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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
血飛沫なる運命
83/125

第83話 ×××××=××××

 「私を倒せたら、魔眼王は間近だ。だが、後方の門は、私の命と連動している。私が死なない限り開く事も無い。壊す事も出来ない。あの門に限り、魔眼王の元へと辿り着ける。」


 ネメシスは丁寧に説明する。

 確かに、ネメシスの遥か後方に、空間そのものの歪みが生じている。そこに、何も無い空間に浮かぶ形で、その門は閉じられていた。


 「次元移動の魔法陣と同じ理屈か。」セトラはため息をつく。

 「そういう事だ。入口はあそこにしか無い。」

 「じゃあ永遠に封印しとくってのもアリだな。逃げよーかな。」 

 「相変わらず賢い。だが魔眼王の意志でも開く。私の死と犠牲に開門する訳じゃないんだ、残念だったな。スルースヴィルの龍神様。」

 「うるっさいわ!!褒めながら貶してくんじゃないわよ魔剣野郎!!!」

 「今は魔神野郎だがな。」

 「あんた敵なのよ!!馴れ馴れしいんだよ元勇者のくせに!!!」

 「そりゃあ、久しぶりにちゃんと喋ったからな。饒舌にもなる。」

 「はぁ?他にもいるでしょ仲間が、ほら、マクガフィンとか。喋れるでしょ。」

 「他の魔眼王配下には、無理矢理《融合》されて感情を失ったキャラ演じてたしな。」

 「なんでそんな事する必要あんの!?」

 「だって、カッコよくねぇか?」

 「全っ然!!!あんた、あんな最期遂げたのにこの状況楽しみすぎでしょ!!!」

 「道化のように、役回りを演じているだけだ。大体、神様なんてガラじゃないし、素の性格が変わるわけないだろう。つーかよ、この剣のこいつのせいで俺の人生滅茶苦茶だし世界に影響与え過ぎなんだよな。おい、クソフォーチュン。俺の武器からだの一部になってせいせいするぜ、おい。」


 そう言って、ネメシスは旧神の顔が埋め込まれた醜い柄をガンガンと殴った。旧神フォーチュンだったモノは、痛そうに表情を更に歪めた。異世界の神が、見るも無惨な姿である。世界を統べていた全知全能の神が、元勇者の剣そのものに変えられてしまうなんて、完全に尊厳を破壊している行為だ。全てを愚弄しているとしか思えない。


 セトラや小春も、見ていて気分の良いものでは無かったし、平然と事態を受け入れられる程冷静では無かった。軽く受け流してしまいそうだが、魔王軍の中でも一際異彩を放つ最強の存在だった旧神が、畏怖も神々しさも威厳も何もかも失った姿に変わり果てていたからだ。

 あの、旧神フォーチュンがーーーー


 「旧神、しかも元勇者の半身を無理矢理剣にするなんて発想、悪魔でも思いつかねぇ。」セトラはあの旧神の末路に、引いていた。そうなってしまった背景には、魔眼王の個人的な憎しみさえ感じた。ブラッドをどうしてもただの神様にしたくないだとか、単に旧神が気に入らないとか、色んな想いが込められているだろう。ブラッドに神性のみが《融合》されている現状を考えると、魔眼王の中で魔剣使いブラッドという存在は、旧神よりも神格化された存在であるようにも感じた。


 「運命は身体に流れる血のように、流動的なモノだ。行き先は変えられないが、循環しなければ未来が無い。ならば、他者の血を撒き散らし未来を奪おうではないか。」ネメシスはそう宣い、笑う。

 「血に狂わされた男の言動とは思えんな。誰よりもその辛さを知っているだろうに。」セトラは嘆いた。その言葉は、魔剣使いブラッドが言っていい台詞では無かった。だが、それは、ブラッドの人生を的確に表していた。

 その血の為に欲を捨てて生きたのに何も報われず、その果てに役割を捨ててまでゆめを叶えようと、他者を殺し尽くし罪を重ね、聖杯に託した夢は最悪の形で叶えられた。

 仲間達の前ではその姿を見せる事は無かったが、確かにブラッドという男は、そういう奴だった。勇者を辞めても、生き方を変えられなかった。


 「さぁ、セトラ。過去の巫女。生存競争を始めよう。お互いの正義を砕きあおう。」

 ネメシスは、旧神の剣を構えた。

 背後には後光が差し込み、天は黒き雷が降り注ぎ祝福を鳴らしている。その姿はまさに理想の勇者である。何処まで行っても彼は救世主であり、勇者であった。殺意は相変わらず全く感じられない。寧ろ神々しさが増しており、その魔力の一端を感じるだけでも畏怖を生じる純白さは、まさに神の如き所業であり、恐ろしくもあった。


 「哀れとは思わないぜ、ネメシス。お前の魂は立派だよ。お前みたいに、ずっと一本筋通った奴はカッコいいよ。」

 「皮肉か?」

 「ずっと他人の為に生きてきた奴が、今更変えられる訳無いよな。風俗狂い。」

 「懐かしいな。幸助から聞かされたよ。札幌のセクシーキャバクラは他の地方と意味が違うって。」

 「知らねーよ煩悩まみれじゃねーかお前。」

 「結構。俺は人間だから。」


 そう言って、ネメシスは《魔神威ウェンカムイ》を展開する。ブラッドの固有スキル《神威化キムンカムイ》が、旧神フォーチュンとの力と重なって生まれた新たなスキルだ。

 

 その全身は聖獣のような体毛を身に纏い、全てを逆立たせて破壊の化身そのものとなるのだ。触れるもの全てを壊し、創り変える。それは、物質も魂も関係無く、全てに干渉しうる全能の神そのものである。


 鎧から漏れ出る白い体毛をたなびかせているその姿は、この世のものとは思えない神聖さを保ちながら、神の威厳を宿していた。


 「バチバチに神の力使ってんじゃねぇか!!!さっきの人間宣言わい!!!」


 セトラは突っ込んだ。この姿になると、ブラッドは手のつけられない怪物になる。かつての魔王軍といえど、明確な敵になったものはそれこそフォーチュンやホワイリィくらいだろう。

 当時よりも更に強化されていそうなネメシスの全力に、今の自分では敵わないかもしれない。

 あの姿になられると、触れる事すらままならない。逆に触れられてしまえば、過去を捏造し、存在そのものを消されかねない。つまり、《転変生滅リボーンクライシス》を相手に掛ける事は出来ない。セトラの常套即死手段を失われた。


 それに、最後までよく分からなかった旧神フォーチュンの真の力を、今の血染めなら、際限無く発揮出来る可能性がある。ブラッドとフォーチュンは、古城アルカンタ決戦で同士討ちし戦死した。スルースヴィルの決戦でもそうだが、何処までが神の力なのか、判断をしかねる恐ろしい戦いだった。


 魔神ネメシスは、最強の存在を掛け合わせた結果、旧神本来の力を取り戻した全知全能に限りなく近い存在である。


 今の幸助でも敵わない可能性すらある。

 ブラッドもフォーチュンも、保有しているスキルの数が多過ぎる。そのどれもが《箱庭》と同様に、現実に多大な影響を及ぼす。

 正攻法ではまず、勝ち目は無い。目の前にいる存在は、完全無欠の旧神そのものであり、次元が違う究極の存在なのだ。


 黒き雷が空を割る。背後の後光が虹彩を刺していく。まさに魔神の如き混沌の権化である。その中心にいるのは、純白を証明せんとする白き獣。穢れた栄光を引き摺った故の、過去を否定した末路であり、その神性は完成されていた。


 「ーーーーまさか、こんな怪物とは。」


 小春は冷や汗が止まらなかった。

 空間を支配している覇気が常軌を逸していた。猛々しい神の怒りが吹き荒れる中、殺意を全く感じないのだから。それがとても恐ろしい。大いなる存在を相手にしている感覚というのは、常識外れである。


 「ーーーーくるぞこはーーーー」


 セトラが反応した瞬間、ネメシスは瞬間移動を果たしていた。

 一瞬だった。魔神剣イノセントの一閃により、小春は首を切断されていた。


 魔神ネメシスは、「《星誕スタァブレス》」と、ただ一言、呟いていた。

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