第88話 最悪の気分だ
伊藤・・・いじめっ子。幸助を自殺に追い込んだ主犯格。セトラに洗脳された。
あれから何日が経過しただろうか。
俺は確かに、あいつを殺そうとした。死の淵から蘇り、学校へ戻ってきた幸助のあの野郎を、ブッ倒す為に仲間を集めた。
なんだ、あの女は。
あいつに触れられてから、俺の心と身体はどうやらおかしいーーーー。
勝手に口が動くんだ。心も、最初からそうであるかのように無理強いされているみたいなんだ。
俺があいつを自殺に追い込んだなんて、余計な事まで喋っちまった。何でだ。俺は悪くねーのに。
「ーーー悪ガキがよ。伊藤。人殺しちゃ終わりだぜ。」
向かいの檻に佇むジジイが吐き捨てるように言う。こいつは窃盗で捕まったしょうもない犯罪者だ。それなのに、俺を批判して俺より上に立った気でいやがる。
殺したくなんだよな。姑息な奴は。
あいつもそうだった。あいつを見ると、どうにもムシャクシャして気が収まらなかった。誰でも助けて、善人ぶってやがる。
だから、あいつを殴って蹴って、血反吐吐かせてるのが妙にスッキリした。そんな俺の事を野蛮だとか短絡的だとか、言ってくる奴はいたが、違うんだよ。
俺の上に立ってる感じがムカつくだろ?助けてやってる押し付けがましさが見ていて気味が悪かった。
だから、飛び降りた時は安心した。
ここは俺の町だ。どんな事も、俺の意志一つで揉み消せる。
裏社会と根付いた田舎ってのは大概そんなもんだ。腐敗しきった土の上で繁栄が約束されている。そういう風に生まれてこなかった弱い奴だから悪いだけだ。この世の中はカスとゴミしかいない。
だが、最近はそうは思わなくなってきている。
いつからだろうか。俺はこんな奴じゃなかったと思うようになっていた。
あの女に触れられてからだ。
あれから、心に掛かっていた鎖が千切れたような解放感があった。
何故、俺はあんなに幸助の事を敵視していたのか、よく分からなくなったんだ。
ーーーー突如、轟音が鳴った。
外で何かが起きている。
外は、茹だるような夏の暑さ。照りつける陽光。当たり前の陽炎が塀の外に溢れている筈。
なのに、それとは似つかわしく無い、ダイナマイトが爆発したような音が鳴っている。
ーーーーなんだ?何が、起きている?
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ばっ化け物ぉぉぉ!!!こっち来るなぁぁぁ!!!」
飛び交う銃声と、止んでいく悲鳴は死を想起させた。
非現実的な看守の叫び声。
壁を突き破り、穿ち、爆発音が鳴り響く。戦場にいるような臨場感。
ーーーそして、看守の死体が壁に打ちつけられた後、檻の前に化物が現れる。
それは、黒く蠢いた群生の生命体のようにも、人のようにも見えた。
腕の途中で腕が生え、その指全てが黒く蠢く目玉のようなモノがゆらゆらと揺蕩う。ホラー映画にも出てこないような造形をしており、気味が悪いというより、神秘的だった。
「ヒィぃぃぃ化けグゲッーーー」
向かいの窃盗犯が、化物の身体から生やした銃に撃たれ、倒れる。脳を貫通し、血と脳漿が飛び散った。
化物が、こちらを向く。
終わった。そう、思った。
「・・・蟷ク蜉ゥ縺ョ豈崎ヲェ縺ォ逕ィ縺後≠繧九?ょョカ繧呈蕗縺医m縲」
「・・・え?」
「縺セ繝シ縺?>縺九?り┻蜷ク縺医?蜷後§縺倥c繧薙?∝ァ峨&繧薙?」
「縺昴≧縺ュ縲ゅ←縺?○蜈ィ蜩。谿コ縺吶s縺?縺励?」
ーーー現状も、意味も分からないまま、伊藤は、黒く蠢くその群生に頭を貫かれ、惨たらしい最期を迎えた。
「ーーーーー。」
「ヒタ、ね。いい町じゃない。スルースヴィルを思い出すわね。行くわよ、格下共。」
ーーーその化物は、蠢く影のような黒から更に人型の化物を複数個体錬成し、高らかに拘置所を後にした。
「喰らっていこうじゃない。マキア叔母さまのように。」
ーーー怪物は、ある一点を目指して飛び立つ。全ては復讐の為に。




