ほうおうほむらのじん》」

 「ーーーー!!」


 AXは、意表を突いた。最高火力の炎魔法を詠唱する事で、四方の落とした手から発動させる。そうして、炎の嵐を発生させる事で、ラヴの逃げ場を無くした。高圧縮の熱は、ラヴの周囲から酸素を奪い、肉を焼く。


 その上空で、AXは背中に生やした手の指先を裂いていくように、無限に銃身を表出させる。身体から、無数に連なる銃口をラヴに向けていく。


 「甘ぇな!!」


 ラヴは周囲に大量のビルを出現させ、それに乗る事で一瞬で炎の嵐もろとも、AXの頭上を越える高さまで上る。更に、ビルの外壁から更にビルを生やし、まるで蜘蛛が巣を張るように天蓋を覆った。


 炎の渦を脱出し、AXをビルのジャングルの中へ一瞬で閉じ込めた所で、逃げ場を完全に塞いだ。その上で、ラヴは叫んだ。


 「死は救いだ、AX。」


 AXの頭上に、逆さまの時計塔が降り注いでいくーーーー。


 無数の銃口から放たれる弾は、天から降り注ぐ時計塔を穿つ。が、それに伴い発生する瓦礫の雨が、魔力を帯びたままAXに直撃していく。ただの自由落下による瓦礫ならば耐えられた。だが、崩れた瓦礫から小さな塔が生成され、降り注ぐ。むしろ状況は悪化する一方である。だが、反撃しないと質量に押し潰されて終わりだ。元々のラヴの魔力量を考慮すれば、おそらく2時間ほどは休みなく《箱庭》が展開可能である。


 《箱庭》とは、元より詰みの盤面を作り上げる心象世界の具現であり、究極の技である。幾ら自由度の高いスキルとはいえ、吸血鬼のスキルを模倣したに過ぎない偽物では、《箱庭》により生成された構築物に対抗するのは至難の業。


 お互いが顕現型の《箱庭》ならば尚の事である。《箱庭》には、《箱庭》で対応する。それが、最適解なのである。


 雑魚ラビとかつて罵った相手に蹂躙されるのは、AXにとって屈辱以外の何者でもない。銃身は折れていき、無限に再生可能な腕も千切れていく。


 「グッーーーー!!」

 「命乞いしてくれよ。なぁ。それとも、お前も手札を切るか。切るのか。なぁ。」

 「うぅぅうぁあぁああああああ!!!」


 遂に、塔の塊によって作られたドームへ、完全に密閉されてしまう。こうなれば、詰みである。塔は勝手に再生し、無限に降り注いでは消え、ドームの中で魔力の循環が生じる。

 

 これこそがラビ・レイジネスとして恐れられた彼女の強みであった。力任せに全てを破壊する膂力とは裏腹に、トリッキーな絡め手を使いながら袋小路へ誘い込み、確殺する。


 単純な戦力でも一騎当千である彼女と戦うには、ある程度の頭脳戦も考慮しなければならない。視角となる位置からの刺突や、ドームを形成されない為の立ち回りも含め、かつ接近戦に持ち込まれないように距離を保ちながらの戦闘が強いられる。完全に空間そのものを閉じて概念的な能力を発動する完全閉塞型の《箱庭》とは違い、そんな小細工を使わなくても、たとえ相手が《箱庭》を発動しても、その中でも更に様々な手数を生み出す。スキル《予測》の練度が高くなければ、音速で発生する圧倒的質量の暴力に耐えられず、あっという間に殺される。


 異世界ベータで強者として君臨するには十分である。かつての魔王軍の中でも、十二幻将の中で上位の実力を有していた。ある日突然現れた脅威である、若き男に相打ちされるまで、一戦級の強さを見せつけ、人々を恐怖に陥れた。


 AXは、腕を更に生成させ、巨大な腕を作り上げ、迫り来る塔を力で押し返す。だが、押し返した際に空いた隙間から、横槍が入る。上からではなく、今度は左右から塔が圧殺する。


 「ううぅぅぅううう」

 「[お姉ちゃん、このままじゃヤバイよ。]」


 幻聴が、聞こえる。


 「分かってる!!ザナドゥだけが頼りなの。」

 「[違うよ!もう温存しなくていいじゃんか!!烙印のストックが切れても、僕の力で生きる事は出来るから!!]」

 「何寝ぼけた事言ってるの?!あの日私たちは、死んだの。」

 「[復讐にはとっくに同意してる!でも、温存して勝てるような相手じゃない。ラビは元から侮って相手出来る奴じゃないだろ!!ダサいよ!!!]」

 「分かってる!!!不甲斐無いのは自分!!!」

 「[僕の《箱庭》を使えば]」

 「・・・何言ってんのよ?XA。」

 「[え?]」

 「私達の、でしょ。」



 ぶつぶつと独り言を宣った後、AXは諦めるように咲った。

 覚悟は出来た。実際、やってみないと分からないが、やるしかない。

 その実、覚悟を決めたその表情は、泣きそうで、悔しそうで、憐れそのものであった。



 AXは、全身から一瞬で腕を生やし、体積を拡大膨張させた。そして、押し潰されるその一瞬の隙を突き、手を全て切り離し、空間を作った。そして、詠唱と共に、人の姿のまま構える。

 

 

 「私が弱いのか、それともお前が強くなったのか。認めよう。私は既に置いていかれてるって事だ。なら、仕方無い。」

 「こんなとこで使いたくなかったよ。《箱庭》展開ーーーー」


 AXの身体にある、下半身に走る烙印が消えていく。

 AXは印を結ぶ。菩薩のように、右掌の指を閉じ広げ掌底を見せつけ、左掌は腰に携える。まるで世界平和を祈るような格好で、AXは祈りを天に交わす。

 そして、その掌を閉じると目の前に持っていき、親指を立てて下に向けた。視界に映る全てを愚弄する悪辣さこそ、憐憫を求めない彼女たる所以の強さである。


 「我を肯定し、全てを否定する。ーーーころせ《終罪不滅楽土カルパディエム・クライムエンド》」


 詠唱が終わった瞬間。無限に降り注ぐ塔に、増殖された肉の塊は圧縮され、貫き、押し潰された。




 煉獄インフェルノ




 「さて、そろそろ決着がつきそうね。」


 IXことイロアス・アカシクは身体に伸びをして、大きな欠伸をした後、立ち上がった。


 「何処へ行くんだ。」インフェルノは訊く。

 「そりゃあ、決まってるでしょう。私達は罰が必要よ。」

 「あぁ?」

 「魔眼王は罪そのものであり、破滅の使者。いずれ私と彼は激突するでしょう。そうなったら、私は間違いなく殺される。そんなの、占わなくても分かりきっている。」

 「分かりきっているなら黙って私に殺されろ。」

 「それもいいかもね。でも、優先順位ってものがあるじゃない?娘も息子も、母親ならば責任を取らなくちゃいけない。」

 「母性にしては、利己的過ぎねぇか?」

 「母性が無償の愛で成立すると思ってるのね。勇者様らしい性善説だわ。」 

 「私を煽っても意味無いぞ。最初から既に終わってんだよ、こっちは。」

 「あらら、ごめんなさい。」

 「だから、何処に行くんだ。」

 

 「お出掛けの前に、少しいいかしら?」


 いつの間にか、部屋の窓に何者かが座り込んでいた。

 その者の姿を見て、インフェルノは吐き気を催した。何故なら、アカシクを語る上で、最もややこしい存在だからだ。


 継ぎ接ぎだらけのマクガフィン。

 過去の巫女と未来の巫女が《融合》した姿である、不死の紋章を2つ保有する化物。


 「あら?可愛らしい子ね!」イロアスは嬌声を出した。

 「初めまして、海老原栞さん。」マクガフィンはニコッと笑う。

 「貴方も魔眼王関係者かしら?」

 「そうですけど、私は中立の立場です。どちらかというと、傍観者かな。」

 「あら〜、そうなの。幸助とはもう会った?」

 「いや知ってるでしょ。この街、前にも来てるし。」

 「まぁ魔力探知してたから分かるけど、実物見ないと分かんないじゃない?こんなに可愛い子だったなんて、あの子もタラシね〜。」

 「あらやだ、叔母様〜。栞さんも若いですよね〜。」

 「そりゃあ、そうよ〜寝る前のスキンケアは欠かさないんだから。」


 インフェルノは、呆気に取られた。

 さっきまで殺意とか、謀略とか、そんな得体の知れない恐怖が場を支配していた。それがいきなり、まるで団地に住む主婦が井戸端会議しているような日常の平和を感じたからだ。


 ・・・なんだこれ。

 何処までが本当だ?


 「それで、話って?」イロアスが訊く。

 「あぁ、実はですね、龍王セトラがこちらに向かって来ています。」

 「・・・それは〜・・・マズイわね〜。前みたいに準備出来てないし、今度は心読まれて終わるかも。」


 どうやら、イロアスは龍王セトラの規格外な強さを認知しており、敵にするとマズイと分かっているようだった。


 「叔母様?多分このままだと、セトラに全部焼かれて終わります。彼女、昔よりも数段強いです。」

 「それも幸助の影響かな。」

 「そうかもしれませんね。」

 「で、それだけ?」

 「だから、交換条件といきましょう。」


 マクガフィンは、笑顔で言った。


 「セトラは私が説得します。だから、全て、清算してください。それがきっと、子供達のためになりますから。」

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